子供の家庭学習の定着を支援する
IoT文具「しゅくだいやる気ペン」
文具メーカーであるコクヨは、ノートの定番であるキャンパスノートの製造をはじめ、ユーザーにとっての“書くこと”に長く向き合ってきた。その"書くこと”から着想を得たIoT文具が「しゅくだいやる気ペン」だ。子供たちが家庭学習を前向きに取り組むようになるしゅくだいやる気ペンがどのように誕生したのか、その生みの親に話を聞いた。
IoTで家庭学習を定着化
コクヨが提供するIoT文具「しゅくだいやる気ペン」は、普段子供が使っている鉛筆に専用のアタッチメントを取り付けることで、家庭学習への取り組みを可視化するデバイスだ。鉛筆に取り付けるアタッチメントには加速度センサーが搭載されており、家庭学習などでノートに手書きした振動などの動きを検知する。アタッチメント上部にはLEDライトが内蔵されており、手書きした量に応じて色が変化するため、子供たちは「やる気パワー」量が蓄積していると認識して、家庭学習に前向きに取り組める。
また、しゅくだいやる気ペンはアタッチメントと専用アプリがセットになっており、アタッチメントを専用アプリをインストールしたスマートフォンとペアリングし、アタッチメントを取り付けた鉛筆を傾けると専用アプリにやる気パワーが注がれて、「やる気の木」が成長していく仕組みだ。アプリに蓄積されたやる気パワー(やる気の実)に応じてすごろくのようなステージを進める「やる気の庭」も用意されており、子供たちは家庭学習の取り組み量に応じて、アプリ内でアイテムを得られる。ゲームのように楽しみながら家庭学習の習慣化をサポートできるデバイスなのだ。
しゅくだいやる気ペンの開発経緯について、コクヨ イノベーションセンター 学びソリューション事業部 やる気ペングループ グループリーダー 中井信彦氏は「もともとのコンセプトは、子供の家庭学習の見守りでした。2016年の開発当時から共働き世帯が増加傾向にあった一方で、子供の家庭学習時間はゆとり教育の揺り戻しで増加していました。これらのデータから、子供の家庭学習状況を遠隔で見守れると共働きの保護者にとって嬉しいのではないか、という仮説の基開発を進めましたが、製品化に当たってアンケート調査を実施したところ、共働きの家庭においても『子供の家庭学習は見守れている』という回答が大半という結果でした」と挫折を振り返る。
そこで中井氏は、実際の家庭学習の課題を把握するため、子供たちが家庭学習を行う状況を保護者に動画で撮影してもらった。約30組の親子に協力してもらった同調査では、「宿題をなかなか始められずに怒られる様子」や「すぐに飽きてしまう子供の様子」などが把握できたと言う。「協力いただいた保護者の方からは『子供の学びには寄り添いたいが、より勉強するためにどのような工夫をすればいいのか分からない』という声がありました。そこで、見守りから方向性を転換し、保護者と子供のコミュニケーションを深めるためのプロダクトとして2019年から発売を開始したのが、しゅくだいやる気ペンです」(中井氏)
学校や通信教育での活用も
しゅくだいやる気ペンでは前述した通り、センサーデバイスであるアタッチメント側と、そのデータを受信するアプリ側に分かれる。コクヨでは保護者のスマートフォンにしゅくだいやる気ペンのアプリをインストールすることを推奨している。子供がやる気パワーを蓄積したペンを保護者の手元に持って行き、アプリにデータを蓄積した際に生まれるコミュニケーションを重視しているためだ。中井氏は「これまで勉強を避けていた子供も、しゅくだいやる気ペンを使うと『今日はあか色までたまったよ!』と楽しく報告できますし、保護者はそれを褒めることで会話が弾みます。本製品は書くことの入口に立った小学校低学年から中学年頃を対象としており、家庭学習や書くことを習慣化できるプロダクトとして非常に好評です」と語る。
しゅくだいやる気ペンの活用は学校にも広がっている。岐阜市立岐阜小学校(以下、岐阜小学校)では2023年5月1日から、しゅくだいやる気ペンを活用した家庭学習習慣化に関する実証実験をコクヨと共同でスタートしている。岐阜小学校では従来型の一律の宿題を廃止し、学年に応じた家庭学習の手引きに基づき、各家庭で家庭学習の定着化に取り組んでいる。今回の実証では、この家庭学習の定着化に向けた取り組み向上を目的としている。
実証実験は岐阜小学校の新1年生と2年生の全ての児童(86名)を対象に実施している。取材時点では10月31日まで実施を予定しており、9月にはこれらの実証の効果などをまとめたリリースを発表する予定だ。実証実験ではコクヨが収集しているしゅくだいやる気ペンの使用状況を、家庭で確認するアプリ上だけでなく、学校側にも共有している。「家庭と教員が児童の家庭学習の様子を把握することで、『こんなに頑張っているんだね』という共通理解につながります。現在は当社から学校側にしゅくだいやる気ペンの使用状況のデータを共有していますが、将来的には当社が蓄積しているこの家庭学習時間のデータを学校と共有できるプラットフォームの開発も検討しています。学校現場以外にも、通信教育を行っている企業さまとのコラボレーションも実施しており、しゅくだいやる気ペンのニーズはBtoB、BtoBtoCに広がりを見せています」と中井氏はビジネス可能性を語った。