8割の子供が学習でのICT利用を「楽しい」と回答
ベネッセコーポレーションの社内シンクタンクであるベネッセ教育総合研究所と、東京大学社会科学研究所は、2023年2~3月にかけて「子供のICT利用に関する調査2023」を実施し、その結果を公表した。本調査では学校でのICT活用のみならず、家庭における活用状況も調査を行っている。その調査結果から見えてきた子供たちのICT機器への向き合い方を紹介していこう。
子供の意識に基づく利用調査
ベネッセ教育総合研究所は、東京大学社会科学研究所との共同プロジェクトとして2015年から「子供の生活と学び」の実態を明らかにする調査研究を行っている。本プロジェクトでは小学1年生から高等学校(以下、高校)3年生の約2万組の同一の親子モニターを対象としており、過去の成長の履歴と関連付ける調査を行うことで、子供に取り巻く環境の変化を明らかにしている。
2023年11月8日に発表された「子供のICT利用に関する調査2023」は、この共同プロジェクトで毎年行われる調査とは異なる特別調査の結果だ。本プロジェクトのモニターになっている小学4年生から高校3年生の計9,182名を調査対象とした。
本調査結果の発表日と同日に開催されたオンライン記者説明会において、ベネッセ教育総合研究所の主席研究員 木村治生氏は「GIGAスクール構想によって学校現場に1人1台の端末環境が実現された中で、学校のICT機器の利用は大きく変化しましたが、子供の意識や行動について検討するデータは十分ではありませんでした。今回の分析ではその実態を子供の視点のデータから明らかにするとともに、学校でICT機器を有効に使うためにはどのような方策が考えられるかを検討しました」と語った。本調査では学校でのICT利用実態と、家庭でのICT利用実態がそれぞれ調査されているが、本記事では学校でのICT利用実態をメインに紹介していく。
調べ学習からテストまで多様に活用
ベネッセ教育総合研究所と東京大学社会科学研究所が調査した「子供の生活と学びに関する親子調査」によると、授業でICT機器を使う機会は2020〜2021年にかけて大幅に増加した。そうした環境の中で、学校での学習利用の頻度について「全体では週5日と毎日使う子供がいる中、週1日未満の子供も2割いました。また学校段階別に見ると、小学校での利用が最も多く、中学校、高校と学校段階が上がるほど、学校での学習利用が低頻度になっていく傾向がありました。自治体規模や家庭環境による差は見られず、学校や教員によって利用に差があると考えられます」と木村氏は語る。
「ICT機器を使う授業は楽しい」と回答した子供は全体で約8割と多い。傾向として小学生の方が肯定的な回答が多く、高校生になると7割ほどになるという。一方で木村氏は「成績による差が見られないところが面白い点です。学習関連の調査は成績の上位層ほど肯定的に回答する傾向にありますが、ICTを使う授業は下位層にも比較的ポジティブに受け入れられているようです」と指摘した。また、ICT機器を利用する頻度が高いほど、「楽しい」と回答する割合が多く、使い慣れることで「楽しい」という思いが高まる可能性が指摘された。また、「ICT機器を使う授業を増やしてほしい」と回答した子供は全体で約6割であり、小学生では約7割となった。
ICT機器を利用する学習活動では、いずれの学校段階でも「学習内容について調べる(調べ学習)」が最も多い8〜9割となった。一方、学校段階によるICT機器の使い方の違いもあった。小学生では「教科の練習問題を解く」「プログラミングをする」「自分の考えをまとめて発表する」「友達と考えを共有する」などが多く、高校生では「学習内容を暗記する」「テストを受ける」「先生に連絡する」などの回答が多かったという。「『考えたことや仕上げた課題を保存する』や『学習したことを振り返る』といった、学習履歴の保存や振り返りに活用している子供たちも高い比率でいました。『テストを受ける』という回答はまだ少数でしたが、学校段階が上がるにつれて割合が増えています。また高校では、先生との『連絡』に使う割合が多く、6割の生徒がICT機器を活用し先生との連絡を取っていました」と木村氏は語る。
ICT機器を学校で使うことによる効果については、「学習内容について調べやすい」「学習内容が分かりやすい」「効率的に学習できる」「グループでの学習がしやすい」といった回答が7割を超えている。その他の項目も半数以上の子供たちが回答項目を肯定しており、ICT機器の活用におおむね肯定的である傾向が見られた。また、高頻度に学習に利用している子供ほど、ICT機器を使う効果の実感が強い傾向も明らかになった。
端末の持ち帰りは自治体ごとに差
一方で課題として「目が疲れる」や「インターネットにつながらなくて困ることがある」「ICT機器を壊してしまわないか不安」といった点に課題を感じている子供は半数を超えたという。学習内容ではないところでの課題実感が強い傾向にあることが分かった。「使い方が分からないことがある」「文字の入力が面倒」といった課題は、ICT機器を利用する頻度が低い低頻度群ほど感じていたという。
子供たちは、教員から「ICT機器の使い方」や「情報の集め方・調べ方」「ICT機器を使うルールやマナー」といった指導を多く受けているほど、ICT利用の効果が実感しやすいという。一方で、困りごとや不安といった課題実感は、指導を受けていても低減しない傾向にあることも分かった。
本調査では、学校での活用のみならず、家庭学習でのICT機器利用の傾向も調査された。家庭へのICT機器の持ち帰り頻度を見ると、「ほぼ毎日(週5)持ち帰る」子供が4割いる一方で、「全く持ち帰らない」と回答した子供も3割いた。木村氏は「人口規模が大きい自治体ほど持ち帰りが多い傾向にあることも分かりました。また、学校での利用頻度や持ち帰りが多いと、宿題でも利用するという回答傾向も見られました。宿題にICT機器を使用している子供は全体のおよそ半数という結果でした」と指摘した。
持ち帰ったICT機器は「調べ学習」で利用する子供がいずれの学校段階でも6〜7割と最多だった。また「発表のための資料を作成する」「作文やレポートを作成する」も5〜6割と多く、学年が上がるほど多様な用途でICT機器を利用している。宿題でICT機器を利用することに対して、子供たちは「提出するのが簡単だ」「どこでもできるのがよい」と肯定的に捉えている一方で、否定的な「ICT機器の持ち帰りが大変だ」(6割)、「ICT機器を勉強以外のことに使ってしまう」(4〜5割程度)と感じている子供も存在している。
木村氏は本調査結果に基づき「課題も多い一方で、子供たちはICT機器を使うことに非常に前向きであり、効果も実感しています。一方で健康面に対する課題も感じており、教員などによるフォローも必要でしょう。使い慣れることでうまく使えるようになっており、子供も教員も積極的な利用を促していきたいですね。また、教員の指導の効果も大きく、ICTを使った学びにおける教員の役割が重要になっています」と総括した。