日々多様なニュースが流れていく中で、特に知っておきたいITビジネスのトレンドニュースをPickOutして紹介していく。今回はアマゾン ウェブ サービス ジャパンによる日本の投資計画と国内事業戦略に加え、日本マイクロソフトのビジネスアプリケーション最新情報を紹介。今注目のクラウドビジネスや生成AIのビジネス活用についてをいち早くチェックしよう。
AWSが日本市場に2兆2,600億円※の投資計画を発表
先進国でありながらデジタル分野での伸びしろが一番ある
※ 2023年から2027年にかけての総額。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(以下、AWSジャパン)は今年1月19日、都内のホテルにおいて日本への投資計画と国内事業戦略などを発表した。登壇したAWSジャパン 代表執行役員社長 長崎忠雄氏は日本市場に対して、2023〜2027年にかけて2兆2,600億円(149億6,000万ドル)の投資を行うことを発表した。また同社の投資が日本全体へもたらす経済効果についても説明し、これらをまとめた「AWSの経済効果に関するレポート」が発表された。
AWSの日本でのビジネスは
社会や環境にも貢献している
AWSが日本に東京リージョンを開設した2011年3月から今年で13年が経つが、投資計画を公表するのは初めてのことだ。AWSジャパンの国内市場戦略および日本への投資計画の説明に先立ち、登壇したAWSジャパン 代表執行役員社長 長崎忠雄氏は次のように話をした。
「2023年は新しいタイプの生成AIが脚光を浴び、コンテンツ生成向けの大規模言語モデルの開発が加速しました。AWSはAPIを通じて複数の基盤モデルが利用できるサービス『Amazon Bedrock』を提供しており、日本市場には米国に次いでいち早く提供を開始しています」
さらに「2017年から2023年の7年間で60万人以上のお客さまにクラウドスキルのトレーニングを提供し、日本のデジタル人材の育成を支援している」ことや、AWSは現在、東京と大阪に二つのリージョンを展開しているが「米国以外で二つのリージョンを持ったのは日本が最初」であると、AWSが日本市場を重視していることを印象付けた。
そしてAWSが日本に二つのリージョンを展開することで日本の顧客に提供しているメリットについて「データを国内に保管できること、低遅延でクラウドサービスが利用できること」を挙げるとともに、「日本における雇用の拡大、クラウドに関する教育、AIなどの先端テクノロジーの活用支援、地域コミュニティの支援、再生可能エネルギーの開発および導入」など、社会的な貢献もしていることを強調した。
具体的な貢献として2011年から2022年までの日本への投資の実績と、それによってもたらされた経済効果を示した。説明によると東京、大阪のリージョンに関する投資の総額は1兆5,100億円(100億米ドル)、同リージョンへの投資によるGDP効果は1兆4,600億円(97億米ドル)、同リージョンへの投資による雇用効果は7,100人以上の雇用創出をもたらしたと推定する。
日本への長期的な投資を継続
リージョンは東京と大阪を維持
投資の総額にはデータセンターの建設、サーバーやネットワーク機器などの調達、データセンター間をつなぐネットワーク機器の接続関連などの設備投資と、長期的に発生するデータセンターの運用や機器の保守などの運営費が含まれているという。
またGDP効果についてはAWSによるインフラへの投資が日本経済に及ぼした効果を示しており、長崎氏は「データセンターの建設に必要な資材や部材、例えばコンクリートを作るためのセメントの製造や運搬などが挙げられます。さらにサプライチェーン上にもプラスの影響があります」と説明する。雇用に関してはデータセンターのサプライチェーン上にある、国内企業の雇用創出の総数を示しているという。
そして長崎氏は日本市場への投資を継続していくとして、2023年から2027年の投資計画を発表した。2023年から2027年にかけて総額2兆2,600億円(149.6億米ドル)を日本市場に投資し、その経済効果(GDP効果)は5兆5,700億円(638.1億米ドル)、雇用効果は3万500人以上の雇用を創出すると推計している。
さらにスタートアップや中小企業を含む企業のDXの支援、地域社会の発展、再生可能エネルギープロジェクトの加速などの効果ももたらすとアピールする。
ちなみにこれらの投資計画は既存の東京と大阪のリージョンに対して実施されるといい、現在のところは日本の新たな地域でのデータセンターの建設の計画はないという。また投資の対象について、前述のデータセンターの設備の増強とそれに伴う運営費の負担増を挙げ、例えばガバメントクラウドやAIといった特定の領域を対象にしていないことを強調した。
安全なクラウドとネットワークが必要
セキュリティの強化に向けた投資を要望
長崎氏は日本でのビジネスについて「業界、規模を問わず幅広くAWSのクラウドサービスが利用されており、クラウド活用の流れは年々加速しています。またデジタル庁が推進するガバメントクラウドの事業者の1社にも選ばれており、2017年に閣議決定された各府省で政府情報システムの導入をする際の第一候補としてクラウドサービスを検討する方針『クラウド・バイ・デフォルト原則』の流れも加速しています」と説明する。
長崎氏の説明に続いてクラウド・バイ・デフォルト原則の方針を決めたメンバーの1人である、初代デジタル大臣を務めた衆議院議員の平井卓也氏が登壇し、「クラウド・バイ・デフォルト原則の方針がつくづく正しかったと実感しています。ロシアがウクライナに侵攻した時、ウクライナはその直前に法律を改正して国家の大切なデータを全てクラウドに移しました。そのおかげで国家として存続できています。これは災害時のBCPにも当てはまるクラウドのメリットです」と強調する。
そして平井氏は「日本にとっての最重要インフラには道路、水源地、鉄道などがありますが、今やネットワークとデータセンターが最重要インフラになっています。我々はクラウドサービスにバックアップはもちろん、サイバー攻撃に対して強靭なものでなければなりません。AIの活用に関しても安全なクラウドとネットワークがなければAIは正しく動きません。そのためクラウド事業者は最先端のセキュリティを備えるための投資が常に必要になります。その観点から、AWSの日本への長期的な投資を歓迎します」と話した。
さらに「日本はデジタル競争ランキングで低迷していますが、先進国でありながらデジタル分野での伸びしろが一番あります。恐らくAWSはそこに期待して投資を決めてくれたのだと理解しています。それに合わせた日本の政策が進めば、日本は再び成長軌道に乗ることができるでしょう」と締めくくった。
Copilot内蔵のビジネスアプリケーションが実現する
業務サポート例とその成果を一挙に紹介
日本マイクロソフトは1月23日に、「Dynamics 365」や「Power Platform」といった同社のビジネスアプリケーションの最新情報に関する報道関係者向け説明会をオンラインで実施した。説明会の中では、同社のビジネスアプリケーションと共に、それらに組み込まれた対話型生成AI「Copilot」を活用することによる効果や事例が解説された。その内容を詳しく紹介していこう。
対話型生成AIのCopilotが
ビジネスアプリの在り方を変える
ビジネスシーンの変化が加速化している一方で、ユーザー企業はそれらの変化に対応する上で課題を抱えている。マイクロソフトの調査によると、企業が抱える普遍的な課題が三つあるという。一つ目はツールやプロセス間の統合が不十分であることによる「サイロ化」だ。調査の対象となった従業員の64%が、サイロ化によってチーム間のコラボレーションが困難だと回答したという。二つ目に、「技術革新の遅さ」だ。回答者の4人に3人以上となる77%が、ローコード/ノーコードのツールやプラットフォームを利用することで、目的達成に役立つデジタルソリューションの構築を望んでいるという。三つ目に「充実感の欠如」だ。従業員は単純な反復作業といった雑務ではなく、より重要な仕事に多くの時間を割きたいと考えており、AIやオートメーションを多くの仕事に適用することを望んでいるという。
こうしたビジネスシーンにおける課題を解決するため、現在AIが注目されている。実際、自動化ツールやAIツールを利用している回答者の89%は、本当に重要な仕事に時間を割けるため、充実感が高まったと回答しており、AIが前述の課題の内「充実感の欠如」の解決策になり得ることが分かる。
マイクロソフトでは、全ての個人・役割・業種に対して同社のAIを提供することにより、ビジネスの変革を支援している。日本マイクロソフト ビジネスアプリケーション事業本部 本部長 野村圭太氏はAIによって同社のビジネスアプリケーションに起きる変化を次のように語る。
「これまでのビジネスアプリケーションは、基本的に入力し、データを蓄積し、レポートをして共有するものでした。しかし生成AIを活用することによって、この作業フローが劇的に変わります。当社の対話型生成AIであるCopilotを活用することにより、ビジネスアプリケーションの在り方が再考される時期に入っているでしょう」
マイクロソフトでは、WordやExcel、PowerPointといったMicrosoft 365の製品群に加え、同社のクラウドCRMおよびERPである「Dynamics 365」、ローコードツール「Power Platform」など、全ての製品にCopilotを内蔵している。本説明会ではこれらのビジネスアプリケーションの内、Dynamics 365とPower Platformに焦点を当て、Copilotと組み合わせた価値が解説された。
野村氏は「すでに13万を超える組織が、Dynamics 365とPower PlatformのCopilotを体験しています。生成AIへの関心が高まる中で、ユーザーからのフィードバックをもらいながら共に革新的な製品を提供していきたいですね」と語る。
CRMとCopilotが連携し
メール作成業務を効率化
続いて日本マイクロソフト ビジネスアプリケーション事業本部 GTMマネージャー サンタガタ麻美子氏が説明したのは、Dynamics 365に関連するCopilot製品群だ。
最初に紹介されたのは、Dynamics 365にネイティブに組み込まれた「Copilot for Dynamics 365」。自然言語を使用し、タスクの実行と自動化の高速化や、アイデアやコンテンツをより早く生み出すためのアシスタントとして機能する。
「Copilot for Dynamics 365は2023年3月6日(米国時間)に発表して以来、次々と新機能を提供しています。当社のAzure OpenAI Serviceを使用しており、企業のデータが二次利用されるようなことはなく、安全に利用できます」とサンタガタ氏。
業務別の活用例も紹介された。例えば、サービス向けCopilotは、カスタマーサービスやフィールドサービスなどの業務を支援する(一部日本語対応)。本Copilotは世界で10億人以上のエンドユーザーをカバーするマイクロソフトのカスタマーサポート組織で、実際に活用が進んでいる。具体的には、問い合わせ内容の要約、ナレッジ記事提示による回答のサポート、メールの返信原稿作成、顧客とのチャットのやりとりの要約、チャット返信時の原稿作成などをCopilotがサポートしているという。これらの活用により、同僚の支援が必要なケースの10%を自力で解決したり、チャット対応の平均対応時間が12%軽減したりといった成果が得られた。
また、Copilot for Microsoft 365のロール特化型ソリューションとして、OutlookやTeams、WordなどのCopilotの拡張機能として提供する営業向けAIアシスタント「Microsoft Copilot for Sales」、Dynamics 365以外の既存のコンタクトセンターやCRMソリューションに生成AIを導入できる「Microsoft Copilot for Service」の二つのCopilotを、2月1日から一般提供を開始した。Microsoft Copilot for ServiceではSalesforce、ServiceNow、Zendeskといった他社CRMとのコネクションが用意されており、これらのサービスを使っているユーザー企業であれば数分の設定で導入可能だ。
自然言語による指示で
新しいアプリを開発
デジタル化のニーズが急増する一方で、開発リソースは限られている。そうした中で注目されているのがローコード/ノーコードツールだ。マイクロソフトもローコードツールであるPower Platformを提供している。そして、このPower PlatformにAI Copilotが内蔵されることによりどのような人でも開発作業を加速、簡易化することが可能になるのだという。
日本マイクロソフト ビジネスアプリケーション事業本部 GTM Manager 内田真美氏は「従来のPower Platformは、皆さまが日常的に使っているWordやPowerPoint、Excel、SharePoint、Accessといったビジネスアプリケーションと、JavaScript、HTMLなどの開発言語のちょうど中間に位置するような製品でした。しかしここにCopilotが内蔵されたことにより、WordやPowerPoint、Excelに並ぶほどの使い勝手を実現し、より多くのユーザーの開発作業を加速できるようになるでしょう」と指摘する。
例えばPower Platformの製品群の中で、アプリ開発を行える「Power Apps」にCopilotが搭載された「Copilot in Power Apps」(現在英語版のみ提供)を活用すれば、必要なものを自然言語で記述するだけで新しいアプリの作成が可能になる。データ作成からUXのカスタマイズまで、自然言語による会話を経ながら作業を進められるのだ。
日本マイクロソフトでは、Copilot for Dynamics 365の使いこなしを支援する「Copilot Accelerator」や、Copilot for Dynamics 365やCopilot for Power Platformも含めたCopilot活用を包括的に支援する「マイクロソフトユニファイドサポート」も提供し、同社のミッションである「地球上のすべての個人とすべての組織がより多くのことを達成できるようにする」の実現に向けた支援を、今後も継続していく。