先進的な「校務DX」推進を支えるMicrosoft 365の導入
取り残された「校務」のDXに挑むセキュリティと利便性を両立させる「福井県モデル」

2019年に開始されたGIGAスクール構想により、児童生徒向けのタブレット端末の配布や高速ネットワークの整備は大きな進展を見せた。その一方で「職員室に行かなければ校務ができない」「ネットワークごとに端末を使い分ける必要がある」など、校務の効率化を阻む環境を問題視する声は大きい。いかに教職員の働き方を変えて生産性を高め、プロセスや組織全体の変革に結び付けるべきか。2024年4月、独自のアプローチで「校務DX」への取り組みを本格化させた福井県教育庁の教育政策課 末永宏樹氏に、プロジェクトを担当するアルファテック・ソリューションズ(以下、ATS)の小林華子氏が話を伺った。

(右)福井県教育庁教育政策課 学校施設整備グループ 企画主査 末永 宏樹
2023年4月、福井県入庁。学校施設整備グループが管轄する県立学校37校の校務系ネットワーク、学習系ネットワーク、タブレット系ネットワークの整備を担う。2024年6月、校務系システム/ネットワークの刷新とゼロトラスト化に着手した。
(左)アルファテック・ソリューションズ 社会公共事業部 自治体文教技術部 技術グループ テクニカルセールスアドバイザー 小林 華子
アルファテック・ソリューションズ 社会公共事業部にて、自治体・文教セグメントにおいてテクニカル面でお客さまに寄り添った提案活動を実施。近年はMicrosoft 365導入における総合的な技術支援、ユーザー教育・トレーニングなどの定着化活動に力を注いでいる。

フルクラウド&ゼロトラストで
校務系システムを刷新

小林氏(以下、敬称略)●福井県では全国の自治体に先駆けて「校務DX」への取り組みに着手されました。その目的をお聞かせください。

末永氏(以下、敬称略)●2019年から始まったGIGAスクール構想により、福井県でも児童生徒1人1台のタブレット端末の配布と高速ネットワークの整備が進みました。コロナ禍の深刻化が学校教育の現場におけるデジタル変革(DX)を後押ししたことは間違いないでしょう。

 一方で教職員の仕事、すなわち校務のDXが取り残されてしまった感は否めません。いわゆる校務系システムは整備されていたものの、従来型のネットワーク分離によるセキュリティ対策がさまざまな制約の要因となっていました。

 職員室に行かなければ校務ができず、校務系と学習系で端末を使い分けなければならないような環境では、デジタル化を進めても教職員の生産性を高めるのは困難です。

 そこで2024年4月に公告した「県立学校等情報ネットワーク推進事業」を通じて校務DXを実現し、教職員が直面している課題を一掃しようと考えました。基本方針は「フルクラウド&ゼロトラスト」です。その実現に向けた環境整備として、クラウドによる校務系システムの刷新とゼロトラストセキュリティの実装に取り組んでいます。

 新しい校務系システムには、文部科学省の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に準拠したパブリッククラウドサービスを採用しました。セキュリティと利便性をバランスよく両立させ、教職員の働き方改革と生産性向上に具体的に貢献することを目指しています。

小林●校務DXは教職員の働き方改革そのものであると考えたのですね。

末永●その通りです。民間企業で当たり前になっているリモートワークや在宅勤務を学校にも取り入れよう、そのための環境を学校に整備しようという考えです。福井県の新しい校務系システムはオンプレミスとネットワーク分離から脱却し、クラウド環境とアクセス制御によるセキュリティ対策に大きく転換します。

シンプル化を徹底的に追求した結果
Microsoft 365を選定

福井県教育庁教育政策課
末永
単にシステム構築ベンダーを決めたのではなく、6年の契約期間における「パートナーを選んだ」という気持ちが強くあります

小林●校務系の基盤システムにMicrosoft 365を採用された理由を教えてください。

末永●新システムは校務支援アプリケーション、Microsoft 365による校務系サービス、ゼロトラストを実現するためのセキュリティコンポーネント群で構成されています。

 既存の校務系システムが機能拡張の過程で複雑化してしまった反省から、可能な限りシンプルなシステムを構築しよう、シンプルさをずっと維持できるシステムにしようという考えがまずありました。

 校務系サービスにはメール、ファイル共有、グループウェア、チャット、Web会議といった機能が必須であり、OfficeアプリケーションまでカバーできるMicrosoft 365に最も合理性があったというのが選定の決め手です。最終的にはMicrosoft 365以外のクラウドサービスにも、福井県のセキュリティポリシーを適用することを考慮してMicrosoft 365 Education A5を採用しました。

小林●Microsoft 365の機能は非常に充実しており、進化のスピードも速いですね。PowerAppsによるローコード開発や、CopilotのようなAIアシスタント機能も教職員の方々の工夫によってさまざまなメリットを提供できるはずです。

末永●定型的な校務にはPower Automateによる自動化を、非定型の校務には生成AIを活用できるものと考えています。将来的には生成AI機能を利用して、教材や試験問題の「たたき台」を作成できないだろうかという期待もあります。

Microsoft 365の利活用には
パートナー選びが大切

ATS 小林
ユーザー教育・トレーニングのコンテンツにも、Microsoft 365におけるATSの多くの実績と独自の知見が注ぎ込まれています

小林●当社はMicrosoft 365導入後に、いかにスムーズに新環境を使い始められるか、いかに校務に定着させて生産性向上に寄与するかが非常に重要だと考えています。

末永●その通りですね。ですから県立学校等情報ネットワーク推進事業では、単にシステム構築ベンダーを決めたのではなく、6年の契約期間における「パートナーを選んだ」という気持ちが強くあります。

 私たちは校務系システムの設計、構築、移行の範囲にとどまらず、「業務効率化とセキュリティの両面を支える総合運用管理」を要件として提示しました。そこにはMicrosoft 365のような進化し続けるサービスを使っていく上で欠かせない、継続的なユーザー教育・トレーニングが含まれています。

 福井県はNTT西日本をパートナーとして選定しました。同社の提案は要求仕様を満たしながら、その枠組みの中で「どのように運用していくべきか」「どのように教職員に使いこなしてもらうか」に関して具体的な優れたプランが示されていました。新しい校務系システムを作るだけではなく、新システムによって校務DXを推進して成果を出すことが私たちの目標であり、まさにその意図をくんだ提案だったと思います。

小林●例えばSharePointを使って作成したポータルサイトの場合、画面設計やデザインで使い勝手が大きく変わります。教職員の方々の日々の仕事にしっかりと定着させるには、最初の設計はもちろん継続的な改善も重要です。

末永●校務の起点となるポータルサイトにおいて教職員のユーザー体験をより良いものにしていくために、UI/UXには徹底的にこだわっていきたいと考えています。

 ポータルサイトにはさまざまな情報が集約され、教育庁と学校の情報担当者間でのリアルタイムの情報共有も担います。そのため設計は複雑になりがちです。

 NTT西日本は私たちが実現したいポータルサイトのイメージを解像度高く提案してくれました。ポータルサイトに関しては具体的な要件を示したわけではありませんから、断片的な情報やコメントをつなぎ合わせて理想像を描いてくれたのでしょう。私たちの期待を大きく超えたものでした。

福井県の校務DXを支える
「福井県モデル」の実現に向けて

小林●ATSはNTT西日本チームに参画しており、教職員向けポータルサイト(SharePoint)、校務系メール/スケジュール(Exchange/Outlook)、オンライン会議/チャット(Teams)の構築・移行・運用を主に担当しています。

 福井県ならではの要件として、以前の校務支援システムに含まれていた教職員の在校時間管理、服務管理、電子申請などの機能をPower Platformによるローコード開発で実装する計画があります。導入後はポータルサイトの継続的な改善やMicrosoft 365関連のユーザー教育・トレーニングもサポートする予定です。

末永●何度かのディスカッションを経て、Microsoft 365と関連領域におけるATSの豊富な経験と技術力の高さを窺い知れました。実際にさまざまなアイデアやノウハウが提案内容に具体的に反映されていたことで、私たちの期待は確信に変わりました。NTT西日本チームの一員として活躍してもらえることを期待しています。

小林●ありがとうございます。ユーザー教育・トレーニングのコンテンツにも、ATSの多くの実績と独自の知見が注ぎ込まれています。Microsoft 365の操作に関わる基礎研修から、自動化や生成AIの校務への活用といった応用研修まで幅広く対応します。

 実施ごとにフィードバックを受けながらコンテンツを見直し、教職員の方々が着実にステップアップできるようなプログラムを提案していく考えです。

末永●新しい校務系システムは教職員の業務効率化とセキュリティ対策を両立させて、教職員の働き方改革と生産性向上に貢献することを目指して構築が進められています。持ち帰った端末で自宅から校務システムを利用する、オンライン会議に参加する、チャットで即座に連絡するなど、場所を選ばず安全に校務が遂行できる環境がいよいよ整います。

 文部科学省のガイドラインに準拠しながらMicrosoft 365 Education A5とセキュリティ製品を組み合わせてフルクラウド&ゼロトラストを実現する「福井県モデル」は、これから校務DXに取り組まれる自治体や教育庁の方々にとっても非常に参考になるものと考えています。

小林●校務DXの実現に向けた福井県の新しい校務系システムの実装はこれから始まることとなりますが、全力で取り組んでまいります。本日はありがとうございました。