多様なシーンでデジタルトランスフォーメーション(DX)への取り組みが進む中、行政機関もその例外ではない。特に役所では、手続きにおいて紙への記入が必要であったり、長い待ち時間が必要であったりと課題も多く、デジタル化によるメリットが得られやすい。そこで今回は「行政DX」をテーマに、DXに取り組む三つの自治体にフォーカスし、その取り組みを紹介していこう。

【新潟市】
オンライン申請から街歩きアプリまで
デジタルを活用した“街づくり”とは?

市役所の窓口では、住民票の発行や転出入などの手続きにおいて、書類への記入が求められる。その応対のため長い待ち時間が発生するなど、市民にとって負担が大きいだけでなく、記入された書類をシステムに転記する作業が発生するため、市役所職員にとっても作業負担が少なくない。そうした市役所窓口における課題を解決するため、先進的な自治体において「書かない」「行かない」「待たない」手続きの実現を目指し、デジタル化を推進しているケースが増えてきた。新潟市もその一つだ。

電子申請で手続きを効率化

新潟市
箕打正人

 新潟県新潟市では、デジタル化を市内全域で推進している。2022年4月にデジタル行政推進課が立ち上げられるとともに、同年5月に全庁横断的な組織としてデジタル行政推進本部が設置され、「システムの標準化」「行政手続きのオンライン化」「マイナンバーカードの普及・促進」の3点に部会を設けて全庁的に取り組みを推進している。

 2023年4月には「新潟市デジタル化基本方針」を策定し、デジタル化を通じて新潟市が果たすべき使命を「デジタル技術やデータを活用し、市民一人ひとりの暮らしをよりよくしつづけること」と掲げ、市民目線の行政サービスを核に据えて行政のデジタル化に取り組んでいる。

 その取り組みの一つとして、行政手続きのデジタル化がある。オンラインによる手続きにより、「行かない」「待たない」「書かない」手続き環境の実現を目指すとともに、受付後の申請データは直接システムへデータ連携されることで、迅速な結果通知や内部事務の業務効率化につなげられる。

新潟市
宮崎博人

 新潟市 総務部 デジタル行政推進課 課長 箕打正人氏は「新潟県では、『新潟県行政手続きオンライン化構想』を策定しており、県単独で変更できる手続きは、原則として2025年度までにオンライン化の実現を目指しています。また新潟市においては、2008年から電子申請システムの運用をスタートしており、その対象範囲を拡大させていました。新潟市デジタル行政推進本部の立ち上げによって、行政手続きのオンライン化に向けた取り組みをさらに加速化させており、市の裁量でオンライン化できる手続きについては、オンライン化による利便性向上が見込めない手続きを除き、2025年度末までにオンライン化することを目標としています」と語る。

 行政手続きの内、現在オンライン化しているものは全体の処理件数の66%。それを今後90%ほどまで引き上げていく方針だ。そうしたた行政手続きのオンライン化に向けた取り組みの一環として、新潟市では新しいオンライン申請システム「e-NIIGATA」を2023年6月30日から運用を開始している。

「e-NIIGATAは以前の申請システムと比較して非常に見やすく、直感的に使いやすいUIを採用している点が特長です。市民の方が行いたい手続きに関しても、キーワード検索などで簡単に見つけることが可能です。またキーワード以外にも、所管やカテゴリーごとに探せます。市役所の職員側も申請に対応した交付物を発行しやすくなり、以前と比較して業務の効率化を実現できています」と箕打氏。

昨年6月30日から運用を開始した新オンライン申請システムe-NIIGATAは、デジタルに不慣れなユーザーでも直感的に操作できる分かりやすいUIを採用している。申請内容の記入フォームも迷わず記入できる。

にいがた2kmで進む技術の活用

 具体的な効果として箕打氏は、新潟市出産・子育て応援事業の「にいがたスマイルギフト」を挙げた。にいがたスマイルギフトでは妊娠届出や出生届出を行った妊産婦などに対して、出産応援ギフトとして1人当たり5万円を現金で給付する経済支援を行っている。新潟市ではこのスマイルギフトの申請をe-NIIGATA上で行えるように設計しており、現時点でほとんどの妊産婦がe-NIIGATAを通して申請を行っている。

 箕打氏は「紙による申請の場合、行政窓口側でシステムに手入力する必要がありますが、オンライン申請であればその入力内容をそのままシステムに登録できます。行政職員側による入力の手間が省けたことにより、年間約400時間の業務時間削減を見込んでいます」と語る。

 また新潟市では、新潟駅の再開発に合わせ、古町から駅周辺までのエリアを「にいがた2km(キロ)」と名付け、新潟の背骨として人やモノ、情報が集積する街づくりを推進している。そのにいがた2kmエリアでは、学生や企業、市民とさまざまな形で連携した街づくりが進められており、先端テクノロジーを活用した取り組みも実施されている。

 例えばドローンの活用だ。にいがた2kmエリアでは物流や点検業務におけるドローン活用の実証実験が行われている。新潟市 都市政策部 政策監 宮崎博人氏は「郊外で農業分野や公共インフラでドローンを活用する事例はありますが、都市部の街中で利用する事例はあまりありません。当市ではそうした街中でのドローン活用を支援しており、物流やビルの看板の点検業務などの実証実験が行われています。これまで人が介在していたサービスをドローンが代替することにより、人手不足を解消することを目的としています」と語る。

 また「NIIGATA XR プロジェクト」も実施している。本プロジェクトは、VR、AR空間、MRなどのテクノロジーを活用した新しい体験価値と経済活動の場を提供するものであり、にいがた2kmエリアを中心とした市内各所において広告などのARコンテンツを体験するような取り組みも実施した。

街歩きアプリで人流を可視化

新潟市で活用されている街歩きアプリのにプリは、にいがた2kmのイベント情報やスポット情報を発信すると同時に、アプリから得られる情報を街づくりに反映できるアプリだ。

 こうしたにいがた2kmエリアの街づくりにおいて、現在実施されているのが経済産業省のデータ利活用実証事業「にいがた地域共創事業体設立プロジェクト」だ。採択事業者であるITサービス企業のBIPROGYが主体となって本事業を推進しており、新潟市はにいがた2kmを対象エリアとして同事業と連携することで「新潟市経済・産業の発展をけん引する成長エンジン」とすることを目指している。

 本事業では街中への移動や活動を促す地域アプリとして「にいがたなびアプリ にプリ」(以下、にプリ)を提供し、そのアプリ上で位置情報データなどを取得することで人流データの取得を行う。

「以前も携帯電話のキャリアからデータを購入し、人流データの分析を行っていましたが、移動経路のような詳細なデータの取得や分析は困難でした。にプリではこれまで取得できなかった詳細な人流データを取得することで、エリアごとの買い回りの移動などを可視化し、街づくりに生かせます。現在新潟駅とその周辺の再開発を行っていますが、その際の道路や歩道の整備を行うにしても、人流データが取得できれば整備の優先順位が付けられます。にプリの活用によってさまざまな形でデータの転用が可能になるでしょう」と宮崎氏は語る。

 行政のデジタル活用が進む中で懸念となるのが、スマホなどのデジタル機器の活用ができない市民への対応だ。新潟市では公民館などで、スマホ教室を定期的に開催しており、参加者の要望を踏まえながらスマホやアプリの使い方をレクチャーしている。

 今後も新潟市では、利用者目線の使いやすいシステムの導入や整備によって“市民一人ひとりの暮らしをよりよく”する取り組みを続けていく。

【相模原市】
議会答弁のデータを学習した生成AIで
今後の議会答弁案の作成効率化につなげる

生成AIの活用がさまざまなシーンで注目されている。それは行政の現場でも例外ではない一方で市民のデータを取り扱うため、入力した情報をAIの学習に使われてしまう懸念もある。こうした懸念から、活用していても生成AIの実力を十分に発揮できていないケースも少なくない。相模原市では、そうした個人情報の取り扱いのハードルをクリアした国産LLMを選択し、議会答弁案の作成などへの活用を進めていく共同実証を、NECと共に取り組むという。

行政事務での生成AI活用の課題

相模原市
佐伯正和

 神奈川県相模原市では、2020年3月に策定した「相模原市ICT総合戦略」を基に、市政のICT化に取り組んでいる。本計画では「選ばれ・愛されるさがみはらをかなえるICT・データの戦略的活用」を基本理念としており、「利用者中心の行政サービス改革」「経営資源を最大限に活用した行財政改革」「将来にわたり発展し続けるまちづくり」の三つの基本目標を定めた上で、八つの施策と、33の事業を設定し、同計画を推進している。

 相模原市 市長公室 DX推進課 課長 佐伯正和氏は「現在のICT総合戦略は2020〜2023年度までの計画設定であり、現在2024年度から始まる第2次計画の策定を進めています。本戦略の中においては『デジタル技術を生かした行政事務改革』を推進しており、庁内システムの見直しを総合的に進めています。また住民の利便性向上に向けて『利便性を高める行政サービスの推進』にも取り組んでおり、窓口でのキャッシュレス決済対応など、デジタルを活用した利便性の向上に注力しています」と語る。

NEC
渡辺亮介

 その相模原市の行政事務改革において、活用を予定しているのが生成AIだ。2023年6月からChatGPTベースの行政向け生成AIを活用した実証実験を行っており、相模原市の職員約30名で活用して行政事務の中での活用効果の検証を進めていた。しかし、当時活用していた生成AIツールには課題もあったという。佐伯氏は「基本的には文章の生成に活用していましたが、自治体業務で扱う文書は定型文が多いため生成AIによる文章生成のメリットを十分に生かし切れていませんでした。Q&Aなどにも活用をしていましたが、回答内容への信憑性にも懸念がありました。またやはり入力した内容が学習に活用されていないかといった不安もありました」と振り返る。

国産LLMで議会答弁案を作成

 そうした中、NECが2023年7月6日に発表したのが、国内市場向けのLLM(大規模言語モデル)「NEC Generative AI Service」だ。2024年1月26日には本サービス名称を「ことば」により「未来」を示し、「こと」が「みのる」ようにという思いを込めた「cotomi」に改称している。相模原市では、NECのLLMのリリースを受け、日本語に特化している点や、サーバーが国内に置ける点などから、自治体業務で利用するに適していると判断し、2023年11月から相模原市役所の一部も部門で活用を行う共同検証をスタートした。

 本共同検証では主に「自治体業務に特化したLLMの構築および実証」および「自治体要件に適したアーキテクチャの検討」の2点に取り組んでいく。

 一つ目のLLMの構築においては、自治体業務に特化したモデルを構築し、その有用性を検証する。加えて職員の業務プロセス改善や問題解決に焦点を当てることで、例規や庁内Q&Aの探索の効率化など、具体的なユースケースの検証を進める。

「現在、議会の答弁案をcotomiで作れないか検討しています。あいさつ文や、簡易的な文章作成なども可能ですが、実際に利用するシーンが多いかというと疑問が残ります。議会は毎年数回、確実に開催されますし、実際国会答弁でも生成AIの活用が検討されていますので、相模原市でも有効に活用できないかと、現在議会答弁のデータを学習させています」と佐伯氏。

 そのcotomiを利用するメリットを、NECのソリューション開発統括部 主任 渡辺亮介氏は次のように語る。「cotomiは日本語に特化したLLMです。もう一つの特長として、生成AIの性能に関わるパラメーターサイズが軽量でありながら、高い性能を発揮できます。このパラメーターサイズが軽量であると、ファインチューニングと呼ばれる追加学習が非常にやりやすいのです。現在、当社では相模原市の過去の議会答弁データなどを提供いただき、相模原市の議会に特化した生成AIを開発している最中です」と語る。

今後は実用に向けた検証へ

 他社のLLMと比較した際の優位性について、渡辺氏は「コストパフォーマンスと自由度の高さ」を挙げた。NECのcotomiは同社が独自に開発したLLMのためチューニングの自由度が高い。加えて、自治体では特にセキュリティが重視される。同社のcotomiは相模原市専用の環境を構築した上でデータなどを取り扱うため、入力した内容を学習に使われることによる情報漏えいのリスクがないのだ。すでに議会答弁データを基にしたシステムの構築は完了しており、今後はこの生成AIモデルが実用に耐え得るかといった検証を進めていく方針だ。

 佐伯氏は「生成AIの業務利用というと多くの場合、文章の生成がメインだと認識されがちです。しかし、実際には当市の議会答弁をはじめ、さまざまな活用方法があるでしょう。まだまだ私たちも気が付いていない生成AIの使い方があると思いますので、多様な生成AI活用によって職員の負担を減らし、できれば市民対応の窓口などに人員を厚く割り当てられるようになればと考えています。もともとNECとは当市の基幹系システムでお世話になっているとともに、当市に大きな事業所があるなど、つながりが深い企業です。NECと共に新しい事柄にチャレンジして、これらの活用が『相模原モデル』としてほかの自治体へ広がっていけばうれしいですね」と今後の展望を語る。

 NECのcotomiはすでにサービスリリースがスタートしている。渡辺氏は「今後、このcotomiをさまざまなお客さまに使ってもらうべく、相模原市で実施した共同検証の結果をほかの自治体への導入に生かしていきたいですね。例えば議会答弁の作成など、その自治体に特化した生成AIの導入を、今後進めていきたいと考えています」と語った。

2023年12月 NEC調べ

【桑名市】
物理的・心理的・身体的な制約を受けずに
行政サービスが受けられるメタバース役所

メタバースの利用が広がりを見せている。メタバース上の学校に不登校の子供たちが通う「メタバース学校」については前号の本企画で紹介したばかりだが、昨今では自治体での活用も進んでいる。桑名市では以前からメタバース上での花火大会など、先端テクノロジーを活用したイベントを実施していた。その同市が今回大日本印刷と共に取り組むのは、市役所のメタバース化だ。

市民が使いやすいカスタマイズ

大日本印刷
山川祐吾

 三重県の北部に位置する桑名市では、「本物力こそ、桑名力。」を基本理念として掲げた「桑名市総合計画」を2015年から策定しており、町に関わる全ての人たちが情報や課題を共有し、課題を解決していく「全員参加型の市政」を目指して街づくりに取り組んでいる。その中で同市は、行政をより効果的に、効率的に運営するため「スマート自治体」への転換に向けた取り組みを進めている。

「いわゆるAIやRPAといったデジタル技術を使って、デジタルトランスフォーメーション(DX)を行い、市民サービスの質を向上させたり、業務効率の向上を目指したりすることが盛り込まれています。また当市では2021年2月に『デジタルファースト宣言』を行っており、デジタルを活用した誰一人取り残さない持続可能な街づくりを推進しています。コロナ禍において、市民に3密を避けるように呼びかけながら、一方で手続きのために市役所に来てもらう必要があるなど、桑名市のデジタル化の遅れが顕著に見えてきました。そうした中で、デジタルの力を活用し、市役所に足を運ばなくてもさまざまな手続きが行えるようにするなど、現在行政のデジタル化に取り組んでいます」と語るのは、桑名市 市長直轄組織 スマートシティ推進課 課長補佐兼スマートシティ推進係長の田端克臣氏。

桑名市
田端克臣

 その中で桑名市がスタートしているのが「メタバース役所」の実証事業だ。同市は大日本印刷と「誰一人取り残さない、デジタル社会の実現」に向けた連携協定を1月26日に締結しており、2月26日からメタバース役所を活用し市民サービスの拡充に取り組む。

 メタバース役所は桑名市の総合窓口を模したメタバース空間上で、市民がスマートフォンやPCから電子申請に関する問い合わせや各種相談が行える。メタバース空間のインフラにはmonoAI technologyの「XR CLOUD」を採用しており、大日本印刷が持つメタバース構築のノウハウを基に、情報伝達に適したパネル配置や、アバターの種類の追加などを行っている。

 大日本印刷 ABセンターXRコミュニケーション事業開発ユニット ビジネス推進部第1グループ リーダー 山川祐吾氏は「当社では以前からXRビジネスに取り組んでおり、自社でもメタバースのサービスを提供しています。そのノウハウを基に、今回桑名市のメタバース役所の構築を行いました。特にアバターは、人だけでなく動物のアバターも用意し、市民が参加しやすく、コミュニケーションが行いやすい空間になるように構築しました」と語る。

三つの行政サービスを提供

 メタバース役所では「電子申請手続きの総合窓口」「各種相談業務」「市民交流の場」を提供する。

 電子申請手続きの総合窓口では、桑名市がすでに提供している各種申請手続きの電子化をさらに推進するための相談窓口のようなサービスを提供する。総合窓口では画面上で実際の申請画面を見ながら、音声で記入方法や操作方法を案内することで、市民が実際の市役所に来なくても電子申請を完結できるように支援を行う。

 各種相談業務では、桑名市が実施している生活や育児、教育、介護、母子・父子の一人親、年金、税務といったさまざまな分野の相談をメタバース役所上で行う。「市役所では対面や電話で相談を受け付けていますが、メタバース役所では物理的、心理的、身体的な制約を受けることなく、相談したい市民と相談員の2人だけで会話できます」と田端氏。メタバース役所の1対1個別相談ブースには、市民と相談員のアバターが座る椅子と机が設置されており、その空間の床に青枠が表示されている。テーブル上の白いボタンを押すことで、その空間にロックがかかり、青枠が赤枠に変化する。その状態で会話をすれば、相談をしている会話や、相談ブースにある画面に表示された内容なども外部に漏れることがなく、機密性が担保された状態で相談が行えるのだ。メタバース上ではアバターを使って会話するため、匿名性が確保されるメリットもある。

 市民交流の場では、メタバース役所上にある交流ブースを使って、さまざまなテーマの交流会を行う。桑名市をはじめとした自治体では、コミュニティ形成の一環で交流会などを開催するが、物理的な場所の確保や設営の負担、また移動の負担といった理由から、実施や参加のハードルが高い。メタバース役所上で市民交流の場を設けることにより、リアルの市役所が開所していない時間でも交流会を行えるようになり、活発な交流につなげることが可能になる。3月7日には「子育て交流会プログラム」が開催され、メタバース役所上で子供を持つ親たちの交流会が行われたという。

桑名市役所の庁舎。開庁時間は月~金曜日の8:30から17:15と一般的だが、時間的な制約や物理的な制約で利用が難しい住民もいるため、より柔軟なメタバース役所の実証をスタートした。
桑名市役所の総合窓口を模したメタバース空間。市民はアバターで自由にメタバース役所の中を移動できる。

深夜や早朝でも行ける役所

 メタバース役所における実証は2月26日〜3月29日にかけて実施される。実際に実施される日程は本期間で限られており、2月26日7:00〜15:00、29日9:00〜17:00、3月6日7:00〜15:00、7日15:00〜22:00、10日9:00〜17:00、14日15:00〜22:00、18日7:00〜15:00、21日9:00〜17:00、24日9:00〜17:00、28日15:00〜22:00の実施を予定している。休日の日曜日や、早朝、夜間に実施するケースが多いのは、メタバースならではのメリットである、リアルの市役所が開所していない時間帯にも行政サービスが受けられる点の効果検証を行うためだ。

 山川氏は「現時点で利用者からいただいている声を紹介すると、個別相談ではリアルの市役所のサービスを利用したことはないという方が多くいました。もともと物理的、身体的な制約があって利用できない人でも、メタバース役所であれば行政サービスを利用できるようになる、という効果を感じました。また実際に相談員からのアドバイスを受けたことで、次の行動指針や心理的な変化が生まれたといううれしい声もありました」と語る。また電子申請サポートについては、メタバース役所上で電子申請も完結したいという要望も多くあったという。大日本印刷側では、これらの市民の声を基にメタバース役所の機能改修へとつなげていきたい考えだ。

 田端氏は「SNSを検索すると、意外と桑名市のメタバース役所を利用した市民の方が感想を投稿してくれています。そうした声を拾い上げながら、実証を進めていきます。またメタバース役所の利用者の多くは先端テクノロジーの興味のある人が多く、高齢者などデジタルに馴染みのない人たちへのサポートが行き届きません。当市では2021年からそうしたデジタルデバイドを解消するためスマートフォン教室を開催しており、1年かけてスマートフォンの使い方などの支援を行っています。そこから少しずつデジタルに慣れて、電子申請に進んでもらえたらうれしいですね」と語った。

電子申請の窓口では、これまで電子申請を使ってこなかった市民などに、電子申請の使い方をレクチャーする。
1対1個別相談ブースでは、相談員と市民の2人だけの機密性が保たれた空間で相談できる。赤く光っている枠の中の会話や画面の内容は、外部からは分からない仕組みだ。