サカワ・ウルトラワイド超短焦点プロジェクター「ワイード」

 近年、教育現場にICT化の波が押し寄せてきています。映像を見ながらの授業はもちろん、パソコンやタブレットを使ったり、電子黒板によって効率的な授業を行ったりと、先生の意識改革が必要な時代です。そんな中で注目されているのが、黒板に映像を投影するサカワのウルトラワイド超短焦点プロジェクター「ワイード」です。今回は実際に使っている学校へ池澤あやかさんが訪問し、「ワイード」の魅力を体験してきました。

取材/池澤あやか、文/飯島範久、写真/岡田清孝


タレント/エンジニア
池澤あやか
@ikeay
第6回東宝「シンデレラ」オーディションで審査員特別賞に選ばれ、タレントとして活躍する一方、慶應義塾大学 環境情報学部(SFC)在学中にプログラミングに目覚める。大学卒業後もプログラミングができるタレントという特技を活かして活動中。

広い黒板全体に投影するプロジェクターを求めて

 電子黒板というジャンルが生まれる以前から、多くの教育現場には「OHP(オーバーヘッドプロジェクター)」が導入されていました。OHPシートにペンで描いたものをスクリーンへ投影するというというものでしたが、使うたびに機材とスクリーンを出し、教室を暗くしたりして使い勝手はあまり便利とは言えませんでしたが、黒板とは違う勉強方法の1つとして活用されてきました。

 近年のICT化により、電子黒板というジャンルの製品が各メーカーから出されています。ホワイトボードのようなものに映像を投影したり、大画面テレビで完全電子化されたもの、黒板に映像を投影するものなど、電子黒板にもいろいろなタイプがありますが、今回紹介する「ワイード」は黒板投影型プロジェクターになります。

 黒板投影型のメリットは、投影するためのスクリーンが不要で、既存の黒板をそのまま活用できるところ。ほかのタイプに比べると設置費用を抑えられるため、導入する学校の負担軽減にもなります。

 今回はメーカーへ伺うのではなく、「ワイード」を実際に導入して活用している学校へお邪魔してきました。東京都北区にある星美学園では各教室に設置し、授業で活用することで教育の仕方や生徒の授業に対する態度に変化があったそうです。その辺りのお話も先生に伺っていますが、まずは「ワイード」についてサカワの常務取締役・坂和寿忠さんにお話しいただきました。

カトリックミッションスクールの星美学園は幼稚園から短期大学まで「愛情から信頼が生まれ、信頼から教育が生まれる」をモットーに教育を行っています

池澤あやかさん(以下池澤) 「本日はよろしくお願いいたします」

坂和寿忠さん(以下坂和) 「よろしくお願いいたします。ではさっそくワイードの説明をさせていただきます。この製品は名前のとおり、横長に投影することができるのが最大の特徴になります。黒板ピッタリのサイズに映せることと、黒板のある壁にプロジェクターを設置して、ほぼ真上辺りから投影することで、黒板の前に立つ人の影が投影されないというのが特徴です。また、先生や生徒が前に立っても、映像の光が目に入りにくいのも利点になります」

黒板の真上ぐらいの位置にプロジェクターを設置する超短焦点タイプ。そのため黒板の前に立っても影が落ちにくい

池澤 「確かに黒板の前に人が立っても映像に影が投影されないですね。このワイードを作ろうとしたきっかけってなんだったんですか?」

坂和 「弊社は来年創業100年を迎えるんですが、昔から学校の黒板を作っている会社なんです。なのでプロジェクターを作っていたわけではないのですが、学校でピッタリのプロジェクターはないかなと思って探したところ、それに見合う製品を見つけたんです。

 いままでプロジェクターというと、小さく映すものしかなかったのですが、黒板ピッタリに映せるので、映すコンテンツも大きいものが映せるので、これまでとは違った使い方ができるのではないかと思い、製品化までこぎつけました」

左がワイードについて説明していただいたサカワの常務取締役・坂和寿忠さん

池澤 「創業100年! かなり古くからやられているんですね。確かに黒板で使うなら広く投影できたほうがいいですよね」

坂和 「コンテンツにもよりますが、この広さがワイードの魅力だと思っています。単に横長に大きく映すだけでなく、違う画面を2つ並べるということもできます。およそ70インチの画面を2面映せることで、いままで1画面で授業をしていたところ、たとえば、左にパワーポイントの画面で説明、右に動画を表示するといったように2つの画面を並べて授業ができるようになります」

黒板いっぱいに広がるワイードの投影範囲

画面を2つ並べて表示しても成り立つのがワイードの特徴

池澤 「なるほど、それは便利かも」

坂和 「もう1つ、画面を左右にスライドさせる、デジタルスライド機能がついています。授業のシーンでは、黒板を併用して使うことも多く、右側に映像を投影しつつ左側は板書をメインに使うということもできます。画面の位置は左、右、中央に設定できるので、授業内容に合わせて切り替えられます」

このように、付属のリモコンで画面の位置を簡単に切り替えられるので、板書との併用も簡単に行えます

坂和 「他社ではプロジェクターをレールに設置して、物理的に左右へ移動させ投影するというシステムもあります。しかし、このワイードはそんな大掛かりなことをせずとも、投影位置を変えられます。工事がカンタンなのがワイードのよさでもあります」

池澤 「レールで動かすと、壊れる心配もありますよね」

坂和 「そういう心配もありますね。あと、黒板に直接投影するというメリットは、デジタル的に投影した映像に対して、アナログ的にチョークを使って加筆していくという使い方ができるので、デジタルとアナログの融合で授業ができます。また、通常の黒板でも使えますが、黒板メーカーなので、黒板に投影したものが見やすくなるブルーグレー色の黒板を開発しました。緑ではないのですが、映像を投影するのに最適化した黒板になります。星美学園さまをはじめ、一緒に導入していただいている学校も多くあります」

池澤 「映像投影と板書のいいとこどりな黒板ということですね」

坂和 「あと、電子ペンがついているので、パソコンにUSBで接続すれば、投影された画面上でパソコンの操作ができるようになっています。ペンソフトも入っていますので、パワーポイント画面上に描いたり、ペンでダブルクリックすることでツールバーを表示させ、機能を変える操作をすることもできます」

グリッド線を投影して、名前を書いた池澤さん。ツールバーは、投影範囲が広いので、近くにツールバーを表示させる工夫をしています

こちらが付属のペン。赤外線によって位置を判断していて、書き心地は少し抵抗がある感じ

坂和 「もう1つ、画面分割機能というものがありまして、ウインドウを複数並べて表示したいとき、かんたんに整えて表示してくれます。投影範囲が広いワイードならではの機能かと思います」

プロジェクター分野では新参者のサカワがとった行動とは

 ここまで、ワイードの主な機能についてざっと説明していただきましたが、ワイードについていろいろと質問しました。

池澤 「授業ってだいたい昼間にやるじゃないですか。明るさってどうなんですか? カーテン閉めたほうがいいとか、照明を点けなければ問題ないとか」

坂和 「明るさは3400ルーメンで、夏の昼間だとちょっとカーテン閉める程度で、朝方はそのままでも授業をやっているそうです。通常の黒板だと若干暗くなってしまうのですが、専用の黒板ですと明るく見やすいようになっています。チョークと組み合わせたときに最適な明るさになるよう調整しています。ただ来年は、もうちょっと明るいバージョンを出したいですね」

撮影のためフラッシュを焚いているが、それでもしっかり画面が映っています

池澤 「ここの黒板もそうですが、湾曲した黒板でも大丈夫なのがスゴイ」

坂和 「もともとはこの湾曲に対応するのがとても難しくて、発売当初は対応していませんでした。細かく補正する機能をつけることで、湾曲にも対応できるようになったんです。納品時に、投影する黒板に合わせて補正しています。これがいちばん苦労した点ですね」

池澤 「ほかに苦労した点はありますか?」

坂和 「開発したときに、プロジェクターというと日本の大手企業が参入していますので、この市場に食い込むためにどうしたらいいのか考えました。まずは目立つPRが必要だと思い、2年前の展示会会場でワイードの動画を作って流したんです。ワイードを言い続けた曲に合わせて特徴を面白おかしく表現したんですが、会場で永遠とループしていたら、周りのブースの人が頭の中でリフレインするという(笑)」

池澤 「うまくいったんですか?」

坂和 「このPR動画によって、市場に食い込めたと思っています。一度聞いたら、頭から離れないものを作ろうと思っていたので良い結果につながってよかったです」

池澤 「確かに、これは頭から離れないかも(笑)」

 動画をワイードで黒板投影して見たのですが、これはインパクトありすぎて、頭に残ります。印象に残って売上に結びついたのであれば、大成功だったのではないでしょうか。

坂和 「これを作ってくれた監督さんが知り合いで、とにかくインパクトのある動画を作ってほしいとお願いして作ってもらいました。NHKの朝ドラ『半分、青い』のオープニングを制作した方でもあるんですよ。こういう違うアプローチからやっている会社なんです(笑)」

池澤 「確かに」

坂和 「Webページも凝っていて、元面白法人カヤックのねじさん(佐藤ねじさん)の会社に作ってもらいました。ページもこだわっていて、色んな所が伸びているんですよ。音引きとか、全部伸びているんです。だから教育向け企業だとあまりこういった派手なPRはしないんですが、僕らは大手ではないので、変わったPRをすることで目立つようにしています。営業は困っているかもしれませんが(笑)」

池澤 「昔から黒板を作ってきたなら、老舗として有名だったんじゃないんですか?」

坂和 「地元ではまぁまぁですが、それほどでもないですね。4,5年ぐらい前から電子黒板の分野にチャレンジしてきて、少しずつ教育業界の中では浸透してきたかなと。毎年こういうPRばかりやっているので(笑)」

池澤 「今は、どのくらい納入されているんですか?」

坂和 「今1,000台ぐらい導入していただいていて、来年は倍ぐらいまで伸ばしていけたらと。小中学校の公立の教室は、日本全国に44万教室あると言われているわけで、44万台の需要があるわけです。全教室がワイードになってくれると、もっと面白いコンテンツが増えたり、教室と教室をワイードでつないで、遠隔授業を行ったりとか、そんなこともいずれできると思っています。日本国内だけでなく、海外ともつながったり」

池澤 「夢は広がりますね。カメラとか設置したりして」

坂和 「今後、たとえば黒板にセンサーを付けて、板書したものをすべてデジタル化して、クラウド上へアップするとか。そうすると、板書を0から書かなくてもワイードで映すだけで板書が表示されたり、先生同士でシェアしたりできると思います」

池澤 「生徒は板書をノートに書き写さなくてもよくなると」

坂和 「そうですよね。ワイードがきっかけで、黒板が変わることがイメージできたので、いろいろなコンテンツを作っていきたいですね」

池澤 「コンテンツも作られているんですね」

坂和 「いま、喋ったら全てテキスト化するというAIのアシスタントを作っていて、授業中のアナログデータをビッグデータ化したいという思いから、先生が話したことをすべてテキストにするプロジェクトを始めています。学校にはまだまだアナログな部分があるので、できるだけ我々は技術を使ってデジタル化へ進めていきたいと思っています」