端末活用の用途数から見えた
ICT活用による授業変革の格差

ICT市場調査コンサルティングのMM総研では年に2回、教育現場のICT化の普及状況をはじめとした教育関連の調査を行っている。その内の一つ、「小中学校におけるGIGAスクール端末の利活用同行調査」(2024年1月時点)の調査結果が2024年2月16日に発表された。本調査から、GIGAスクール端末の利用頻度など、教育の現場における端末活用の現在地が見えてきた。調査を担当したMM総研研究主任 高橋樹生氏に詳しく話を聞いた。

授業での端末活用の用途が拡大

 今回MM総研が実施した小中学校におけるGIGAスクール端末の利活用動向調査は、全国1,741の全ての自治体の教育委員会に電話アンケートを実施し、その内1,101団体から回答を得た。

 まずは、GIGAスクール端末を毎日利用している自治体の割合を、シーン別に見ていこう。「授業で毎日利用」している割合は77%と、前回調査時の75%から下がることはなく、より定着が進んだことが分かる。次に「端末持ち帰りを毎日実施」している割合は24%。これは前回調査時の17%と比較して7ポイントの増加だが、割合としては全体の4分の1程度にとどまっており、GIGAスクール端末は依然として授業での利用にとどまっていることが分かる。

 またGIGAスクール端末の授業での利用用途について尋ねたところ、前回調査と比べて確実に広がりを見せているという。「調べ学習」「学習支援ソフトのアプリの利用」「考えをまとめて発表」「デジタル教科書・デジタルドリル」「カメラ機能で動画や写真による記録」「先生と児童生徒のやりとり」「児童生徒同士のやりとり」「その他」といった用途別の利用率についても継続調査を行ったところ、いずれの用途も自治体数ベースで約6〜8割弱の結果となった。高橋氏は「どの用途も7割近い結果となったのは大きなポイントです。いずれの自治体もGIGAスクール端末を活用してさまざまな用途を試すようになり、活用が浸透しているのだと判断できます。中でも『先生と児童生徒のやりとり』が24ポイント増の68%、『児童生徒同士のやりとり』が23ポイント増の55%と、自分以外の相手とコラボレーションする用途での利用が大きく増えました」と語る。

 こうした利用用途の変遷から見えるのは、GIGAスクール端末活用の定着に合わせて、授業スタイルも変化しているという点だ。「これまでのスタンダードだった集合型の授業から、人の考え方や発表を見て個別に学ぶ、協働的で個別最適な学びを実現できる土壌へと、徐々に変わりつつあります。特に先進的な自治体はこの傾向が強いことがデータとして分かります」と高橋氏。

出所:MM総研

自治体間の活用格差が顕著に

 MM総研は、授業におけるGIGAスクール端末の用途数に関する自治体の分布も調査している。前述した七つの利用用途の内、七つ以上で利用している自治体は44%となった。これは前回調査と比較すると31ポイントも増加している。同じく前回調査で用途数が三つ以上と回答した自治体の構成が変化していることから、より多くの用途でGIGAスクール端末を利用するようになったことが分かる。一方で、高橋氏が指摘するのは、一つから二つの用途で利用していると回答した自治体の割合だ。

 高橋氏は「一つから二つの用途で利用していると回答した自治体の割合は、前回調査時で29%。今回は24%と、5ポイント減少しましたがあまり変化がありません。また数値的には減少していますが、前回調査時は三つから四つの用途で利用していた自治体が、一つから二つの用途での利用に下がっていたり、これまで二つの用途で使っていた自治体が一つの用途になっていたりと、活用に消極的になっている自治体が4分の1程度存在するのが実情です」と指摘する。

 一方で、技術の進展によって新たな活用用途も登場している。生成AIだ。2022年11月にOpenAIのChatGPTが公開されて以来、生成AIには多くの注目が集まっており、教育現場で活用する動きもある。そこでMM総研は生成AIの活用の推進・制限の状況を自治体に調査した。

 児童生徒の利用では「活用を推奨」と回答した割合が7%と少なく、「活用を制限」と回答した割合が19%、残りの74%は「特に推奨や制限はしていない」となった。一方で教員の利用に対しては、推奨が14%と、児童生徒と比較すると活用を推奨している割合が多い結果だ。

「生成AIは正直非常に早い速度で変化しているテクノロジーのため、それをすぐに教育に取り入れるのはさまざまな議論があると思います。実際、生成AIを活用する上での課題として、『情報の正確性』や『ガイドラインの未整備』『著作権の侵害』『個人情報の漏洩』などが4〜5割を占めました。一方でマーケットを見る視点では、自治体ごとの温度差が相当ある印象です。文部科学省などは生成AIパイロット校を指定して、先進事例の創出を図っていますので、来年度から再来年度にかけて、これらの事例が広がっていくことで活用割合が6割ほどになっていくのでは、と予測しています」(高橋氏)

 また、生成AIの活用推奨・制限の状況を、授業における端末用途数別に分析したところ、用途数が多い自治体ほど、教員の生成AI活用を推奨する割合が高くなるという相関関係があったという。「本調査から因果関係の証明まではできませんが、GIGAスクール端末の活用をはじめとしたデジタル活用を進めたことで、教育におけるデジタル活用が有効であるとポジティブに捉えるようになった可能性があります。このように好循環に入っている自治体がある一方で、授業における用途数が少ないままの24%の自治地帯は本当によいのかを改めて問い直す必要がありそうです」と高橋氏は警鐘を鳴らす。

3rd GIGAを視野に入れた取り組みを

 GIGAスクール端末の活用用途が多い自治体においても、学校や校内の教員によって温度差があるケースも存在する。MM総研では、自治体に対して実施した本調査に加えて、教員に対しての調査も行っている。その調査では学校名などは調査項目に入っていないが、居住地域の回答から勤務している自治体はある程度推測が可能だという。その回答と今回の調査を組み合わせて推測すると、同じ自治体でも端末活用の頻度や用途にばらつきがあったり、均一であったりするなど、温度差が見られるという。

 高橋氏は「同じ自治体でも回答にばらつきが見られる場合は、その自治体もしくは学校に先進的な教育に取り組む特定の教員がいるのではないかと推測できます。逆に回答が均一な自治体は、校長会で意識共有をしていたり、自治体としての推進体制ができていたり、専門家が後押しをしていたりといった場合が多いでしょう。今回の調査では『教員のICTスキルが不足している要因』についても調査しており、トップは『スキル習得の時間が足りていない』で64%でしたが、『リーダー(校長など)の後押しや積極性がない』という回答も12%ありました。自治体としてデジタルをうまく活用できているところは、まだまだ少ないというのが正直な印象です」と指摘した。

 GIGAスクール端末にフォーカスすると、直近でNEXT GIGAと呼ばれる端末更新がある。高橋氏はこの整備を着実にやりきる重要性とともに、NEXT GIGAの次の端末更新である3rd GIGAに向けて、さらに活用を進めていく重要性を指摘した。

「政府は、2026年度に3rd GIGAでの支援の在り方を示すとしていますが、この支援の判断基準となるのがGIGAスクール環境の活用状況やNEXT GIGAでの端末更新を含めた環境整備の状況です。『教育DXに係るKPIの方向性』として具体的な数値目標も示しており、このKPIの達成状況を基に3rd GIGAでの端末更新支援の方向性が決まるでしょう。2026年度までと捉えるとあまり時間がありません。まずは活用状況の見える化に加えて、校務効率化などで先生方の余剰を生み出してICTスキルの向上を図ることが今後必要になるでしょう。そのためには、今回の調査のように自治体の活用状況や課題を項目ごとに数値で浮き彫りにし、それぞれに適したきめの細やかな支援を行っていくことが求められます」と高橋氏は締めくくった。