PCサーバーベンダー国内市場戦略2024

2023年が過ぎ去り、2024年が幕を開けた。そこで、各ベンダーの2024年度の市場戦略について、分野ごとにリポートしていく。2月号は、ITインフラ分野にフォーカスを当てて、PCサーバーベンダーの国内市場における2024年度の市場戦略に迫った。その結果からビジネスの新たなトレンドが見えてきた。

AIなどの需要が拡大している領域において
基本性能を超えるパフォーマンスを実現

国内のPCサーバーのビジネスの状況は、インテルの開発コードネーム、Ice Lakeと呼ばれる第3世代Xeonスケーラブル・プロセッサーおよびそれ以前のCPUを搭載した製品から、同Sapphire Rapidsと呼ばれる第4世代Xeonスケーラブル・プロセッサー搭載製品へのリプレースあるいは新規導入が進められている最中であるとみられる。ここでは第4世代搭載製品のビジネスチャンスと、顧客へのアプローチのシナリオについて考察する。

多数のアクセラレーターを内蔵
需要が高まる領域で性能を強化

インテル
町田奈穂

 世代が進むと基本的なパフォーマンスおよび電力効率が向上するものだが、それに加えてインテルは第4世代Xeonスケーラブル・プロセッサーに「インテル アクセラレーター・エンジン」を内蔵することで、CPUの基本性能を超えるパフォーマンスを提供できるようにした。

 従来もXeonスケーラブル・プロセッサーはユーザーが実際に利用する実環境のワークロードにおいて、用途を問わず高いパフォーマンスを提供するよう設計されてきた。ところが特定の領域においてより高いパフォーマンスが求められるようになっている。

 そこで第4世代Xeonスケーラブル・プロセッサーにはAI、データ分析、ネットワーキングおよび5G、ストレージ、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)など、需要が拡大しているアプリケーションおよびユースケースに対応する領域のアクセラレーターを内蔵した。

 インテルによると「市場に流通するCPUの中で最多のアクセラレーターを内蔵する」と自負している。

 多数のアクセラレーターを内蔵する第4世代Xeonスケーラブル・プロセッサーは第3世代に対して基本性能(汎用コンピューティング)において53%向上、AIでは最大10倍(推論と学習処理の性能)、ネットワークでは最大2倍(同消費電力でのvRAN(5G仮想無線基地局)ワークロード対応量)、ネットワーキング&ストレージでは稼働コア数を95%削減して最大2倍(データ圧縮の高速化)、データ分析では最大3倍のパフォーマンスを提供すると公表している。またAI、vRAN、ネットワーキング&ストレージ、データ分析における消費電力当たりの性能は2.9倍に効率化しているという。

 インテルの技術本部で技術部長を務める渡邉恭助氏はアクセラレーターを内蔵するメリットについて「例えば内蔵されるアクセラレーターの一つである「クイックアシスト・テクノロジー」は、従来は拡張ボードで提供していましたが、第4世代Xeonスケーラブル・プロセッサー搭載製品を導入すればパフォーマンスや電力効率を大幅に向上できることに加えて、コスト削減も図ることができます」とアピールする。

インテルの東京本社内にある施設「インテル データ・セントリックCoE」。さまざまなベンダーの検証・評価環境が用意されており、この環境を利用してソフトウェアの検証や評価ができる。

内蔵アクセラレーターを使いこなして
ソリューションを差別化する

インテル
渡邉恭助

 第4世代Xeonスケーラブル・プロセッサーに内蔵されるアクセラレーターは、ユーザーに高いパフォーマンスと電力効率を提供することに加えて、ソリューションビジネスに新たな商機ももたらすという。

 インテルの執行役員 技術本部 本部長 町田奈穂氏は「第4世代Xeonスケーラブル・プロセッサーに内蔵されるアクセラレーターの使い方次第で、実現できるソフトウェアやパフォーマンスに違いが生じます。どのアクセラレーターをどのように使うと、どのようなユースケースに適したソフトウェアが実現できるのか、アクセラレーターをどのように使えばより高いパフォーマンスが得られるのか、開発者のスキルやノウハウ、アイデアを生かした付加価値を加えることでソリューションの差別化を図れます」と説明する。

 第4世代Xeonスケーラブル・プロセッサーに内蔵されるアクセラレーターの機能やパフォーマンスを生かしたソフトウェア開発は、まだスタートしたばかりだ。今後はそのメリットを生かした具体的なユースケースを積み重ねて、開発者およびソリューションプロバイダーに情報を提供することが、ビジネスの活性化とパートナーの成長につながる。

 そこでインテルはソフトウェアを開発・提供するソリューションプロバイダーに対して、さまざまな支援策を用意している。その一つが「インテル データ・セントリックCoE(Center of Excellence)」と呼ばれるソフトウェアの検証・評価が行えるラボの提供だ。

 データ・セントリックCoEにはさまざまなベンダーの検証・評価環境が用意されており、この環境を利用してソフトウェアの検証や評価ができる。インテルと協業する企業をはじめ、スタートアップ企業にも解放されており、データ・セントリックCoEのWebサイトから問い合わせられる。ちなみにデータ・セントリックCoEはインテルの東京本社に設置されている。

 このほか「インテル デベロッパー・クラウド for oneAPI」というサービスも提供されている。デベロッパー・クラウドはインテルのCPU、GPU、FPGAのインフラ上でインテル oneAPIソフトウェアを使用してワークロードの開発、テスト、実行ができるサービスだ。

 開発の支援だけではなくデータ・セントリックCoEでの活動の成果など、インテルとの共創によって生み出されたユースケースをワールドワイドで情報発信することでマーケティング活動も支援している。例えばYouTubeの「Intel Japan」チャンネルでは、サーバーのCPUやGPU、メモリー、ストレージといったハードウェアリソースを分離して、ワークロードに応じて動的に割り当てる富士通の「PRIMERGY CDI(Composable Disaggregated Infrastructure)」が、イラストによる動画で分かりやすく紹介されている。

インテルとの共創によって生み出されたユースケースはYouTubeの「Intel Japan」チャンネルでも紹介している。画面は富士通の「PRIMERGY CDI」の紹介で、イラストによる動画で分かりやすい。

ニーズに細かく対応することで
新たなサーバーの需要を喚起する

 第4世代Xeonスケーラブル・プロセッサーは多数のアクセラレーターを内蔵して、需要が拡大しているアプリケーションおよびユースケースにおけるパフォーマンスを強化した。さらに昨年末には開発コードネーム、Emerald Rapidsと呼ばれていた第5世代Xeonスケーラブル・プロセッサーが発表された。

 汎用コンピューティングにおいて第3世代に対して1.84倍、第4世代に対して1.21倍、AIにおいて第3世代に対して14倍、第4世代に対して1.42倍、ネットワーキング&ストレージにおいて第3世代に対して3.6倍、第4世代に対して1.7倍などの大幅なパフォーマンスの向上を果たしているという。

 町田氏は「特にAIの推論と学習処理のパフォーマンスは、第3世代に対して14倍も向上しています。AIの活用範囲がより広がり、扱うデータ量が増加していく中で、AIの処理性能の強化は業種を問わず非常に重要な課題となります」と指摘する。

 第4世代Xeonスケーラブル・プロセッサーの発表から1年足らずで第5世代が発表された。公表されている情報によると、インテルはサーバー向けCPUの製品ラインアップを2025年までにハイペースで強化していく。Xeonスケーラブル・プロセッサーの第6世代となる開発コードネーム、Granite Rapidsが次に控えているほか、288コアを実装してマルチスレッド処理を高速化、効率化する開発コードネーム、Sierra ForestおよびClearwater Forestと呼ばれるXeonプロセッサーの提供も予定されている。

 このようにインテルのサーバー向けCPUの進化とポートフォリオの広がりによってニーズに細かく対応することで、新たな需要を喚起できそうだ。

スパコン世界一を4期連続で獲得
2位とのパフォーマンスの差は圧倒的

日本AMD
峰岸博英

 AMDのEPYCプロセッサーのメリットは、何といってもスーパーコンピューターに採用され、世界トップを獲得したパフォーマンスだろう。スーパーコンピューター性能ランキングの「TOP500」が昨年11月14日に発表した、現時点での最新版となる2023年11月度ランキングで、EPYCプロセッサーを搭載する米国オークリッジ国立研究所とヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)の「Frontier - HPE Cray EX235a」がトップを獲得した。ちなみにFrontier - HPE Cray EX235Aは4期連続で世界トップを獲得し続けている。

 この結果について日本AMDのコマーシャル営業本部でパートナビジネス推進室長を務める峰岸博英氏は「TOP500のランキングで公開されているコア数を見ると、1位のFrontier - HPE Cray EX235aのコア数が8,699,904なのに対して、2位のコア数は4,742,808と約半分です。コアをたくさん実装するだけではなく、それを動作させられるテクノロジーがEPYCプロセッサーの優位性となっています」と説明する。

 コア数とともに性能の差も大きく開いていると峰岸氏は指摘する。TOP500のランキングではRmax(実効性能値)も公開されており、1位のFrontier - HPE Cray EX235aが1,194PFlop/sを記録しているのに対して、2位は585.34PFlop/sと2倍ほどの差が生じている。

 EPYCプロセッサーの性能について峰岸氏は「実は1位を獲得したFrontier - HPE Cray EX235aには、Zen3アーキテクチャを採用した前世代のEPYCプロセッサーが搭載されています。最新のEPYCプロセッサーにはZen4アーキテクチャが採用されていますので、さらに高いパフォーマンスを発揮します」と強調する。

 確かにTOP500のランキングを見ると「AMD Optimized 3rd Generation EPYC 64C 2GHz」と表記されており、第3世代のEPYCプロセッサーであることが分かる。

パフォーマンスと電力効率を両立
データセンターへの導入が好調

 EPYCプロセッサーを搭載するスーパーコンピューターがTOP500において4期連続で世界トップを獲得していることや、2位に大きな差を付けていることなどから、圧倒的なパフォーマンスを発揮していることが分かる。こうした特長から、EPYCプロセッサー搭載サーバーは研究機関の科学計算や企業の研究・開発など、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の領域で需要が伸びていた。しかし最近はデータセンターへの導入が増えているという。

 公表されている事例を挙げると、マイクロソフトのAzureやMicrosoft 365、グーグルのGoogle Cloud Platform、AWS(Amazon Web Services)といったクラウドのハイバースケーラーでEPYCプロセッサー搭載サーバーが大量に稼働している。国内でもYahoo! JAPANやGMOインターネットグループなど、クラウドおよびサービスプロバイダーのデータセンターの多くにEPYCプロセッサー搭載サーバーが導入されている。

 その理由について峰岸氏は、先ほどのTOP500で公開されている「Green500」のランキングを示しながら「データセンター向けの需要が国内を含めてグローバルで伸びています。データセンター向けのビジネスでは、お客さまが求めるパフォーマンスをより少ない台数のサーバーで、より少ない消費電力で実現することが求められます。EPYCプロセッサーは一つのCPUに多くのコアを実装しているため、お客さまが必要とするパフォーマンスをより少ない台数のサーバーで実現できます。またサーバーの台数を減らせることと、EPYCプロセッサー自体の電力効率の高さが相まって、全体の消費電力を大幅に削減できるメリットもあります」と説明する。

あえて第3世代8コアEPYCプロセッサー搭載製品で
企業の拠点や中小企業へのビジネスも伸ばす

AMDのEPYCプロセッサー搭載サーバーは高いパフォーマンスが評価され、研究機関の科学計算や企業の研究・開発などのHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の領域で多く導入されてきた。最近は電力効率の高さも評価され、データセンターへの導入も増えているという。日本AMDは今後、EPYCプロセッサー搭載サーバーの優れたコストパフォーマンスを武器に、企業での業務用途にも導入を広げ、さらに企業の拠点や中小企業に向けたビジネスにも力を入れていくと意気込む。


 TOP500では電力効率のランキングである「Greem500」も公開されており、Greem500の上位10位に8台のEPYCプロセッサー搭載コンピューターがランクインしている。またTOP500で1位を獲得したFrontier - HPE Cray EX235aが8位を獲得するなど、性能と電力効率を両立していることも示されている。ちなみにGreen500で1位を獲得したコンピューターのTOP500でのランキングは293位だ。

日本AMDでは展示会への出展など、同社のCPU搭載製品の知名度向上に向けた取り組みも積極的に展開していく。

企業の業務用途にもビジネスを拡大
中小企業向けの戦略製品も提供中

 スーパーコンピューターやHPC、そしてデータセンターなど極めて高いパフォーマンスが要求される用途において需要を伸ばしてきたEPYCプロセッサー搭載サーバーだが、最近では仮想デスクトップやHCI、仮想化やコンテナ、さらには普及が進むAIなど、ビジネスでの一般的な用途においても需要が伸びてきているという。

 その要因について峰岸氏は「従来は数多くの台数を導入しなければならなかった用途において、EPYCプロセッサー搭載サーバーを選択することで導入台数を大幅に削減できることが評価されています。また消費電力を削減できるため、TCO削減とCO2削減についてもメリットをアピールできます」と説明する。

 ユーザーはEPYCプロセッサー搭載サーバーを選択することで、サーバーの台数を削減しつつ高い処理性能を確保できるメリットを享受できる。しかしサーバーを販売するビジネスに携わるプレーヤーにとっては、EPYCプロセッサー搭載サーバーは顧客に受け入れてもらいやすい一方で、販売するサーバーの台数が減るという危惧もある。

 ではEPYCプロセッサー搭載サーバーでビジネスを伸ばしていくにはどのようなアプローチが有効なのだろうか。峰岸氏は「EPYCプロセッサー搭載サーバーは非常に高い性能を発揮しますので、大規模な仮想デスクトップ環境やコンテナ化された高度な仮想環境であっても、少ない台数のサーバーで快適に動作させられます。そのためお客さまはハードウェアへの投資を抑えられて、提案を受け入れやすくなります。一方でソフトウェアに関しては投資額が大きくなるため、そこでビジネスを伸ばしやすくなります」とアドバイスする。

 日本AMDでは法人向けビジネスにおいて、さらに裾野を広げていきたいと考えている。その起爆剤となりそうなのが、前世代である第3世代の8コアEPYCプロセッサーを搭載したサーバー製品だ。

 現在、EPYCプロセッサーはZen4アーキテクチャを採用した第4世代に進化しているが、当面は第3世代の8コアEPYCプロセッサーおよび搭載サーバーも併売する。

 峰岸氏は「第3世代の8コアEPYCプロセッサー搭載サーバーは価格競争力が非常に高く、一方でスーパーコンピューターのTOP500ランキングで1位を獲得しているテクノロジーが採用されており、拠点のファイルサーバーや中小企業向けの業務システムなど幅広い用途に対応できます。第3世代の8コアEPYCプロセッサー搭載サーバーでコスト削減を提案しつつ、削減して生じた予算に対してネットワークやストレージのリプレースを提案するなど、提案の内容を充実させることでお客さまにご満足いただけるのではないでしょうか」とアドバイスする。

インターネットで公開されているスーパーコンピューターの世界ランキング「TOP500」の画面。AMDのEPYCプロセッサーを搭載する「Frontier - HPE Cray EX235a」が4期連続で1位を獲得した。
TOP500で公開されているスーパーコンピューターの電力効率のランキング「Green500」の画面。上位10位のうち8台がAMDのEPYCプロセッサーを搭載している。