クラウドへのシフトとパートナーとの協業で
顧客が要望するあらゆる提供形態に対応する

今年7月1日、日本アイ・ビー・エムで専務執行役員 パートナー・アライアンス&デジタル・セールス事業本部長を務めていた三浦美穂氏が、レッドハットの代表取締役社長に就任した。レッドハットではRed Hat Enterprise Linuxをはじめとした既存のビジネスをさらに伸ばすとともに、クラウドビジネスにも力を入れることで成長を加速していくという。その具体的な取り組みを三浦氏に伺った。

長期にわたり高成長を維持。三つの製品がこれからの成長を担う

レッドハット
代表取締役社長
三浦美穂

編集部■三浦さんは長年にわたって日本アイ・ビー・エムでご活躍され、近年はパートナーシップやアライアンスを戦略的に展開して日本アイ・ビー・エムの成長に貢献されました。そうしたご経験を経てレッドハットの代表取締役社長にご就任された経緯お聞かせください。

三浦氏(以下、敬称略)■ご存じの通りレッドハットはオープンソースソフトウェアの老舗企業で、たくさんの優秀なエンジニアが最新のテクノロジーを駆使して活躍しているテクノロジーカンパニーです。私の経歴から見ると異色の組み合わせのように感じられるかもしれません。しかしこれからのレッドハットの成長に向けて、テクノロジーの優位性だけではなく、パートナーさまとの協業が非常に重要となります。

 レッドハットはこれまでも成長を続けてきましたが、これからも大きく成長するポテンシャルのある企業だと確信して大役を務めさせていただくことにいたしました。パートナーさまとともに成長を目指していくこれからのレッドハットの重点施策において、日本アイ・ビー・エムでの経験が評価され、それが私の役割だと考えています。

編集部■現在の事業展開の状況を教えてください。

三浦■レッドハットの歴史は1993年から始まっており、今年で30年を迎えました。おかげさまでレッドハットの業績は長期にわたってグローバルで2桁の成長率を維持し続けています。これまでの成長を支えてきたのが「Red Hat Enterprise Linux」(以下、RHEL)です。

 RHELは国内の商用LinuxサーバーOS市場で80%以上のシェアを獲得していますが、現在もなお安定的に成長を続けています。今後も活用の領域を広げることでRHELの成長を継続的に伸ばしていけるとみています。

 さらにKubernetesコンテナプラットフォーム「Red Hat OpenShift」(以下、OpenShift)とIT自動化ツールの「Red Hat Ansible Automation Platform」(以下、Ansible)もレッドハットのコアビジネスを担う製品となっています。

 OpenShiftについては日本では先進的かつ規模の大きなお客さまを中心にビジネスを伸ばしていますが、あらゆる業種、規模のお客さまがDXを推進している現在、パブリッククラウドの活用が必須となっており、既存のオンプレミスの基幹システムとパブリッククラウドを連携させてハイブリッドクラウド化するにはアプリケーションのコンテナ化が必要となります。日本でも今後2年ほどでコンテナの需要が本格化するとみています。

 またお客さまがDXをけん引するに当たり、IT人材の不足が大きな問題となっています。そのため貴重なIT人材のリソースを運用や保守に費やすのではなく、DXの推進に必要なアプリケーションの開発など、クリエイティブな業務に集中させなければなりません。

 こうした背景の下ITを自動化するAnsibleの需要が順調に伸びており、その成長率は60〜70%と非常に高く、2023年からコアビジネスの一つに位置付けています。

マネージドサービスでの提供を拡充。「25%」が示す大きな伸びしろを狙う

編集部■コアビジネスの三つの製品が順調に成長していますが、この成長を加速するためにどのような取り組みを進めていくのですか。

三浦■現在、お客さまにおいては既存のオンプレミスに加えてパブリッククラウドを組み合わせたITの活用がテーマとなっており、これからのビジネスの主戦場であるハイブリッドクラウド市場は年間25%で成長すると認識しています。しかしその一方で、クラウドに移行したお客さまは25%未満であるという調査結果もあり、ハイブリッドクラウドに向けたビジネスが今後大きく成長していくとみています。

 ただしハイブリッドクラウド化が広がるのに伴い、複数のクラウドを組み合わせて利用するマルチクラウド化も進むでしょう。そうなるとお客さまのITインフラストラクチャは複雑化していきます。またどのクラウドを使うべきなのかという悩みや、特定のベンダーにロックインされたくないという要望も出てきます。

 そこでコアビジネスを拡大しつつ、ビジネスモデルをクラウドにも注力してサブスクリプションを推進することで成長を加速していきます。

 まずRHELについてはあらゆるチャネル、あらゆるプラットフォーム、あらゆる提供方式でビジネスを伸ばしていきます。直近ではお客さまよりかねてから強い要望をいただいておりました、Oracle Cloud Infrastructure(以下、OCI)にRHELが正式にサポートされました。

 またOpenShiftについてもAWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azure、そして国内のプロバイダーを含む14社のクラウドプロバイダーにおいてマネージドサービスで提供されており、国内での導入実績が100社を超えました。

 このようにRHELではお客さまの導入、利用の選択肢を広げ、OpenShiftがさまざまなクラウドで利用できることでハイブリッドクラウド、マルチクラウドの複雑な環境においてアプリケーションを柔軟に移行できるポータビリティ性を実現しています。

Ansibleに生成AI機能を追加エッジの領域にもRHELの用途を拡大

三浦■Ansibleについては「自動化2.0」の世界を目指して自動化ツールから包括的なオートメーションプラットフォームへと進化させていきます。例えばAnsibleでは自動的に実行させるタスクの手順書となる「Ansible Playbook」の作成が必要となりますが、従来はスクリプトを記述していました。今後は「IBM watsonx」の自然言語処理によって、ユーザーがAnsibleでしたいこと、させたいことを自然言語で命令して自動化のコードが作成できるようになります。

 このほかシステム運用のイベントから自動的に対応プロセスのワークフローを起動させるイベント駆動型の自動化を追加しました。例えばシステム障害に関連するシグナルの受信をトリガーに、定型的に修復するワークフローを自動的に制御できます。

 さらにパートナーさまとの協業でオンプレミスおよびクラウドの両方で従量課金モデルでの提供も行います。今後も従量課金モデルを拡充するなど、クラウドビジネスおよびサブスクリプションビジネスの確立を進めて、オンプレミスとクラウドの両輪でビジネスを伸ばしていきます。

 このような新しいソリューションを投入し続けるのは、レッドハットがこれからも2桁の成長を続けていくために、中期的なビジネスチャンスを見据えた取り組みに力を入れているからです。先ほどお話しした通り、RHELが適用できる領域が広がるとビジネスを伸ばせる機会も増えます。またOpenShiftもクラウドが増えるほど需要が高まります。そうした視点から、今後のビジネスを広げていく領域としてエッジにも着目しています。

 具体的にはハイブリッドクラウドと産業用エッジを融合させたソリューションで、クラウドで開発してエッジにデプロイし、継続的にアップデートしていくという新しい仕組みをエッジの世界に構築します。今後、OTやIoTのデバイスに向けた「Red Hat Device Edge」の提供を予定しており、将来的には自動車向けの「Red Hat In-Vehicle Operating System」も展開する計画です。

上流のコンサルティングサービスで組織のカルチャーから変えていく

編集部■レッドハットのコアビジネスを担うRHELおよびOpenShift、Ansibleの三つの製品と、クラウドビジネスへの注力という取り組みはユーザー企業におけるDXの推進にフォーカスしています。しかし日本の企業のDXは遅れていると指摘されています。日本の企業のDXを進展させるにはどのような取り組みが必要だと考えていますか。

三浦■ご指摘の通り日本のお客さまの中にはDXの推進に必要となるアプリケーション開発に求められるアジャイル開発の実践や、ハイブリッドクラウドおよびマルチクラウドでアプリケーションを柔軟に開発、移行するためのコンテナの活用が遅れているケースが見受けられます。これらのテクノロジーはDXの推進に欠かせない要素ではありますが、アジャイル開発にしてもAnsibleによる自動化にしても、テクノロジーの活用だけではなく個人の認識や組織のカルチャーを変えることも必要です。

 そこでレッドハットでは「Red Hat Open Innovation Labs」(以下、Labs)というコンサルティングサービスを日本市場で提供しています。

 LabsではDXを推進するに当たりITだけではなく組織全体としてどのように取り組みを進めるべきなのか、その取り組みにおいてアジャイル開発や自動化を含めてITをどのように活用すべきなのかなど、上流でのコンサルティングをサービス提供しています。

 Labsはお客さまに非常に高く評価されており、グローバルで注目される成長率を記録しています。オープンソースソフトウェアの世界では、日々新しいテクノロジーが生み出されています。その最新のテクノロジーをお客さまがビジネスに生かせるように、エンジニアの育成を引き続きご支援します。

編集部■DXの進展に関しては都市部と地域との格差も課題となっています。地域の企業にはどのような取り組みをしていくのですか。

三浦■地域においても法令への対応に伴うシステムの需要や、ガバメントクラウド、教育ICTなど全国に大きなビジネスチャンスがあります。これらにアプローチするにはライセンスやクラウドでの提供だけではなく、サーバーにビルトインされた状態で提供するなど、あらゆる提供形態に対応する必要があると考えています。

 こうした要望に当社だけではお応えできませんし、全国の地域をカバーすることもできません。ダイワボウ情報システム(DIS)さまのようにパートナーさまを通じて全国のお客さまにリーチできること、そしてあらゆる提供形態に対応できること、こうしたディストリビューターさまとの連携を密接にして、DISさまのパートナーさまにレッドハットが持つテクノロジーの良さを分かりやすくお伝えし、地域のお客さまのDXの進展につなげたいと考えています。その結果としてパートナーさま、DISさま、当社が、共にビジネスを拡大して成長していくことを期待しています。