オンプレの機器とクラウドのハイブリッドで
専門性の高いBtoB向けソリューション事業を展開
Top Interview
今年2月、東京証券取引所の市場第一部に上場していた株式会社アイ・オー・データ機器が、株式の非公開化に向けた経営陣による自社株買い(MBO)を発表し、6月に上場廃止が決定された。同社は1991年に店頭公開してから31年間、株式を市場に公開してきた。同社の代表取締役社長 濵田尚則氏に株式非公開化の目的と、今後の成長戦略について話を伺った。
やりたいことと会社に求められることの
ギャップが大きくなってきた
編集部■今年2月に株式の非公開化に向けた経営陣による自社株買い(MBO)を発表した際に、業界では老舗企業である御社の意図と戦略に注目が集まりました。実際に周囲の反応はいかがでしたか。
濵田氏(以下、敬称略)■当社にとって株式の非公開化は特に影響はありません。と言いますのも、近年は資本市場から資金を調達していないからです。むしろ非上場化によって得られるメリットの方が大きいと判断しました。
編集部■非上場化の検討を始めた時期やきっかけを教えてください。
濵田■当社は東京証券取引所(東証)の市場第一部に上場しておりましたが、今年4月4日より市場区分がプライム市場、スタンダード市場、グロース市場の三つに見直されました。
新しい市場区分のそれぞれの上場基準に当社の条件を照らし合わせると、プライム市場とスタンダード市場の境目にありました。私個人としては、これまで東証一部に上場し続けて事業を伸ばしてきたという自負がありましたので、新市場区分ではプライム市場への上場を目指したいという気持ちが当初はありました。
ところがプライム市場の上場基準を詳しく見ていくと、従来とは比較にならない量と内容の情報を整理して開示しなければならないことや、それらを英文でも公開しなければならないことなど、プライム市場に上場するために費やさなければならないコストと労力が非常に大きいことが分かったのです。
当社が投資に値する企業であることを大きなコストと労力をかけて国内外の投資家にアピールすることが、当社にとってどのようなメリットがあるのか、私も当社の社員たちもやりたいことはこれなのか、などと疑問を感じました。
編集部■プライム市場への上場に向けて具体的な検討はしましたか。
濵田■はい、当時は市場区分の変更までに1年半ほどの猶予期間がありましたので、プライム市場への上場に向けた検討も進めました。例えば東証一部上場時は敵対的買収を防ぐために流動比率を抑えていましたが、プライム市場に上場するには流動比率あるいは株価を上げる必要があり、複数のコンサルティング会社からさまざまな提案をしていただきました。
ところがどの提案を検討しても、当社がやろうとしていることと違う方向に行ってしまうのです。株式を市場公開していることで当社がやってきたこと、やりたいことと、会社に求められることのギャップが大きくなってきました。
当社がやろうとしていることは、次の成長に向けて既存の事業も伸ばしつつ、新しい事業の柱を育てていくことです。新しい事業の柱を育てるには2〜3年の準備期間が必要です。その準備期間中は、短期的に成長が鈍化する可能性があり、当社に投資してくださる方々の期待に応えられないかもしれません。
当社は中長期的な視点で次の収益の軸になる事業を育てていこうとしていますので、そういった観点から株式を非公開化した方が当社の将来に向けた取り組みを円滑に進められると判断してMBOを実施しました。
周辺機器事業を軸に
ソリューション事業を展開
編集部■今後の具体的な事業展開を教えてください。
濵田■周辺機器事業を軸に「ローコストオペレーション体制の構築」と「ソリューション型商品事業の開拓と確立」の二つのアプローチで事業を展開していきます。まずローコストオペレーション体制の構築では、製品の原価を下げて価格競争力を高めることに引き続き力を入れ、さらに付加価値を加えた製品をリーズナブルに提供します。
付加価値というのはお客さまが効果を実感できる、あるいは使いこなせていると手応えを感じられるよう、専門知識がなくても誰もが使いこなせる、操作が簡単な「優しいデジタル」(製品)を提供することです。
日本でも多くの企業がDXを推進していますが、中小企業や特に地方の企業ではデジタル化が進んでいません。その要因はデジタル機器の操作が難しく、デジタル機器を使いこなせないため効果が実感できないことにあると考えています。
誰もが簡単に使いこなせるデジタル機器を提供すれば、利活用した際の効果が実感できるようになり、デジタル化が進むと考えています。ただし簡単に使いこなせるという付加価値を加えても、製品が高価だと使ってもらえません。簡単とリーズナブルを両立した製品を提供することにより、周辺機器事業を伸ばしていけると考えています。
日本には中小企業よりも小さな個人事業主や零細企業のお客さまもたくさんいらっしゃいますが、営業コストをかけてサポートするのは難しいのが実情です。簡単に使いこなせる製品を提供できれば、こうしたお客さまが自身で設定、運用できるようになり、DXの裾野が広がると考えています。電子帳簿保存法(改正電帳法)はその好機になるとみています。
ソリューション型商品事業の開拓と確立ですが、これは当社がこれまで手掛けてきたさまざまなハードウェア製品とソフトウェアおよびサービスを組み合わせて展開していきます。こちらにも管理担当者が不在でも導入、運用できることを付加価値に加えて提供します。
当社はこれまでも液晶モニターやストレージなどの周辺機器を、さまざまな業種のお客さまの業務の現場に提供してきました。その際にお客さまの業種や事業領域ごと、そして製品領域ごとにたくさんのノウハウと知見を蓄積しており、これから展開するソリューション事業での強みになると確信しています。
中小企業、医療、文教に注力
インフラになり得るビジネスを狙う
編集部■これまで御社はBtoCのビジネスが主軸でしたが、今度はBtoBのビジネスが主軸になるということですか。
濵田■既存のBtoCの周辺機器事業も伸ばしつつ、事業の新たな柱としてBtoBも伸ばしていくという考えです。BtoBにおいては中小企業におけるDXの推進、そして医療と文教の当面は三つの市場に注力していきます。
医療と文教に注目したのは、デジタル化が進展することが期待できるからです。特に医療市場に本格的に参入したきっかけとなったのが昨年に実施された医療保険のオンライン資格確認です。健康保険証の情報とマイナンバーカードがひも付けられ、受診者のマイナンバーカードを読み取るカードリーダーと、各病院から専用回線でつながっている医療保険のクラウドと接続するための端末(APX-MEDICAL/QC)を販売しています。
医療機関や薬局は全国に約23万あり、大規模な施設なら2〜3台設置するといった大きな市場です。これまでも医療分野のお客さまに液晶モニターを提供してきましたが、医療の現場にソリューションを提供するには許認可などのハードルがあります。しかし医療事務の領域ならば、当社の周辺機器やその事業で培ったノウハウを生かしてソリューションビジネスに参入でき、伸ばすことができます。
文教に関しては政府が推進するGIGAスクール構想により、成長が期待できます。いずれのお客さまも全国にいらっしゃるため、医療と文教の事業を成長させていくためには、全国のパートナーさまとの連携が不可欠です。全国の津々浦々までパートナーさまとのネットワークを張り巡らせているダイワボウ情報システム(DIS)さまを通じて、ソリューション事業を全国展開できると期待しています。
編集部■ソリューション事業はどのように拡大していくのでしょうか。
濵田■現時点では医療と文教を注力する市場に設定していますが、さまざまな業種や業界でデジタル化が進んでおり、医療と文教に限らずソリューション事業を展開していく計画です。現在はその準備を進めている最中で、準備ができ次第、順次公表させていただきます。
当社が狙っているのは、各業界のインフラになり得るソリューションです。医療保険のオンライン資格確認に関しても、将来的には病院のさまざまな業務や仕組みとの連携が図られるため、医療事務のインフラになるでしょう。
現在、BtoBのソリューションではクラウドが注目されていますが、業務の現場にもデバイスやデータを置いておくというオンプレミスの需要はなくなりません。このクラウドとオンプレミスを組み合わせたハイブリッド環境により、日本独自の要望に応えられるインフラを構築することで、お客さまにもう一つの選択肢を提供できると考えています。
いずれにしてもデータがあるところにビジネスは必ずあります。例えばデジタル化によるペーパーレス化によってデータを表示するモニターの需要が増え続け、データの増加によってデータをためるストレージの需要が増え続けます。
当社の社名の通りデータの入口(インプット)と出口(アウトプット)を取り持つ(機器)ことが当社(アイ・オー・データ機器)の役割です。当社の製品やソリューションの価値をお客さまの困りごとに役立てていただく、ニーズよりもシーズの視点でビジネスを展開して成長を目指したいと考えています。