協働的な学びを支援するメディアルームで
次世代に求められる能力を育成する
Case:森村学園初等部
実業家としてその名が知られる森村市左衛門が1910年に創立した森村学園は、総面積81,587m2という広大な敷地にある。初等部の校舎は森に隣接した場所にあり、子供たちは自然との触れ合いを身近に感じる環境の中で学ぶ。またそうした学びの中で、同校ではICTの活用も積極的に行っている。さまざまなデバイスが整備された「メディアルーム」の学びについて取材した。
ICT教育は三つの柱の一つ
森村学園初等部では、三つの教育を柱として、次世代に求められる能力の育成に取り組んでいる。一つ目が言語技術教育(ランゲージ・アーツ)だ。欧米諸国で実施されている世界標準の母語教育であり、体系的に言葉を学ぶ。二つ目は英語教育だ。海外貿易の先駆者であった森村市左衛門の意志をくみ、開校当初から英語教育を行ってきた同校では現在、英国の公的機関BRITISH COUNCILの講師3名による、森村オリジナルカリキュラムの授業を1年生から実施している。三つ目はICT教育だ。2017年からICT環境の整備を進めてきた同校では現在、全クラスへの電子黒板、校内のWi-Fi環境の整備がされている。また段階的にiPadを整備し、2021年2月からは1人1台の端末環境で、学びを進めている。
そのICT教育を進める中で、同校はコンピューター室を改装して「メディアルーム」を設置した。もともとはコンピューター室の名残の机が設置され、机の島ごとにモニターも用意されていたが、2021年10月にこれをリニューアルし、カーペットの上に丸机を配置し、座布団にそれぞれが座って授業に臨む、現在のメディアルームのスタイルに一新された。同校はICT担当の教諭 榎本 昇氏がプログラミングなどICT関連授業を受け持っており、メディアルームで実際のプログラミング授業を取材させてもらった。
レイアウトフリーな教室での学び
当日の授業では「Sphero BOLT」というロボットボールに対し、iPadのアプリ「Sphero Edu」でプログラミングを行った。ただ動作をプログラムするのではなく、Sphero BOLTの上部にある8×8LEDのドットスクリーンにアニメーション表現を行う。その際、ストーリーを意識したアニメーションにすることや、アプリ上に用意されているテンプレートは使用しないことなどが伝えられた。児童は手元のiPadでアニメーションを作成し、Sphero BOLTに動きや音声とともにプログラミングを行った。また授業では、そのプログラミングしたSphero BOLTの動きなどをiPadで撮影して「ロイロノート・スクール」でスライドを提出したほか、授業の終わりに数名の児童が教室前に登壇し、プログラミングやアニメーションの意図などを含めて発表した。メディアルームは机などの障害になるものが取り払われているため、子供たちがSphero BOLTを走らせていても途中で何かにぶつかるようなことがない。丸机も簡単に移動できるため、授業の内容に合わせてレイアウトを変更できる。例えば協働的な学びのような、子供たちがそれぞれ話し合いをしながら学び合う授業スタイルを行いやすい環境と言えるだろう。
また、メディアルームの中にはレーザーカッターやパナソニック製の業務用デジタル4Kビデオカメラなどが整備されている。
これらの機器は、通常の授業よりもクラブ活動などで多く活用されている。森村学園初等部はパナソニック主催の映像制作支援プログラム「キッド・ウィットネス・ニュース」(KWN)に毎年5年生の有志が参加しており、現在4年連続日本1位、2年連続で世界1位を獲得するなど、高い映像制作スキルを持つ。榎本氏は「映像制作は子供たちそれぞれの長所を組み合わせて一つの作品を作るスキルが育ちます。現在、課題解決型(PBL)学習が主流になりつつありますが、映像制作はそうした課題に対しての『こうなったらいいな』という理想を分かりやすい形にできることが持ち味です」と語る。
例えばKWNグローバルサミット2021の小学生部門最優秀作品を受賞した同校の映像作品は、コロナ禍で顕在化したフラワーロス問題をテーマにし、その課題意識の共有を行っている。映像制作の中では、コロナ禍で対面による活動が制限される中で、花屋などにオンラインでインタビューを行うなどテクノロジーを活用して課題を解決していく姿も見られたという。
メディアルームの環境や同校のICT整備を生かしたTechnology(技術)やEngineering(ものづくり)、Art(アート)といったSTEAM教育が学校生活の中で自然に行われていると言えるだろう。
課外活動の学びを授業に生かす
課外でのICT活用は、授業の中でも生かされている。例えば先ほどの映像制作チームが行ったオンライン取材のノウハウを、Web会議ツールを使ったオンライン授業に生かしたり、オンライン授業の中で分かりにくいポイントなどを子供たちからフィードバックを受けたりしたそうだ。「以前はパスコードに英数が混じったものを使用していましたが、子供たちから『低学年の子は英字が打てない』と指摘を受け、数字のみのパスコードに変更しました。こうした子供たちの声を授業に反映できることは、非常に大切だと感じています」と榎本氏。
iPadはプログラミング以外にも、国語や体育といった全ての教科で活用されている。体育などではiPadで撮影し、フォームチェックなども行っている。榎本氏は「テクノロジーを活用することは、子供たちに“平等”を担保することにつながります。例えば今VRゴーグルを活用した学びの実証実験を行っているのですが、VRを活用すれば実際にその場所に行けなくても、『こんな感じなんだな』と体験できるようになります。学校に来られない児童がいた場合、VRで学校に来るような活用ができれば、子供たちにとってより教育の機会を平等に提供できるようになるでしょう」と榎本氏はICT活用の可能性を語った。