システムを開発から運用へとつなぐ架け橋

デプロイとは、開発したシステムやソフトウェアを本番環境に配置し、利用者が実際に使える状態にすることを指します。英語の「deploy」には「配備する」「展開する」という意味があり、もともとは軍隊などを戦場に配置することを表します。

デプロイは、ITプロジェクトにおいて開発フェーズと運用フェーズをつなぐ重要な架け橋となる作業であり、新製品やサービスを市場に投入する重要なステップです。

具体的には、ウェブサイトをインターネット上に公開する作業や、スマートフォンアプリをアプリストアで配信すること、AWSのようなクラウドサービスを使ってアプリケーションを稼働させることなどが挙げられます。社内の業務システムをテスト環境から本番環境へ移行して従業員が使えるようにすることや、クラウドサービスで機能追加・バグ修正などの変更を実際のサービス環境に反映させること、IoTデバイスのファームウェアを更新することなども、デプロイの例です。

デプロイの過程では、単にソフトウェアを配置するだけでなく、必要な設定の変更、データベースの移行、セキュリティの確認など、ソフトウェアを利用できるようにするためのさまざまな作業が行われます。デプロイ後にシステムが正常に動作していることを確認する検証作業も重要です。

近年は、継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD)という開発手法が普及し、デプロイの自動化が進んでいます。これにより、開発者は安全に高い頻度でデプロイできるようになり、新機能の迅速な提供やバグの素早い修正が可能になっています。

デプロイとリリース、ローンチ、ビルドの違い

IT開発の世界には「デプロイ」のほかに「リリース」「ローンチ」「ビルド」といった、一見よく似た用語がありますが、それぞれの意味は異なります。

・デプロイ:開発したシステムやソフトウェアを実際に動作する環境に配置し、利用者が使える状態にすること。
・リリース:新しいバージョンのソフトウェアやシステムを公開すること。
・ローンチ:サービスや製品を公式に提供開始すること。
・ビルド:ソースコードをコンピュータが実行できる形式に変換すること。

これらの違いを、ウェブサイトのリニューアルプロジェクトを例にたどってみましょう。

まず、開発者が新しいウェブサイトのプログラムを開発し、デザインや機能が反映された新しいコードをコンピュータが実行可能な形式に変換するのがビルドです。

デプロイ段階では、ビルドが完了したプログラムをテスト環境から本番のウェブサーバーに配置し、必要な設定を行います。

新しいウェブサイトを実際にインターネット上で公開するのが、リリースです。これでユーザーが新しいデザインやコンテンツにアクセスできるようになります。

新しいウェブサイトの公開を公式に発表するのが、ローンチです。プレスリリースを出したり、ソーシャルメディアで告知したりして、新サイトの存在を広く知らせます。

これらの段階は必ずしも厳密に分かれているわけではなく、プロジェクトの規模や性質によって重複したり、順序が前後したりすることもあります。小規模なウェブサイト更新の場合など、デプロイとリリースがほぼ同時に行われることもあります。

さまざまなデプロイ手法のメリット・デメリット

デプロイのプロセスにはさまざまな手法があり、システムの規模、要求される可用性、リスク許容度などに応じて選択されます。主なデプロイの種類とそれぞれの特徴、メリット・デメリットを紹介します。

・ブルーグリーンデプロイメント
現在稼働中の環境(ブルー環境)と全く同じ構成の新環境(グリーン環境)を用意し、瞬時に切り替えるデプロイ方法です。切り替えが即座に行えるため、ダウンタイムを最小限に抑えられます。また問題が発生した場合に、すぐにブルーに戻すことで簡単にロールバックできます。

デメリットとしては、2つの環境を維持する必要があるため、コストが高くなることが挙げられます。データベースの変更が絡む場合、環境間の整合性を保つのが難しくなることもあります。

・ローリングデプロイメント
システムの一部ずつを段階的に更新していく方法です。例えば、10台のサーバーがある場合、1台ずつ順番に新バージョンにアップデートしていきます。一度にすべてを更新しないため、問題が発生した際の影響を局所化できることや、追加インフラが不要でリソース効率がよい点がメリットです。

一方、新旧バージョンが一時的に混在するため、互換性が求められる場合に対応が難しい場合があります。また全体のデプロイ完了までに時間がかかり、問題が起きた場合のロールバックプロセスは複雑になります。

・カナリアデプロイメント
新バージョンを一部のユーザーまたはサーバーにのみ適用し、問題がないことを確認してから全体に展開する方法です。問題がないと判断された場合にのみ、段階的にすべてのユーザーに展開します。実環境での段階的なテストが可能な点が長所で、新しいバージョンの不具合を最小限のユーザーに限定でき、リスクを軽減しながら早期にフィードバックを得られます。トラフィックの制御が容易な点もメリットです。

ただ、複数バージョンの同時運用が必要で、設定や監視が複雑になります。また完全な展開までには時間がかかり、ユーザー体験に不均一性が生じる場合もあります。

ほかに、ブルーグリーンと同様に2つの環境を用意してデプロイし、作業後すぐにブルー環境を消去する「イミュータブルデプロイメント」、1つのサーバー内で旧システム・新システムの2つの仮想環境を用意してデプロイする「シンボリックデプロイメント」といった手法も挙げられます。

これらのデプロイ方法は、状況に応じて組み合わせて使用されることもあります。例えば、カナリアデプロイメントとブルーグリーンデプロイメントを組み合わせ、新バージョンを一部のユーザーにテストした後、全体を一斉に切り替えるということも可能です。

デプロイプロセス選択の際には、次のようなポイントを考慮すべきです。

まず、システムの重要度。クリティカルなシステムほど、リスクの低いブルーグリーンやカナリアデプロイメントが好まれます。また、予算に制約がある場合は、追加リソースの少ないローリングデプロイメントが適しています。トラフィックの変動が大きい場合は、カナリアデプロイメントで慎重にスケールアップすることが有効。頻繁なリリースが必要な場合は、素早く実行できるブルーグリーンデプロイメントが適しています。

アプリケーションの特性による相性もあります。システムが以前の処理や通信の結果を保持せず、毎回の入力に対して決まった結果を返す「ステートレス」なアプリケーションは、ブルーグリーンデプロイメントとの相性がよいといわれます。一方、システム内部に現在の状態を示すデータが保持され、入力の際にそれが反映される「ステートフル」なアプリケーションでは、ローリングデプロイメントが適しているとされます。

生産性向上やシステムの安定をもたらす自動デプロイ

デプロイの方法には大きく分けて「手動デプロイ」と「自動デプロイ」があります。

手動デプロイは、開発者や運用担当者が直接サーバーにアクセスし、必要なファイルを転送したり、設定を変更したりする方法です。手動デプロイは、細かな制御ができるため、特殊な要件がある場合や環境が複雑な場合に適していますが、作業が煩雑で時間がかかるというデメリットがあります。また人的ミスが発生しやすく、その結果、システムに影響を及ぼす可能性があります。

自動デプロイは、あらかじめ設定した手順に従って、ソフトウェアのデプロイを自動的に実行する方法で、前述した継続的インテグレーション/継続的デリバリー(CI/CD)手法で実現されることが多いです。

現代のソフトウェア開発においては、自動デプロイが主流となっています。手順が自動化されるため、設定忘れやファイルの転送ミスといった人為的ミスが削減でき、人手を介さずに迅速にデプロイが行えるため、開発から本番環境への導入スピードが向上。リリースの頻度を高めて市場での競争力を維持できます。また、毎回同じ手順でデプロイが行われるため、環境間の差異が生じにくいことや、デプロイの履歴や内容が自動的に記録されるため、問題発生時の原因特定が容易なこと、多数のサーバーへの同時デプロイや複雑な環境設定が効率的に行え、スケーラビリティが向上する点もメリットです。

自動デプロイを実現する上で重要な役割を果たすのが、CI/CDツールです。これらのツールは、コードの変更を検知し、自動的にビルド、テスト、デプロイを行う一連のプロセスを管理します。

代表的なツールは以下のとおりです。

・Jenkins:オープンソースの自動化サーバー。豊富なプラグインと柔軟なカスタマイズ性が特徴。
・GitLab CI/CD:GitLabに統合されたCI/CDツール。バージョン管理から自動デプロイまでシームレスに行える。
・CircleCI:クラウドベースのCI/CDプラットフォーム。設定が簡単で、特にGitHub連携が強力。
・Travis CI:オープンソースプロジェクト向けに無料で使えるCI/CDサービス。シンプルな設定ファイルで利用可能。
・AWS CodeDeploy:AWSのマネージドサービスとしてのデプロイツール。AWSの他のサービスとの連携が容易。

大規模な開発チームや頻繁にコードが変更されるプロジェクトにおいては、自動デプロイが効果を発揮します。自動デプロイを適切に実施することで、開発チームの生産性向上、リリースサイクルの短縮、システムの安定性向上など、ビジネスに大きな価値をもたらすことができます。

今後のITトレンドで重要性を増すデプロイの役割

デプロイは迅速なサービス提供を可能にし、顧客満足度を向上させるために重要なプロセスです。スムーズなデプロイにより、製品やサービスを早く市場に投入することで、競争力を強化できます。また、継続的なアップデートでユーザー体験を改善し、長期的な顧客関係の構築にも貢献します。

一方で、デプロイが失敗すると、サービスの停止やデータ損失といった重大なリスクが発生し、結果として顧客の離反を招く可能性があります。特にデジタルサービスにおいては、短期間の停止でもビジネスへの影響が大きく、信頼を損なう恐れがあります。

今後のITトレンドにおいて、デプロイの役割はますます重要になると考えられます。クラウドを前提としたクラウドネイティブ技術や、複数の小さなサービスを組み合わせて連係させるマイクロサービスアーキテクチャの普及に伴い、より頻繁で複雑なデプロイが求められるようになります。また、AIやIoTの発展により、エッジコンピューティング環境へのデプロイなど、新たな課題も生まれています。これらのトレンドに対応するためには、より高度で柔軟なデプロイ戦略が必要となっていくことでしょう。