ワーキング革命 - 第47回

ビジネスチャットによるコラボが働き方改革を加速させる


ミック経済研究所の調査「コラボレーション・モバイル管理ソフトの市場展望 2019年度版」によると、2019年度の国内コラボレーション市場は、前年度比160.4%の成長を記録する予定だ。働き方改革の担い手として、ワークフロー、グループウェアに続き、ビジネスチャットが大幅に躍進しているという。

文/田中亘


この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売)からの転載です。

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ビジネスチャットという切り口

 働き方改革を推進するソリューションとして、コラボレーションソフトやモバイル管理ソフトは重要な位置付けを占めている。グループウェア、ワークフロー、Web会議ソフトなどと、MDMやMCMといったモバイル管理ソフトなどの網羅的な導入が理想だが、大手企業でも一度にこれら全てを完璧に整備することは難しい。単純な青写真を示すだけでは、大手企業から中堅中小企業に至るまで、コラボレーション&モバイル管理の導入促進にはつながらないだろう。

 そこでポイントとなるのが、ミック経済研究所のコラボレーション・モバイル管理ソフトの市場展望2019年度版(同リポートでは、国内で事業を展開する50社のソフトウェアベンダーをヒアリングして、2018年度から2019年度における市場規模を算出し、2023年度までの中期予測を報告している)でも注目されているビジネスチャットという切り口だ。ビジネスチャットは、コンシューマー向けのSNSが提供しているメッセージやチャット機能をビジネス向けに提供するサービスだ。ミック経済研究所のリポートによれば、2018年度のビジネスチャット市場の成長率は前年度比157.8%、2019年度は同160.4%と予測されている。

 改めて解説するまでもなく、ビジネスチャットの基本は、1対1やn対nのオンラインでのコミュニケーションにある。LINEやFacebookのメッセージを利用した経験があれば、ほとんどの人が使いこなせる。

 コンシューマー向けとビジネス向けの違いは、セキュリティ対策や管理ツールの充実など。個人で利用するチャットと異なり、ビジネスチャットでは事業に関連する機密情報もやりとりされる。そうしたデリケートな情報に対して、管理や統制が取れなければビジネスでは利用できない。そこでビジネスチャットでは、国際標準化機構(ISO)の認証を取得していたり、EU一般データ保護規則(GDPR)などのサポートを進めたりしている。こうした安全性に加えて、ビジネスチャットが急成長している背景には、各種のデータ連携と従業員のエンゲージメントがある。

エンゲージメントを高める効果も

 ビジネスチャットによるデータ連携は、メールの添付ファイルに似たイメージだ。チャットのメッセージに直接ファイルを添付できるサービスもあれば、共有や参照先のリンクを貼るタイプもある。いずれにしても、手早くやりとりできるビジネスチャットで、ファイルの添付やデータの共有が可能になると、コラボレーションの速度も一変する。

 仕事でPCやスマートフォンを使うことが当たり前になってくると、多くの人は大量のデータに埋もれてしまう。中には、自分のPCや社内の共有サーバーに保管されているデータを探すためだけに、多くの時間を浪費してしまう人もいる。OSに備わっている検索機能を使うだけでは、現在進行中のプロジェクトに必要なデータを的確に探し出せないケースも少なくない。

 こうした課題に対して、リアルタイムでコミュニケーションできるビジネスチャットであれば、必要なデータは関係する誰かが的確に提供してくれる。あるいは、自分が誰かに最新のデータを提供するのも容易になる。オンラインでやりとりするコミュニケーションとデータが同時にひも付けされるようになると、データを探す無駄な時間が省略されて、コラボレーションが加速するのだ。

 ビジネスチャット関連サービスの機能や性能には明記されていないが、ミック経済研究所がヒアリングして得られた確かな導入効果のひとつとして、エンゲージメントも挙げられる。エンゲージメントは、ワークエンゲージメントとも呼ばれ、仕事に対するポジティブで充実した心理状態を表す。

 企業にとって理想的な状況とは、一人ひとりの従業員が組織に愛着を抱き、人と会社が一体となって成長し絆を深める関係の構築にある。しかし、その理想を実現できているかどうかを確認することは難しい。例えば、優れたスキルを持つ人でも、その実力を発揮できる部署にいなければ、本人のモチベーションは低下し周囲からの評価も下がる。

 こうした課題を解決するために、以前から人事部門を中心にITソリューションが導入されてきた。

 ただしそうしたソリューションの多くは、人事管理システムとして利用され、組織のために個人の能力を引き出すタレントマネジメントとしては活用されてこなかった。その個人の隠れた能力を引き出すツールとして、コミュニケーションを密にし、従業員のコンディションケアツールとしても活用できるビジネスチャットのエンゲージメント効果が期待されているのだ。

 ビジネスチャットツールは、人材管理の側面における働き方改革提案もけん引しそうだ。

(PC-Webzine2020年2月号掲載記事)

筆者プロフィール:田中亘

東京生まれ。CM制作、PC販売、ソフト開発&サポートを経て独立。クラウドからスマートデバイス、ゲームからエンタープライズ系まで、広範囲に執筆。代表著書:『できる Windows 95』『できる Word』全シリーズ、『できる Word&Excel 2010』など。

この記事は、ICTサプライヤーのためのビジネスチャンス発見マガジン「月刊PC-Webzine」(毎月25日発売/価格480円)からの転載です。

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