【トップ対談】INTERVIEW WITH THE PRESIDENT
市況情報の連携で付加価値を提供して商機を増やす
2003年に日本ヒューレット・パッカードに入社して以来、約20年にわたり活躍を続ける岡戸伸樹氏が2021年11月1日に日本HPの代表取締役社長執行役員に就任した。日本ヒューレット・パッカードではエンタープライズ事業で経営企画やマーケティングを経験後、パーソナルシステムズ事業に異動。2015年の分社に伴い日本HPの執行役員Eコマース事業本部長に就任。その後、常務執行役員Eコマース事業本部長兼コンシューマ事業本部長、常務執行役員デジタルプレス事業本部長などを歴任した。本人いわく「ほとんどの事業を経験した」というほど日本HPを知る人物だ。長年にわたりIT業界で活躍してきた同社の岡戸氏とダイワボウ情報システム 代表取締役社長 松本裕之氏の両氏が、国内のICT業界がこれから目指すべき道筋について意見を交わした。
在庫のある商品をニーズに合わせて提案し
世界的な在庫不足でもビジネスを伸ばす
松本氏(以下、敬称略)■日本を含めて世界中のサプライチェーンが混乱しています。この状況下で日本は3月の年度末に向かっており、お客さまにいかに商品を納めるのかが目下の急務です。
当社にとってもメーカーさまにとっても、受注残数が積み上がってしまうとお互いに取り返せない非常に厳しい状況に陥ってしまいます。そういった意味では当社とメーカーさまとは運命共同体という意識でビジネスを共に進めていかなければなりません。
岡戸氏(以下、敬称略)■おっしゃる通りです。現在の在庫不足は産業全体の問題ですが、当社としては安定的に調達量を増やすために、サプライヤーとの関係を強化したり、より早くお客さまから受注をいただいたり、売れ筋となるメインストリームの製品の在庫を拡充したりするなど、サプライチェーンの制約とデマンドチェーンをうまく結び付けながら調達戦略を考えて実行しています。
松本■在庫がないものは世界中で在庫がないのですから、在庫のあるものをいかに売るかがこれからのビジネスの大切なポイントになるでしょう。特に国の予算を使っている場合は納期を3月までに納めなければなりません。万が一、納期が間に合わないと、販売店さまが入札停止になるなど迷惑が掛かってしまいます。
これまではお客さまが要求する仕様に従って商品を提供してきました。しかし現状ではそれにお応えするのは残念なことに不可能になってしまいました。今後は「こういう仕様のこの商品ならばこの納期で提供できます」といった提案をしていくことがお客さまの要望に応えられる最善策だと考えています。
岡戸■2021年の後半から法人向けのPCについては供給状況が改善しており、メインストリームの製品でノートPCを中心に在庫を厚く持てるようになりました。年度末の商戦期に向けて良い流れが作れており、十分な準備ができると見ています。
松本■コロナ禍以前はデスクトップPCとノートPCはおよそ半々の割合でしたが、コロナ禍以降のテレワークの実施によってノートPCの受注が大半を占めるようになりました。そのためメーカーさまはデスクトップPCの生産量を減らしてノートPCの生産量を増やしました。ところが感染拡大の勢いが弱くなるとオフィスに出社する人が増え、再びデスクトップPCの需要が上向いており、デスクトップPCの供給が厳しくなっています。
このような市況を先読みすることが非常に難しくなっています。今後はお客さまの需要の変化をいかに読んでいくかが、商品を安定して供給するために不可欠です。
ここ20年近くかけて各メーカーさまとサプライヤーさまが苦労して築いてきたサプライチェーンが乱れてしまい、なかなか元に戻らないというのが現状です。これまでメーカーさま、サプライヤーさま、ディストリビューターが、それぞれの役割の中できちんと動いていればマーケットがうまく回ってきましたが、これからはメーカーさま、サプライヤーさま、ディストリビューターが一体となってビジネスを進めなければお客さまの要求に応えることはできません。
当社としては今の市場の状況やお客さまの状況、要望をメーカーさまにいかに伝えるかで、状況を改善できると考えています。すでに当社の社員が取り組みを進めています。
岡戸■当社のビジネスモデルは多くのパートナーさまに支えていただいて成り立っています。ですからエンドユーザーさまの変化など、外部環境の変化をパートナーさまを通じていち早く情報収集し、その情報を当社のサプライチェーンの供給の予測につなげていくことが今まで以上に重要になっています。デマンドチェーンを強化していくことに関して、ダイワボウ情報システム(以下DIS)さまと協力して取り組みたいと考えています。
地方の中小企業のDXを推進するために
コンサルティング力で現実味のある提案を
松本■商品の調達は厳しいのですが、お客さまの需要の旺盛さは堅調だと見ています。日本市場ではこの数年間にWindows 7からWindows 10へのマイグレーション需要やGIGAスクール構想需要、コロナ禍でのテレワーク需要があり、今年度および来年度は着地点の見通しが難しい状況です。
しかしそろそろICTに予算を投じて準備を進めておかないとコロナ禍が明けたときに間に合わないと考え、DXへの取り組みを本格化している企業が増えています。こうしたマインドをいかに捉えて商談につなげるかが重要です。
さらにサプライチェーンの観点から、大手企業を支える地方の企業のDXも進めていかなければいけません。決して容易ではないビジネスではありますが、営業ではなくコンサルティングでお客さまにアプローチすることで商談につなげることができると考えています。
例えば現在のITの潮流としてクラウドを導入するべきだと提案しても、中小企業にとってクラウドはコスト負担が大きい場合があり現実味がありません。そこでクラウドとオンプレミスを組み合わせたハイブリッド環境が、コストと効果のバランスが取れた現実味のある提案としてお客さまの関心を引くことができます。
地方の中小企業にとって現実味のある提案でなければDXについてくるのは難しいでしょう。これからはこうなります、だからこれを使うべきです、という会話では商談は進みません。お客さまの状況や要望に応じて、ならばこうしませんかというコンサルティングが有効なのです。
当社はクラウドもオンプレミスも両方の商品を取り扱っており、クラウドもいろいろなサービスが提供でき、オンプレミスもいろいろな導入の仕方、利用の仕方を提供できます。さらにこうした活動に注力して、人材育成に投資もしています。
岡戸■地方の中小企業のお客さまは裾野が広く、これからのビジネスの可能性が大きく、非常に重要な市場だと認識しています。メーカーとしてDISさまとしっかり情報を共有し、DISさまの全国のパートナーさまに情報を提供して地方の中小企業のお客さまへの提案を支援していきます。
現在、販売パートナーさま向けに「HP Partner First TV」(https://jp.ext.hp.com/events/seminars/hpi/)というオンラインセミナーを実施しており、提案に有効な情報をタイムリーに提供しています。今後は販売パートナーさまへのさらなる効果的な情報提供の在り方について、DISさまと一緒に考えて新しい情報発信にも取り組んでいきたいと考えています。
お客さまに寄り添う時間を増やして
新しい提案や商談の機会につなげる
松本■コロナ禍によってパートナーさまやお客さまとリモートでコミュニケーションする機会が増えましたが、これからはお客さまにいっそう寄り添うことが大切です。
当社は全国各地の拠点に人員を配置して、それぞれの地域のパートナーさま、お客さまに寄り添ったビジネスを、コロナ禍以前から現在もずっと続けています。地域の皆さまに、DISの担当者がいつでもいる、ずっといる、そして皆さまの利益になる提案をする、こういう活動が信頼につながり、皆さまと長くお付き合いさせていただいています。
対面でのコミュニケーションを大切にしていますが、もちろんリモートでのコミュニケーションもうまく活用する必要があります。お客さまからはリモートでは分かりづらいので直接説明してほしいという要望や、パートナーさまからも一緒にお客さまに訪問してほしいという要望が増えており、皆さまのそばにいる当社はいつでも要望に応えます。
その際にメーカーさまとも話をしたいという要望があれば、ITを駆使した機材を活用してあたかもそばにいるような環境を提供することが当社の役目です。皆さまの要望を満たすためにどう応えていくのか、それが働く場所と働き方を決める大切な要因です。
これからどのように働き方を変えていくべきなのか、日本の企業の良さも残しつつ働き方を支える業界として考えていかなければお客さまの相談に応えることはできません。
岡戸■当社がオフィスを移転したのは、まさに新しい働き方に対応することが目的です。今後コロナ禍が落ち着いたとしても、この変化は不可逆なものであり、元に戻ることはないでしょう。以前のように全ての社員が毎日オフィスに出社するような働き方はもうあり得ません。
当社では約2年弱の間、リモートワーク中心でしたが、社員の満足度と生産性を上げていくにはどのような働き方がよいのか模索を続けています。
今後は自宅やオフィスだけではなく、別の場所で仕事をすることも増えるでしょう。その際にそれぞれの場所に応じたコミュニケーションの取り方、会議やミーティング、商談などの進め方が必要になります。どこからでも安心して、高い生産性で働くためには、セキュリティやコラボレーション機能がこれまで以上に重要です。日本HPの法人向けPCは高いセキュリティ機能を標準装備しています。さらに昨年発表したHP Wolf Securityは、セキュアな設計のハードウェア、ソフトウェア、サービスにより包括的なエンドポイント保護とレジリエンスを提供します。
また、さまざまな形態のコミュニケーションおよびコラボレーションを支えるために、2021年10月に米国でオンライン会議の体験を向上させる製品群「HP Presence」を新たに発表しました。今年前半には日本市場でも提供する予定です。
当社の商品に加えて、DISさまが扱っているクラウドなどのさまざまな商品を組み合わせることで、お客さまにワンストップでトータルソリューションを提供できることが大きな価値につながると期待しています。
松本■メーカーさまの商品にパートナーさまの商品を加えることで、独自の付加価値を提供できることが当社の強みです。
リアルとバーチャルを活用して
新しいワークスタイルに合った価値を提供
岡戸■いかに良い商品であっても、リモートだけでお客さまに価値を理解していただくのは難しいのが実情です。そこで当社はお客さまやパートナーさまが当社の商品の価値をリアルで体験していただく場所、「HP Customer Welcome Center」(CWC)をグローバルで展開しています。いま私たちがいるこの場所が「HP Customer Welcome Center Tokyo」(CWC Tokyo)です。
パートナーさまやお客さまとCWC Tokyoで商品を体験しながら提案や商談を進めることで、ソリューションの価値をより高めることができます。DISさまのパートナーさまやお客さまにも、CWC Tokyoを積極的に活用していただきたいです。
松本■リモートはお客さまやパートナーさまとの接点を増やすための効率的な手段であり、連絡をもっと密にできる、商談の回数をもっと増やせることが目的です。このコミュニケーションのDXにより、お客さまに寄り添う時間が増えます。寄り添う時間が増えるほど、新しい商談や提案の回数も増えます。
パートナーさまとお客さまのコミュニケーションを支えるプラットフォームを日本HPさまと一緒に作り、それを業界の標準にしていきたいと考えています。お客さまとの接点に対して各社が個別に投資するのは無駄です。役割分担を明確にして非競争分野は協力し、競争分野でそれぞれの強みを生かしたビジネスを展開するべきです。これからは業界全体でサプライヤーもユーザーもみんなが利益を得られる仕組みを作っていくことが求められていると思います。
岡戸■私は約20年にわたり日本HPで働いており、昨年11月1日に現職に就任しました。当社が大切にしてきたカルチャーを継承しつつ、これからを「日本HPの第二の創業」と位置付けて、過去のビジネスモデルにとらわれず、新しいスタイルでビジネスを進めていきたいと考えています。
コロナを境に世の中は大きな変化を続けていくと思います。メーカーとして商品の安定供給は当然の役割ですが、それに加えてお客さまの新しいワークスタイルに対応するソリューションとビジネスモデルの確立がいっそう重要性を増すと考えています。
その取り組みの中でパートナーさまは核になります。新たなソリューションの開発やサービスの提供など、パートナーさまやお客さまの期待を超える形で、さまざまなニーズに応えていきます。
当社は東京、大阪、名古屋、福岡という都市部に拠点を置いていますが、DISさまはさらに全国各地の拠点やパートナーさまを通じて地場の経済の在り方を肌身で感じており、生のリアルな情報を得ています。
DISさまとの親密なパートナーシップにより、都市や地方、業種、世代ごとに異なるワークスタイルや価値観など、あらゆるニーズに応えられる商品と、DXを支援できるソリューションを提供するメーカーであり続けます。