新社会人に贈るSNSマナー講座 - 第6回
身内に不祥事発生! そのとき公式アカウントに求められる振る舞い方は?
判断と初動を素早く行うことが最重要
文/高橋暁子
残念ながら、社員やアルバイトなど自社の従業員が不祥事を起こす可能性はゼロにならない。企業としての振る舞い方を失敗すると、企業イメージや経営にダメージを負うことさえある。
そのような事態が起きたとき、公式アカウントはどのような振る舞いをすればよいのだろうか。万が一のときのために、いわゆる炎上時の振る舞い方と普段から心がけたいことについて確認しておきたい。
素早い対応が評価につながった例
10月7日、新入社員の女性が過労で自殺したと労災認定された。同日、政府が閣議で2016年版の過労死等防止対策白書(過労死白書)を決定、これに対して武蔵野大学の教授がNewsPicksに「残業時間が100時間を超えたぐらいで自殺するのは情けない」などと投稿し、批判を浴びて炎上した。
教授の投稿は前述した自殺に対してのものではなく、あくまで「過労死白書」を受けてのものだった。しかし、過労死した女性の1カ月の時間外労働が105時間と報道されていたこともあり、あたかもその女性に対しての発言のようにとらえられてしまったこと、時代錯誤感を感じさせる考え方の上、教育者の発言だったことなどから、炎上につながってしまった。
その教授は投稿を削除し、翌日8日には「私のコメントで皆様に不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」と謝罪。武蔵野大学は10日、公式ホームページに「本学教員のインターネット上における発言について」というタイトルで、「誠に遺憾であり、残念」と謝罪文を掲載した。
同時に、「発言は、当該教員の個人的な見解であり、本学の教育方針とは相いれず、また、人権・倫理の尊重を旨とした本学の『ソーシャルメディア利用ガイドライン』からも逸脱した見解と判断」と自学の立場を表明。その上で、「事実関係を調査の上で然るべき対応」をとると発表した。
武蔵野大学は教育機関であり、その見解を容認すれば、大学の教育方針自体を疑われかねない。事実を認識した上で、自学の方針を明確にし、今後の対応を発表することは、鎮火のために必要だった。
ただし、お詫びの理由が「関係者をはじめ多くの皆様にご不快な思いをさせ、ご心配をお掛けし、世間をお騒がせいたしましたことにつきまして」だったことには、異論がネット上に散見された。なぜなら、今回炎上した原因は人々の心持ち以前の問題、つまり労働基準法をないがしろにするかのような発言内容だったことにあるからだ。
炎上後の望ましい対応とは
では炎上を放置したらどうなるのか。企業の姿勢が問われる場面では、まず信頼性に傷がつく。炎上した投稿を削除してごまかすことなどは一番の悪手といえる。昨今は炎上が起きた瞬間にあらゆる発言が第三者の手でキャプチャされていると思うべきだ。
また、炎上は瞬く間に広がってしまう。内容によっては約3時間で取り返しのつかないほど広がり、対応前にWebメディアに掲載されてしまった事例もある。対応の遅さは企業にとって致命傷になりかねない。不祥事が明るみに出た場合、1時間以内をめどにできるだけ早くSNSの公式アカウントを使って対応することが望ましい。その後落ち着いてから、正式なプレスリリースや公式サイトでの告知を行う順番がお勧めだ。
炎上が起きたら、事実を確認し、謝罪の必要性はあるかどうかを判断して、今後の対応などを公式アカウントで告知しよう。まず企業側から情報を発信することで、いま以上に憶測が広がることを防げる。そして、謝罪の必要性があるなら、ひたすら謝罪のみに努めることをお勧めする。言い訳したくなるのは山々だが、残念ながら再度非難を浴びるのがオチだ。
なお、対応後も炎上した事実はネット上に残り続ける。ただ、その対応如何では、むしろ企業イメージがプラスに働くこともあるので、真摯に振る舞うことを心がけよう。
普段から心がけたいこと
万一の炎上に備えて、平時にできることは何だろう。まず公式アカウントは、普段からフォロワーとの人間関係を築いておくことで発言力が高まる。いざというときに味方してくれるユーザーが現れる可能性もある。
社員やアルバイトに対しては、自社の「ソーシャルメディアガイドライン」を用意し、随時セミナーなどを実施してリテラシーを上げておくことで、(少なくてもネット上での)炎上が起きる危険性を減らせるだろう。
また、火種はできるだけ早く発見する必要がある。自社名、ブランド名、商品名、店舗名など、自社に関係するキーワードを列挙し、定期的に検索しよう。専用のソリューションを用意できない中小企業なら、GoogleアラートやTwitter検索、Yahoo!リアルタイム検索など汎用の一般サービスを流用するのがお勧めだ。余裕があれば「Social Insight」など有料監視ツールを導入すべきだろう。
筆者プロフィール:高橋暁子
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、Webメディアなどの記事の執筆、監修、講演などを手がける。SNSや情報リテラシー教育に詳しい。主な著作として『Twitter広告運用ガイド』(翔泳社)、『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎エデュケーション新書)、『ソーシャルメディアを武器にするための10カ条』(マイナビ新書)など多数。
公式サイト「高橋暁子のソーシャルメディア教室」