サーバー市場の動向

座談会によって、2025年の各サーバーベンダーの取り組みや展望を知ることができた。では、2025年に向けてITインフラのトレンドや国内サーバー市場はどのように変化していくのだろうか。日本仮想化技術とMM総研に話を伺った。

日本仮想化技術

オンプレミスでのAI基盤構築が狙いどころ
活用促進にはユースケースの提示が必要

サーバーベンダー座談会では2025年のサーバービジネスを活気づけるキーワードの一つに「AI」が挙げられた。2025年の国内企業におけるITインフラのトレンドについて、仮想化技術をはじめITインフラの最新テクノロジーをいち早く手がけてきた日本仮想化技術の代表取締役社長 兼 CEOを務める宮原 徹氏に話を伺った。

全てをクラウドに移行するのではなく
ハイブリッドクラウドのトレンドが続く

日本仮想化技術
代表取締役社長 兼 CEO
宮原 徹

 宮原氏が代表を務める日本仮想化技術はその社名の通り、仮想化技術の普及を目指して設立された。オラクルでPCサーバー事業などに携わった後、2001年にびぎねっとを設立してネットワークエンジニアを育成する事業を展開した。

 その際に知識を教えるだけでは実践的なスキルを身に付けてもらうことができないと考え、エンジニアを目指す人材、あるいはスキルアップを目指すエンジニアにテクノロジーの活用を実践してもらう方法を検討していた。こう考えていた2005年ごろに仮想化技術という新しいテクノロジーが世に出てきた。

 仮想化技術はいずれ広く普及すると確信した宮原氏は、日本ではまだ活用されていなかった仮想化技術の普及を目指して2006年に日本仮想化技術を設立し、仮想化技術の研究や開発、各種調査などに取り組み始めた。そして現在、仮想化技術だけではなくコンテナなどの最新テクノロジーにいち早く着目して、技術開発や企業のITインフラの構築やシステム開発に携わっている。

 2025年のITインフラのトレンドについて宮原氏は「2024年はオンプレ回帰というキーワードに関心が高まりました。ここ数年はクラウドへの移行に取り組む企業が増えていましたが、一方で多額の投資で開発したオンプレミスのシステムをクラウドに移行するのに莫大なコストがかかるという課題や、クラウドベンダーにシステムを囲い込まれることへの危惧などから、企業が保有している全てのITインフラおよびシステムをクラウドに移行することは現実的ではないという論調となりました」と指摘する。

 そして「適材適所でオンプレミスも残すというハイブリッドクラウドがITインフラの中心的な考え方となり、2025年もこのトレンドは続くとみられます」と説明する。

AIがPoCから本格的な業務活用へと進展
オンプレミスでのAI基盤構築に商機あり

 オンプレミスで運用されるのはクラウドに移行することが難しい既存の業務システムやデータベースなどに加えて、新たな需要が生まれているという。宮原氏は「AI基盤を構築したいという要望が増えています」と指摘する。

 その背景としてChatGPTやマイクロソフトのCopilotなどの生成AIを業務で活用するPoCを実施した企業が、PoCを通じてAI活用の方向性や考え方などを習得し、活用をもう一歩進めて業務の効率化や社員の生産性向上を進めたいというニーズが挙げられる。

 宮原氏は「PoCでは外部サービスを利用して生成AIの活用効果を実証しましたが、生成AIの活用を進展させていく中で、社内に大量に蓄積されている文書や、さらにはメールやビジネスチャットなどのメッセージの内容を学習させて業務に活用したいという要望が出てきています。こうした要望をシステム化する際に、PoCと同様にパブリッククラウド上で提供されている生成AIサービスを利用するのかという議論になります」と説明する。

 その議論の結論の多くは説明するまでもなく、社内の個人情報や機密情報を外部に出すことはできないとなる。その結果、オンプレミスでAI基盤を構築したいという需要の増加につながっているというわけだ。

 宮原氏は「大企業であってもAI基盤は数台のサーバーで構成でき、スモールスタートしやすいため、仮想化とAIを組み合わせたビジネスチャンスがあると考えられます」と強調する。ただしAIビジネスが本格化するのはこれからだ。宮原氏は「日本の企業は事例が好きなので、ユースケースを示すことが需要喚起に有効です。しかし現在はチャットの活用事例がほとんどで、ワークフローや業務システムに組み込んだオンプレミスでのAI活用の事例はほとんど見かけません。今後、用途別の学習済みモデルが多く提供されるようになれば、企業内でのAI活用が加速するのではないでしょうか」とアドバイスする。

MM総研

業種や用途に特化した活用進む
オンプレミスサーバーの現在地

ICT市場調査会社のMM総研は、PCサーバー市場を継続的に調査している。2023年度のサーバー出荷台数は5年連続での減少が見込まれる一方で、出荷金額は2年連続での増加となっていた。これらの動向が2024年度、どのように変化したのだろうか。最新の調査データを基に、PCサーバー市場のこれからをMM総研の取締役 研究部長を務める中村成希氏に解説してもらった。

医療現場や製造現場で
用途特化のサーバーが普及

MM総研
取締役 研究部長
中村成希

「2024年6月に発表した『2023年度国内 PCサーバー出荷概況』では、2023年度の出荷金額は前年度比7.5%増となる2,838億円と2年連続の増加を示した半面、出荷台数は同3.9%減の34万2,391台となり、5年連続で減少すると発表しました。また2024年度の出荷金額は前年度比6.5%増の3,023億円を予測しました。出荷台数はオンプレミスサーバーの買い換え需要に伴って台数の減少幅が縮小すると見込み、33万9,260台の予測を立てました。現時点から2024年度の市場を振り返ると、上期は前述した想定よりも出荷台数が伸び悩みました。下期はファイルサーバーの入れ替えが起こっているため、トータルで見ると2023年度の出荷金額を上回る想定ですが、市場成長は踊り場に来ているように感じます」と語るのはMM総研の中村成希氏。中村氏がそう指摘する背景には、クライアントサーバーを導入する目的の変化がある。従来であれば企業が導入するサーバーは、前述したファイルサーバーをはじめ、アプリケーションサーバーや会計サーバーといった目的に応じてPCからアクセスする基盤として導入されるケースが主だった。しかしクラウドサービスが普及したことに伴い、そうしたオフィス業務のオンプレミスサーバーの需要は、クラウドにシフトしてきているのだ。

「逆に言うと、今使われているサーバーの活用方法はこれまでと変わってきています。例えば医療現場で活用されている電子カルテやCT画像といった大容量のデータを保存したり、院内でやりとりしたりする基盤として、オンプレミスサーバーが活用されています。また昨今は製造業などの生産現場にネットワークカメラが数多く導入されています。これは生産ラインを写真や動画で撮影し、そこに不良品が混じっていないか、危険物が混入していないかといった分析を行い、不良品などの異常を検知したらラインをストップします。こういった検知の仕組みはクラウドでも行えますが、逐次クラウドに通信をしていると遅延が発生し、生産ラインのスピードが落ちてしまいます。そのためサーバーとカメラを組み合わせて不良品検知を行うような仕組みに需要が増えています。サーバーの需要が、オフィスの業務一般を支える汎用的な用途から、業種に特化した用途にシフトしています」と中村氏は指摘する。これらの業種特化型のサーバーは前述したように大容量のデータを取り扱うケースが多い。そのため、高速なトランザクションに対応するハードウェアを選ぶ傾向がある。こうした背景から、サーバーの出荷金額は今後も継続して上昇していくと中村氏はみているという。

低スペックサーバーで使える
Azure Localに注目

 もう一つの市場トレンドとして、仮想化ソフトがある。VMWareがBroadcomに買収されたことでライセンス体系が大きく変更されたことは記憶に新しいが、それに伴って企業も仮想化ソフトを見直す動きが出てきている。「中長期的には、プライベート仮想化基盤で動かしている販売管理やCRMの仕組みをリーズナブルなSaaSに移行していく動きが増えるでしょう」と中村氏は指摘する。

 こうしたクラウドシフトの動きはVDIでも起こると中村氏は予想している。Windows 10のEOSが2025年10月14日に迫っているため、ちょうどPCのリプレースタイミングに合わせて、VDIを見直す動きが加速する。「VDIを使っている企業の3分の1はVDIの利用をやめると思います。また残りの3分の1は継続して使い続けるでしょう。最後の3分の1はというと、クラウド型VDIに移行するでしょう。例えばAWSが提供する『Amazon WorkSpaces ファミリー』や、マイクロソフトが提供する『Azure Virtual Desktop』などです。そもそも買い切り型のメリットは長期的に使ってトータルコストを下げることもありましたが、それが通用しないことが分かった今、サブスクリプション型のSaaSでも良い、と判断する企業も増えると思います」と中村氏。

 オンプレミスサーバーの今後の需要として、中村氏は「Azure Local」の可能性を指摘した。これまでマイクロソフトは、Microsoft Azureの機能をオンプレミスなどのエッジ環境に拡張する「Azure Stack HCI」を提供してきた。Azure Stack HCIはAzure Localの一部として吸収された一方で、Azure LocalはこれまでのAzure Stack HCIよりも低スペックなサーバーで利用することが可能になるものだ。

 中村氏は「Azure Local用に作成されたUSBをサーバーに差し込むだけで、サーバーとAzureの接続が行えるなど、その手軽さが魅力の一つです。例えば前述したような医療現場での活用のほか、自治体でも需要があるでしょう。ガバメントクラウドの活用も広がりつつありますが、いったんAzure Localにデータを保存し、自治体のセキュリティ要件が変わったタイミングでクラウド(Azure)に移行するような活用も可能になるでしょう」と指摘した。Azure Localの普及に伴って、サーバーの出荷台数は増える可能性があるが、性能や価格は低いため出荷金額自体は大きく変わらないと見込まれている。

デジタルガバメントに向けて
販売店の提案が重要に

 2024年11月1日(米国時間)に正式リリースされた新しいサーバーOS「Windows Server 2025」は市場にどのような変化を起こすのか。中村氏は「これまでのサーバーは、OSの切り替わりに合わせてハードウェアのリプレースを進めてきました。もちろんセキュリティの強化などうれしい新機能は数多くあると思いますが、こうしたOSサイクルに合わせたサーバーのリプレースは鈍化すると思います」と指摘した。

 今後のサーバー市場について中村氏は「今注目しているのは自治体のデジタルガバメントに向けた取り組みです。現在地域の販売店含め、標準化に取り組んでいると思います。基本的にはクラウドベースでの運用になっていく一方で、オンプレミスに残しておかなければいけないデータもあるでしょう。そうしたクラウドとオンプレミスを組み合わせた運用をスマートに実現できるのか、という点が悩みどころであり、販売店の提案力が生きるポイントになります。また、現在の自治体のシステムは、ネットワーク分離が行われているのが基本ですが、ここも緩和が進みつつあります。一方で、前述したフルクラウド化が難しいのと同様でフルインターネットアクセスの環境にしていくことはできません。自治体がシステムを更改していくタイミングで、サーバーやネットワークを含めたインフラをどう変えていくのかといった提案が求められるでしょう」と語った。