乱横断を検知し音声&光でアラートを発出
「AIによる危険行為検知&注意喚起」
子供への交通安全指導・啓発は交通安全教室などで行えるが、大人に対しては実施できる機会が少ない。加えて大人は過去の経験から「自分は事故に遭わない」と判断し、危険な行動を取ることがある。そうすると本人が危険な目に遭うだけでなく、子供もそうした大人の姿を見て、交通ルールを破る可能性があるだろう。今回は、大人の交通安全啓発に取り組む愛知県刈谷市が、NTT西日本と協力して実施した「AIによる危険行為検知&注意喚起」実証プロジェクトを取材した。
愛知県刈谷市

愛知県のほぼ中央に位置する人口15万2,911人(2025年3月1日時点)の都市。天然温泉・飲食店・観覧車などがある複合施設「刈谷ハイウェイオアシス」や、多数の遊具・アトラクションを備えた「岩ケ池公園」といった観光スポットを有する。トヨタ自動車が自動車造りを始めた「トヨタ創業期試作工場」は国の登録文化財に登録されている。
大人への交通安全啓発が課題に
市民が安心して暮らせる街づくりにおいて、交通安全は重要な要素の一つだ。愛知県刈谷市では1972年から10次にわたって交通安全計画を策定し、2022年3月には「第11次刈谷市交通安全計画」を公開した。本計画では、2021年度から2025年度までの5年間に講じる交通安全対策に関する基本方針を定めている。この計画に基づいて、関係機関・団体などが一体で諸施策を推進していくのだ。
そうした背景を踏まえて刈谷市は、先端技術などを活用して地域の課題解決につなげ、暮らしを豊かにするスマートシティを目指す「刈谷スマートシティ」の活動の中で、交通安全に関する取り組みを開始した。刈谷スマートシティの一環として実施する、2024年度の課題解決型実証プロジェクトにおいて、応募対象課題の一つに「大人に響く交通安全」を挙げたのだ。そこで選定されたのが、NTT西日本が提案した「AIによる危険行為察知&注意喚起」実証プロジェクトだ。
刈谷市役所 くらし安心課 主事 鈴木愛乃氏は、今回の実証プロジェクトを実施した背景と目的を次のように話す。「現在、子供への交通安全教室は行っていますが、大人に向けた交通安全教室はほとんど行えていません。加えて、子供向けの交通安全教室で交通ルールを教える一方で、子供の見本となる大人が交通ルールを守れていない現状があります。大人に向けて市のイベントやお祭りに合わせて交通安全の啓発は行っていますが、その啓発が行動改善につながるのは難しい状態です。そこで『大人に響く交通安全』を課題解決型実証プロジェクトの応募対象課題の一つに挙げ、大人の行動に変化を与えて交通安全の意識向上が図れる技術がないか募集し、NTT西日本さまと共にプロジェクトを開始しました」
市の生活路線で自動運転を実施
AIによる危険行為検知&注意喚起実証プロジェクトは2024年12月7日〜2025年3月9日の期間に、刈谷市桜町1丁目他 刈谷駅北口前広場東端に接する車道で実施した。実施場所にAIカメラ、スピーカー、LEDライトを設置して常時撮影を行い、歩行者の危険な横断や自転車の逆走を検知した場合に、音声と光でアラートを発出したのだ。これにより、危険行動の抑制とドライバーへの注意喚起を図った。なお、アラートの発出は2024年12月17日〜2025年3月9日の期間で行われている。
鈴木氏は、実施場所の選定理由をこう説明する。「刈谷駅北口のコンビニ付近は以前から乱横断が常態化していたため、実施場所として採用しました。コンビニの近くには交番が設置されていますが、乱横断は道路交通法では取り締まれません。そこで今回の実証実験では、この場所で行われる乱横断をやめさせることを目的にしました」
NTT西日本の担当者は、本プロジェクトで使われたAIカメラについて次のように語る。「通常の防犯カメラやAIカメラは単眼タイプのものが多いですが、本プロジェクトでは多眼タイプのAIカメラを使用しています。そのため、単眼タイプより広い範囲を写せるようになっています」
また、スピーカーから流れる音声は複数パターンを用意しているという。「歩行者と自転車でスピーカーから流れる注意喚起の音声を変えています。さらに言い方が弱めの音声と強めの音声の2種類を用意し、実証期間中はまず言い方が弱めの音声を流し、一定期間後に言い方が強めの音声を流すようにしました。音声は、弱めのものの歩行者向けが『その横断は危険です。近くの横断歩道を使おう』という内容で、強めのものが『その横断は危険。横断歩道を使って』という内容です。一方、自転車向けの弱めの内容は『車道の自転車は左側通行です』で、強めの内容は『自転車逆走です。危ない』となっています」(鈴木氏)

さらに効果的な指導・啓発を検討
実証実験によって、乱横断者に注意喚起をする際の課題が見えてきたと鈴木氏は話す。「現段階(2025年2月時点)では、注意喚起によって乱横断が完全になくなったとはいえません。大人の行動に変化を与えることは難しいと感じています。また、実証実験ではカメラのエリアを絞ってアラートを発出していたので、カメラのエリアから外れるような回避行動も見受けられました。今回の方法ではスピーカーの音を気にしない人や、カメラに写らない場所で危険な行動を取る人が確認できたので、本プロジェクトと同じ内容で注意喚起を行っていくのは厳しいと実感しました」
最後に鈴木氏は、本実証実験を踏まえた刈谷市の展望をこう語る。「今回はAIカメラ、スピーカー、LEDライトを1カ所に集めて設置しましたが、今後は別々の場所に設置し、今まさに乱横断をしようとしている人にアラートを発したいです。これにより、今すぐ危険な横断をやめてもらいたいと考えています。併せて、実証実験の方法が本当に効果的だったのかという点や、電柱設置に対する懸念点なども含め、大人へのその場での交通ルール指導や啓発の方法を見直していきます」
NTT西日本の担当者も、本システムの展望を「ある程度人間の行動の変容を引き起こせる可能性は見えてきました。しかし現在の程度で十分かどうか、対策としてどうかといった点はさらに精査していきたいです。地域の安心安全を守るべく仕事をしているので、今後もこういった取り組みを検討していきます」と語った。