参加者も添乗員も全員ぬいぐるみ持ち主に代わって旅行に連れ出す

前編では、ぬいぐるみを外に連れ出していろいろな場所で写真を撮る「ぬい撮り」をビジネスにしている、ぬいぐるみ専門旅行社「おもちトラベル」を運営するうきうきわくわくの代表、片山きりん氏に、現在のビジネスにたどり着くまでの話を伺った。後編では現在のビジネスを始めたきっかけから現在の状況、そして今後の展望を伺う。

海外オークションサイトでの物販
軌道に乗ったが続かなかった

角氏(以下、敬称略)●海外のオークションサイトで日本の製品を販売するビジネスはうまくいきましたか。

片山氏(以下、敬称略)●面白いくらいにうまくいったんです。

●でもやめてしまったのですよね。なぜうまくいっている商売をやめようと考えたのですか。

片山●物販が軌道に乗り、海外の人たちに日本の製品や文化を教えられてお金ももうかる、なんて素敵なビジネスなんでしょう、と感動していることをSNSに投稿したら、私もやりたいという生徒さんまで集まってきて、これは調子がいいぞと喜びました。

 しかし、その時気付いてしまったのです。どんなに素敵な商品を紹介して販売しても、それは自分が開発したものではなく、私を通してものが移動しているだけなんだと。そう思い始めると物販が単なる作業にしか思えなくなり、面白くなくなってしまったのです。

●でも片山さんが紹介した商品が素敵だということに加えて、商品を説明する文章に惹きつけられる人もたくさんいて、それはそれで意義があるように思えます。

片山●オークションサイトには私が売る商品と似たような商品がたくさん出品されていて、私の文章を読んで商品に魅力を感じて買ってくれるのではなく、価格を見てほかよりも安ければ買ってくれるということが分かり、ブシュゥー(気が抜ける)となってしまって。

 儲かっていたのですが、楽しくなくなった途端に、転がり落ちるように商売もだめになってしまって。気持ちが途切れると、その瞬間に全てが終わるみたいに売り上げも落ちていきました。

●海外のオークションサイトでの物販をやめて、その次はどんなビジネスを始めたのですか。

片山●これまで仕事で失敗ばかりしてきたので、次は何をすればいいのか分からなくなってしまい、とりあえず自宅のそばにある倉庫で働くことにしました。

角⃝え、倉庫ですか。倉庫でどのような仕事をしたのですか。

片山●私が勤めたのは食品の倉庫で、紙に書かれたリストに従って、棚から商品を取り出して運ぶという仕事でした。ペットボトルの飲料水が入った箱だと15キロほどの重さがあって、しかも古い倉庫なので冷暖房もなく、夏は本当に大変でした。

 そんな毎日を送っていると自分が何をしたいのかさらに分からなくなり、自分の棚卸しをしようと考えました。そして私は本当は何をしたいのか自問自答しているうちに、何年も前に”持ち主から預かったぬいぐるみを旅行に連れていく”というサービスがテレビで紹介されていて、それを観て「私もやりたい」と強く思ったことを、ふと思い出しました。

●ぬいぐるみをいろんなシチュエーションで撮影して楽しむ、いわゆる「ぬい撮り」ですね。

(左)うきうきわくわく 代表 片山きりん
ぬいぐるみ専門旅行社「おもちトラベル」のツアーの様子はインスタグラムのアカウント(@omochi_travel)で公開されている。
(右)フィラメント 代表取締役CEO 角 勝

ぬい撮り代行サービスで起業
収益と集客の伸ばし方

片山●ぬい撮りは自分のぬいぐるみをいろいろな場所に連れていって撮影して、その写真をSNS に投稿するのが一般的な楽しみ方です。ただ、私のSNSフォロワーの方にヒアリングしたところ、ぬい撮りはしてみたいけれどぬいぐるみを外に持ち出すのが恥ずかしい、ぬい撮りをするために出かける時間がないなど、さまざまな理由で家でこっそり楽しんでいるだけという人が多いことを知りました。

 またスポーツ観戦や食べ歩きなどの趣味とは違い、ぬい撮りをする人たちは横のつながりがあまりなく、特に男性は一人で孤独にぬい撮りをしている方が多いと感じました。そこでぬいぐるみ専門のパッケージツアーを組むことにしました。

 基本的には持ち主から預かったぬいぐるみを旅行に連れて行き、行く先々で思い出の写真を撮り、お土産と共に持ち主に返却するサービスですが、それにプラスして持ち主だけのチャットグループを作り、そこで新しい交流を生み出す工夫をしています。

 ぬいぐるみを絡めたサービスの需要はけっこうあって、例えばお酒を飲めるバーがあります。ぬいぐるみ歓迎と公言しているバーならば、気兼ねなくぬいぐるみと一緒に来てビールを飲めて、その場にいるぬいぐるみ好き同士で会話も弾むということで人気を得ています。

 それからぬいぐるみも一緒に鍼灸治療できる鍼灸院というのもあります。もともとの専門性や自分の得意なことに「ぬいぐるみ×持ち主」というエッセンスを足すことで、ぬいぐるみ好きな人が新しい顧客となっていく構図があると思っています。

 私の場合は以前の仕事の冊子制作の経験から、見てくれた人に旅行雑誌を見ている気分を味わってもらいたくて、「ぬいぐるみ×持ち主×旅」である”ぬいぐるみ専門旅行社 おもちトラベル”を運営しています。

●「ぬいぐるみ×何か」というビジネスは日本だけではなく、海外でも通用しそうですね。

片山●私も同じことを考えました。海外にもぬいぐるみが好きな人はたくさんいますし、ぬい撮りもありますから、海外にも展開したら何かすごいことができるかもしれないと思い、今年1月にドバイの展示会に出展しました。

 ですが反応があまり良くなくて、「旅行は(ぬいぐるみではなく)自分が行った方が良い」「ぬいぐるみを旅行させて自分は行かないで、それに何のメリットがあるのか」といった意見があって、それにうまく反論できず悔しい思いをして帰国しました。

 でも誰も分からないということは、これから何か変わる可能性があるということです。今はぬいぐるみを預かっていろいろなところへ連れていくという小さなビジネスですが、世界に出ていけるようにしていきたいと希望を持っています。

●おもちトラベルのビジネスを伸ばしていくポイントとしては、コストを抑えることと料金にバリエーションを持たせることですね。まずぬいぐるみを連れて旅行に出かけると旅費がかかります。一方で依頼者はぬいぐるみに人間と同じ旅費がかかるとは思わないですよね。依頼者は撮影の技術料や、もろもろの手数料が料金に含まれていると考えると思います。ですから参加料に旅費の負担分を課金すると違和感を持つことになります。

 そこで観光地や地方の旅館に協力パートナーになってもらい、ツアーの依頼者に旅館のパンフレットや割引券を送付するなど紹介することを条件に、ぬいぐるみを「映える」シチュエーションで撮影してもらいます。ぬいぐるみは宅配便で送って、撮影が済んだら着払いで返送してもらいます。カメラは旅館の人のスマートフォンでもいいですし、コンパクトカメラをぬいぐるみに同梱して、それを使ってもらう方法もあります。

 旅館側も自社を宣伝したいでしょうからアピールポイントとなる場所や料理など、いろいろと工夫して写真を撮ってくれると思います。写真を撮るという手間はかかりますが、無料で宣伝できますし、ぬい撮りしている風景をその旅館のSNSに公開してもらっても良いでしょう。旅館も面白いことをしているというアピールができ、おもちトラベルへの集客にもなります。まずは観光地や地方の旅館に協力パートナーになってもらうための活動をしてみてはいかがでしょうか。