AIによる保育所入所選考で
待機児童問題と自治体業務改革を両立
Fujitsu MICJET MISALIO 子ども・子育て支援 保育所 AI入所選考
特に共働き世帯において、出産後に子供を預ける保育所の存在は非常に重要だ。自治体側もできる限り保護者の希望に添う形で入所できるよう、保育所の入所選考を行っているが、その作業の負担は大きい。富士通Japanはその保育所入所選考の作業をAIによって大幅に低減できるシステムを提供し、子育て世帯と自治体の双方の課題解決に取り組む。
負担が大きい保育所入所選考
女性の社会進出が進む中、仕事と子育てを両立するために必要とされているのが保育所だ。2015年4月には「待機児童の解消」や「保育の質の確保」を目的に「子ども・子育て支援新制度」が施行され、認定型こども園といった保育施設や事業を拡大することで、必要とする全ての家庭が子育て支援を受けられる環境の整備を進めた。
その一方で、保育所の利用率が増加するに伴い、自治体側の入所事務の負担は増加している。保育所の入所選考は自治体が行うが、選考にかかる要員や時間が膨大であることや、保護者からの多様な希望に選考ルートが追い付かないことなど、さまざまな課題が生じている。施設の空き状況に対して、児童の希望や優先度などに配慮しながら割り当てを行う入所選考会は、10日以上の時間を要するケースもある。
保護者からすれば、入所選考から落ちた場合、育休の延長や二次募集への応募など、次の手を打つ必要がある。入所決定結果を早めに知りたいといった要望や、兄弟姉妹と同じ保育所に入所させたいといった細かな希望条件への対応や、それらが通らなかった場合の納得できる説明が欲しいといった要望があるのだ。そのため自治体では、入所選考を“迅速に”“きめ細やかに”“正確に”行うことが求められる。
こうした保育所入所選考の課題を解決するため、富士通Japanが開発したのが「Fujitsu MICJET MISALIO 子ども・子育て支援 保育所AI入所選考」(以下、保育所AI入所選考)だ。同社は自治体向けサービスとして「MICJET MISALIO 子育てソリューション」を提供しており、その中に「MICJET MISALIO 子ども・子育て支援」(以下、子ども・子育て支援)という業務支援製品がある。保育所AI入所選考は子ども・子育て支援のオプション製品として提供されているが、単独での導入も可能だ。
10日掛かる作業を数十秒で処理
富士通Japan ソリューションビジネス本部 行政ソリューションビジネス統括部 盛 純子氏は「保育所AI入所選考は、富士通のAI技術『FUJITSU Human Centric AI Zinrai』を用いることで、これまで10日以上かかるケースのあった入所選考作業をわずか数十秒で処理できます。内定通知書の発送までの期間を大幅に短縮できるだけでなく、職員の作業負荷軽減や、住民満足度の向上につなげられる製品です」と語る。保育所AI入所選考では、選考会中に辞退者が出たり、申請内容と状況が変わったりした場合でも、その時点で何度でも同じ基準で選考が行える。また「きょうだい(兄弟姉妹)条件」など複雑な選考条件も考慮した上で、最適な選考結果を導き出せるという。選考会の時間が大幅に短縮されることで、結果一覧から最終確認や検討・微調整の討議に時間をかけたり、内定通知書を発送した後の問い合わせに対応する時間を増やしたりといった対応も可能になるのだ。
「基幹システムから出力した選考情報をそのまま保育所AI入所選考システムに取り込めるため、他社システムを利用している自治体さまも保育所AI入所選考の導入は可能です。また、当社の子ども・子育て支援を利用している自治体さまは、選考結果や修正した申請情報を自動で取り込めます。内定通知書をより早く発送できるため、業務の効率化につながります」と富士通Japan ソリューションビジネス本部 行政ソリューションビジネス統括部 マネージャー 杉田真樹氏。
本システムは製品化に当たり、政令市2団体、特別区2団体との実証実験を実施している。実際に2017年度の入所希望児童を対象として、自治体職員が行った入所選考結果とAIが行った結果を突合させて検証したという。するとAIと職員による入所選考結果は約93〜94%が一致することに加え、AIによる選考結果の方が入園できる人数が増えたり、住民の希望を反映した選考ができていたりしたことが分かったという。これらの実証を経て2018年11月12日より提供をスタートした保育所AI入所選考は、現在81団体で採用され、活用が進んでいる。
AIで自治体の業務を改革
「当初は大きな自治体さまに需要があるのではないかと考えていましたが、現在は規模を問わずさまざまな自治体さまに導入いただいています。幼児教育無償化による入園希望者数の増加により導入が本格化したこともありますが、自治体の働き方改革の機運が高まっていることも導入の増加につながっているでしょう」と杉田氏は話す。
保育所AI入所選考は前述した通り、単体でも導入できるシステムだ。子ども・子育て支援と組み合わせて利用している自治体と、単体で利用している自治体の割合を尋ねると「大体半々くらいですね。子ども・子育て支援はサーバーにインストールして使用する製品ですが、保育所AI入所選考はPC上で動作するため、簡単に運用できます。すでに他社システムを利用している場合や、導入コストを抑えたい場合などに単体導入を選択するケースが多いです」と盛氏。
杉田氏は「保育所AI入所選考は自治体の業務改革に導入できる製品です。これまで同じ業務が人でもできていたため、費用をかけて電子化する必要があるのかと思われるケースもありますが、政府も自治体DX計画をうたっていますし、導入することで作業負担が大きく低減できます。実際、デジタル田園都市国家構想の補助金を活用して保育所AI入所選考が導入された事例もあり、こうした制度を活用しながら自治体DXにつなげてもらえたら嬉しいですね」と今後の展望を語ってくれた。
母子手帳をデジタル化し
妊娠・出産・子育てをサポート
母子モ
女性の月経周期や妊活支援などを行える健康管理アプリ「ルナルナ」を提供しているエムティーアイ。そのユーザーから「赤ちゃんを出産した後も、アプリで成長の管理がしたい」という要望を受けて生まれたのが、電子母子手帳アプリ「母子モ」だ。約8年前にサービスをスタートし、現在は子会社である母子モに事業を継承している。
「母子モ」は、市町村が交付する母子健康手帳(以下、母子手帳)と併用して使えるアプリだ。妊娠から出産、子育てまでを切れ目なくサポートする。アプリでは、妊娠中の体重グラフや妊婦健診といった妊娠中に管理するべき情報や、予防接種管理、乳幼児検診といった子育て中に管理するべき情報を一元的に管理できる。「妊娠中」「子育て中」とメニューを切り替えることで、その時に必要な機能に絞って表示できる点も利便性が高い。また、下部のボトムナビ(メニューバー)から「地域の子育て情報」を選択することで、自治体から母子モ利用者に向けて配信されている子育て情報を一覧で確認できる。母子モ 取締役 COO 帆足和広氏は「少子高齢化や核家族化の進行、地域のつながりの希薄化によって、子育てに不安を覚えている家庭は少なくありません。母子モは、全国の自治体さまと協力して提供することで、子育て世帯の不安感や孤立感を低減し、子育ての充実感を増加させるアプリです」と母子モの良さを語る。
特に利用者から好評なのが、予防接種管理機能だ。「赤ちゃんの予防接種には、接種回数だけでなく、摂取タイミングや接種間隔など、複雑なルールがあります。母子モでは予防接種の事前のお知らせやスケジュール管理、忘れ防止アラートなどの通知によって、予防接種の要請をサポートしています。また自治体さま向けに、『母子モ 子育てDX 小児予防接種サービス』を提供しており、保護者や自治体、医療機関における予防接種のデータ入力や接種間隔確認といった手間を削減し、シームレスに連携できる仕組みを提供しています」と帆足氏。保護者による予診票の入力や医療機関での確認も全てデジタル上で完結するため、非常に好評だと言う。小児予防接種サービスの提供基盤には3省2ガイドラインやISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)に対応したMicrosoft Azureを採用しており、市民の個人情報をセキュアな環境で管理できる。
母子モは現在、全国510以上の自治体に導入されている。自治体規模はさまざまで、政令都市はもちろん小規模な町村でも利用が進んでいる。帆足氏は「現在当社では、アプリの母子モだけでなく前述した子育てDXのサービスを充実させ、保護者のみならず医療機関や自治体に子育て支援を広げています。手続きをデジタル化することで人件費や作業負担が削減できますし、デジタル化によって生まれたデータを活用することで、個別最適化された支援につなげられるようになります。データを活用した状況把握で、適時・適切な支援への橋渡しを実現していきます」と展望を語った。
IoT技術の活用が
見守りの空白地帯をなくす
otta
子育て世帯と地域のつながりが希薄化する中で、子供を見守る目も減少している。子供の見守りが減ることは、重大な事件の発生に繋がりかねない。そうしたリスクを低減するため、地域の見守りをIoTによって実現しているサービスがある。
「実は、少子化で子供の数は減っている一方で、誘拐など重大な犯罪件数は増えているんですよ」そう語るのは、otta 代表取締役社長 山本文和氏。ottaは、IoT技術によって子供を見守るサービス「otta」を提供する企業だ。その開発経緯を、山本氏は次のように振り返る。「2012年ごろに、当時私が住んでいた広島で子供の連れ去り事件がありました。30分未満で解決した事件でしたが、その子にとっては大きなトラウマになったと聞いています。また私の娘が4歳の頃の事件だったため心配になった、というのも開発の直接の理由ですね」
そうした山本氏の経験から開発されたottaは、対象地域に住む全ての人が利用できる「BLE見守りサービス」と、保護者が自信の子供に万が一の備えや日常の安心のために活用できる「GPS見守りサービス」が用意されている。BLE見守りサービスは「otta タウンセキュリティサービス」とも言い、自治体や校区単位で導入し、そのエリアの子供たちを見守るサービスだ。
BLE見守りサービスの利用イメージは以下の通り。まず、利用エリアの子供たちは専用の見守り端末(ビーコン)を所持する。利用エリアには、学校や店舗、通学路といった見守りが必要な場所にLTE内蔵の見守りルーターを設置することで、端末を所持した子供がそこを通過すると位置が記録される。また、見守りアプリをインストールしたスマートフォンを持つ「見守り人」や、車載タブレットにインストールした「見守りタクシー」などとすれ違った場合でも、その位置が記録される。
「ottaでは利用する保護者に対して、無料プランと有料プランを用意しています。無料プランの場合は、万が一子供が帰宅しないなど、トラブルが発生した場合に警察などの公的機関に問い合わせると、当社のデータセンターからその行動履歴を提供し、迅速な解決につなげるというものです。万が一事件に巻き込まれていた場合、最後にいた場所などの手がかりがあれば迅速な解決につながります。見守りの空白地帯を生み出さないことが、子供を守る上で重要です」と山本氏。
有料プランでは、保護者があらかじめ設定した見守りスポットを通過した際の通知や、地図による位置確認がスマートフォンアプリで行える。例えば、学校に設置された見守りルーターがビーコンを検知するとそれを通知するため、学校に登校したことなどが把握できるのだ。
「現在21自治体に導入され、活用が進んでいます。中でも代表的なのが大阪府箕面市の事例で、市立の小中学校の全児童生徒に見守り端末を無償配布しているほか、高齢者の見守りにも活用されています。また、大阪府北部地震で停電が起こった際などは、見守りスポットの死活監視を利用し、停電からの復旧状況をリアルタイムに把握し、給水所をどこに作るかといった災害支援の基盤にも活用したと聞いています」と山本氏。ottaはこれらのテクノロジーを活用し、バスへの子供の置き去りを防ぐ「登園バス見守りサービス」もこの冬からスタートする予定で、IoTによる子供の見守りを、これからも強化していく。