デザイン思考を取り入れたPBL学習で
社会課題を解決するビジネスプランを提案
Case:専修大学
多様な変化が起こるこれからの時代を生き抜くため、自ら問題を発見し、解決する能力を養うための教育手法「プロジェクトベースドラーニング」(PBL学習)を取り入れる教育現場が増えてきている。その動きは、教育指導要領が改訂された小学校、中学校、高等学校のみならず大学にまで広がっている。課題解決スキル醸成のため、企業などの外部人材をアドバイザーなどに起用して学ぶケースも出てきており、その学びを円滑化するため、ICTツールが積極的に活用されている。今回は専修大学で実施されたPBL学習をもとに、これから必要となる学びについて展望していこう。
バングラデシュの課題を日本の学生が解決
専修大学では、デザイン思考を取り入れて社会課題を解決するためのビジネスプランを作成するカリキュラム「ビジネスデザイン特講(SB)」を2022年前期に開講した。本講義は専修大学とアドビが提携し、経営学部の特任教授 見山謙一郎氏と共にカリキュラムを作成している。また、外部講師として欧州で活躍するデザイナー兼研究者の井上史郎氏と連携し、SDGsとデザイン思考の観点から、学生が社会課題解決に向けたビジネスプランをグループワークで作成していく。
本講義でテーマに設定されたのは、バングラデシュの社会課題だ。学生たちは、2022年4月13日(水)〜7月20日(水)に実施された講義の中でバングラデシュについて調査し、各グループで着目した「本質的な課題」に対して、それぞれの視点から探求を進め、解決するためのビジネスプランを提案していく。
グループワークの中ではWeb/モバイルアプリのデザインやプロトタイピングを行えるアドビのソフトウェア「Adobe XD」を活用してデザイン思考を用いながら、ビジネスプランを策定した。デザイン思考とは、デザイナーがデザインを考える際の思考プロセスを、ビジネス上の課題解決に生かす思考のことだ。この思考を用いることで、ユーザーの視点に立った潜在的なニーズを見いだして、解決策を探ることを目指す。
本講義の最終講義では、学生たちがそれぞれ考えてきたビジネスプランを、JETRO バングラデシュ事務所長の安藤裕二氏に実際に提案し、現地の目線からフィードバックを受ける授業を行った。授業では専修大学生田キャンパスの教室と、バングラデシュにいる安藤氏などの各地をZoomでつなぎ、学生たちが順番にプレゼンテーションを行った。
プレゼンテーションに使用されたのはAdobe XDだ。学生たちはインターネットなどで調査するデスクトップリサーチのほか、Web会議ツールを活用し、バングラデシュの住民へのインタビューも行い、社会課題に対する理解を向上させていった。
Adobe XDで“共感”の視点を学ぶ
ある発表では、バングラデシュの国民には、肥満や糖尿病などの生活習慣病患者が多いことを課題として設定し、それを改善するためバングラデシュの国民食として親しまれるカレー文化を生かした、「健康的でおいしく、目でも楽しめるカレーを提供する」という解決策を提案した。学生たちはこのビジネスプラン実現のためJETROとバングラデシュ政府、現地農家を支援するNGOとアライアンスパートナーを組むなど、広い視野から社会課題解決のアイデアを提言した。安藤氏からは「ファクトを調べて問題意識を抽出する基本的なアプローチがしっかりできており、また現地で受け入れられやすいキャラクターを用いるキャッチーなアイデアがよい。教育普及やサステナブルなビジネスなど、一つのプロジェクトでさまざまな効果が生まれる良いビジネスプランだ」と講評があった。
本講義を行った見山氏は、Adobe XDを活用した授業について次のようにメリットを語ってくれた。「Adobe XDはプレゼンテーションを行う最終的な成果物だけでなく、そこに行き着くまでの思考プロセスなども残せるツールです。そのため、学生たちは以前の講義と比べて『なぜこうなったのか』をきちんと説明できるようになっていましたね。また、開発を想定するアプリの画面も作り込めるため、ビジネスプラン提案時の説得力を持たせるプレゼン資料にできていたと思います。大学は論理的な思考を重視しがちですが、ビジネスでは人間中心のデザインを重視し、共感を引き出すことが重要になります。論理は授業で学べますが、共感を学ぶにはデザイナーのように考えるAdobe XDのようなツールを活用することが非常に大切です。論理と共感、その両方を扱える人材を育てていくのが学びの上で理想ですね」