スマ研・ニュース解説 Vol.2
スマートワーク関連の気になるニュースをピックアップし深掘りする「スマ研・ニュース解説」の第2回。ついつい読み飛ばしてしまう日々の膨大なニュースのなかから、報道だけでは分からないそのニュースの隠れた意味や、ビジネスに役立つポイントなどを解説します。これからスマートワークを実践していくためのヒントにしていただけると幸いです。今回は「もえあずカレー@総務省」「RPA女子プロジェクト」「オフィスチェアーに関する調査」をピックアップしました。
文/狐塚淳
【NewsPickUp-1】
総務省行政管理局カレー部が、「もえあずカレー@総務省」を開催
総務省で「もえあずカレー@総務省」というイベントが2018年6月5日に行われた。総務省では10年来「カレー部」の活動を行っているが、今回は大食いアイドルの「もえあず」こと、もえのあずきさんを迎え、皆でカレーを食べながらコミュニケーションし、食事の大切さを実感することで、同省の働き方改革の先にある職員の幸せ実現に向けた一歩としようという試みだ。
【解説】
総務省には行政の効率化を推進する行政管理局という部署があり、働き方の改善を自ら実践し、政府内に広めようという取り組みを行っている。スマートワーク総研でも以前「日本一スマートに働くお役所」として紹介した。同部署のオフィス見直し、意思決定迅速化による残業削減、場所に縛られないテレワークの導入などの取り組みは、政府内他部署からの視察も相次いでいるという。
行政管理局には「カレー部」という部活動がある。カレー部では、年齢や立場にとらわれず、カレーランチを一緒に囲む。食事中の会話の中から、仕事に関する新たなアイデアが生まれることもあるという。カレー部の活動は部署内で閉じているわけではなく、外部からの参加も可能だ。これまで、省庁以外にも企業や自治体、漫画家、インド大使館の外交官など多彩な人々が参加してきた。
カレー部の活動で一番重視しているのは「孤食」「早飯」など事務処理的な食事ではなく、皆で楽しく会話しながら昼食の時間を過ごすことで、食事を大事にし、人生を豊かに過ごしてほしいというメッセージを伝えることだ。
冒頭、今回のイベントを企画した総務省⾏政管理局副管理官の永⽥真⼀⽒が挨拶に立ち、「かつて総務省は業務効率化を目標にしてきましたが、働き方改革で人間中心の方向に舵を切りました。その次に目指すべきは職員の幸せです。それは家族の幸せ、国民の幸せにつながります。働く環境が改善されてきた次には食べることを大事にしたい。人間の食事は家畜のように生きるためだけにかき込む食事ではなく、みんなで味わって食べていくことが大事だと思います。それが人生を豊かにするということを、文化として広めていきたい。これも働き方改革の一環なのではないかと思います」と、イベントの主旨を説明した。
より自由なワークスタイルの選択を可能にする「働き方改革」を進めていくと、それは就労時以外の生活のスタイルにも影響を与えるようになってくる。働き方を変えることが目的ではなく、個々の働く人が幸せな人生を獲得することが重要だからだ。先進的に働き方改革に取り組んでいる企業では物理的な枠組み作りを進めるとともに、従業員の「幸福」実現を目標とするところが増加している。
企業での働き方改革にとって重要なのは、社員を大切にし、社員が自分の人生や、家族との時間を大事にできるようになることだ。昭和から連綿と続く「モーレツ社員」や「不夜城」といったワーカホリック文化は、すでにブラックなものと認識され、払拭、改善が急がれている。
働き方改革でより自由な働き方が可能になれば、個人の生活スタイルも変わっていく。幸せな人生のためにどんな生活スタイルを選び取っていくかは個々人が探していかなくてはならないテーマだが、「食」はそのなかでも最も重要な要素のひとつだ。今回の「カレー部」イベントの参加者は、和やかなコミュニケーションの中で、そのヒントをつかめたのではないだろうか。
もえのあずきさんも「総務省の皆さんは食事をとるのも大変なくらいお忙しいと聞いたのですが、今日はみんなで一緒に食べて、食べるのって楽しいなと感じてもらえたらいいな。それが職員の方々の人生を豊かにするのにつながればすてきだなと思います」とエールを送っていた。
【NewsPickUp-2】
RPAテクノロジーズ、MAIA、Waris、ブイキューブの4社が、社会のRPA活用ニーズとRPAスキルを身に付けた女性をマッチングする「RPA女子プロジェクト」を開始
RPAのベーステクノロジーを提供するRPAテクノロジーズ株式会社と、オンライン教育コンテンツ作成の株式会社MAIA、女性のキャリアアップを支援する株式会社Waris、コンテンツ配信の株式会社ブイキューブは、RPAを活用したい企業や団体に対して、RPAスキルを身に着けた女性をマッチングすることで、子育て・家族の転勤・介護等女性の復職を支援する「RPA女子プロジェクト」を2018年5月より開始した。
【解説】
ホワイトカラーが従事している繰り返しの多い業務を、ソフトウェアロボット(デジタルレイバー)によって自動化できるようになるRPAが注目を集めている。RPAはプログラミングなしに簡単に作成できる点に特徴があるが、もちろん作成に当たっては、業務のどの部分をソフトウェアに置き換えるかは考えなくてはならない。ずれた部分を切り出して自動化しても、思ったほどの効果は得られないだろう。
また、作ったロボットはいつまでも使用し続けられるとは限らない。企業内のワークフローの変化などを誰かが反映しなければ、働かない「野良ロボット」が増えてしまう。作成が簡単なRPAとは言っても、使い続けるには運用保守を考慮する必要がある。
RPAの導入効果を最大にするためには、ホワイトカラーの業務知識を持ち、RPAにも明るい人材が必要になってくる。もちろん、従業員に教育を受けさせ、そうした業務に対応できる人材を育てる方法もあるが、アウトソーシングを考えたい経営者も多いだろう。しかし、RPA自体の登場が最近であることからそうした人材をアウトソーシング市場に求めるのは困難だ。
そうした人材の育成に着目したのが「RPA女子プロジェクト」だ。しかし、これはRPAツールベンダーが単独で行うには多数のハードルがある。そこで「RPA女子プロジェクト」では、RPAに関するノウハウとツールの提供をRPAテクノロジーズが担当し、教育のためのコンテンツ提供をMAIA、教育用オンライン基盤をブイキューブが、教育終了後の人材と企業のマッチングをWarisが受け持つという枠組みを作り上げた。
このプロジェクトのもう一つのポイントは、文系のバックオフィス業務に詳しい女性労働力に注目した点だ。子育て・家族の転勤・介護等により、貴重な労働力である多くの女性が、本人の望む形で働けない現状に対し、経験として持っている業務理解に加えてRPA技術を養成することで、高付加価値な労働力に高め、企業とマッチングまでを仕組みとして「女性の多様な働き方の環境整備」と「RPA活用ニーズへの対応」を実現しようというのは面白い取り組みだ。
オンラインで教育を受けられ、ネットワークを介しての働き方が可能であることから、国内で自分に合う仕事が見つけられない女性だけでなく、外交官や海外赴任中のビジネスマンのパートナーなど、従来は就労機会が少なかった人にも、新しい働き方の門戸を開くことができる。また、在宅での働き方として一時は人気の高かったWebデザイナーなどに代わる高時給の仕事としても注目を集めそうだ。
【NewsPickUp-3】
コクヨが1200 名を対象にオフィスチェアーに関する調査を実施、世界で最もイスに座る時間が長いと言われている日本人の中で最も長く座っている職種を発表
コクヨ株式会社は、世界で最もイスに座る時間が長いと言われている日本人の中で最も長く座っている職種を20~60代の会社員、経営者・役員1200 名を対象に調査した。結果は1位「企画・マーケティング」、2位「デザイナー・クリエイター」、3位「ITエンジニア」で、1日の1/3程度の時間をオフィスチェアーに座って仕事をしていた。また、「勤務中、座っている割合が高い職種」トップ3では、1位 「企画・マーケティング」、2位「ITエンジニア」といった「最も長く座っている職種」と同様の職種に加え、「経理」も入っており、トップ3は就業時間の9割以上を座って過ごしていることが分かった。
【解説】
座業という言葉は、昔は下駄屋など、座ってする作業の多い職人を指したが、現在の座業の代表はホワイトカラーだ。会社員を対象としたこの調査は、現代の座業の就労状態を明らかにする。ほとんどの職種が勤務時間の半分以上を座って作業しており、7時間以上というケースも半数の職種で回答されている。
IT化によってペーパーレスが進み、デスクのモニター上で大半の作業が可能になることで、能率面では向上しただろうが、着座時間が長いことで健康的な問題は起きてこないのだろうか? 眼精疲労や運動不足、エコノミー症候群といった言葉が浮かんでくる。
リリースの中で、長時間の着座で健康リスクが高まるという調査データ(“van der Ploeg HP et al. Sitting time and all cause mortality risk in 222,497 Australian adults. ArchIntern Med, 2012; 172: 494-500.)と、世界の主要20カ国との比較では“日本人の座位時間が最も長い”という調査結果(Bauman AE et al. The descriptive epidemiology of sitting: A 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ). Am J Prev Med, 2011; 41: 228-235.)に触れている。
これからは着座時間が長くても、健康管理に配慮した就労を可能にするアプローチが企業に求められるようになってくるだろう。働き方改革でも社員の健康状態の改善はテーマになっており、フリーアドレスなどで利用される立ったまま作業できるデスクや、バランスボールを椅子として用いる試みなど、座ったままの状態を改善する製品や試みが登場してきている。コクヨも座っているだけで自然なスイングが発生し、運動不足の改善やリラックス効果のあるingという椅子を発表している。
椅子以外にも、労働とウェルネス(心身両面の健康)を結びつける動きは盛んで、先進的に働き方改革に取り組んできた企業では、すでに時短に向けた枠組みなどは作業を終え、社員のウェルネスに向けた取り組みに掛かっている。そうした動きに向けたソリューションも多数登場し、健康管理全般をアウトソーシングで受けるサービスや、就業中の仮眠室ソリューションを提供するメーカーまで多様だ。
また、同時に発表された労働時間の長さの調査では、「営業・コンサルタント」が平均9時間8分で1位になっている。2位は「デザイナー・クリエイター」、3位は「販売・サービス」だった。これらは、今後、働き方改革で労働時間短縮が図られるべき職種と言えるだろう。
筆者プロフィール:狐塚淳
スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。