少子高齢化などが起因の運転手不足によって、地方公共交通の維持・確保が課題になっている。地域を走るバスの廃止や減便が起こることで、免許返納を行った高齢者をはじめとした住民の移動が困難になっているのだ。そうした問題解決の糸口となるのが、運転手なしでの運転を可能とする自動運転だ。今回は、沖縄県豊見城市がNEC、第一交通、電脳交通、ティアフォーと連携して実施した「自動運転EVバスの実証運行」を取材した。

沖縄県豊見城市

沖縄本島南部に位置する人口6万5,902人(2025年1月31日時点)の都市。沖縄県内最大級の人工ビーチ「豊崎海浜公園・豊崎美らSUNビーチ」や風光明媚な神の島・信仰の島とされる「瀬長島」、南山の王となる汪 応祖が築いた「豊見城グスク」(現在は入場不可)を有する。「豊見城ハーリー大会」をはじめとした祭りも多く開催される。

運転手不足による公共交通の危機

 大型二種免許保有者の高齢化が進む一方、大型二種免許の新規取得者が減少していることで、バス運転手の不足が問題になっている。さらに運転手の不足によってバス路線が減少したため、併せて地域公共交通の利便性確保も課題となっている。沖縄県豊見城市もこうした課題に悩む自治体の一つだった。

 そこで豊見城市が取り組み始めたのが、自動運転EVバスの社会実装だ。自動運転は一方向だけの運転支援である「レベル1」から始まり、完全自動運転の「レベル5」まで5段階の技術レベルがある。豊見城市はその中でも特定条件下で完全自動運転を行う自動運転技術「レベル4」の運行実現に向け、2024年5月にNEC、第一交通、電脳交通、ティアフォーと包括連携協定を締結した。そして2024年10月、実際に豊見城市内で、縦・横方向の運転支援を行う「レベル2」の状態で自動運転EVバスを走行させる実証運行の実施に至った。

 豊見城市 都市計画部 都市計画課 班長 安慶田 淳氏は、沖縄県内初の取り組みとなる自動運転EVバスの実証運行を決定した背景を次のように語る。「豊見城市では運転手不足に伴うバス路線の廃止や減便があり、利便性の低下が懸念されていました。このまま運転手不足が進行すると市民へさらに影響が出てしまうと考え、その対策として自動運転が有効だと考えました」

 NEC モビリティソリューション統括部 プロフェッショナル 中尾凌也氏も、豊見城市と共に自動運転EVバスの実証運行を行った理由をこう話す。「豊見城市さまを含め、全国的に運転手不足によって公共交通が立ち行かなくなる危機感があります。そこで将来を見据え、運転手がいなくても運行できるような環境を今から整えたいと思い、今回の実証運行を実施しました」

市の生活路線で自動運転を実施

 自動運転EVバスの実証運行は、2024年10月8日〜11月1日の期間に実施された。豊見城市の生活路線である105番 豊見城市内一周線(以下、105番線)の一部を実証ルートとし、105番線の半分の距離に当たる約11.7kmが自動運転車両の運行ルートになっている。実証運行に当たってNECは、全体の事業企画・推進と共に、自動運転車両の運行管理や遠隔監視などができる「自動運転サービスプラットフォーム」の提供を行った。

 中尾氏は、実証運行に105番線を選択した理由を次のように説明する。「105番線は豊見城市の西の方にある商業施設と、東の方にある住宅街を八の字に走るような路線です。そこの一部を実証運行のルートにすることで、高齢者をはじめとした移動が困難な方々が自動運転EVバスに乗車できるようにしました。また105番線は、市役所や郵便局、病院も通る路線です。そのため、そうした施設に向かう方々の移動を助け、地域の活性化に役立つルートを選択しました」

 実施期間を2024年10月8日〜11月1日に定めたことにも理由があるという。「2024年10月19〜20日に『第38回とみぐすく祭り』と『第9回とみぐすく産業フェスタ』が開催されるためです。これらは毎年約6万5,000人が訪れる大きなイベントとなっています。そのためイベント開催に合わせて自動運転の実証運行を行いたいと思い、この期間にしました。自動運転は、初めて乗る場合『本当に大丈夫だろうか』と不安に思う方もいます。社会実装に当たって社会受容性がとても重要になるので、イベント開催の時期に行うことで、少しでも多くの方に乗ってもらおうと考えました」

自動運転EVバスの運行の様子

豊見城市内を走行する自動運転EVバスの様子。実証運行中は1,787人もの市民・観光客などが乗車した。
NECが開発する運行管理画面。見やすいUIで車両の管理や経路生成が簡単にでき、スムーズな運行に貢献する。
NECが開発する遠隔監視画面。NEC独自の遠隔画像送信技術により、乱れのない監視画面を実現している。

乗客の多数が満足し再利用を希望

 実証運行の結果、定量的な効果と定性的な効果をそれぞれ得られたという。まず定量的な効果として、乗車人数は期間全体で1,787人に上ったそうだ。「とみぐすく産業フェスタと同時開催した公共交通利用促進体験型イベント『沖縄おでかけフェスタ』では、1周5分ほどの特別ルートを設けました。そこでは745人の方が乗車しました。イベント時以外の実証運行では、およそ平日は30人、週末は5〜60人の方が自動運転EVバスに乗った結果となりました」(中尾氏)

 また、バスの乗客にアンケートを実施したところ、92%の乗客が満足したと回答した。再利用を望む声も90%を超え、非常に高い満足度となった。

 自動運転は乗客だけでなく、運転手にもメリットがあった。今回は運転手が同乗するレベル2の自動運転だったが、バスの自動走行率は93%ほどとなった。この結果、運転手はほとんどハンドルを触らずに自動運転が実行できたそうだ。

 定性的な効果では、免許返納を行う高齢者から自動運転について大きな関心を持ってもらえたという。中尾氏は「実証運行中は私も自動運転EVバスに乗り、市民の方々と会話をしました。その際に高齢者の方から『5年、10年かかってもいいから、ぜひ取り組みを続けてほしい』『とても期待している』などの声をいただけました」と反響を語る。

 最後に安慶田氏は、今回の自動運転の実証運行を踏まえた豊見城市の展望を次のように話す。「今回の実証運行はレベル2でしたが、継続して自動運転EVバスを運行し、今後はレベル4の許認可取得を目指します。全国的にレベル4の許認可を取得しているエリアはまだ少ないですが、できるところから少しずつ完全自動運転バスの実現に向けて進めていきます」

 続けてNEC モビリティソリューション統括部 ディレクター 室田徹也氏は、自動運転サービスプラットフォームの展望について「豊見城市さまをはじめ、自動運転にチャレンジする自治体をもっと増やしていきたいです。バス運転手の不足による公共交通の課題は日本のほかの地域でも起きているものです。当社は今後もさまざまな自治体の課題解決に貢献していきます」と語った。