デジタルテクノロジーとビジネスや社会との関係がより密接になる中、サーバーやストレージ、ネットワークといったITインフラのビジネスは安定的だ。しかしインフラという必須の存在であるが故に、実際のビジネスでは注目を集める機会は多くはない。
ところがIT業界のグローバルトップベンダーたちがストレージに注力し始めているのだ。あらゆる領域でデジタル化が進んでいることで生成されるデータが爆発的に増加していることに加えて、そのデータを的確に活用することがビジネスだけではなく社会にも求められているからだ。
今後ストレージにはデータを格納するという役割だけではなく、データを守る、データ活用を支援する、データ活用に必要な処理を行うといったインテリジェンスが求められる。そうした要求に対してグローバルトップベンダーはアーキテクチャやソフトウェアを革新して新たな製品ポートフォリオをいち早く展開して市場をリードしようとしている。この動きに乗り遅れてはいけない。
Year of storage
ソフトウェアの革新でハードウェアを進化させる新たな潮流
グローバルで“イヤー・オブ・ストレージ”を掲げ
戦略的かつ意欲的にストレージビジネスを展開
日本ヒューレット・パッカードの米国本社であるヒューレット・パッカード・エンタープライズはグローバル市場に向けて“イヤー・オブ・ストレージ”を掲げ、ストレージを主軸としたデータサービス事業に力を入れている。同社にとって「ストレージ飛躍の年」が始まった今年度、日本市場においてもストレージビジネスが大きく動き出しつつある。
課題の根幹は一つのテクノロジーで
多様なニーズに対応できないこと
データおよびストレージに関するビジネスの国内市場の動向について日本ヒューレット・パッカード(以下、HPE)のデータサービス事業統括本部 ストレージ製品本部 本部長 尹 成大(ユン・ソンデ)氏は次のように説明する。
「ストレージに関してデータ保護に加えてDXを念頭に置いたデータの利活用を目的とした引き合いが増えています。これまでは稼働中のストレージのリプレースやディスク容量の拡張といった従来からの案件が多かったのですが、データを利活用するためのデータ基盤の構築を検討する相談が増えています」(ユン氏)
HPEのプリセールスエンジニアリング統括本部 ストレージ技術部 部長 岡野貴広氏も「以前はブロックストレージの需要が中心でしたが、現在はデータをどのように活用していくのかというテーマに対して、社内に分散するデータをまとめて管理するためにシステムや部署ごとにサイロ化しているストレージの運用を統合していきたいという要望が多く聞かれます」と話を続ける。
こうした意欲的な取り組みを進める企業が増える一方で、既存のストレージの運用環境を改善するためのさまざまな要望や、企業ごとの固有のシステムにストレージを適用させるためのさまざまな要望も相変わらず多い。こうしたユーザーごとに異なるさまざまな要望をIT環境に落とし込んでいく際に、データに関してはブロックデータ、データファイル、オブジェクトデータがあり、またそれぞれに構造化と非構造化といった状態もある。
そのためこれらに対応するにはデータの種類や状態、データが利用されるIT環境やユーザーの要望などに応じたストレージ製品およびシステムが必要になる。つまり一つのテクノロジー(ストレージ製品およびシステム)では多様なニーズに対応できないため、ある程度の用途や環境の枠組みの中で、それぞれに適したストレージ製品やストレージシステムを提供する必要があり、実際に提供されてきた。
ユン氏は「これまではストレージだけではなくサーバーなどのシステムにおいて、テクノロジーの障壁によって用途や環境ごとにそれぞれ最適なアーキテクチャを採用して製品やソリューションを提供していきました。その結果、エンジニアはそれぞれの仕組みや操作方法などを学習しなければならず、その教育も需要に対して追いついていません。インフラのエンジニアやストレージのエンジニアが不足する中で、エンジニアの負担を軽減して生産性を向上させることがお客さまの要望に応えることにつながり、またソリューションを提供するパートナーさまのビジネスの成長にもつながります」と強調する。
そこでHPEは戦略的かつ意欲的なストレージ製品と、それを基盤とした新しいデータサービスを今年5月17日に発表した。
オンプレとクラウドの適材適所で
ストレージとデータを一元管理
データ活用における課題として前述の通りストレージ製品ごとに異なる運用を習得することに加えて、用途や目的ごとに導入したストレージ製品が社内に乱立して機器とデータがサイロ化してしまうこと、データの増加に伴うディスク容量の拡張の際に筐体変更が伴い対応が困難になること、さらにストレージに格納されたデータへのアクセスがユーザーだけではなく、AIもシステムを通じて自律的かつ高頻度にアクセスするようになっていることで性能劣化のペースが上がっていることなども指摘できる。
こうした課題に対する対策としてパブリッククラウドへの移行を検討するケースが増えている。しかしその実態について岡野氏は「お客さまの多くはパブリッククラウドに関心を持っていますが、実際はデータの7割以上はオンプレミスで運用されています。つまりクラウドを利用したい目的はデータをクラウドに置きたいのではなく、クラウドのようにさまざまな異なる環境を一元管理したいからです」と指摘する。
確かにパブリッククラウドは管理が容易で、性能や容量のスケーラビリティも高くデータ活用を活性化させるのに適している。その一方で利用コストやデータの取り出しや移動に伴う手間とコスト、日本の企業が考えるガバナンスとの兼ね合いなど課題もある。極論を言えば全てのデータをパブリッククラウドへ移行するのは現実的ではなく、オンプレミスとパブリッククラウドを適材適所で使い分けるハイブリッドクラウド環境が現実解と言えよう。
そこでHPEはオンプレミスとクラウドを問わず企業が利用するデータが保存されるサイロ化された異なるインフラ、異なるインフラでそれぞれ管理されるサイロ化されたデータ、さまざまなサービスを一つのコンソールから同一のルック・アンド・フィールで一元管理できる「Data Services Cloud Console」(以下、DSCC)を提供している。
DSCCはGreenLakeのプラットフォーム上でIaaSおよびPaaSとしてサービス提供され、データの保存場所を問わずバックアップをはじめ同社のZertoを利用したディザスタリカバリとデータ移行などのデータの管理が一元的に行えるデータサービスと、データインフラを一元管理できるインフラサービス、管理対象のインフラを提供するクラウドネイティブデータインフラの三つのレイヤーで構成されている。
このDSCCにストレージの新製品となる「HPE Alletra Storage MP」(以下、Alletra MP:アレットラMP)を組み合わせたデータサービス「HPE GreenLake for Block Storage」と「HPE GreenLake for File Storage」も新たに提供される。
ハードウェアを共通化
提供方法の選択肢を拡充
HPEのストレージ製品にはハイエンドモデルとして「HPE XPストレージアレイ」と「HPE Primera」が、ミドルレンジのメインストリームに「HPE 3PAR StoreServ」と「HPE Nimble Storage」が、そしてエントリーモデルに「HPE StoreEasy」とローエンドの「HPE MSAストレージ」がラインアップする。そして新たに発表されたAlletra MPには「HPE Alletra 5000」と「HPE Alletra 6000」「HPE Alletra 9000」がラインアップして幅広くパフォーマンスと拡張性をカバーする。
Alletra MPの最大の特長は拡張性の柔軟さにあり、最小構成ではHPE Alletra 5000から将来的には同9000を超える規模への拡張も可能となる。さらにOSの入れ替えによって同一筐体をブロックストレージとして利用することも、ファイルストレージとして利用することもできることだ。将来的にはオブジェクトストレージとしても利用できるようになるという。
ユン氏は「Alletra MP のMP はマルチプロトコルを意味しています。コンピュートノードとストレージノードを分離したアーキテクチャを採用しており、2Uの筐体に共通化されたハードウェアプラットフォームを搭載し、ストレージOSを入れ替えることで用途を変えることができます。またコントローラーやメモリー、ディスクを増設することでパフォーマンスや容量を拡張できます」と説明する。
このAlletra MPの提供方法もユニークだ。機器をオンプレミスで運用し製品価格を1回で支払いユーザーの資産(CAPEX)となる通常購入に加え、機器をオンプレミスで運用し従量制定期支払で機器はHPEの所有となる事業経費(OPEX)として利用できる。DSCCから利用条件を選択して申し込み、管理・運用もDSCCから行える従量制定期課金のコンサンプションモデルとなるHPE GreenLake for Block StorageとHPE GreenLake for File Storage、さらに「HPE GreenLakeクラウドサービス」では今年下半期から、HPE GreenLake for Block StorageがIaaSで提供が開始される予定だ。
ポートフォリオはAlletra MPに収束
新しいビジネスモデルの展開も支援
Alletra MPおよびHPE GreenLake for Block StorageやHPE GreenLake for File Storage、HPE GreenLake クラウドサービスなどのデータサービスの提供によってHPEのストレージビジネスはもちろん、製品ポートフォリオも大きく変わっていくとみられる。
ユン氏は「今後は筐体を含めてハードウェアのデザインやアーキテクチャを共通化し、ハードウェアコンポーネントやソフトウェアを組み替えたり創設したりしてあらゆる用途や目的に対応していく計画です。そのためストレージの製品ポートフォリオもAlletra MPに収束していくことになります。当面は現在のラインアップを維持しますが、すでにHPE Nimble Storage の一部のモデルは販売を終了しており、段階的にHPE Alletra MP シリーズおよびAlletra MPに移行します。一方、ハイエンドクラスのHPE XPストレージアレイ、エントリークラスのHPE StoreEasyやHPE MSAストレージといったエントリークラスの製品は今後も販売を継続する予定です」と説明する。
ストレージビジネスの変化についてはDSCCとAlletra MPを組み合わせたHPE GreenLake for Block Storage やHPE GreenLake for File Storageなどの新しい提供形態が用意されたことに加えて、DSCCを利用してパートナーが顧客に独自のマネージドサービスを提供できる仕組みと環境も準備している。それが今年6月に米国で発表された「HPE GreenLake for Private Cloud Business Edition」(以下、PCBE)だ。
これはプライベートクラウド環境を提供するサービスで、HPEは2022年より「HPE GreenLake for Private Cloud Enterprise」(以下、PCE)としてプライベートクラウドサービスをすでに提供している。
岡野氏は「PCEはパブリッククラウドのようにアクセスできるプライベートクラウド環境を提供するサービスです。さらにPCBEではオンプレミスとパブリッククラウドのハイブリッドクラウド環境におけるVM環境のデプロイに機能を絞り込んでおり、例えばパートナーさまがマネージドサービスを提供するプラットフォームとして低コストで活用できます」とアピールする。
Functional integration
ソフトウェアの革新でストレージ市場が動き出す
まずはストレージにバックアップ機能を統合
データ活用の重要性が高まる中で、ストレージビジネスの成長が期待されている。そうした中でデル・テクノロジーズ(以下、デル)は今年5月19日に同社のストレージ製品である「PowerStore 3.5」のセキュリティ機能強化など、同社のストレージ製品全般にわたるソフトウェア機能の強化について発表した。デルは今後のストレージの技術革新はソフトウェアが主軸になるとしており、今年度だけで2,000 を超える新機能が加わっているという。そして今後のデルのストレージ製品の展開も大きく変わっていくようだ。
ストレージとデータの課題
サイロ化はなぜ生じるのか
あらゆるシステムにおいてストレージはデータの最終的な格納庫だ。本来は最も重要な役割を担う機器だが、このように認識しているユーザーがいる一方で、サーバーやミドルウェアで提供されるコンピュートやアプリケーションにおいて業務が遂行されており、IT基盤においてこれらが停止してしまうと業務が停止してしまうため、最も重要なのはこちらであると意識しているユーザーも大勢いるという。
確かにユーザーが業務で直接利用するのは業務アプリケーションなどのシステムだ。その裏で利用したり保存したりしているデータと、その格納庫であるストレージを意識することが難しいのかもしれない。
またストレージに関するユーザーの共通の課題としてデータ保護が挙げられる。この課題に対して多くのユーザーが必要な対策を講じていると考えていると思われ、こうした意識もストレージやデータを積極的に活用するための行動に向かない要因となっているのかもしれない。
データを守ることは企業や組織において重要な課題の一つである。しかしそれがゴールではない。データを守るという重要な課題に取り組みつつ、データを有効活用するための取り組みもストレージの運用に求められるはずだ。しかしストレージという機器の管理・運用に追われ、データの有効活用に向けた戦略的な取り組みを実施するのは容易ではないだろう。
デル・テクノロジーズ ストレージ・プラットフォーム・ソリューション事業本部 スペシャリストSE 水落健一氏は「データに対しては保護や活用が求められますが、ストレージが直接データの保護や活用をする機能を提供できるわけではないので、それらを支援する機能を提供することが求められます。また管理・運用に伴う管理者の負担を軽減するのに有効な機能の提供により、管理者がデータ活用にリソースを費やせるようにすることも必要です。こうした要求に対して、データの状態を把握して判断するなど、AIや機械学習を活用したインテリジェンスをストレージに持たせることも手段の一つです」と説明する。
ストレージに関する管理・運用の課題として機器とデータのサイロ化が挙げられる。部署やシステムごとに都度、異なるベンダーの異なるストレージ製品を導入してきた結果、社内にはハードウェアのデザインやアーキテクチャ、管理ツールがそれぞれ異なるストレージが乱立し、ストレージおよびデータを一元的に管理できない状況に陥っているケースが少なくない。
水落氏は「管理・運用の観点だけではなくデータ活用の観点からも、ストレージのサイロ化は解消すべき問題ではあります。しかし導入するお客さまにとってはそうせざるを得ない事情もあり、避けられないというが実情です」と指摘する。
またテクノロジーの観点からもサイロ化は避けられないという事情もある。水落氏は「ストレージに対して接続するシステムの種類や、ストレージの用途、お客さまの要望など、さまざまな要件を一つの機器で満たすことはできません。そのため用途や要望に応じた製品をそれぞれ開発し、提供することでお客さまの要件を満たす必要があります。つまり適材適所で製品を選定し、それらを組み合わせてお客さまの要望に応えたり、課題の解決を図ったりすることが、テクノロジーの観点から現実的な手段となるわけです」と説明する。
幅広い製品ポートフォリオにより
適材適所で製品を組み合わせて提供
ストレージに関する現在のアプローチは適材適所で製品を組み合わせてソリューションを構築することになる。こうしたアプローチにおいて有利になるのが、幅広い要望に応えられる製品ポートフォリオを持っていることだ。
水落氏は「デルではストレージエリアネットワークに接続されるストレージおよびNFSやNASなどのいわゆるファイルサーバーなどのプライマリーストレージの領域において幅広いポートフォリオを展開しており、ハイエンドからローエンドまで豊富なラインアップをそろえています。デルのストレージ製品を組み合わせることで、お客さまのさまざまな環境や要望に応えられます」とアピールする。
デルのストレージ製品には同社のフラッグシップとなるミッションクリティカルな用途に向くオールフラッシュの「PowerMax」から、ミッドレンジ向けで最新テクノロジーが搭載されるオールフラッシュの「PowerStore」、そしてSSDとHDDのハイブリッドでコストパフォーマンスの高い「Unity XT」、エントリークラスのブロックストレージの「PowerVault」、さらにスケールアウトNASの「PowerScale」やコンテナ向けのエンタープライズオブジェクトストレージとなる「ObjectScale」、バックアップアプライアンス「PowerProtect DD」まで、多種多様なポートフォリオが展開されている。
水落氏は「性能が最も高いのがPowerMaxというわけではなく、環境や用途によってはPowerStoreの方が適しているケースもあります。また大容量を優先する場合はUnity XTのコストパフォーマンスが評価されます」と、幅広いポートフォリオを展開する理由と意義を説明する。
適材適所での製品提供から
機能の統合による簡略化へ
ストレージ製品において幅広いポートフォリオを展開するデルだが、今後はソフトウェア駆動型に向けて進化していくという。ストレージは言うまでもなくハードウェア製品であるが、ストレージの価値はストレージというハードウェアに搭載されるソフトウェアによって提供されるからだ。
前述の通り一つの製品で全ての要件を満たすことが現在のテクノロジーではできないため、用途や目的に応じてそれぞれ最適なハードウェアデザインとアーキテクチャが採用されており、ソフトウェア環境もそれぞれ異なる。その結果、適材適所で製品を導入するとストレージがサイロ化してしまう。管理者にとっては製品ごとに管理ツールが異なり、運用の仕方も異なるため作業に手間がかかる上に、技術の習得にも時間がかかる。
その一方で製品を提供するベンダー側の負担も大きい。新しい製品を開発する際にはソフトウェアをゼロから開発しなければならない。また既存製品の機能を強化したり、新しい機能を追加したりする際には製品ごとに異なる開発が強いられる。さらに既存機能の強化や新機能の追加の際は、ソフトウェア全体の見直しも必要となり、いずれも大きな労力と長い時間を擁する。つまりユーザーにとってもベンダーにとっても大きなデメリットがあるのだ。
その実例として水落氏は今年5月に提供が開始された「PowerStore 3.5」の新機能を挙げる。水落氏は「ストレージに格納されたデータを守る最後のとりでとなるのがバックアップです。ただしバックアップにはバックアップ用のストレージに加えてバックアップサーバーやバックアップソフトの導入が伴い、コスト負担が大きくなります。そこでデルではコストメリットが大きなバックアップアプライアンスとしてPowerProtect DDを提供しています。しかしストレージにはバックアップが必須であることを考えると、ストレージにバックアップの機能が搭載されていることが理想ではないでしょうか」と説明する。
そして「PowerProtect DDに搭載されるバックアップサーバーおよびバックアップソフトの機能をPowerStore 3.5に統合しました。PowerProtect DD を搭載したPowerStore 3.5 では、バックアップサーバーやバックアップソフトを別途用意することなく、PowerStore 3.5に格納されているデータを別の筐体のストレージやクラウド上のストレージにバックアップができるのです」と強調する。
例えばPowerStore 3.5以外のデルのストレージにバックアップアプライアンスであるPowerProtect DDを組み合わせて運用している場合、ストレージをPowerStore 3.5にリプレースすればバックアップが簡素化できる。またデル以外のストレージにPowerProtect DDを組み合わせて運用している場合も、ストレージをPowerStore 3.5にリプレースすればバックアップが簡素化できる。
より少ないポートフォリオで
さまざまな要望に応える
前述の通りこれまでのストレージ製品は用途や目的に応じてそれぞれ最適なハードウェアデザインとアーキテクチャを採用し、ソフトウェア環境も異なる。そのため例えばPowerProtect DDのバックアップ機能を同じデルの製品であってもストレージに統合するのは従来は困難であった。しかしPowerStore 3.5ではそれを実現した。その理由はPowerStoreのソフトウェアデザインにある。
PowerStoreに搭載されているソフトウェアはコンテナ技術を採用して開発されており、異なるソフトウェア環境で開発・稼働する機能を取り込めるようになっているのだ。この特長により現在はバックアップ機能をネイティブ統合しているが、今後は運用の負担軽減やデータ活用の支援という方向でさまざまな機能が追加されることが期待される。
PowerStoreの進歩によってデルのストレージ製品のポートフォリオに変化が生じるのだろうか。水落氏は「今後も適材適所で最適解を提供するためにテクノロジーを使い分ける必要があります。しかしPowerStoreの特長を生かすことで、より少ないポートフォリオでさまざまな要望に応えるこられると考えています。またPowerStore 3.5にバックアップ機能が統合されましたが、バックアップサーバーやバックアップソフトにもそれぞれメリットがあるため、これらが不要になるということはありません」と説明する。
冒頭で触れた通り、デルはソフトウェアを主軸にストレージの技術革新を進めており、今年度だけで2,000を超える新機能を加えたという。今後もストレージにバックアップが統合されるといった画期的なニュースが期待できそうだ。そして長らく沈黙を続けていたストレージ市場が大きく動き出す予感がする。
今後の商機について水落氏は「サーバーOSや業務ソフトのバージョンアップに伴い、サーバーやストレージにより高い処理能力が必要になります。サーバーと同様にストレージもコントローラーの進化によって処理が高速化しますので、OSやアプリケーションのバージョンアップの際にストレージのモダン化(最新鋭化)を提案してください」とアピールする。
Software defined storage
需要の変化を素早くキャッチし時代に即した製品を展開
顧客のデータ活用促進をサポートするレッドハットの取り組み
時代の変化とともに企業が求める製品のニーズは変わっていく。そうした需要の変化を素早くキャッチしながら製品を展開しているのがレッドハットだ。2020年には、顧客のデータ活用を促進するべく、データの収集・保持を主としていた「Red Hat Storage」からデータの収集・保持だけでなく、データの移動、活用にもフォーカスしていく「Red Hat Data Services」へと拡張を行った。そんな同社が今、注力しているストレージ製品の詳細に迫る。
効率的かつ自動的にデータを管理
プラットフォームを問わず利用可能
あらゆる領域でデジタル化が進み、テキスト、画像/音声/動画、仮想インスタンス、センサーデータ、データログをはじめとする非構造化データが爆発的に生成されている。企業において保有するデータの量は飛躍的に増加しているだろう。それに加え、利用しているシステムの中には、1日に数百GB〜数TB単位でデータが増加するものがあったり、反対にほとんど増えないものがあったりするなど予測できないデータの増減に悩まされることもある。
こうした状況下でストレージを調達するならば、数年後を見越して容量が大きく、性能の高いストレージを選びがちだ。しかし、容量が足りなくなったり、逆にオーバースペックで過剰投資をしてしまったりというようなケースもある。こういったリスクを回避するためにも、初期投資を最小限に抑えてスモールスタートで利用できる手軽さと、予想外のデータの増加などにも容易に対応できる高い拡張性が求められる。そうした条件を満たすのが、Software Defined Storage(SDS)だ。
レッドハットでは、スケールアウト型の分散ファイルストレージ「Red Hat Gluster Storage」、スケールアウト型の分散ユニファイドストレージ「Red Hat Ceph Storage」、OpenShift環境専用のクラウドネイティブなストレージソフトウェア「Red Hat OpenShift Data Foundation」の三つのSDS製品をラインアップしている。ただし、Red Hat Gluster Storageについては、2024年12月31日で最新バージョンのサポートを終了し、EOLを迎える予定だ。また、レッドハットとIBMは双方の持つ技術の相乗効果を高めるため、ストレージビジネスにおいて統合を行っている。レッドハットのストレージ製品の開発は、現在IBMに移管されており、同社はIBMからOEM供給を受ける形でRed Hat Ceph StorageとRed Hat OpenShift Data Foundationを継続して販売する。「Red Hat OpenStack Platform」「Red Hat OpenShift」のユーザーは、レッドハットから購入できるが、Red Hat Ceph Storageの単体販売を希望する場合は、IBMから「IBM Storage Ceph」を購入する必要があるという。
Red Hat Ceph StorageとRed Hat OpenShift Data Foundationはそれぞれどのような特長を持つ製品なのだろうか。Red Hat Ceph Storageは、プライベートクラウド・アーキテクチャ向けに開発された拡張性の高いスケールアウト型の分散ユニファイドストレージだ。「ブロックとオブジェクト、ファイルストレージを単一のプラットフォームで効率的かつ自動的に全てのデータを管理できます。柔軟なスケールアウトにも対応します。Red Hat OpenStack Platformとの統合に優れており、従来型のストレージでは実現できなかった、ストレージとコンピューティングの高度な融合とシンプルなシステムの維持管理が可能です」と特長を話すのは、レッドハット テクニカルセールス本部 クラウドソリューションアーキテクト部 シニアスペシャリストソリューションアーキテクト 宇都宮卓也氏だ。
Red Hat OpenShift Data Foundationはコンテナ用ソフトウェア・デファインド・ストレージであり、Red Hat OpenShiftに緊密に統合されたデータサービスを提供する。「一般的に、コンテナアプリケーションはどのようなプラットフォームでも稼働できることが望ましいとされていますが、ストレージ環境によってはロックインされてしまうことがあります。Red Hat OpenShift Data Foundationはプラットフォームを問わず利用できますので、全ての環境でコンテナアプリケーションが同じように稼働します」(宇都宮氏)
Red Hat OpenShift Data Foundationは、「MultiCloud Object Gateway」という機能も備えている。オブジェクトストレージを統合管理する機能で、共有ストレージへのデータ転送がスムーズに行えるようになる。「ほかにも仮想バケット間でオブジェクトのレプリケーションを実行する機能や、仮想バケットで読み込んだオブジェクトを一時的にローカルのバケットにキャッシュできる機能などもあります。さまざまなクラウド環境にデータを持つお客さまにとって、MultiCloud Object Gatewayは役立つ機能だと考えています」と宇都宮氏は説明する。
業種業態を問わず幅広く活用
データを相互に連携する基盤づくりも
Red Hat Ceph StorageとRed Hat OpenShift Data Foundationはどのような分野で活用されているのだろうか。「Red Hat Ceph Storageは、8〜9割のお客さまがRed Hat OpenStack Platformとセットで利用しています。主に、通信業界や学術機関など大量のデータが発生するような分野で活用されているようです。Red Hat OpenShift Data Foundationは、金融業、製造業、流通業など業種業態を問わず幅広く利用されてます」レッドハット クラウドソリューションアーキテクト部 部長 内藤 聡氏は話す。
データには、「Data at rest」「Data in motion」「Data in action」の三つが存在するという。Data at restは、ストレージやデータベースなどに保存されている動いていない状態のデータを表している。Data in motionはシステム間でデータを転送したり共有したりといった移動している状態を表し、Data in actionはAIやマシンラーニングなどの分析系のワークロードで実際に使われているデータを指している。「レッドハットではデータサービスに対するビジョンとして、上記三つのデータを相互に連携して、お客さまが求めるようなデータ処理を実現するための基盤の提供を念頭に置いています。一つのデータを単独で使うのではなく、どのデータも自由につないでいけるプラットフォームづくりが重要です」(宇都宮氏)
また、ガートナーの公表(Gartner Says Cloud Will Be the Centerpiece of New Digital Experiences, 2021)によると、2025年に向かってデジタルワークロードの95%がコンテナやサーバーレスといったクラウドネイティブなプラットフォーム上で展開されていく見込みだ。Red Hat OpenShiftを筆頭にしたクラウドネイティブなソリューションがこうした流れにマッチしていくのだという。
今後の意気込みについて、「米国で5月に開幕した『Red Hat Summit 2023』で、たくさんのソフトウェアやプロダクトが新たに発表されました。Red Hat Ceph StorageとRed Hat OpenShift Data Foundationをはじめ当社の製品の魅力を、多くのお客さまに伝えていけるように販促を進めていきます」と内藤氏は語った。
Data fabric
クラウドとオンプレミスをシームレスにつなぐ
ネットアップのデータファブリック戦略
クラウド、オンプレミス、エッジデバイスにわたりデータ管理の手法や実用性を標準化する「データファブリック」ビジョンを掲げるネットアップ。そのビジョンを実現する基盤となっているのが、「NetApp BlueXP」(以下、BlueXP)だ。BlueXPを軸としたネットアップのストレージビジネス戦略を聞いた。
2012/R2サーバーのEOSが
ストレージ需要を後押しする
BlueXPはハイブリッドクラウド環境、マルチクラウド環境のデータをシームレスに連携し、構築・運用できるだけでなく、データの保管場所にかかわらずあらゆるデータに対して、エンタープライズクラスのセキュリティ対策が行えるツールだ。具体的にはAWS、Azure、Google Cloudといった、それぞれのクラウドサービスの技術的な違いを抽象化し、一元的に管理可能だ。そうしたデータ管理を実現可能な背景には、ネットアップ自身がメガクラウドサービスベンダーに対してエンタープライズ・グレードのストレージサービスを提供していることがある。また最先端のオールフラッシュストレージも提供しており、パブリッククラウドからオンプレミスまでを一気通貫で統合管理できる。
ネットアップが提供するストレージ製品の中でも、現在需要が高まっているのがオールフラッシュストレージの「AFF C-Series」だ。ネットアップ チーフ テクノロジー エバンジェリスト APACソリューションズ エンジニアリング Japan CTO オフィス 神原豊彦氏は「現在、ハードウェアストレージの世界では大きな変革が起きています。1セルに4ビットの情報が保存できるQLC(クアッドレベルセル)という技術が出てきたことに加え、積層技術によって倍々ゲームどころか階乗のように記憶容量が増加しています。従来はHDDの方が安価だと認識されていましたが、現在はSSDの方がコスト的に優位です」と指摘する。
AFF C-Seriesは、そうしたオールフラッシュストレージの良さが凝縮された製品だ。ストレージ効率化技術のない従来型の1.8TBのSAS HDDと比較して、大幅な台数削減を実現できるという。これまでのSAS HHDと比較してラックスペースが98%削減できることで、年間で1,000万円から2,000万円近くのストレージコストが削減できるだけでなく、消費電力も97%削減可能だ。これは20台のガソリン自動車を1年間利用した場合に相当する温室効果ガス排出量を削減したのと同等であり、環境に配慮したストレージ運用が可能になる。
神原氏は「IT活用によるサステナブルな社会が注目されている一方で、ITは多くの電力を使います。2020年の段階では世界の電力需要の2%がITによって消費されていますが、2030年には8〜15%ほどになるなど“デジタルパラドックス”の問題が指摘されています。データが日々増大する中で、HDD環境のままデータの運用を進めていくと、これらの消費電力の問題をさらに深刻化させてしまいかねません。そうした環境に配慮したサステナブルなストレージとして、AFF C-Seriesは大きな注目を集めています」と語る。
二つ目に神原氏が注目の製品として上げたのが、オールフラッシュSANアレイ「ASA-Series」だ。VMware環境やデータベースといったミッションクリティカルな用途に最適な製品で、99.9999%のデータ可用性を保証している。
これらのストレージ製品の需要を後押ししているのが、2023年10月10日に迫っているWindows Server 2012/R2サーバーのEOSだ。「実は、Windows Server 2012/R2サーバーのサポート終了を契機に、サーバー統合やデータ統合による運用効率化を希望するお客さまが増加しています。特に多いのが、将来的なクラウド移行を見据えて、仮想マシンのデータ統合やサーバーの統合を行うケースです。クラウドに移行する場合、OSはクラウドサービス環境のものを使用するため、引き継ぐのはデータベース領域のみです。そのデータベースのストレージに当社のフラッシュストレージを使用することで、クラウド環境とオンプレミス環境でのシームレスなデータ同期が可能になります」と、神原氏は同社のデータファブリックの考えを口にする。
データ管理からセキュリティまで
トータルサポートするBlueXP
このクラウドとオンプレミスのデータ同期の要となっているのが、冒頭に紹介したBlueXPだ。ネットアップは創業当時からストレージOS「ONTAP」を提供しており、本OSがAFF C-SeriesやASA-Seriesにも搭載されている。またAzureやAWSなどのパブリッククラウド上でも「Cloud Volumes ONTAP」によって、クラウドストレージの管理が行えることに加え、BlueXPによってオンプレミスとクラウドの両ストレージのデータ管理やデータ同期が可能になるのだ。
BlueXPのデータ同期機能を活用すれば、クラウドとオンプレミスのデータを常に同一に保持できるためクラウド移行もシームレスに行える。また常にデータを同期しておくことで、災害対策や、本番環境と開発環境の使い分けといった、多様な用途にも活用できる。
「ランサムウェアによる被害が増加する中で、Windowsサーバーからデータを切り離し、ストレージに保存したいというニーズが増えています。加えてONTAP OSには攻撃を受けたストレージが異常を検知して緊急バックアップを取ったり、攻撃を遮断したりするXDR(Extended Detection and Response)機能が搭載されています。またBlueXPの機能としてユーザー行動分析(UBA)も提供しており、攻撃者がIDとパスワードを盗みサーバーやストレージに不正アクセスをした場合でも、アクセスした時間帯や閲覧したデータなどから異常行動を検知して、そのアクセスをシャットアウトすることが可能です。実際、芝浦工業大学さまはランサムウェア対策としてこれらのストレージソリューションを導入しています」(神原氏)
前述のストレージソリューションは、さまざまな業種、業態に導入が進んでいる。特に直近の傾向では、研究開発で生じたデータを蓄積したり、小売店に設置されたカメラなどのセンサーが取得したデータを蓄積するような用途が多いという。神原氏は「こうしたデータ活用はデジタルトランスフォーメーション(DX)のキーになります。AI技術や大規模言語モデルの進化など、今後ますますストレージの需要は増えていくでしょう。また、昨今は映像制作スタジオなどでも大容量のデータを扱います。実際、新海 誠監督の『すずめの戸締まり』の制作を担ったコミックス・ウェーブ・フィルムさまでも当社のストレージソリューションが導入されています」と指摘する。
ネットアップはデータ、クラウド、AIが交差する時代のストレージとして、「Simplicity」「Savings」「Security」「Sastainability」の四つの“S”を同時に実現する製品を市場に訴求する。
「お客さまの運用管理をよりシンプルにするため、ご紹介したようなBlueXPによるストレージ管理のほか、オンプレミスのストレージ利用形態自体をシンプル化するサブスクリプション型ストレージサービス『NetApp Keystone』によって、クラウドサービスだけでなく、オンプレミス環境も毎月従量課金で利用できるサービスを提供しています。これはハードウェアを従量課金でレンタルするようなサービスではなく、当社がこれまでパブリッククラウドのインフラを構築・運用していたノウハウをお客さまご自身のプライベートクラウド環境の中で提供します。これにより、お客さまはデータの管理やストレージの運用保守といった業務を完全に当社にアウトソースして、本来の業務に集中できるようになるのです」と神原氏。NetApp Keystoneは現在非常にユーザー企業からの関心が高く、2022年度と比較して約3倍の案件数を記録しているという。
2023年に25周年を迎えたネットアップは次の25年に向けて、四つのSをキーワードにユーザー企業のネットアップ体験を支援していく。