文部科学省2023年度予算案から見た
深化し続ける教育DX

GIGAスクール構想が本格的に始動した2020年から3年が経過した。その間、児童生徒たちの手元には1人1台の学習端末が行き渡り、学校によってはこれまでできなかった学びをデジタルで実現しようとするなど、活用の“深化”が見られるようになった。一方で、端末整備が終わってから顕在化した課題も存在する。文部科学省では2023年度予算案および2022年度第2次補正予算において、それらの課題を解決する事業に取り組む。デジタル田園都市国家構想においても地方創生の重要条件として挙げられる教育のDXに向けた取り組みを見ていこう。

地域や学校によって異なるデジタル活用
その格差を解消する取り組みとは

全国の小中高校で1人1台端末が整備された一方で、その活用には地域差が生じている。文部科学省はそうした地域や学校間の格差を解消するため、都道府県単位で連携を図る仕組みの構築や、学びのDXを実現するための支援基盤構築を進めていく。

端末整備後に顕在化した課題とは

文部科学省
初等中等教育局
修学支援・教材課
課長補佐
中嶋光穂 氏

 児童生徒1人につき1台の情報端末と、高速なネットワーク環境を一体的に整備することを目指すGIGAスクール構想が発表されたのは2019年末のこと。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、当初の予定よりも大幅に整備が前倒しされた。2021年5月に発表された「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備(端末)の進捗状況について(確定値)」では全自治体の96.5%となる1,748自治体等が、2020年度内に端末納品を完了させる見込みであることが示されている。

 その後2022年2月に発表された「義務教育段階における1人1台端末の整備状況(令和3年度末見込み)」では全自治体の98.5%となる1,785自治体等が2021年度内整備完了予定としている。残りの1.5%となる27自治体も、主に小学校低学年などの一部学年において整備が未完了ながら、既存端末などで発達段階に応じた活用を行っており、現段階においては義務教育段階の全ての子供たちが1人1台の端末を活用した学びに取り組んでいると言えるだろう。

 一方で、新たな課題も顕在化している。ハードウェアの整備が先行した結果、地域や学校によってはICT活用が進んでおらず、学びの格差につながっているのだ。GIGAスクール構想が発表された当初、1人1台端末の整備は2023年度を達成目標としており、段階的な整備を予定していた。それが前述した通り、コロナ禍で大きく前倒しされた影響で、学校現場の対応が追いついていないことも格差の一因として挙げられるだろう。また、単なる紙からデジタルへの置き換えにとどまってしまい、子供たちの学びの変革につながっていなかったり、校務のデジタル化が進んでおらず、教員がデジタルの恩恵を受けられていなかったりといった課題も生じている。

自治体間の連携で格差をなくす

 そうしたGIGAスクール構想によって生じた課題を解決するため、文部科学省はGIGAスクール・学校DX関係予算として、2023年度予算案および2022年度第2次補正予算として合計で138億円を計上している。その対象事業は、大きく分けて「地域・学校間格差の解消」「子供の学びの変革」「校務・教育行政のDX」の三つで構成されている。

 一つ目の地域・学校間格差の解消では、「GIGAスクール運営支援センターの機能強化」に取り組む。本事業は、2022年度に実施された「GIGAスクール運営支援センター整備事業」の継続事業だ。2022年度第2次補正予算として71億円、2023年度予算案として10億円が計上されている。

 GIGAスクール運営支援センター事業は、都道府県などの自治体が民間事業者へGIGAスクール運営支援センター業務を委託するための費用を補助する。2022年度第2次補正予算および2023年度予算案ではこのGIGAスクール運営支援センターの機能強化を図る。

 機能強化のポイントは2点ある。一つ目は、都道府県を中心とした広域連携の枠組みをさらに発展させていくことだ。自治体によっては知識やノウハウが足りておらず、それ故にICT活用が進んでいないケースがある。都道府県単位でそうした自治体と連携することで、自治体間の格差を解消していくことを目的としている。ICT活用の議論や実践について有識者を交えて協議するため、都道府県や市区町村の各教育委員会やGIGAスクール運営支援センター、学校DX戦略アドバイザーなどで構成する「GIGAスクール推進協議会」(仮称)も設置し、域内の教育水準の向上を図る。

 GIGAスクール推進協議会は、GIGAスクール運営支援センター事業を実施する際に、併せて都道府県・市区町村が連携して自治体間の定期的な意見交換の場として設置をする必要がある。すでに同様の会議体が設置(ICTの活用などに特化していることが必須)されている場合は、必ずしも新設する必要はない。協議会はオンラインや集合形式などで定期的に実施することで、域内の全市区町村の情報共有を図る。

 文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課 課長補佐 中嶋光穂氏は「先日、ある自治体の推進協議会にオンラインで参加したところ、同じ県内の複数の自治体で古いアクセスポイントを残し、新しいアクセスポイントを追加したことで、学校内ネットワークの通信に支障が出てしまっているという事例が共有されました。都道府県内で情報共有を行うことで、小さな自治体で起こったトラブルと同様の事例が、ほかの自治体でも発生していることなどが把握され、先行事例を基に解決できるといったメリットがあります」と話す。なお、前述した学校DX戦略アドバイザーに関連する「学校DX戦略アドバイザー事業等による自治体支援事業」にも「GIGAスクールにおける学びの充実」(P.64)から一部予算が割り当てられており、1人1台端末の日常的な活用において、課題を抱える自治体や学校に集中的な伴走支援を実施するため、国がアドバイザーとして任命した者が地域や学校に直接助言を行うことで、地域間・学校間の格差解消を図る。

フェーズに応じたサポートを充実

 二つ目は、GIGAスクール運営支援センターにおける支援メニューの充実だ。トラブル対応業務といった従来の支援メニューに加え、自治体の利活用フェーズに応じて支援メニューを充実させていく。「現在のGIGAスクール運営支援センターは、多くの場合トラブル対応へのヘルプデスクのような立ち位置です。しかし端末活用が進むにつれて、ヘルプデスクにとどまらない役割が求められてくるでしょう。例えば、端末活用を始めたばかりの自治体に対するトラブル対応をフェーズ1とするのであれば、端末活用が進んできた自治体に対する、日常的にICT機器を活用して学べる環境の構築などをフェーズ2、端末活用が定着している自治体には、学びのDX化に向けたアドバイザーを派遣することなどをフェーズ3とするように、段階的な支援メニューを整備します」(中嶋氏)

 例えば、現場の対応を向上させるため、教員や事務職員、支援人材のICT研修を行ったり、学校外の学びの通信環境を整備したりするため、モバイルWi-Fiルーター広域一括契約などを行う。これは校外学習や校庭での学びといった、学校外でタブレットを活用する場合の通信環境を支援するためのものだ。前述した広域連携のスケールメリットを生かし、GIGAスクール推進協議会や自治体などで一括契約を行うことでコストを抑え、重複事務の排除も実現する。なおここでの一括契約の補助では原則としてハードウェア(ルーター本体)は含まず、通信費のみを対象としている。このほかにもフェーズに応じた支援メニューの拡充を進めていく。

 GIGAスクール運営支援センターの整備事業では、この支援センターの整備を支援するため都道府県が民間事業者へ委託するための費用の3分の1を国が補助する。しかし、都道府県が域内全ての市町村(政令市を除く)と連携して事業を実施する場合に限り、補助割合を2分の1とする(2022年度補正予算に限る)方針だ。GIGAスクール運営支援センターは自治体間の連携を強化して格差を解消し、持続的・継続的なGIGA環境の支援基盤として、学校現場のICT活用を支えていく。

指導事例創出からコンテンツ整備まで
包括的に学びの変革を支援する

学校現場において、日常的な活用が浸透しつつある1人1台端末。一方でこれらの端末活用は、単なる紙からデジタルの置き換えにとどまってしまっているケースも少なくない。個別最適化された学びや、協働学習といった学びの変革を実現している例は決して多くないのだ。文部科学省が取り組む事業から、子供の学びの変革に必要な仕組みやツール、環境整備などを見ていこう。

教育DXへ向けた活用のステップ

文部科学省
初等中等教育局
修学支援・教材課
専門職
デジタル教科書基盤整備担当
新井亮裕 氏

 GIGAスクール構想で全国の学校に1人1台端末が普及した。その一方、学校現場での活用は紙からデジタルへの置き換えにとどまっており、デジタルトランスフォーメーションを実現するための3ステップ「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション」(DX)に例えると、デジタイゼーションの段階と言えるだろう。

 その活用ステップをさらに前に進め、学校DXを実現させるため、文部科学省の2023年度予算案では子供の学びの変革を実現するための事業が数多く盛り込まれている。

 まずは、「GIGAスクールにおける学びの充実」だ。これは1人1台端末環境の本格運用を踏まえ、効果的な活用を通じた児童生徒の学びの充実に向けて、実践事例の創出や普及、要支援地域への指導支援、教師の指導力向上支援のさらなる効果を図るものだ。2023年度予算案として3億円、2022年度第2次補正予算として9億円が計上されている。

 本予算において、「リーディングDXスクール事業」「高等学校情報科等強化によるデジタル人材の供給体制整備支援事業」「情報モラル教育推進事業」「児童生徒の情報活用能力の把握に関する調査研究」のほか、前述した学校DX戦略アドバイザー事業等による自治体支援事業を含む5事業に総合的に取り組む。本記事ではリーディングDXスクール事業と高等学校情報科等強化によるデジタル人材の供給体制整備支援事業の2事業にフォーカスを当てて紹介する。

実践的活用事例を随時共有

文部科学省
初等中等教育局教科書課
課長補佐
佐々木 葵 氏

 リーディングDXスクール事業は、1人1台端末の活用状況を把握・分析するとともに、効果的な実践事例を創出・モデル化する。これらの実践事例を都道府県や学校種を超えて横展開したり、全国に広げたりすることにより、全国全ての学校でICTを“普段使い”できるよう取り組みを進めていく。文部科学省 初等中等教育局 学校デジタル化プロジェクトチーム 情報教育振興室室長補佐 大塚和明氏は「2022年4月に実施した『全国学力・学習状況調査』を見てみても、学校におけるICT活用が一定程度進んでいる一方で、児童生徒の特性や学習進度に応じた指導などには活用が進んでいない状況が見られます。リーディングDXスクール事業では先進的な活用を行う学校を指定し、その実践的な活用事例、指導事例を創出して全国に広げることで地域間の活用格差解消に取り組んでいきます。また、こういった事業での事例創出は年度末に報告会などで共有されるケースが多いですが、本事業ではリーディングDXスクールのポータルサイトを新たに作成し、そこで随時情報の更新を行う予定です」と語る。

 高等学校情報科等強化によるデジタル人材の供給体制整備支援事業はその名称の通り、主に高等学校(以下、高校)の情報科を指導する人材を強化していく取り組みだ。高校では、2022年度の指導要領改訂に伴い共通必履修科目として「情報Ⅰ」が新設された。2025年実施の大学入試共通テストからは、新たに情報Ⅰが出題されるなど、高校における情報科指導の重要性は大きい。その一方で情報科は、免許外教科担任や臨時免許の教員が教えている割合がほかの教科と比べて多く、専門人材の確保が急がれている。本事業ではそうした専門性の高い指導者が育成・確保されるエコシステムの確立に向けて、大学や専門学校、民間企業、NPOなどと各都道府県の教育委員会が協議できる場を設けている。また、より高度な内容を扱う「情報Ⅱ」も2023年から新設されるため、その指導に向けた教材などの開発も進めていく。

まずは英語や数学・算数から

 学校現場に整備された1人1台端末だが、学びを進めていくためにはコンテンツも必要だ。2019年4月から、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用できるようになり、2020年3月に7.9%だった整備率は、2022年3月時点で36.1%にまで向上している(出所:文部科学省「令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」)。文部科学省では2024年度から段階的に、まずは小学校5年生から中学校3年生を対象に英語を、次に算数・数学やその他教科については、学校現場の環境整備や活用状況などを踏まえながら、段階的に学習者用デジタル教科書を提供していく方針を固めている。現在はその在り方を見据え、教科や学年を絞りつつも全国の小中学校へ、学習者用デジタル教科書の提供を進めている。

 そうした学習者用デジタル教科書にまつわる事業が「学習者用デジタル教科書普及促進事業」だ。「学びの保障・充実のための学習者用デジタル教科書実証事業」(2023年度予算案:15億6,000万円)と「学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業」(2023年度予算案:2億4,100万円)で構成されており、合計で2023年度予算案として18億円を計上している。

 学びの保障・充実のための学習者用デジタル教科書実証事業では、特別支援学校小学部・中学部および特別支援学級を含む小中学校などを対象にデジタル教科書の提供を進めていく事業だ。2024年度以降のデジタル教科書の在り方を見据え、全ての小中学校等を対象に英語を、一部の小中学校等を対象に算数・数学の学習者用デジタル教科書の提供を進めていく。

「本事業は2021年度からスタートし、規模がどんどん広がっており現在英語については、全ての小中学校等を対象に配布している状態です。特に2023年度予算案において英語と共に提供する算数・数学は、2022年度の実証で現場のニーズが高かった教科ですね。展開図やグラフなど、デジタル上で表示することで理解がしやすくなります。2024年の学習者用デジタル教科書の在り方を見据え、2022年度は約2割程度だったところを、2023年度は約5割の普及を目指していきます」と文部科学省 初等中等教育局教科書課 課長補佐 佐々木 葵氏は語る。

 学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業では、前述した実証事業対象校に対して全国でアンケートを実施して、マクロな視点から導入効果や傾向・課題などの分析を行う。また対象以外の学年や教科についても、一部学校に対してデジタル教科書を提供し、傾向分析・効果検証を進めていく。主体的・対話的で深い学びに資するデジタル教科書の効果的な活用方法などについての検討を本事業で進めていく方針だ。

学びに最適な通信環境を検証

 デジタル教科書や教材の活用が進む一方で顕在化しているのが、ネットワーク環境への課題だ。中央教育審議会初等中等教育分科会教科書・教材・ソフトウェアの在り方ワーキンググループにおいても「全ての児童生徒が使用するデジタル教科書に求められることはアクセシビリティーをはじめとして広く活用されるデジタル教科書の機能(デジタルのメリットを活かす機能)は継続・充実しつつシンプルで端末・通信負荷の観点から軽いものであること」とされており、教科書コンテンツの軽量化が求められる一方で「通信環境等の改善に取り組むとともに、円滑な授業実施の観点から、多様な学校の通信環境等を踏まえ、データの軽量化に加えて、音声・動画等のデータの分離配信等が必要」と指摘されている。

 こうしたデジタル教科書・教材・ソフトウェア利用時のネットワーク負荷に対応するため、すでにデジタル教科書やデジタル教材、学習支援ソフトウェアの活用等に取り組んでいる学校の通信環境を調査・研究し、その結果を全国の自治体へ共有する事業が「デジタル教科書・デジタル教材等の更なる環境のための通信環境の調査研究」だ。2022年第2次補正予算として5億円を計上している。文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課 専門職 デジタル教科書基盤整備担当 新井亮裕氏は「学校はオフィスや家庭と違い、1教室で40台の端末を同時に使用するなど、瞬間的に大量の情報が流れ、負荷が大きくなりがちです。また、さらに活用が進むにつれて、通信帯域もこれまで以上に要求されることになるでしょう。しかし、ネットワークは目に見えないので、どのように整備すればいいのか分かりにくい側面があります。そこで、学校の実際の通信状況等を調査し、必要となる要件を研究し、知見を共有するとともに、学校現場や教育委員会の人たちが整備の際に使えるエビデンスとなるようなガイドブックのようなものの制作もしていきたいです」と語る。

学びを保障する公的なCBTシステム

 1人1台端末で使用する学習コンテンツとして、文部科学省CBT(Computer Based Testing)システム「MEXCBT:メクビット」(以下、MEXCBT)も忘れてはいけない。2020年度から開発や実証を進めてきたMEXCBTは「教育DXを支える基盤的ツールの整備・活用」の中の事業「文部科学省CBTシステム(MEXCBT)の改善・活用推進」において、開発に約2億9,500万円(2022年度第2次補正予算)、運用に約4億2,000万円(2023年度予算案)が計上されている。

 MEXCBTは小中高校の子供たちの学びを保障する観点から、学校や家庭で学習やアセスメントができる公的なCBTシステムで、国際標準規格に準拠することで利活用者や事業者を超えて使える汎用的な仕組みを持つ。国や自治体などの公的機関等が作成した問題が約3万問搭載されているほか、教員が作成した問題も用意されており、自治体、学校を問わずに利用できる。機能としては選択式や短答式問題は自動採点が可能であるほか、記述式問題に対しては教員の手動採点も行えるよう機能強化がなされている。

 また、全国学力・学習状況調査のようなアセスメントにおいてもMEXCBTの活用を予定している。まずは2023年4月の全国学力・学習状況調査の中学校英語「話すこと」調査での活用を予定している。また、地方自治体が実施する学力調査(地方学調)での活用を検討している自治体も増えてきており、文部科学省が中心となってそれらの実施を強く推進していく方針だ。

「ICT活用によって生まれた教育データの利活用を促進するには、基盤となるルールとツールの整備が不可欠です。MEXCBTはそうした全国共通で活用できる基盤的ツールと言えます。現在7割以上の小学校と、ほぼ全ての中学校で導入されており、普段の授業や朝の学習時間、宿題などで活用されています」と語るのは、文部科学省 総合教育政策局 主任教育企画調整官・教育DX推進室長の桐生 崇氏。また共通ツールの整備事業として「文部科学省WEB調査システム(EduSurvey)の開発促進」(P.67)も実施される。

 こうしたデジタルデータを活用する上では、教育データの安全・安心の確保は不可欠な要素だ。実際にデータの取り扱い等について、教育現場から心配の声も上がっており、現在文部科学省・教育データの利活用に関する有識者会議において議論を深めている。桐生氏は「安心感がなければ活用は進みません」と指摘する。文部科学省では前述した有識者会議において、教育データ利活用に当たって自治体・学校が留意すべき点を記載したQ&A集を2022年度中に作成して公表する予定だ。これらのガイドライン作成を含め、データ標準化の推進や利活用促進のための仕組み構築などを行う事業「教育データ利活用の推進」にも2023年度予算案として約1億200万円、2022年度第2次補正予算として約5,900万円が計上されている。

より発展的に学ぶ環境整備

 GIGAスクール構想の次を見据えた事業も行う。「次世代の学校・教育現場を見据えた先端技術・教育データの利活用推進」では2023年度予算案として1億円が計上されている。本事業では三つの取り組みを実施する。一つ目は「最先端技術及び教育データ利活用に関する実証事業」。センシングやメタバース、AR、VR、AIの活用や、3Dプリンターなどが整備されたファブスペースなどの先端技術の活用についての実証研究を行う。

「既存のコンピューター教室を発展させ、ファブスペースとして利用する学校なども増えてきています。一方で、1人1台端末が整備されたことでコンピューター教室をなくしてしまう学校などもあります。しかし、2022年12月19日に学校現場向けの事務連絡で通知したように、プログラミング教育を進めていく上では1人1台端末から発展的に学習に取り組めるよう、より高性能なPCが不可欠であり、コンピューター教室のさらなる発展が求められます」と文部科学省 初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチーム 学びの先端技術活用推進室 専門官 酒井啓至氏は語る。本通知は事業と直接の関わりがあるものではないが、文部科学省の考えるコンピューター教室の在り方を示していると言えるだろう。

 二つ目は「先端技術を中核に据えた新たな学校(Super DX School)の設置・運営に関する実証事業」として、先端技術の活用を前提とした教育方法や学校経営に取り組む新たな学校「Super DX School」の新設に関する実証・検証を行っていく。

 三つ目の「実証事例を踏まえた先端技術の活用方法・諸外国の先端技術の動向に関する調査研究」では、前述した二つの事業の実証地域の取り組み状況の調査・分析などに加え、諸外国における教育での先端技術活用の動向調査なども実施し、事業者や学校設置者における技術開発や導入検討を促していく。

 文部科学省は子供たちの学びを変革していくため、事例創出から基盤整備に至る多様な事業展開を、2023年度も継続して進めていく。

教員や教育委員会の負担を軽減する
クラウド時代に適した校務・教育行政DX

子供たちの学びを変革するとともに必要なのが、教員が行う校務や、教育委員会も含めた教育行政の効率化だ。クラウド時代に最適な共通基盤やシステムを整備する事業について見ていこう。

校務システムはデータ連携に課題

文部科学省
総合教育政策局
主任教育企画調整官・教育DX推進室長
桐生 崇 氏

 クラウド時代に最適な共通基盤の整備は、子供の学びだけでなく、教育行政においても進められている。例えば66ページで紹介した教育DXを支える基盤的ツールの整備・活用の事業の一つ「文部科学省WEB調査システム(EduSurvey)の開発・活用促進」におけるEduSurveyは、文部科学省から教育委員会や学校などを対象とした業務調査において、調査集計の迅速化や教育委員会などの負担軽減を実現するクラウド型のシステムだ。実際にEduSurveyを利用した地方自治体へのアンケートの結果、約6割が業務負担の軽減を実感した。2022年度は約30の調査を試行し、2023年度はさらなる利便性向上を実施した上で約100の調査を実施する予定だ。運用に2023年度予算案として約5,900万円、開発に2022年度第2次補正予算として約2,400万円が割り当てられている。

 教育行政だけでなく、教員の校務環境においてもデジタル化は進められてきた。2022年3月時点で統合型校務支援システムの整備率は81.0%と高く、校務効率化に大きく寄与してきた。その一方で、これらの統合型校務支援システムはネットワーク分離によって校内でしか使用できないケースが大半であり、クラウド時代の教育DXに適合しなくなっている。

 さらに、教育委員会などの教育行政データや福祉系データとの連携、あるいは児童生徒の学びの中で生成されつつある学習系システムの膨大なデータとの連携が視野に入っていなかったり、困難であったりと、校務支援システムには課題が多いのだ。

 それを解決するために文部科学省が実施するのが「次世代の校務デジタル化推進実証事業」だ。2023年度予算案として8,000万円、2022年度第2次補正予算として10.5億円を計上している。

次世代校務のモデルケースを作る

本事業では、以下の二つを実施する。一つ目が現在のデジタル化の状況を踏まえながら、域内の市町村と連携した都道府県や、政令市による次世代の校務のデジタル化モデルの実証研究を全国5カ所で実施し、モデルケースを創出する。これらのモデルケースを基に、事業終了後に全国レベルでの効果的かつ効率的なシステムの入れ替えを目指していく。

 二つ目は、上記の実証研究と並行して校務の棚卸しや標準化を行う「校務DXガイドライン(仮)」の策定や、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の改訂を進めていく。

「本事業ではあくまで次世代の校務デジタル化の実証を行うものとなります。実証の次の段階としては、これらの結果を基にした環境整備の支援も考えられますが、現時点では検討の俎上には上っていません。なお、文部科学省が新たに国産の校務支援システムを作るといった事業ではなく、あくまで次世代の校務デジタル化に向けた取り組みをモデルケースの創出などで支援していく形になります」と文部科学省 初等中等教育局学校デジタル化プロジェクトチーム専門官 伊藤兼士氏は説明する。これらの事業を進めていくことで将来的には、校務系データと学習系データを連携あるいは統合して情報を可視化し、学校経営や指導を高度化していくことなどを想定している。

 GIGAスクール構想で導入された端末は、多くの場合5年前後で端末更新を迎える。その次なるフェーズが到来するまでに、文部科学省は地域・学校間格差の解消や子供の学びの変革、校務・教育行政のDXといった課題解決を進めることで、教育DXに向けた取り組みをさらに加速させていく。