日本マイクロソフト、子供たち・若者を対象にした「コンピューターサイエンス教育施策」を発表
日本マイクロソフトは2018年11月29日、子供たち・若者を対象にした「コンピューターサイエンス教育施策」として、Minecraft:Education Editionを使用する「Minecraftカップ2019全国大会」開催と「若者TECH」開始の2つの施策を発表した。
文/狐塚淳
2018年11月29日、日本マイクロソフト株式会社は新しい「コンピューターサイエンス教育施策」を発表した。
現在日本では教育制度の変革によるプログラミング教育の必修化が目前に迫っている。2020年には小学校で、21年には中学校で、22年には高等学校でプログラミングが必修となり、24年には大学入試の基礎科目への情報科目が追加が検討されている。一方、教育と機会の不平等化が進行しており、就労に必要なITスキルは高度化しているのに、教育が届きづらい子供たちも増加している。
日本マイクロソフトは、従来からコンピューターサイエンス教育施策に取り組んでおり、NPOと協力しての遠隔地で教室の壁を乗り越えた教育を提供するSkype in the Classroomや、セミナーやオンラインによる教員教習を延べ3万人の教員に無償で提供、毎年世界180か国以上で4億人の子供が参加するコーディング体験のHour of Codeには社員ボランティアを派遣する(本年は46名のボランティア社員を全国で開催されているプログラミング授業/教室へ派遣)などの活動を行ってきた。2016年からはNPO法人と連携して、1万人を超える障碍のある子供や地方の子供にプログラミングを学ぶ機会を提供するProgramming Allなどの取り組みも開始している。
今回発表されたのは、未来の創り手となる子供たち・若者を対象にした2つのコンピューターサイエンス教育施策だ。
1つは6~15歳を対象としたプログラミング教育支援「Minecraftカップ2019全国大会」開催について、そしてもう一つが15~44歳を対象にした若者TECHプロジェクトの「若者TECH」による就労支援だ。
登壇した日本マイクロソフトの平野拓也代表取締役社長は「日本の将来を支える担い手となる子供たち・若者に必要なスキル、そして活躍できる場所やそういった機会を提供できるような環境を提供していきたいと思っています。現在の日本におけるコンピューターサイエンス教育の社会背景は、最近大きく変化しています。プログラミングが必須化されていく一方で、教育機会の不平等化が顕著になっています。不登校、院内教育、経済的な理由や健康上の理由で学校に通常的に通えないお子さんもたくさんいます。子供たちばかりでなく、社会の急激な変化の中でプログラミングをはじめとするIT活用をこれまで教育や仕事の中で学べなかった若者にもこういったコンピュータサイエンス教育のチャンスを提供していきたいと考えています」と施策の必要性を説明した。
Minecraft:Education Editionで「Minecraftカップ2019全国大会」
「Minecraftカップ2019全国大会」は、全世界で9,100万人のアクティブユーザーがいる人気ゲーム「MINECRAFT」の教育向けエディションである「Minecraft:Education Edition」を使用して、「子供たちが創るスポーツでみんなが豊かに暮らすマチ」をテーマに参加者を募集する。
Minecraftは自由に世界を創り上げるマルチプレイのゲームで多くの大人や子供がプレイを楽しんできたが、以前から教育への利用が進んでおり、物理や国語、歴史や数学などの授業で使用が試みられてきた。Education Editionはそれを学校教育に利用するためのライセンスで、2016年6月から提供が開始されており、国内200校程度で導入されている。ゲームより多人数が参加でき、ゲーム以外にも算数や理科、プログラミングなどを学べる。Education Editionは通常教育機関で利用できるライセンスだが、今回は大会に誰でも参加できるように、特別ライセンスの提供を予定している。
今大会のテーマに「スポーツ」を据えたのは、2019年のラグビーワールドカップや2020東京オリンピック・パラリンピックなどでスポーツへの関心が高まるタイミングだからだという。
大会の主催と運営には日本マイクロソフトと一般社団法人ユニバーサル志縁センター、一般社団法人ICT CONNECT21が当たる。実行委員長には東京大学教授、慶應義塾大学教授の鈴木寛氏が就任した。
大会への参加条件は、原則15歳以下の男女3名以上のプレイヤーと、16歳以上のコーチ(コーチが16~19歳の場合、別途20歳以上の責任者が必要)からなるチームでの参加となる。開催期間は2019年3月10日(日)~8月31日(土)。
今大会は「困難のある・届きづらい」子供たちの大会参加支援にも力を入れており、病院内での学習支援や障碍のある子供たち、社会的養護、外国ルーツの子供たち、被災地の子供たちの参加に向けて積極的に支援し、困難を抱える子供たちへのプログラミング学習機会の提供としても訴求していく。参加チーム目標数は全国で200チーム。
15~44歳が対象のコンピューターサイエンスの要素を活かした就労支援プロジェクト「若者TECH」
「若者TECH」は若者支援現場の、ICTを学び、ICT学習を通じて成長する機会を作り、若者の成長可能性と雇用可能性を最大化することが目標だ。社会の変化がもたらす新たな働き方と必要スキルを何度でも学びなおしできるような社会を目指す施策だ。
2010~2017年、日本マイクロソフトと若者支援NPOが連携して取り組んできたICT活用スキルなどを全国の若者を対象に講習する「若者UP」という社会貢献プロジェクトが、2018年から厚生労働省に引き継がれ事業化されたものが「若者TECH」だ。若者の自分らしく働きたいという願いを支援するために、AI、IoT、ビッグデータ、プログラミングなどのコンピューターサイエンスに特化し、コンテンツと支援ノウハウを統合したパッケージを開発・提供する。提供機関は認定NPO法人育て上げネットで、日本マイクロソフトは協力機関という位置づけになる。
これまで「若者UP」には5万人を超える無業の若者が参加したが、「若者TECH」では2019年度に全国20か所に展開し、まず1万人に学びなおしの機会を提供する。
プログラミング教育の必修化は、将来的な生活・就労にプログラム思考が必要になるという前提があってのことだし、就業格差の拡大と急激に進行する人手不足の解消にはロス・ジェネを含む若者のICTリテラシーの向上が必須だ。今回発表された日本マイクロソフトの「コンピューターサイエンス教育施策」は日本が抱えるこの課題にコミットし、社会変革に貢献していこうという意思表明だ。
なお、同社では前週にもミレニアル世代の働き方改革推進異業種連携コミュニティの発足を発表するなど、世代間の多様性に注目した働き方改革支援に力を入れている。今回の施策は、子供たち・若者をターゲットに、将来の働き方改革までを見据えた具体的アクションのスタートと言えるだろう。
筆者プロフィール:狐塚淳
スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。