埼玉県さいたま市にある浦和実業学園中学校・高等学校(以下、高校)は、「実学に勤め徳を養う」を建学の精神とした実学教育に力を入れる学校だ。実学とは、知識の習得にとどまることなく、実社会で真に役立つ学問を身に付けるための教育を指す。これからのSociety5.0時代において、実社会で役立つ力にはICTを活用する力が欠かせないといえる。そうした考えの下、浦和実業学園中学校・高校では2020年から生徒1人1台端末を導入した教育に取り組んでいる。
オンライン辞書で正しい言葉を学びながら
受験に生きるアクティブラーニングを実現
情報を精査する力を身に付ける
浦和実業学園中学校・高校は約3,200名もの生徒が通う中高一貫校だ。2020年から、学習者用端末としてLTEモデルのiPadを順次導入し、授業でのICT活用を進めている。端末選定の背景を、同校の教務部長を務める教員 田口純平氏は次のように語る。「iPadは持ち運びがしやすいためです。LTE回線も契約したことで、部活動の大会などで校外に行く場合でもiPadを使えます。またLTE回線と併せて契約したことで、端末代の支払いが抑えられる点も大きなメリットです。LTE回線も含めた月額払いで契約することにより、ご家庭に端末費用を負担いただくことなく、本校の授業料や学年費から支出する形で対応でき、家庭への負担を抑えた端末運用を可能にしています」と語る。またLTE回線を使用することで、学校や家庭のネットワークへの負担をかけることなく、スムーズな授業が進められるメリットもある。
そうした学びの中で頻繁に活用されているのが「ClassPad.net」だ。ClassPad.netはカシオ計算機が開発したICT学習アプリで、調べた事柄などをまとめる「デジタルノート」機能や、課題配布や回収など、双方向授業に役立つ「授業支援」機能などが搭載されているが、田口氏が何よりも評価しているのは「オンライン辞書」機能だ。カシオ計算機は電子辞書の「EX-word」を提供しているが、ClassPad.netはそのEX-wordから厳選した辞書コンテンツを収録しているのだ。「ChatGPTをはじめとした生成AIが注目を集める中、今後はその生成された情報をファクトチェックする力が、これまで以上に求められることが予想されます。一方で子供たちが単語の意味などの情報をどう調べているかというと、Googleなどの検索サイトでトップに出てきたものを正しいと認識しがちです。辞書という裏打ちされたツールで正しい言葉を調べることは、これからの社会で必要になる情報リテラシー育成にもつながります」と田口氏は指摘する。
もちろん、語彙力の強化にもClassPad.netのオンライン辞書機能は有効だ。浦和実業学園高校は普通科と商業科に分かれており、その中でもさらに特進部、選抜進学、商業とコースが細分化されている。生徒の学力にも幅があり、語彙があまり豊富でない生徒も存在する。そうしたニーズに対して、裏打ちされた正しい言葉を調べられるオンライン辞書機能を有したClassPad.netは適していたのだ。
授業ではデジタルノート機能に搭載されたふせん機能を活用し、生徒が考えたことを電子黒板に表示して共有する。国語科を受け持つ田口氏は「私の授業ではデジタルノートに記載された生徒の考えを板書として表示し、そこから授業を展開しています。例えば、生徒が『御』という字に『尊敬を意味する』と書いていれば、『なぜ御が尊敬の意味なのか、辞書で調べてみよう』というように授業を広げていきます。オンライン辞書機能で言葉を引くことで、理解を深められますし、生徒の考えを授業で共有することで、手を挙げて発表することが苦手な生徒の意見も拾い上げて、双方向型の授業が実現できます」と語る。
思考力を養うことが受験に役立つ
こうした双方向型のアクティブラーニングと呼ばれる授業は、生徒が能動的に考え学ぶことで課題解決能力を身に付けることができるため、これからのSociety 5.0時代に必要な学びだ。一方で、特に大学入試を控えた高校においては、アクティブラーニングの学びが受験に直結しないと捉えられるケースが少なくない。しかし田口氏は「ICTを活用したアクティブラーニングでも、受験を意識した授業は実現できます」と指摘する。
具体的には、授業の前に生徒に課題を提示し、同校が利用している教育プラットフォーム「Classi」の「校内グループ」機能でその課題に対する話し合いをグループごとに行う。「ここでポイントなのが、テキストのやりとりだからといって文語で書かせないこと。普段通りの友達同士の会話のように、口語でやりとりをしてもらいます。それによって話し合いの中で得られた“気付き”が分かりやすくなります。授業ではこれらの話し合いのテキストから、ポイントとなる箇所をまとめてClassPad.netで授業で共有します」と田口氏。思考過程を可視化することで、他人がどういった論拠を基に結論を導いているのかを知ることができるのは、ICTを活用しているからこそ可能なことといえるだろう。受験では思考力も問われるため、こうしたアクティブラーニングによる思考力を養う学びは非常に重要だ。
「これまでの授業は決まった知識を生徒に授けることでした。しかしこれからの教育は、生徒から授かるものです。生徒たちが分からなかった疑問を受けて、別の生徒の考えからその疑問を解消したり、一緒にどうすればいいのかを考えたりといった学びが、これからの未来の教育には必要になるでしょう」と田口氏は語った。