オフィスにとらわれず、状況に応じて最も効率の良い場所で仕事をするハイブリッドワークが定着している。その際の生産性に影響を及ぼすのが、ほかのメンバーとのコミュニケーションおよびコラボレーションだ。すでに多くの企業がオンライン会議ツールを利用して遠隔地にいるメンバーとのコミュニケーションやコラボレーションを図っているが、映像の画質や音質が不十分で意思を疎通しにくい、ミーティングの参加メンバーとのファイル共有がスムーズにできないなどのさまざまな課題が生じている。そこで、今号ではオンラインによる社内のコミュニケーションおよびコラボレーションにおける課題の解決に適した製品を紹介していく。
オンラインではカメラやマイクを有効に使い
非言語コミュニケーションをカバーする
ZoomやTeamsなどのオンライン会議ツールや、Slackなどのチャットツールを活用したコミュニケーションに関する調査や研究を行っているオンラインコミュニケーション協会。いくつもの調査を実施したその結果から、今ビジネスパーソンが抱えているオンラインコミュニケーションへの実態や課題、そしてその解決方法を紹介していこう。
社内会議のオンライン率は80%以上
オンラインコミュニケーション協会では、オンラインコミュニケーションに関する調査を行っている。直近の調査では「大企業のオンライン会議活用に関する実態調査」の結果を2023年10月24日に発表した。本調査によると、出社とリモート勤務を両立するハイブリッドワークを導入している大企業の内、社内会議は83.6%が、社外会議は61.7%が、半分以上オンラインで会議を行っていると回答したという。
その背景を、オンラインコミュニケーション協会 代表理事 初谷純氏は次のように語る。「ハイブリッドワークの場合、会議の参会者の内1人でも在宅勤務だったり、テレワークによって社外で働いていたりする場合、全参会者がリアルの会議室に出席できないためです。実際、社内でのオンライン会議の比率が半分以上と回答した人を対象に、『社内会議の比率が対面よりもオンラインの方が多い、もしくは同じ理由を教えてください』と質問したところ、『会議参加メンバーが全員出勤していることがないから』が66.7%、『移動の時間や手間が削減できるから』が43.8%、『時間に融通が効くから』が43.4%という結果になりました」
オンライン会議に利便性を感じるビジネスパーソンが多い一方で、課題を感じている人も少なくない。同調査でオンライン会議の比率が半分以上と回答した人を対象に「あなたがオンライン会議に難しさを感じる場面があれば、教えてください。(複数回答)」と質問したところ、「相手の感情が読みづらい」が51.2%、「意思疎通がしづらい」が40.6%、「会話の間が分からない、会話がかぶる」が26.6%という結果になった。
こうした課題に対して初谷氏は「人間のコミュニケーションは、約7割が非言語情報に基づいています。例えば身振り手振りや視線の動きといった事柄から感情を読み取っているため、オンラインでは対面と比べて意思疎通がしにくいのです。特にオンライン会議では、話さない人はマイクをミュートにすることがマナーと言われていたり、通信負荷軽減やプライバシー保護の観点からカメラをオフにしたりしている人も多く、これにより対話がさらに難しくなっているケースも少なくありません」とオンラインコミュニケーションの難しさを指摘する。
オンライン会議ではカメラをオンに!
オンラインコミュニケーション協会では、武蔵野大学 経営学部 経営学科 准教授の宍戸拓人氏と共同で、オンラインコミュニケーションにおいて、ビデオ(カメラ)をオンにした場合と、オフにした場合の影響を検証し、その結果を2022年9月13日に発表した。それによると、「ビデオをオフ(顔が映っていない)状態では、メンバーの多様性を原因とする意見対立を避けるようになり、合意まで時間がかかり、意思決定の質が悪化するという結論が得られた」という。
「会議による合意形成や意思決定を行う上では、異なる意見を交換した方が良いディスカッションになりますが、顔が見えない(ビデオオフ)状態では声のみを頼りに対立の解消を行う必要があるため、それを回避してしまう傾向があります。そもそもオンライン会議ツールの良さとは、離れている人と顔を見ながら話すことで、声のみの電話よりも非言語情報を補うことができる点にあります。同様に、マイクミュートがオンライン会議の習慣として定着していますが、これも6人以下のオンライン会議では見直した方が良いでしょう。というのも、ミュートにしてしまうと相づちが相手に聞こえません。相づちは会話をドライブすると言われており、聞こえないと対話のリズムが悪くなります。最近ではTeamsもZoomも雑音を補正するノイズキャンセリング機能が進化していますので、マイクをミュートしなくても周辺環境の音を拾わずにスムーズなコミュニケーションが実現できるでしょう」(初谷氏)
同様にカメラについても、バーチャル背景を使うことで在宅勤務環境でもプライバシーを守ることは可能だ。また在宅勤務の場合、化粧をしておらずカメラをオフにしているケースもあるが、化粧をしているように補正をかけてくれるオンライン会議ツールや、アプリケーションも存在する。コロナ禍でオンライン会議が増加した当初はカメラをオンにするとツールが重くなるような課題も存在したが、現在は解消されている。通信環境の問題があるようであれば、業務を円滑に進める上では見直した方が良いだろう。
初谷氏は「カメラをオフよりもオンにすることのベネフィットが上回るのであれば、そちらを選択した方が企業競争力の向上につながります。また会議室に一つのカメラを設置し、複数名が参加するケースも増えてきましたが、通話先は一人ひとりの顔が見えないためやめた方がいいでしょう。会議室でオンライン会議をするのであれば、1人につき1台のPCを持っていくか、話者にフォーカスする機能が搭載されたWebカメラを設置することが望ましいでしょう」と指摘した。
オンライン会議成功のコツ
オンライン会議を円滑に進める上で、初谷氏は「アジェンダを作る」「空欄で会話をコントロールする」「早口で話す」という三つのコツを教えてくれた。
アジェンダは、その日の会議で何の話をするかを明記したものだ。どの議題にどれくらいの時間を割り当てるかまで記載していることが望ましいという。特に画面越しのコミュニケーションは集中力が落ちるため、議題に対する時間を決めたり、最初にライトな議題を持ってきて、意思決定が必要なヘビーな議題は後半に持ってくるといった順序にしたりすると良いという。
二つ目の空欄による会話のコントロールとは、前述の議題を画面に表示させておき、空欄に出てきた意見を書き込んでいく手法だ。議題に対する脱線を防いだり、活発な発話を促したりする効果がある。
三つ目の早口で話すという手法は、意外に思う人も多いだろう。初谷氏は「オンラインだからこそゆっくり話す人もいると思いますが、画面越しのコミュニケーションは脳がぼーっとしている状態と同じになります。そこでゆっくり話すと、余計にぼーっとしてしまい、聞き逃しが発生します。普段よりも早口で話せば、『しっかり聞かなければ聞き逃しが発生する』という危機感によって、より真剣に話を聞いてくれるようになります。また、会議で質問を出してもらいたい場合は『質問がある人』と聞くよりも、誰かを名指しで呼んだ方が良いです。意見が言えなそうな若手に意見を聞いていくなど、ファシリテーターが会議全体をコントロールしていくと良いでしょう」と語った。
オンラインコミュニケーション協会は今回紹介したような調査結果のほか、法人向けのコミュニケーション術の研修も提供している。協会のミッションである「画面越しのコミュニケーションをよりスマートに、より豊かに」の実現に向けて、今後も会社組織に向けた支援を継続的に進めていく。