EOSに向けてAzureの重要性を喚起しよう
経営目線のクラウド移行はDXへの第一歩

特集でも触れた通り、Windows Server 2012/R2のEOSを受けて、クラウド基盤である「Microsoft Azure」(以下、Azure)への移行が期待される。この節目を機にAzureの需要を喚起したいところだが、ユーザー企業側でAzureをITインフラ基盤として活用するメリットの認知は低い。これを踏まえ、本稿から3号にわたって「EOS対策・Azure編」を掲載していく。今回はAzureを提案する必要性について俯瞰した上で、基本的な活用例などを紹介。ユーザー企業の導入シナリオ構築のための参考にしてほしい。

拡張性の高いITインフラ基盤へ

日本マイクロソフト
パートナー事業本部
コーポレートソリューション営業統括本部
コーポレートソリューションパートナー営業本部
清水利幸 氏

 EOSを迎えるWindows Server 2012/R2。EOS後はセキュリティパッチ、QA対応や障害発生時のサポート終了、ハードウェア老朽化による業務停止リスクなどさまざまなリスクが見込まれる。また、中堅中小企業が業務アプリケーションを動かしていたWindows ServerのOSを移行するような場合、大掛かりな作業となる。今期のEOS以降もOSのサポート終息が予定されている中で数年単位にハードウェアをリプレースするとなると、工程が多く投資負担も増えるだろう。そうしたオンプレミスのシステムが一番効率的な運用形態なのか。従来のシステム形態を見直し、ユーザー企業のDXを促すチャンスが到来している。

 従来までオンプレミスサーバーを運用していたユーザーにとって、Microsoft Azureのメリットの認知度は低い。しかし、Azureは一般的なファイルサーバーなどをクラウド上のソリューションにスムーズに代替でき、拡張性も高いため移行先として最適なのだ。日本マイクロソフト パートナー事業本部の清水利幸氏はAzure提案時に販売店が留意すべき指針を説明する。「EOSに伴う移行に際しては、お客さまのDXにつながるメリットを見つけ出して提案することが重要です。その上では、Windows Server のバージョンアップ対応を検討しているお客さまだけでなく、Windows Server 2012/R2でないと動かないシステムを運用しているお客さまにも配慮が必要です。サポート終了対象のOSでもAzureに移行すればサポート終了日から最長3年間のセキュリティ更新プログラムが無償で受けられ、安全に稼働させながら徐々に移行を進められます。EOSのタイミングはインフラ基盤の仕組みを振り返る絶好の機会であり、販売店さまにはユーザー企業のシステムを改善のための啓蒙が求められています」

ファイル共有やバックアップを効率化

 Azureならではの利点を清水氏はこう続ける。「Azureは、既存環境を極力変更せずに移行するリフト&シフトの考え方を基本に設計しています。これにより、オンプレミス環境で動かしていたアプリケーションやデータをスピーディーに移行でき、工数削減につなげられます」

 利用特典も利便性が高い。例えば、オンプレミスのWindows ServerとSQL ServerのライセンスをAzureで流用できる「Azure ハイブリッド特典」を提供している。本特典の活用や「リザーブド インスタンス」により、コスト削減を実現する。

 次に、移行シナリオとして考えられる代表的な想定シーンを考えていこう。まずは、主流なファイルサーバーを移行する方法がある。ファイルサーバーは、日に日にデータが増えており常に容量管理や性能維持が求められる。これらへの解決策として、右ページに二つを挙げる。

①クラウドストレージとファイル共有サービスを組み合わせる共有方法
②複数拠点に点在したファイル共有を統合管理する方法

 ①では、サーバーを使わずにAzure基盤上でファイル共有を行う「Azure Files」、ファイル ストレージ サービス「Azure NetApp Files」を利用できる。PaaSのため、ハードウェアの運用管理はマイクロソフト側で行われ、障害監視や保守対応を維持して負荷を軽減可能だ。②では、Azure Storageサービスで提供されるファイル共有サービス「Azure File Sync」を活用。異なる拠点のファイルサーバーデータをAzure Filesに同期する仕組みを構築できる。「複数拠点間の従業員同士で、スムーズにファイル共有を行えます。Azure File SyncだけでなくAzure Files上にもファイルが保存されるため、データが消失しても復元可能です」(清水氏)

 EOS移行後のハードウェア障害などへの対策が不十分な場合や、地震や火災などの災害による業務継続不可など、バックアップへの対応も重要な留意事項となる。しかし、バックアップソフトやバックアップに必要なストレージ、災害時に避難させるサーバー、災害用のデータセンターの契約などコストが高く体制整備の道のりは長い。そこで、マイクロソフトでは以下の三つの方法を提示している。

①ファイル/フォルダー単位のバックアップ
②仮想マシンごとバックアップ
③オンプレミスのサーバーをAzureで復旧

 上記でも②の方法では、オンプレミスのサーバー単位で自動でバックアップを行うので運用保守に重きを置く企業に向けて提案しやすそうだ。動作環境はWindows OS、Linuxといった動作環境のほか、SQL Serverのバックアップまでカバーする。③ではオンプレミス上のサーバーのイメージをAzureの別リージョン上に定期的に複製する。「Azure側のVMは災害時に起動されるため、通常運用時に費用をかけず災害時のみに『Azure Site Recovery』で復旧した際の稼働代だけで済みます。災害時の切り替えに役立てられます」と清水氏はアピールする。

 Windows Server OSに標準搭載されているRDS(Remote Desktop Service)に近い機能をセキュアに活用できるDaaSソリューション「Azure Virtual Desktop」(AVD)も便利だ。また、仮想デスクトップ活用に際し、クライアントOSの活用やマイクロソフトライセンスの活用などにも対応する。クライアントOSの活用では、仮想デスクトップの方式としてシングルセッションとマルチセッションを活用可能だ。シングルセッションは1ユーザーがWindows 11/10環境を占有できるのに対し、マルチセッションでは複数ユーザーで単一のWindows環境を共有利用できる。クライアントアプリケーションを動かせるなどリモートコミュニケーションの多い企業にメリットの多い活用例だ。マイクロソフトライセンスの活用では、Microsoft 365 E3/E5やMicrosoft 365 Business Premiumなどオンプレミスのライセンスを使ってAVDを展開できる。「従来のライセンスを有効活用することは、AVDを活用されるユーザー企業がEOS対応時にかけてきた契約コストや再構築の手間を大幅に減らせるでしょう。マルチセッション方式などを活用すれば、コストを抑えて複数ユーザー間でDaaS環境の再構築が可能です」と清水氏はDaaS活用に向けたメリットを語った。

 基本的な概観を押さえた上で、次号では開発業務などより専門性の高い業務のEOSリスクとそれをカバーするソリューションについて具体例を交えて紹介する。