従業員エンゲージメントのニーズは継続
Engagement
矢野経済研究所は2022年の従業員エンゲージメント診断・サーベイクラウドの市場規模を発表した。調査によると、市場規模は前年度比132%増の66億円となった。
市場拡大の背景には、従業員を多く抱える大企業での採用増加だけでなく、人的資本経営やSDGs、ESG投資などに対する企業の関心の高まりがある。加えて、企業が従業員の状態を把握したいというニーズの継続も市場の拡大を後押ししている。結果として、同市場の成長は2桁を維持した。
一方、従業員エンゲージメント診断・サーベイは、従業員エンゲージメントを可視化する段階から、定着率や業績の向上などの成果に結びつける方法を模索する段階に入った。その結果、企業がサービスを選別する姿勢は一層強まると矢野経済研究所はみている。
2023年の従業員エンゲージメント診断・サーベイクラウドの市場規模は、2022年と比較して伸び率がやや落ち着き、前年度比121.2%増の80億円を予測している。
2022年と比べて同市場の伸び率が鈍化する背景には、従業員エンゲージメント診断・サーベイと競合となる、従業員エクスペリエンスプラットフォームやタレントマネジメントシステムの需要が伸びていることがある。また2023年3月期決算から、上場企業の有価証券報告書において人的資本情報の開示が義務化された。しかし人的資本情報の可視化ができておらず、開示には至っていない企業が多数を占めた。そのため2023年初頭では、多くの企業が状況を見極めている傾向にあったことも、伸び率がやや抑えられた要因とみられる。今後は具体的な開示方法を模索する中で、従業員エンゲージメント診断・サーベイの活用を検討する企業が増加し、来年の開示に向け企業の動きも活発化すると矢野経済研究所は分析している。
近年の状況に合わせて機能の拡充が進む
近年、従業員の働き方に対する価値観やライフスタイルが多様化するに伴い、個人のエンゲージメントを向上させるためには、組織状態を可視化、分析するだけでは不十分だ。そのため、従業員エンゲージメント診断・サーベイでは、個人のパーソナリティや体調に合った対応や行動を提案できる機能の拡充が進んでいる。
従業員エンゲージメントを軸とした組織改革では、人事担当やマネージャーに負担がかかる。可視化した従業員エンゲージメントのデータ分析や、そこから判明した課題への改善方法の検討といった作業が発生するためだ。そうした課題を解決するために、従業員エンゲージメント診断・サーベイクラウドでは、人事担当やマネージャーをケアする機能がリリースされつつある。
2023年のIT投資は増加予定の企業が多数
IT Investment
IDC Japanは2023年のIT投資動向についての予測を発表した。調査によると、IT投資が減少した2022年に対し、2023年のIT投資は拡大が見込まれている。2023年のIT投資では、IT投資を増加させる計画である企業の割合がIT投資を減少させる計画がある企業の割合を約9ポイント上回っている結果となった。
IT投資拡大の理由について各企業は「ビジネス規模の拡大」「新規システム開発の増加」「経済状況」と回答している。それらを支えるのは、新型コロナウイルスの感染拡大の収束による国内外の経済活動の正常化に加え、半導体、部材不足の緩やかな解消だとIDC Japanは分析する。
また同調査では、基幹システムの稼働環境動向についても調査している。調査によると、2023年の基幹システムのインフラストラクチャの57%がクラウド、モダナイズされたアプリケーションは27%の割合だ。3年後は、インフラストラクチャのクラウド移行およびアプリケーションのモダナイゼーションの双方の進展が見込まれているが、特にアプリケーションのモダナイゼーションが進むとみている。今後のインフラストラクチャのモダナイゼーションについて、同社 Software&Services マーケットアナリスト 村松 大氏は「今後、基幹システムにおいてはインフラストラクチャのクラウド移行からモダナイゼーションが重要なフェーズとなるでしょう。その際、サービスベンダーにおいては、顧客のデジタルビジネスイニシアティブとの統合までスコープを広げた支援を行うことが、顧客とベンダー双方の競争優位性を高める上で重要となります」と語る。
電子黒板市場の成長には民間企業に期待がかかる
Electronic Blackboard
MM総研は2022年度の電子黒板の稼働台数を発表した。調査によると、稼働台数の増加は2018年度より継続され、全体で31.9万台と推計される。このうち、文教が全体の78%を占める約24.9万台、民間企業が約7万台となる。文教・民間企業とも稼働台数は増加傾向だが、特に文教の伸びが大きい。
文教の大きな伸びの背景として、2020年からスタートしたGIGAスクール構想がある。政府による交付金や地方財政措置によって電子黒板の導入が進んでいるのだ。しかし教育ICT化の機運が落ち着き、政府による支援がなくなると、リプレースサイクルが長期化するなど市場が急激に冷え込むリスクがあるとMM総研は警鐘を鳴らす。
さらに今後は、稼働台数の伸びをけん引してきた文教の大きな伸びが期待できない。小学校、中学校、高校において電子黒板やタッチ機能のないモニターやプロジェクターを加えた「大型提示装置」の普及率は2021年度時点で84%であり、2022年度の普及率はより高い割合を占めたと推定されている。すでに普及が行き届いており、新たな需要が見込めないのだ。
民間企業を見てみると、現時点での導入率は9%である一方、検討者は約15%おり、伸びしろが期待されている。しかし電子黒板が発売されてから10年以上たつことを鑑みると、これまでと同様の会議用途での訴求だけでは急激な伸びは期待できない。急激な伸びのためには、起爆剤となるような新たなニーズを掘り起こす必要がある。新たな電子黒板の活用事例として、対話型AIのインターフェースの一つとして試験的に利用され始めている。よりクリエイティブな議論や、議事の進行、取りまとめをスムーズにする目的で電子黒板が利用されているのだ。こうした事例を積み上げ、横展開していくことが市場拡大に求められているとMM総研は分析している。