教育の理念に「『自主・自律』の精神と幅広い『職業観』を養い、目的意識を持った進学の実現により、将来、実社会で活躍できる人材を育成する」を掲げる常翔学園中学校・高等学校。同高校では約20年前から、キャリア教育や探究学習に取り組んできた。2011年からは中学校を開校し、同様に探究的な学びに取り組んできた同校の、探究学習先進校として知られる学びの姿を見ていこう。

約20年にわたり続く探究学習で
社会で活躍できる人間力を育てる

常翔学園中学校・高等学校では、テストの自動採点システムを導入しており、ICTの導入が教員の校務負担の軽減にもつながっている。

中高6年間かけて行う探究的な学び

 常翔学園中学校・高等学校は大阪工業大学や摂南大学、広島国際大学などを運営する常翔学園の中高一貫校だ。同中学校では「常翔STEAM」と名付けた探究的な学びに取り組んでいる。

 このSTEAM教育の前身となっているのは、常翔学園高校で20年前から行われてきた企業探究学習だ。始まりは地域と連携した課題解決型学習としてスタートしたが、現在は協賛企業と共に、企業から与えられたミッションに対して、その解決策を生徒たちが考えプレゼンするような学びに取り組んでいる。このキャリア教育を含む探究的な学びに中学校から取り組むのが「常翔STEAM」であり、平時の授業・活動に加えて週2時間ある総合的な学習において、STEAM教育に取り組む。高校までの6年間にわたって、系統立てたプログラムに基づき21世紀型スキルの育成を目指すものだ。

 例えば中学1年前期の「STEAMⅠ」では、理数探究として、生成AIや情報判断能力、数理科学探究などを学ぶ。中学1年後期の「STEAMⅡ」では情報科学探究、中学2年前期・中学2年後期の「STEAMⅢ・Ⅳ」では英会話プログラムといった形で学びを深め、中学3年の「STEAMⅤ・Ⅵ」ではキャリア教育探究として企業探究または人物探究に取り組む。これは高校のキャリアプログラムに合わせて実施するものだ。

 高校では「常翔キャリアアップチャレンジ」という名称で、継続的に探究的な学びを行う。スーパーコース、特進コース、文理コースと分かれており、特進コースは2年次以降、特進S/特進、グローバル探究、薬学看護医療系に分かれる。各コースにおける探究活動において、生徒1人ひとりが課題解決能力を身に付けるのだ。例えばスーパーコースは、1~3年まで「ガリレオプラン探究」における八つの研究ゼミに分かれて、科学探究授業に取り組む。大学との連携授業も実施し、研究計画に必要な基礎知識を身に付けながら、最終的には論文にまとめるレベルにまで探究を行う。

 常翔学園中学校・高等学校 教育改革担当教頭 教育イノベーションセンター長 教諭 池田 弘氏は「中学から上がってきた最上位クラス(スーパーJコース)の生徒たちも、このガリレオプラン探究で学びます。また薬学看護医療系コースの生徒も『科学探究プラン』でガリレオプラン探究で選択する八つのゼミのうち一つを選んで所属します。そのためガリレオプラン探究の規模は、大体3クラスから4クラスくらいです」と語る。

技術の授業で行う本棚作りでは、事前に設計した本棚をARアプリで検証した上で制作を行う。木材加工の手順は教員から動画が配信されており、生徒たちは動画で手順を確認しながら、個々人のスピードで制作を進めていく。制作の過程は動画で撮影して記録も行う。

探究学習から音楽や技術でもiPadを活用

 こうした探究的な学びで活用が進められているのが、ICTツールだ。常翔学園中学校・高等学校では生徒1人につき1台のiPadを2017年から導入している。「本校には、池田が所属している教育イノベーションセンターがあり、キャリア教育とグローバル教育、ICT教育の三つを柱に運営しています。iPadは2016年から教職員への整備を進め、2017年から段階的に生徒への整備を進めました。この環境を生かし、探究的な学びの中でのロボットプログラミングはもちろん、普段の授業でも日常的に活用しています」と常翔学園中学校・高等学校 校長補佐 根来和弘氏。

 例えばロイロノートによる課題配信や回収などは授業の中で日常的に行われているという。また、音楽の授業ではiPadの作曲アプリ「GarageBand」を活用して作曲を行ったり、技術の授業ではARアプリを活用し、木材加工の作業工程をARで確認しながら、実際に制作したりといったシーンで活用されている。根来氏は「日常的なiPad活用が浸透していたおかげで、コロナ禍においてもスムーズなオンライン授業への切り替えが行えました」と当時を振り返る。

 グローバル教育においてもiPadは有効に活用されている。高校1~2年次において英語4技能を身に付けるため、オンライン英会話を導入し、マンツーマンでの英会話指導を受けているのだ。ALT(外国語指導助手)のようなネイティブの講師を招いて英会話を学ぶ学校もあるが、そうした講師による英会話の学びは、30~40名の人数が参加する授業では向かない。ネイティブの講師と会話する生徒が限られてしまうためだ。しかし「オンライン英会話ツールであれば、画面越による1対1での英会話が行えるため、限られた授業時間の中でもスムーズに会話が可能です。英語の技能というのはネイティブと対面で話をすることで自信が付き、身に付くと考えていますので、英会話における聞く力や話す力を伸ばすのであれば、このようなオンライン英会話も導入も非常に有効と言えるでしょう」と池田氏。

 こうした探究活動を含むiPadの活用によってプレゼン資料を作成するスキルや発表のスキルも向上していると言う。今後の展望として、根来氏は「生成AIの活用を進めていきたいですね。現在は一部先進的な教員のみが生成AIを活用している状態です。実は直近で、生成AIに関する教員研修を実施しており、今後は校務効率化から学びに至るまで、活用を広げていきたいと考えています。そのためには活用のルール作りも求められますので、研修と並行したルール整備も進めていきます」と展望を語った。