デジタル変革で実現する地方創生 その未来に出会える2日間
2023年11月8日および9日に、姫路市文化コンベンションセンター「アクリエひめじ」で実施されたICT総合イベント「DISわぁるど」。ダイワボウ情報システム(DIS)が主催する本イベントには、多くの販売パートナーが足を運び、六つのセミナーと、最新のテクノロジーが出展された展示会によって、デジタル変革との“出会い”の場となった。本リポートではその2日間の様子をダイジェストでお届けしていく。
Day 1
組織論から地方創生までを
三つのセミナーから知る
11月8日は三つのセミナーが実施された。トークセッションでは元バレーボール 女子日本代表監督の柳本晶一氏と元バレーボール 女子日本代表キャプテンの竹下佳江氏によるトークセッションや、日々変化する環境に求められるセキュリティ対策をDISが提案するセミナー、先進企業の話から製造業DXを考えるパネルディスカッションが実施され、多くの来場者が耳を傾けた。
トークセッション
組織論:強いチームの作り方
〜リーダーシップのあり方とモチベーションアップの秘訣とは?〜
元バレーボール 女子日本代表監督を務めた柳本晶一氏と、元バレーボール 女子日本代表の竹下佳江氏がバレーボールのキャリアや経験を基に、リーダーシップやチームワークをはじめとした組織論や、チームメンバーのモチベーションなどをテーマにトークセッションを行った。
リーダーに求められる役割を問われた柳本氏は「監督が引っ張っていくという時代ではなくなっている中で、教え導く指導方法は嫌われてしまいますね。むしろ教えられる方だと思います。現場で観察をしながら勉強を続けて、適切なタイミングで言葉をかけることが重要です」と語る。
竹下氏はチームにおける信頼関係の作り方について「やはりコミュニケーションを取っていくことが重要です。今は飲み会などでのコミュニケーションや世代が異なる人などとのコミュニケーションに難しさもあると思いますが、1対1で話すことでさまざまなことを聞くことができますし、コミュニケーションを取ることで横のつながりを強くすることができます」と指摘する。
トークショーの中ではメディアに露出することによるプロデュース効果、チームスポーツならではの課題、それに対する解決の仕方についても触れられた。トークショーの最後には来場者からの質疑に対する応答もあり、バレーボールの試合をビジネスシーンに置き換えた心構えなどのアドバイスが交わされた。
特別講演
DISトータルサービス
− 日々変化する環境と必要とされるセキュリティ対策 −
ダイワボウ情報システム 経営戦略本部 副本部長 谷水茂樹が登壇した特別講演では、新型コロナウイルスのパンデミックで急激に変化したIT環境によって複雑さを増したセキュリティ対策と、それを解決する「DIS TOTAL SECURITY」について紹介した。
講演ではまずクラウドサービスの普及が進んでいる一方で、IT人材が不足していることや、ワークプレイスの多様化に伴いセキュリティ対策が十分に行えなくなっているという現在のIT環境の課題について触れた。「サイバー攻撃はセキュリティ対策を行うことで防げますが、そもそもIT人材が不足している中で十分な対策を講じることは難しいでしょう。そこで当社が提案するのが、DIS TOTAL SECURITYです」
DIS TOTAL SECURITYはCSPM、CWPP、DNSセキュリティなど11個のサービスで構成されたセキュリティサービスだ。大規模な情報漏えいやランサムウェア被害に対するセキュリティ強化が喫緊の課題となっている中で、これら11個のサービスを企業の環境や要望に応じて組み合わせることで、柔軟なセキュリティ対策を提供する。
また不足するIT人材に対しても、DISは「DX教育サービス」によって、ビジネスを変革する人材育成をサポートする。「米国では82%の企業が積極的にリスキリングに取り組んでいますが、日本では33%ほどにとどまります。また50%近い企業がリスキリングを実施しておらず、検討もしていない状況です。当社ではDX教育サービスによって、企業のDXの取り組みのトレーニングをパッケージ化して提供し、企業のIT人材育成をサポートしていきます」と語った。
パネルディスカッション
製造業DXと地方創生
〜先進企業が明かす取り組み方と始め方〜
沢渡あまね氏がCEOを務めるあまねキャリアは、組織開発をテーマに企業や地域の変革をサポートしている。働き方や組織風土を変革する力を身に付けるためのオンライン越境学習プログラム「組織変革Lab」の主宰も務める沢渡氏は、まず地方都市が抱える課題を冒頭に共有し「DXはデジタル(D)よりもトランスフォーメーション(X)が重要です。変革を行わない組織や地域に意欲的な人や組織は集まりません」と提示した。
愛知県に本社を構える旭鉄工は自動車部品製造を手掛ける企業だ。同社は、競争力強化と新ビジネス創出という二つのDXに取り組んでいる。同社の代表取締役社長を務める木村哲也氏は沢渡氏からDXの定義について問われると「デジタルで楽をすることですね。当社ではIoTを活用することで製造工程における問題の見える化や改善を図り、PDCAサイクルの高速化を実現しています。従来はストップウォッチで計測をし、その記録をExcelに打ち直すという数多くの工数が必要でしたが、現在はボタン一つで計測から記録までが可能になります」と、問題を直す仕組みや挑戦する風土といった変革(X)の重要性を指摘した。
めっきなど各種表面処理を手掛ける三光ホールディングスの代表取締役を務める山岸洋一氏は、沢渡氏からの同様の問いに対して「デジタルエクスペリエンスですね」と応える。「iPhoneを初めて手にした時のように、景色が変わる瞬間があると思います。デジタルにはそういった力強さがあり、楽しさややりがいを体験することがDXの上で重要であると思います」と山岸氏。三光ホールディングスではめっき生産にロボットを導入しており、DXによってより人間らしくやりがいのある仕事の実現に取り組んでいる。
沢渡氏は最後に「文化度の高い地域や企業にいい人が集まる」と指摘し、「多様性の受容や変化を評価する環境の構築などで、地域をもっとカラフルにし、文化度の高い地域にしていきましょう」と締めくくった。
Day 2
注目の生成AIの生かし方を
会場でディスカッション
11月9日には、経済産業省の和泉憲明氏から語られたDX推進政策の新たな展開や、OpenAIのChatGPTやマイクロソフトのCopilotを活用した業務効率化について、有識者からの講演やパネルディスカッションが実施された。現在注目が集まっている生成AIを実際にどう業務に活用できるのか、講演者と聴講者が共に考える場となった。
特別講演
デジタル時代の地方創生を加速するためのDX推進政策の新展開
〜デジタルライフラインとウラノス・エコシステムによる官民連携〜
特別講演に登壇したのは「2025年の崖」を指摘したDXレポートの執筆に携わった経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 アーキテクチャ戦略企画室長 和泉憲明氏。和泉氏は中小製造業におけるデジタル産業への移行は、自社の強みを生かすことであると指摘し、西陣織帯工場を構えるミツフジのデジタル産業への転換事例を紹介。社会全体のDX推進の方向性の見極め方なども講演で解説された。
「福沢諭吉は、明治維新のころ欧米に倣って火力発電を行うのではなく、日本の地形を生かした水力発電を行うべきではないかと考えました。そこで娘婿の福沢桃介に水力発電の事業を任せたことで大きな利益を上げました。こうした社会や産業の未来像に関する観測方法を、私は『北斗七星アプローチ』と呼んでいます。どれが北極星なのか正確には見分けられないとしても、大まかな方向性は見いだせるというところから名付けました」と和泉氏。そしてこの北斗七星アプローチに倣って考えると、通信インフラの高度化は社会や産業のDXにおける中心的な役割を提供する可能性が高く、先端技術の動向に基づいて政府は社会インフラの整備を戦略化するべきと指摘した。
そして現在の政策展開として「ウラノス・エコシステムとデジタルライフライン」が紹介された。デジタルライフライン全国総合整備計画とは、自動運転やドローン物流などのデジタル技術の活用によって、中山間地域から都市部に至るまでの全国にデジタル化された生活必需サービスを行き渡らせることを目指している。和泉氏は「2023年3月31日の第12回デジタル田園都市国家構想実現会議において、岸田総理大臣から西村康稔経済産業大臣に、このデジタルライフライン全国総合整備計画を2023年度中に策定するよう指示がありました。またこれらを実現するデータ連携基盤/システム連携基盤を『ウラノス・エコシステム』と命名し、西村大臣が国際会議において『デジタルインフラを構成する技術の国内および国際的な相互運用性の確保に取り組む』と発言しました。日EU協力についての意見交換も実施し、ウラノス・エコシステムおよびGaia-Xの連携の方向性を一致させました」と語った。
パネルディスカッション
ChatGPTでどこまでできる?
~姫路市のお悩みを有識者たちでディスカッション~
本パネルディスカッションでは、フィラメント 代表取締役CEO 角 勝氏がファシリテーターとなり、姫路市が抱える悩みをChatGPTでどこまで解決できるのか? をテーマに有識者と共にディスカッションを行った。
姫路市の政策局長 井上泰利氏からは「データに基づいた政策立案を求められているのですが、それができていません。今年から観光客数の増加や、若者の出会いの機会創出を目的に姫路城のライトアップイベントを実施する予定なのですが、来年の実施に向けてどのようにデータを活用し、PDCAサイクルを回していけばよいでしょうか」という悩みが投げかけられた。
デジタルハリウッド大学 教授の橋本大也氏はその悩みに対し「オープンデータとChatGPTを組み合わせることで人出の増減を地図上で可視化する方法があります」と実際に画面を見せてレクチャーを行った。ディスカッションの中で井上氏からは、姫路市に市外から訪れた観光客が、どれだけ滞留してくれているかといったデータも取りたい、という要望を受け、角氏は「携帯キャリアなどと連携協定を結んで、データを提供してもらってはどうでしょうか。ポイントなどを活用して、宿泊施設の費用をこの方法で決済するとポイントがたまりますよ、というキャンペーンを行うといいかもしれません」とアドバイスした。
また高齢者に対するITサービスについての悩みが共有され、Code for Japan Govtech推進コンサルタントの 石塚清香氏から「高齢者の方でも相当数スマートフォンを持っていますので、そこまで大きなハードルではないかと思います。LINEを使うことをモチベーションにスマホを購入される方も多くいるのですが、今後は音声対話が可能なChatGPTを使うモチベーションでスマホを使う頻度が増える高齢者もいるかもしれません」と指摘があった。角氏は「現在は高齢者向けのスマホ教室などが開催されていますが、今後はChatGPT教室などのほうが需要が高いかもしれませんね」と笑った。
特別講演
未来を拓くAIコラボ Copilotを活用すると仕事はこう変わる
〜誰にでも役立つAIの使い方〜
特別講演では、現在注目が集まっているマイクロソフトの生成AI機能「Copilot」について、AIの歴史からCopilotのデモも交えて解説された。本講演に登壇した日本マイクロソフト 業務執行役員 西脇資哲氏はWordに搭載された「Microsoft 365 Copilot」に「日本の製造業におけるテロなどの地政学的なリスクをまとめてください。」とプロンプトを入力するデモを見せてくれた。Copilotはプロンプトに従い、Word上に「日本の製造業における地政学的なリスクの分析 テロや紛争、自然災害等の影響を考慮したリスクマネジメントの重要性」というタイトルで文書の下書きを生成した。西脇氏は「私もこれを活用して非常に驚きました。きちんとWord上でレポート形式にレイアウトしてくれる上に、項目名なども付けてくれます。またこの生成した内容に対して、追加でプロンプトの設定も可能で、テロや紛争が起こるリスクがある地域などの情報を追加できます。Wordファイルで文書をきちんと作ってくれるこれらのCopilotの機能は正直すごいと思います」と語る。
西脇氏は、Copilot=副操縦士であると示した上で検索から資料作成、チームコラボレーション、ラーニングに至るまで統合されていることが、Microsoft 365 Copilotのメリットであると指摘し「生成AIを活用することでこれまでの業務にかかっていた時間を大きく短縮化し、生産性を大きく向上できます。それによって生まれた時間で、これまでできなかったお客さま対応、競争力を高めるアイデアや工夫の創出、就業時間の短縮やワークライフバランスの実現などに取り組んでほしいですね」と語った。
姫路で出会った最新トレンドをピックアップ!
DISが主催するICT総合イベント「DISわぁるど」。「デジタル変革に出会い、響きあい、広がる地方創生へ。」をテーマに、最新トレンドのテクノロジーや地域にフィットしたITプロダクトやソリューションを紹介する展示会が、「アクリエひめじ」の展示場で実施された。国内外からITベンダーが集結した会場には200を超える展示ブースが出展され、ITインフラ基盤からアプリケーション、情報共有・コミュニケーション、ネットワーク、モバイル・エッジデバイス、セキュリティ、映像・ドキュメント・周辺機器など多様な製品やサービスが紹介されていた。訪れた来場者は各ITベンダー肝いりの最新技術や製品に足を止め、その説明に聞き入っていた。
屋外展示場にはアウトドアブランドであるスノーピークのテントを活用した商談室が用意され、開放的な雰囲気の中で商談が行われるなど、これまでにない新しい取り組みも実施され、リアル開催ならではの“出会い”で来場者を楽しませた。