2022年度のIT投資額は前年度比4.5%の拡大

IT Investment

 矢野経済研究所は国内民間企業のIT市場規模予測を発表した。同調査によると、2022年度の国内民間企業のIT市場規模は、IT投資額ベースで前年度比4.5%増の14兆1,600億円となった。

 IT投資額拡大の要因として、矢野経済研究所は以下を挙げている。一つ目が、システム環境の移行だ。既存の情報システムやサーバーのリプレースや、システム環境のクラウドシフトが進んだことが影響している。二つ目が、法改正への対応だ。2022年1月に改正された帳簿書類のデータ保存を可能とする法律「電子帳簿保存法」や、2023年10月より施行された「適格請求書等保存方式」(インボイス制度)などの法改正に対応するため、各種帳票の電子化が推進されたのだ。三つ目が、業務のデジタル化の推進だ。前述した電子帳簿保存法とインボイス制度に対応するための各種帳票の電子化に加え、未導入業務へのシステム新規導入などが見られた。

 2023年度の同市場規模は、前年度比5.4%増の14兆9,300億円と予測する。好調な市場規模の拡大を支える要因として、各企業のIT支出の増加がある。クラウド・セキュリティ関連への投資の増加や、半導体不足の影響で停滞していたIT投資案件が再開されたためだ。そして、新型コロナウイルス感染症が5類感染症へ移行したことをきっかけとして、特に飲食業や宿泊業などのサービス業のIT支出が再開されたことも、企業のIT支出の増加につながっている。

 さらに、デジタル技術の活用も進む見込みだ。大手企業を中心にデジタル技術を活用した新たなビジネスモデルの創造や、経営環境の改善を目的としたデジタルシフト案件の増加が見られる。その結果2023年度のIT市場規模は、前年度以上の増加を見せると矢野経済研究所は予測している。

2024年度にはIT人材不足の懸念

 同調査では、2024年度の国内民間企業のIT市場規模も調査している。2024年度の国内民間企業のIT市場規模は、前年度比2.6%増の15兆3,200億円と予測される。

 市場規模の拡大が続く背景としては、基幹システムやサーバー、PCのリプレース、システムのクラウド移行などのシステム環境の移行が挙げられる。さらに大手企業を中心に、データを活用し、新規ビジネスの創出を行うといった実践的なDXへの投資が進み、市場規模が拡大する見込みだ。

 しかし、前向きなIT投資が続く一方で、IT人材の不足が懸念される。すでにITベンダーの中にも人材が逼迫した状況にあるITベンダーも見受けられることから、DXを進めたくても進められないといった状況に陥る可能性がある。このことから、ユーザー企業は社内におけるIT人材の育成にも注力する必要があると矢野経済研究所は指摘している。

※会計年度、かつIT投資額ベース。
※2023年度以降は予測値。
※民間IT市場には、ハードウェア、ソフトウェア、サービスなどを含み、公共分野(官公庁や自治体)や民間小規模事業者によるIT投資を対象としない。

ホテル・宿泊DXソリューションの導入は拡大傾向

Hotel Digital Transformation

 デロイト トーマツ ミック経済研究所はホテル・宿泊DXソリューション市場予測を発表した。同調査ではホテル・宿泊DXソリューションを、ホテル経営に関わる業務を自動化・効率化する「ホテル管理システム」、過去の情報を分析し、客室料金などの最適化を図る「レベニューマネジメントシステム」、複数の宿泊予約サイトと自社予約システムを一元管理する「サイトコントローラー」、スマホなどを利用してチェックイン/アウトを自動化する「スマートチェックインシステム」の四つの分野に分類して市場を定義している。

 2022年度のホテル・宿泊DXソリューションの市場規模は、前年度比109.8%増の202億円となった。市場拡大の要因として、IT導入補助金の活用によるIT予算の拡大がある。さらに行動制限の緩和に伴い、客室の稼働率や売り上げのさらなる増加が見込まれる。そうした中で課題となっている従業員不足を解消するために、ホテル・宿泊DXソリューションの導入が進んだ。

 2023年度のホテル・宿泊DXソリューションは、前年度比116.3%増の235億円が見込まれる。日本人国内宿泊者が前年度を上回り、訪日外国人宿泊者が急速に増加していることから、人手不足を補う同ソリューションへの投資が本格化する予測だ。

 海外情勢含め景気の不安定要因があるものの、将来的な市場展望も明るい見通しだ。2025年度には大阪・関西万博の開催に加え、2027年以降に開業予定のリニア新幹線によって、観光・物流への波及効果が期待される。そうした背景の下、2027年度までの年平均成長率は21.3%と高い成長を続け、2027年度には市場規模が508億円に達する予測だ。

※2023年度以降は予測値。

レッドチームサービス市場は堅調な成長を続ける

Red Team Services

 レッドチームサービスは、攻撃者が行うさまざまな手口を実際の企業の環境に実施することで、脆弱なポイントを明らかにし、対策を促すサービスである。アイ・ティ・アールは、そうしたレッドチームサービスの市場規模予測を発表した。同調査によると、2022年度のレッドチームサービス市場の売上金額は前年度比30.9%増の28億8,000万円となった。

 市場拡大の背景には、セキュリティスキルを有した人材の不足がある。セキュリティ対策製品の導入やポリシー策定といったサイバー攻撃対策の有効性を検証するためには、自社で攻撃者同様のサイバー攻撃を行う方法が効果的だ。しかし、セキュリティスキルを有した人材が不足していることにより検証が困難な企業が多い。そのため、ベンダーが提供するレッドチームサービスの需要が高まっている。

 レッドチームサービスへの需要は今後も継続し、2023年度の同市場は前年度比25%増と、引き続き高い成長が予測される。結果として、2022〜2027年度の年平均成長率は11.1%となり、2027年度には売上金額が約49億円に達する予測だ。

 同社 コンサルティング・フェロー 藤 俊満氏は同市場の動向についてこう分析している。「日本政府は2022年12月に『国家安全保障戦略』の一つとして『能動的サイバー防御』の導入を打ち出しており、攻撃者視点によるサイバー攻撃対策の実施が重要視されています。レッドチームサービスを実施することで現場の混乱や実際に被害の発生を招くこともあり、企業はこれまで導入に消極的な傾向もありました。しかし、サイバー攻撃が大規模かつ複雑化している現在、政府の打ち出しを受けて、今後導入する企業が増えていくと予想されます」

※ベンダーの売上金額を対象とし、3月期ベースで換算。
※2023年度以降は予測値。