AI搭載のスマート道路灯とローカル5Gを活用
交通安全に向けた静岡県裾野市の実証実験
警察庁が公表した「令和5年中の交通事故死者数について」の調査結果によると、2023年の交通事故発生数は30万7,911件で、死者数は2,678人だった。毎年、多くの尊い命が交通事故で失われる深刻な状況の中、各自治体では、交通事故による被害をなくすため、交通安全対策に力を入れている。近年では、デジタル技術を活用した新たな取り組みも行われている。今回は、静岡県裾野市で実施されている「スマート道路灯とローカル5Gを活用した交通安全課題の解決を目指す実証実験」について取り上げる。
静岡県裾野市
人口4万9,138人(2024年2月1日時点)、静岡県の東部に位置する市。「富士山」の麓に広がり、東には「箱根外輪山」、西には「愛鷹連山」と豊かな自然に囲まれている。太陽の恵みをいっぱいに受けたイチゴや大和芋などが特産品として人気が高い。
既設の道路灯をスマート化
交通事故は平穏な日常生活を一変させる。毎年、多くの尊い命が交通事故によって奪われている。事故の要因は、自動車の安全不確認や速度超過違反、歩行者の車道への飛び出しなどさまざまだ。こうした痛ましい事故をなくすため、各自治体では交通安全対策に力を入れている。「裾野市では、特に高齢者や児童・生徒へ向けた交通安全教育を充実させると共に、交通安全施設の整備を進めています。子供たちが安全に通学できるよう自治会や学校などの要望を元に、通学路点検によって危険箇所の把握を行い、歩道や通学路を適切に整備しています」と裾野市 市長戦略部 戦略推進課の担当者は話す。
また、裾野市は2025年までの目標として、交通事故による死亡者数ゼロ、年間人身事故発生数200件以下を目指し、交通安全対策に取り組んでいる。その一環として行われているのが、デジタル技術を活用した実証実験である。裾野市とNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)、スタンレー電気、加賀FEI、ダッソー・システムズ、京都女子大学によるスマート道路灯とローカル5Gを活用した交通安全課題の解決を目指す取り組みだ。「スマート道路灯とは、灯具機能に加え、既設の道路灯にAIカメラや環境センサー、路面描画装置などを搭載したものです。スピードの出しすぎによる速度超過や、人の飛び出しなどを検知でき、交通事故の削減につなげられます。『速度注意』といった路面描画をすることで走行車への注意喚起も行えます。また、常時ネットワークに接続しているため、人流や天候などの道路周辺状況のデータ収集も可能で、収集したデータの活用により人々の安心・安全な暮らしの利便性向上に寄与します」とNTT Comの担当者は説明する。
注意喚起で事故を防ぐ
スマート道路灯を活用した実証実験は、2度行われており、2023年2月15日〜3月31日の期間に1度目となる「ドライバーに対する路面凍結注意喚起の実証実験」が実施された。冬季になると路面凍結しやすい「柳端橋」を実証実験場所に、スマート道路灯で「凍結注意」と路面描画し、車のスリップなどに注意を呼びかけ、交通事故削減につなげた。「裾野市さまに協力いただき、実証実験に関する市民アンケートを取ったところ、路面描画を見たことで『減速した』および『停止した』と答えた割合は全体の52%でした。スマート道路灯による注意喚起の高い効果を実感する結果となりました。また、スマート道路灯に欲しい機能として『飛出し検知+路面描画でドライバーへの注意を促す機能』が最も多くの票を得たことにより、市民の方々の交通安全へのニーズと高さを確認できました」(NTT Com担当者)
この実証実験の結果を基に、現在2度目の実施をしているのが、「スマート道路灯とローカル5Gを活用した交通安全課題の解決に向けた実証実験」となる。本実証は、総務省の令和5年度地域デジタル基盤活用推進事業に採択されて実施するものだという。実証期間は2024年1月18日〜2月29日を予定している。裾野市立南小学校/児童館前の市道1721号線に設置されている既存の道路灯4台をスマート道路灯化し、注意喚起と走行車の検知を行う。実証内容は、以下の通りだ。
・路面描画機能で路面へ夜間の「速度注意」を描画
・AI画像認識により一定速度を超えた車両に対して電光掲示板に「ゆっくり」を表示
実証実験場所は、学校や児童館があるため日中は子供が多く利用し、夜間はスピードを出す自動車が多い一本道となっている。過去に交通事故も発生しており、危険な道として指定されていた。車両の速度検知と注意喚起による実証前後の行動変更を検証することで、市民の安心・安全と交通事故抑止へとつなげていく。
通信には安定した高速大容量通信が可能なローカル5Gを活用することで、スマート道路灯からの高画質な映像転送によるモニタリングやデータの収集などに有用だという。
利用者次第で活用の幅が広がる
スマート道路灯の基本的な機能であるLED照明の耐用年数は約7年となっている。一度スマート道路灯を導入すれば、長期間にわたって多種多様な社会課題解決に役立てられる。機能の追加拡張などもできるため、河川の氾濫や浸水を映像で検知したり、道路灯の周辺客に向けて広告を掲示したりするなど、利用者次第で活用の選択肢は無限に広がるだろう。
スマート道路灯の今後の展開について、NTT Comの担当者は「地域交通において課題となっている事故多発箇所へのスマート道路灯の設置を進め、安全対策のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進していきます。スマート道路灯は交通安全だけではなく、防犯や設備管理、農業など地域におけるさまざまな課題への解決に寄与する製品だと考えています。これからも自治体をはじめ、多くのお客さまの支援を続けていきます」と話す。
最後に裾野市の担当者は「スマート道路灯による交通事故防止への期待だけではなく、スマート道路灯のように交通安全対策として期待する技術はたくさんあります。例えば、人為的な運転ミスを防止する自動運転技術や、交通ルールの遵守を促進して交通事故の発生率を下げる交通監視システムなど、人々の生活を助ける手段として利用できるでしょう。今後も新たな技術を導入する際は、実際に生活する市民の声を反映しながら実証実験ができるような体制を整えていきたいと考えています」と期待を込めた。