「Copilot+ PC」日本のビジネスに新たな体験とエコシステムを届ける

マイクロソフトは生成AIの活用による全く新しい体験を提供するために、コンシューマー市場に対して2024年6月17日に「Copilot+ PC」を発表した。Copilot+ PCとはマイクロソフトが発表した、生成AIの活用を中心とした新しいPCカテゴリーの総称だ。これによりマイクロソフトと世界のAIサービスは転換期を迎えることになる。今回はCopilot+ PCが法人市場にもたらすメリットについて話をする。

生成AIによる知識の活用は
公共から組織、そして個人へ

 Web上に公開されている莫大な情報は、従来は「検索」することで情報を得てきた。それが生成AIを活用することで自然言語による会話(プロンプト)によってWeb上の情報から「知識」が得られるようになった。

 AIというテクノロジーは以前より活用されており、長い時間とコンピューターリソースを消費して大量の情報を学習させて、大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる知識を蓄積してきた。従来はこの大規模な知識を扱えるのは一部の専門家に限られていたが、半導体の性能の大幅な向上と、LLMを利用するためのソフトウェア技術の進化、そしてクラウドの普及という三つの要件が整ったことで、AIを多くの人が身近に、そして簡単に利用できるようになった。

 知識はWeb上だけではなく企業など組織の中にも蓄積されている。企業が持つ知識には現場のノウハウや個人の暗黙知、その企業の沿革と共に蓄積されたさまざまな業務知識などがある。これらはファイルや音声、映像といった、いわゆる非構造化データで保有されているため、業務システムを通じてビジネスに生かすことが難しかった。

 こうした組織の知識も生成AIによって有効に活用できるようになった。企業や組織に蓄積されたデータを横串で活用できるのがMicrosoft Graphと呼ばれる新しいデータ構造であり、企業、グループ、個人のデータを連携させてAIで利用できるMicrosoft Copilotのエンジンの一つである。

 さらに個人が自身のPCで、自身のためにAIを活用することもできる時代がやってきた。ただしPCに保管されている個人のデータをWebや組織の知識のように横断的に活用することはできない。なぜならプライバシーの問題はもちろんのこと、生成AIを活用するには言語モデルや推論エンジンが必要となり、前述のLLMを扱うにはデータセンターのような大規模なコンピューターリソースを必要とするからだ。

 そこでマイクロソフトはエッジ(PC)においてユーザーに全く新しい体験を提供することを目的に、「Copilot+ PC」を発表した。Copilot+ PCとはマイクロソフトが示す生成AIの活用に必要な要件を満たすPCの総称だ。

PCのローカル上での生成AI活用を
40 TOPS以上のNPUの搭載で実現

日本マイクロソフト
業務執行役員
デバイスパートナー
セールス事業本部
事業本部長
佐藤 久

 Copilot+ PCの要件にはWindows 11であることやCopilotを即時起動できる新しいキーの搭載に加えて、ハードウェアスペックも定義されている。具体的には「40 TOPS以上のNPU」と「16GB以上のメモリー」、そして「256GB以上のストレージ」の搭載を最低限のスペックとしている。

 NPUとはAIの処理に特化したプロセッサーであり、Copilot+ PCに先行して市場で認知が進んでいる「AI PC」と呼ばれるPCにも、このNPUが搭載されている。

 AIの処理はGPUやCPUでも行われるが、NPUはAIの処理に特化しているため非常に高速に生成AIを動作させられるメリットがある。さらにNPUはAI処理を効率良く行えるため、消費電力が非常に少ないというメリットもある。そのためNPUを搭載しているPCと、していないPCとではAIを利用する際の性能や、ネットワークの利用量、バッテリーの持続時間に大きな差が生じる。

 Copilot+ PCではNPUの搭載に加えて、「40 TOPS以上」の性能を求めている。これは毎秒40兆回以上の処理を行えることを意味するスペックだ。Copilot+ PCがNPUの性能を求めるのには理由がある。その理由について日本マイクロソフトの業務執行役員でデバイスパートナーセールス事業本部 事業本部長を務める佐藤 久氏 は次のように説明する。

 「40 TOPS以上の性能を持つNPUは、PC上でユーザーのデータを活用し、全く新しい体験を提供するために必要なスペックです。今後はWindows Updateを通じて、Copilot+ PC向けの新しい機能を展開していきます」

 マイクロソフトはWindows OS上で稼働するAIアプリケーションの提供をすでに始めている。例えばMicrosoft Teamsなどでビデオ通話をする際に、リアルタイムの映像にOSレベルでエフェクトをかける「Windows Studio エフェクト」や、ユーザーがPCで見たものを記憶し、自然言語で呼び戻す「Recall」(今後Insider Previewで提供予定)、デバイス上でテキストの入力と手書きの描画を組み合わせて高度な画像生成・編集が可能な「Cocreator」、そしてOS上で44カ国語を英語にリアルタイム翻訳する「ライブ キャプション」(2024年7月現在)などがある。

 中でも興味深いのがRecallだ。Copilot+ PCで行っている全ての作業を一定時間ごとに録画して、それをユーザーの指定した期間中保存しておく。保存された画像をAIが認識し、ユーザーが「先週の会議で共有された○○社のクラウド移行資料」や「iDATEN(韋駄天)で見た法人向けの薄型の紺色のPC」とプロンプトで質問すると、該当する画像が表示されたり、専用ウィンドウのタイムラインから時系列で映像や資料を探したりできる。つまり曖昧な記憶から目的の情報を見つけ出すことができるのだ。もちろんプライバシーを第一に設計されているため、ユーザーの個人情報に配慮されている。

「Cocreator」の画面。ペイントのアプリ上で書いたウィンドウ左のラフ画が、プロンプトの指示に従って修正されてウィンドウ右に表示されている。

パートナーのビジネスにも
新たな体験をもたらす

 Copilot+ PCはパートナーのビジネスにも新しい市場を生み出していく。マイクロソフトはCopilot+ PC向けのAIアプリケーションの開発を支援する「Windows Copilot Runtime」を提供している。Windows Copilot RuntimeにはPC上で実行可能な小規模言語モデル(SLM)である「Phi Silica」や各種ライブラリーなど、Copilot+ PC上で動作するAIアプリケーションの開発に必要なツールが潤沢に用意されている。さらに生成AIの回答精度や速度を向上させる仕組みであるRAG(検索拡張生成)も提供予定など、さまざまな機能が順次公開されていく。

 佐藤氏は「Copilot+ PCの新機能は、今後Windows Updateを通じて継続的に最新化されます。ユーザーにとっては常に最新のAI機能が利用でき、開発者にとっても工数を削減でき、手離れが良いというメリットがあります。Copilot+ PCはこれまでとは全く異なる価値を、お客さまとパートナーさまの双方に提供します」と強調する。

 最後に2025年10月に迫ったWindows 10EOS(サポート終了)への対応に向けて佐藤氏は「Windows 11 Proへの早期移行の促進はもちろんのこと、2025年10月のWindows 10EOS以降のマーケットの新しい需要の創出に向けて日本のビジネスにAIのパワーを届けるために、AI PC、そしてCopilot+ PCの価値を皆さまのお客さまにいち早くお伝えください。今後も法人向けのAI活用やCopilot+ PCの最新情報を多く発信していきますので、ご期待ください」と熱い想いを語った。

ルアーや毛針を使った魚釣りが好きで、週末に娘を誘って山あいの渓流に行き、ヤマメやニジマスなどを釣っています。魚釣りだけではなく、川のほとりでコーヒーを淹れてくつろぐ時間も楽しんでいます。今では娘の方がハマっていて、毛針を自分で作っています。