企業の事業内容や製品をより多くの人々にプロモーションするため活用されるクリエイティブコンテンツ。情報が1枚にまとめられたフライヤーやチラシ、より詳細な情報を発信するパンフレットやリーフレットのほか、より即時性のある情報発信が可能なWebコンテンツなど、企業が発信するコンテンツの種類や量はSNS普及以前と比較して増加している。そうした中、中小企業においても取り入れられてきているのが、クリエイティブコンテンツの内製化だ。

内製化できるコンテンツの見分け方

 企業のブランディングなどを含めたコンサルティングを行っているサインコサインの代表取締役CEO 加来幸樹氏は、企業がコンテンツ制作の内製化を進める背景を次のように語る。「例えばWebコンテンツ一つをとっても、ふた昔前であれば自社PCサイトの構築のみで良かったものが、昨今ではスマートフォンの画面サイズに合わせたサイト表示の調整や、SNSの運用も求められます。SNSと一口にいってもプラットフォームは多岐にわたり、それらそれぞれに対してテキストや静止画、動画などのコンテンツが必要です。もちろん、これら全てのコンテンツの制作を外注化すれば高いクオリティで自社や製品をアピールすることが可能になりますが、中小企業にとってはコストがかかりすぎるという問題もあります。また、それらを制作する外部パートナーが継続的に対応してくれるとも限りません」と指摘する。

 そうしたコンテンツ制作の課題を解決する手段の一つが内製化だ。自社でクリエイティブコンテンツを制作することにより、コンテンツの質を保ちながら、制作にかかるコストを削減できる。 一方で加来氏は「プロのクリエイターに外注した方が良いコンテンツもあります。まずは自社で取り扱うクリエイティブコンテンツ制作を、引き続き外注するのか、内製化するのかといった振り分けを行うと良いでしょう」と語る。

 それでは外部に発注するコンテンツと、社内で製作するコンテンツはどのように見分けたら良いのだろうか。加来氏は「専門性と頻度を基準にすると良いでしょう」と語る。例えば、制作物の専門性が高く発信の頻度が低いものは、引き続き外部に発注した方が良い。専門性があまり高くなく、発信の頻度が高いものは、内製化に適している。企業の体制によって変わるものの、内部のリソースで対応できるコンテンツであるか否かも重要になるという。「もう一つ、『アウトプットが想像できるかどうか』も内製化をするコンテンツの基準になり得ます。例えばSNSで発信するテキスト、静止画、動画などはアウトプットが想像しやすく、内製化に向いています」と加来氏は付け加える。

 内部のリソースを整備する上で、人材の採用や教育はもちろん重要だ。一方で、すでに企業内にクリエイティブチームが存在する企業でも、制作するコンテンツによっては100%を内製化することは難しい場合もある。難易度や適性に応じて、うまく外注と内製化を使い分けることが重要だ。

制作体制をどう整える?

 それでは、内製化するコンテンツが決まった場合、企業ではどのような整備を行うべきだろうか。基本的には企業規模にかかわらず共通としながらも、加来氏は三つのポイントを挙げた。

 一つ目はルール作りだ。例えばフライヤー制作を内製化する場合、誰が作っても一定のクオリティを担保できるチェック項目を作成しておくと良い。「制作に当たってはいきなりデザインに取り組むのではなく、構成を作り、それを確認するプロセスを挟みましょう。その確認段階で、フォントや色味の統一といったクオリティが上がるようなチェック項目に加え、『このキャッチコピーはほかで使われていないか』といったリスク回避のチェック項目を確認することが必要です」と加来氏。

 また、SNSの運用やコンテンツ制作を内製化する場合、発信する内容や表現によっては非難が殺到する「炎上」状態になるリスクもある。企業のブランドイメージを保つためにも、公式SNSアカウントの運用ルールを策定しておくことも重要だ。

 二つ目は、フィードバックを反映していくことだ。発信したコンテンツに対するフィードバックを基に、リアクションが良かったもの、悪かったものを蓄積・分析して共有し、それを前述したルールや制作ガイドラインに反映していくことが重要だ。こうした蓄積によって、新しく人を採用した際も、継続的に高いクオリティを保ったコンテンツの発信が可能になる。

 三つ目は、デザインチーム体制の構築だ。ルール作りやフィードバックとも関連するが、実際に内製したコンテンツをダブルチェック、トリプルチェックする体制作りが必要になる。「デザインが得意な従業員1人だけに内製化を担当させるのは避けるべきです。企業が発信するコンテンツというのはブランドイメージに直結する生命線ですので、内部で作ることがゴールではなく、良いものを作り続けることをゴールに設定しましょう」と加来氏は指摘する。

テクノロジーが制作をサポート

サインコサイン
代表取締役CEO
加来幸樹

 一方で、人員が限られる中小企業では、クリエイティブチームに多くの人員を割り当てるのは難しいだろう。しかし、少人数チームでも運用可能なチェック体制を構築することに加え、テクノロジーの力を借りて制作フローを効率化することで、中小企業でもコンテンツの内製化を実現することは可能だ。例えばChatGPTなどの生成AIを活用すれば、アイデア出しのような作業フローはもちろん、社内で設定したルールを生成AIに学習させ、内製したコンテンツが基準を満たしているかの確認フローを効率化することもできそうだ。

 加来氏は「生成AIをはじめとした技術の進展によって、以前よりはるかに内製化がしやすい時代になりました。内製化はコストメリットだけでなく、企業のブランドイメージの統一や、ブランドアイデンティティの確立にもつながります。コンテンツマーケティングの手法が多様化する一方でその広告コンテンツの差別化が難しくなり、これまで以上にブランディングが重要な時代になる中で、他社との差別化を図るため内製化を行い、企業のブランドを大切にしていくことは大きなメリットになるでしょう。当社では『自分の言葉で語るとき、人はいい声で話す。』という理念を掲げながら、さまざまな企業のブランドアイデンティティの構築に携わっています。自分の言葉で、いい声で話せるということは、本当の意味で本質的で持続的なブランディングが実現できているということで、この考えは内製化にも通じます。このようなブランディングを実現できた企業が一つでも増えると良いなと考えているので、ぜひ内製化という選択肢を持ちながら、外注と使い分けていただきたいですし、難しいときは当社へご相談いただければうれしく思います」と締めくくった。