システムの作成から運用開始を2週間で実現
コロナ禍の情報共有基盤を庁内で内製化
【Case】大阪府
大阪府では、スマートシティ実現に向けた具体的な方向性や実践的な取り組みを示す「大阪スマートシティ戦略」を策定している。その戦略実現に向けて2020年4月に設置されたのが、「スマートシティ戦略部」であり、コロナ禍の中で「新型コロナウイルス対応状況管理システム」をノーコードで開発し、約2週間での本格運用をスタートさせた部署だ。
最初の仕事となったシステム作成
新型コロナウイルス対応状況管理システムを作成したその当時を、大阪府 スマートシティ戦略部 戦略推進室戦略企画課 戦略企画グループ 主査 林 嵩大氏は次のように振り返る。「大きな課題になっていたのが、患者の情報共有です。当時は保健所で新型コロナウイルスに感染したことが分かった患者(陽性者)数の把握や、患者に対する健康状況のヒアリングを電話で行っていました。各保健所では聞き取った内容をExcelに入力し、担当部署に送付してもらいます。大阪府の健康医療部では各市町村から送付されたExcelの情報をまとめて知事に報告するなど、非常に手間がかかっていました」
その情報共有の負担を改善するために、大阪府で導入を決めたのがkintoneだ。kintoneはサイボウズが提供する業務アプリ開発プラットフォームで、ドラッグ&ドロップのマウス操作で必要なアプリを自由に作れるノーコードツールだ。
「スマートシティ戦略部が創設されたのが4月1日。kintoneで新型コロナウイルス対応状況管理システムの作成に着手したのが4月6日と、非常に迅速に導入が決まりました。導入後、私と吉田がともに開発に携わり、4月13日には新型コロナウイルス対応状況管理システムが完成しました」と林氏は語る。
本システムの概要は次の通り。トヨクモが提供する「フォームブリッジ」「kViewer」を用い、患者がスマートフォンなどで自身の健康状態を報告し、その内容をkintoneのデータベースに自動的に蓄積するものだ。メールの送受信やExcelファイルの転記などの集計業務の手間を削減でき、大阪府庁や府内の各市、保健所が本システムを利用することで、関係機関の大幅な業務効率化を実現できる。
庁内の情報共有を大幅に効率化
林氏とともにシステム作成に携わったスマートシティ戦略部 戦略推進室戦略企画課 戦略調整グループ 主事 吉田健志氏は、当時大学を卒業し入庁したばかりの新入職員だった。「理系の大学を卒業したので、ITシステムなどに触れた経験はありましたが、それらを作った経験はありませんでした。しかし、kintone上でのシステムの作り方を教えてもらい、実際に手を動かすことで私でも作り上げることができました」と吉田氏は振り返る。およそ1週間で作られた本システムは、残りの1週間で実際に保健所や健康医療部で検証し、マニュアル作成なども行った上で本格運用をスタートさせた。
新型コロナウイルス対応状況管理システムを作成する以前は、健康医療部の壁にマグネット式のホワイトボードを貼り、それにより患者数などの状況を可視化していた。kintoneにそれらの情報が集約されるようになったことで、大きなディスプレイにその情報を表示し、グラフなどで視覚的に現在の状況を把握することが可能になったという。また、日ごとの患者の状況をリアルタイムで把握できるようになり、知事による情報発信などに役立てられるようになった。
吉田氏は「健康医療部では、患者の集計や陽性者の入院調整など、さまざまな班に分かれて新型コロナウイルスへの対応を行っていました。そのため、必要な情報を確認する班が同じフロアにおらず、他フロアへ移動する必要などもありました。kintoneにそれらの情報が集約できるようになったことで、わざわざ移動をしなくてもシステムにアクセスすれば状況が分かるようになり、人の流れなどを効率的に配置できるようになりましたね」と当時を振り返る。
現時点での新型コロナウイルスに関する情報共有には、厚生労働省が「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム」(HER-SYS)を公開しているため、kintoneによる新型コロナウイルス対応状況管理システムは使われていない。しかし、迅速な対応が求められていた当時の災禍において、大きな活躍をしたことは間違いないだろう。
フレキシブルな対応を可能に
現在でも高齢者施設における定期的なPCR検査の申し込み対応など、迅速な対応が求められる新型コロナ関連業務においてkintoneが積極的に活用されている。ほぼ全てのシステムは大阪府で内製化されており、「直感的な操作ができる点や、フレキシブルな対応ができる点が非常に魅力的です。ITが分からない人にとって、システムはブラックボックスで、中にどういったデータが登録されているか分かりませんが、kintoneはそこが簡略化されており、理解しやすいと思います。それがシステムに対する理解の深まりにつながり、その人自身のITスキルの成長にもつながるのではないでしょうか」と吉田氏。
現在、大阪府でのkintone活用は新型コロナ関連への対応が中心になっているが、今後は平常時の業務でも効率化を進めるため、kintoneによるシステム作成を進めていきたい考えだ。kintoneをはじめとしたICTツールに関する職員の教育に注力し、さらなる行政DXの取り組み推進につなげていく。
ローコードで開発した顧客管理ツールが深める
ジュエリーショップの顧客とのコミュニケーション
【Case】オリエント4C's
1966年、山梨県甲府市で創業した三枝製作所(現:ダイアート三枝)は、指輪の台座部分である「空枠」の製造からスタートしたジュエリーメーカー。そのグループ会社であるオリエント4C'sは、ダイアート三枝が製造する約2万8,000種の豊富な空枠のラインアップを、全国の貴金属店、宝石卸、小売業者4,000社に販売している。そのオリエント4C'sがローコードで進めるDXの取り組みを聞いた。
Microsoft 365で業務を大幅に効率化
東京都御徒町に本店を置くオリエント4C'sでは、代表取締役 専務の三枝琢弥氏主導のもと、DXに取り組んでいる。空枠や加工の商品詳細や見積もりをWeb上で確認できるサービスや、従業員間の情報共有を行うためのチャットツールの活用など、非常に積極的なIT活用を行うことで、業務の効率化に取り組んできた。
そうした中でオリエント4C'sは、さらなる業務効率化を目指し「Microsoft 365」を2019年3月に導入。その経緯を、三枝氏は次のように語る。「もともと利用していたチャットツールは、情報管理が行いにくいという課題がありました。当社でWindows端末を使用していることもあり、Microsoft 365のOfficeツールや、コミュニケーションツールである『Microsoft Teams』(以下、Teams)を活用し、さらなる効率化を実現するためにMicrosoft 365の導入を決めました」
Microsoft 365の導入により、Teamsによるリアルタイムなコミュニケーションや、ファイル共有サービス「Microsoft SharePoint」によるデータ共有を実現でき、オリエント4C'sの社内コミュニケーションは劇的に変化したという。2020年4月に出された第1回目緊急事態宣言によって求められたテレワークの実施に対しても、Microsoft 365によって整備されたIT環境は大きな効果を発揮した。
「当社には、社内の業務改善に対して有効な提案をした従業員を表彰する制度があるのですが、Microsoft 365を提案したことによって私が社長賞を受賞したんですよ」と三枝氏は笑う。そして、Microsoft 365を使い続ける中で、従業員からある要望が上がった。
Power Appsで顧客管理ツールを開発
それは、オリエント4C'sが運営する実店舗における顧客管理だ。オリエント4C'sは冒頭に述べた通り、空枠を貴金属店、宝石卸、小売業者に販売するBtoBのビジネスがメインだった。しかし、15年ほど前からその貴金属加工の技術を生かし、百貨店やファッションビルに直営店舗を出店。ジュエリーのリフォームや修理から販売といったBtoC事業にも裾野を広げ、現在ではオリエント4C'sの主力事業となっている。
三枝氏は「おばあさまの形見の指輪を、石だけ使ってリフォームしたいといったお客さまなど、ジュエリーのリフォーム需要は多いです。直営店は複数の百貨店、ファッションビルに出店しており、多くのお客さまにご愛顧いただいています。しかし、百貨店では顧客の情報をダイレクトメールなどの営業に使うことができません。ファッションビルでは顧客情報が店舗に公開されており、ダイレクトメールなどにも活用ができましたが、当社ではそれらの顧客情報を紙ベースで管理していました。当初は1~2店舗での展開だったので問題なかった紙での顧客管理も、店舗の展開が増える中で顧客数も増えたため、十分な管理が行ないにくくなりました。顧客層の多くがリピーターであり、お客さまへの十分なサービスが必要であったことも背景としてあります」と語る。
そこでオリエント4C'sが導入したのが、ローコード開発ツール「Microsoft Power Apps」(以下、Power Apps)だ。Webアプリを簡単に開発できるその簡便さを魅力に感じて活用を決めた。2020年夏ごろからディーアイエスサービス&ソリューションに依頼して開発をスタート。3カ月という短期間で開発が完了し、2020年11月には稼働をスタートさせたという。
統計的アプローチによるDM効果
Power Appsによって開発された顧客管理ツールについて、三枝氏は「お客さまとの関係構築を、非常に効率的に行えるようになりました。従来の紙の顧客台帳では、リピーターのお客さまに来ていただいても担当者が不在で把握できなかったり、店舗間での連携がうまくできなかったりしました。Power Appsで開発した顧客管理ツールがあることで、そうした問題が解決できるだけでなく、店舗が休業となったコロナ禍でも売り上げの低下を極力抑えることができました」と振り返る。
具体的には、顧客管理ツールの情報をもとに顧客に対してダイレクトメールの送付を行った。顧客の属性や来店した時期などの情報から統計的にダイレクトメールを送付したことで、売り上げに大きな効果をもたらすことができたという。「緊急事態宣言中などで来店が難しいお客さまからは、ダイレクトメールに対してお手紙をいただいたり、感染状況が落ち着いたころに来店していただいたりするなど、ダイレクトメールによってお客さまとのコミュニケーションを深めることができました。顧客情報を統計的に使うパワーは非常に大きいのだと再認識できました」と三枝氏は振り返る。
今後の二次開発では地域別でのダイレクトメール配信が行えるよう、ディーアイエスサービス&ソリューションに改修を依頼しているという。また、自社内従業員のITリテラシーの向上も進めていく方針だ。「将来的には、Power Appsの顧客管理ツールと当社の基幹システムを連携し、在庫情報などを直接参照できるようにしていきたいですね。従業員のITリテラシーを向上させるため、社員研修などの取り組みも進めており、データ分析の手法をテーマに『Microsoft Access』 や『Microsoft Excel』でのデータ分析や、『Microsoft Forms』を活用したアンケート作成などの研修を行っています。今後はディーアイエスサービス&ソリューションが提供する『Power Apps教育サービス』のメニューも利用し、社員のITリテラシーをさらに向上させていきます。顧客管理ツールに蓄積されたデータを生かすため、現場でもツールをカスタマイズしてより使い勝手をよくしていきたいですね」と三枝氏は語った。