堅調に伸びる企業向けネットワーク機器市場
オンライン会議の増加で無線LAN機器の需要高まる
IT専門調査会社のIDC Japanは、国内企業向けネットワーク機器に関する市場調査を行っている。企業向けイーサネットスイッチ、企業向けルーター、企業向け無線LAN機器の3カテゴリーで構成される同市場の動向について、IDC Japan Infrastructure&Devices シニアリサーチディレクター 草野賢一氏に話を聞いた。
無線LAN機器は緩やかな成長基調
IDC Japanが2024年7月2日に発表した「国内企業向けネットワーク機器市場予測」によると、2023年の国内企業向けネットワーク機器市場は、支出額ベースで3,633億2,300万円に達したという。2022年までの高い需要や過剰在庫に対する懸念があったにかかわらず、市場は前年比成長率9.2%で成長した。
こうした市場成長の背景には、企業向け無線LAN機器の需要が高まっていることが挙げられる。実際製品分野別で見ると、国内企業向け無線LAN機器市場は、出荷台数が前年を下回った一方で、円安の進行や価格改定に加えて、製品単価が比較的高いWi-Fi 6E製品の広がりによって出荷金額ではプラス成長を保ったという。
草野氏は「企業向けネットワーク機器市場の全体を見ると、2023年ごろは半導体不足によって供給が不安定になりがちでしたが、2024年に入ってこうした半導体不足が解消され、比較的安定した供給が可能になりました。製品分野別に見ると無線LAN機器の需要が高まっています。背景には、オフィス内のネットワーク環境を見直す動きがあります」と語る。
企業内の無線LANを見直す機運が高まっている理由の一つに、コロナ禍後の働き方が挙げられた。コロナ禍において、多くの企業が感染症対策の一環で従業員の在宅勤務を進めた。その際、会議のスタイルは対面からオンラインにシフトした。オフィスへの出社会議が起こっている現在でも、オンライン会議は一定数実施されている。これに伴い、企業のネットワーク環境は、円滑にオンライン会議が行えることが重視されるようになったのだ。
草野氏は「オフィスでオンライン会議を行う場合、同時接続で何名も同じ会議に参加するケースも少なくありません。そのためネットワークのトラフィックが増大し、これまでの無線LAN機器では円滑な会議が行えない、というケースが発生しています」と指摘する。
こうした会議スタイルの変化に加えて、業務に使用するPCがデスクトップからノートPCに変化していることも要因として挙げられた。特にコロナ禍を契機に、働き方改革が急激に進み、持ち運びやすくさまざまな場所で仕事ができるノートPCが、業務用端末として選択されるようになった。その一方で、携帯性に重きを置いたノートPCの場合、インターフェースは必要最低限に抑えられており、有線LANポートが搭載されていない端末も多く、必然的に無線LAN機器に接続するPCが増える。こうした業務用PCのスタンダードが変化していることも、トラフィックの増大につながっているといえる。
上記を背景に、無線LAN機器市場は緩やかな成長基調を見せており、2023〜2028年の年平均成長率は出荷台数ベースで3.1%、支出額ベースで2.3%を予測している。「新規に無線LANを導入する余地は小さくなっている一方で、高密度無線LAN環境は広がっており、これが企業向け無線LAN機器市場の成長を持続する原動力の一つになるでしょう」と草野氏は指摘する。
SD-WAN導入の検討が加速
IDC Japanは、本調査でWi-Fi 7対応製品についての予測も算出した。「2024年以降、大手ベンダーからWi-Fi 7の対応製品がリリースされていますが、まだ非常に小規模にとどまっている印象です。本格的にWi-Fi 7の需要が出てくるのは2025年以降とみており、2025年から2026年にかけて、ハイエンドアクセスポイントを端緒に市場への浸透が進んでいくでしょう。一方でWi-Fiの規格というのは、端末側が対応しなければ通信速度の高速化の恩恵が受けられません。企業の場合、PCのリプレースに合わせてWi-Fi 7対応の機器を導入するような流れになる可能性が高いでしょう」と草野氏は指摘する。
2023年の企業向けルーター市場はマイナス成長となった。背景として、最も出荷台数の多いSOHO(小規模オフィス)向けのルーター市場では出荷台数や支出額がいずれもプラス成長を達成したものの、それ以外のセグメントが伸び悩んだことが挙げられた。
「企業向けルーター市場がマイナス成長になった背景には、在庫調整によってそもそも物品が不足しており、プロジェクトを前倒しにするか、後ろ倒しにするかという判断に迫られていたことがあります。その結果、前倒し導入を進めたプロジェクトが多かったことから、市場がやや落ち込みました。また、現在SD-WANやローカルブレイクアウトの導入を検討する企業が導入傾向にあります。こうした移行への動きは、トラディショナルな企業向けルーター市場がマイナス成長となる要素の一つになっていると認識しています」と草野氏は指摘する。
データセンター向けスイッチに需要
2023年の企業向けイーサネットスイッチ市場は、企業内LAN向け、データセンター向けのいずれも2022年を上回ったという。企業内LAN向けでは拠点ネットワークのリフレッシュ需要が続いたことに加え、価格改定と円安の進行に伴う実質的な価格上昇に伴ってプラス成長となった。草野氏は「データセンター向けのイーサネットスイッチ市場は今後さらに伸びるでしょう。クラウドプロバイダーをはじめとしたハイパースケーラーを中心にデータセンターへの投資が引き続き活発になりますので、そのネットワークのインフラとしてスイッチの導入は増加していきます。AI技術の進展もこうしたデータセンター向けのスイッチ市場の拡大を後押ししていくでしょう」と可能性を語る。
これらの背景から、企業向けイーサネットスイッチ市場は、想定外に伸びた2023年の影響で2024年は前年を下回るものの、2025年以降は市場が正常化し堅調に成長することを見込んでいる。それに伴い、2023〜2028年の年平均成長率は1.2%となる予測だ。中でも前述したデータセンター向けは、市場のけん引役であるハイパースケーラーを中心としたデータセンター拡充の動きが、予測期間にわたって続くとみており、年平均成長率は4.2%と予測している。
2024年以降の国内企業向けネットワーク機器市場は、企業向け無線LAN機器やイーサネットスイッチを中心に緩やかに成長する見込みだ。国内企業向けネットワーク機器市場の2023〜2028年の年平均成長率は0.9%と予測している。草野氏は「ネットワーク機器ではありませんが、昨今のトレンドとしてクラウド管理型ネットワークソリューションの市場が高い伸びを見せています。今後はこうしたクラウド型のネットワーク管理が、企業のネットワーク構築や運用管理の一つのスタンダードになっていくでしょう」と今後のトレンドを語った。