新米CIO代理のためのスマートワークサポートToDoリスト
【第2回】将来の自社の働き方のあるべき姿を描いてみよう
企業のスマートワーク実現に向けて、IT担当者が「CIO代理」としてどう取り組んでいくべきかを探る連載の2回目。今回は働き方の将来像の把握の重要性と、将来的な自社の働き方のあるべき姿を描いていくためにどのようなアプローチが有効かを解説する。
文/坂本俊輔
自社の働き方の現状を整理する
将来的にスマートワーク化された自社の働き方のあるべき姿(ToBe)を描く上で、まずは現状の自社の働き方を知る必要がある。要件検討の前に現状把握をするというのは、一般的な情報システムと同じだからIT担当者であるCIO代理として違和感はないだろう。
問題は、どのような観点で現状把握をすべきか、ということである。スマートワークは、「“時間”と“場所”にとらわれない働き方」であるから、どのような時間と場所で働いているのか、ということが現状整理の観点となる。なお、「“時間”にとらわれない」については、労務管理の要素が強く、IT領域に収まらない検討事項が非常に多い。CIO代理として取り組むとはいえ、わざわざハードルの高いことから取り組むことはない。まずは、「“場所”にとらわれない」という観点から検討を進めていくことをお勧めする。
職種ごとに「働く場所」と利用している「もの」を整理する
現状、「働く場所」がどうなっているかを把握する際には、そこで仕事を遂行する上で利用している「もの」をあわせて整理しておかなくてはならない。
利用する「もの」には、「物理的なもの(以降、便宜上「モノ」と表記することにする」と「情報」とに分けて考える。紙資料のように紙そのものではなく、紙に掲載されている情報が重要なものについては、「情報」とみなす方が適切である。また、PCやスマートフォンのような情報端末や、情報システムのように「情報にアクセスする手段」も「情報」の一環とみなす方が適切だ。
「CIO代理」としては、特に利用している「情報システム」の整理は重要になる。システムによっては、アクセスできる拠点や端末の制限がかかっている場合もあるだろう。
以下は、一般的な職種における働く場所と利用しているものの例を整理した表である。例えば営業職なら働く場所は外勤中心で時間を使うことになるだろう。対外的には交渉が中心だから仕事に必要なモノは備品程度。コミュニケーションのために必要な情報として商品カタログや見積書などが必要になる。社内との情報連絡にはスマートフォンやノートPCなどのデバイスが必要で、業務の中で使用する情報システムは販売管理システムやファイルサーバー、各種申請システムなどだ。一方、経理なら内勤中心で、利用するモノは同じく備品程度。情報としては外部から受領する納品書などを取り扱う。情報の処理にはPCを利用し、使用する社内システムは会計システムや各種申請システムだ。このように職種ごとに整理をしていき、現状のモノ・情報の利用状況を把握していくことにより、将来的なスマートワーク化でモノや情報への利用形態をどうアップデートしていけばいいのかを考えることが可能になる。
もっとも1つの職種でも、仕事内容は多岐に渡るため、実際にはもっと細かい仕事内容の分解・整理が必要だ。例えば営業であれば、「商談」、「社内会議」、「提案書作成」などのように業務単位に分解し、それぞれに必要なモノ・情報を洗い出すイメージだ。
また、事業内容によって整理結果は当然異なってくるため、自社の職種や仕事内容で整理をしてみてほしい。
「場所にとらわれない働き方」のために検討すべき要素
「CIO」は最高情報責任者であるから、「CIO代理」として検討すべき「場所にとらわれない働き方」とは、「場所にとらわれずに『情報』を利用できる働き方」だと考えるといいだろう。上記の表での製造や物流業務のように大規模な「モノ」を必要とする業務については、本コラムではいったん検討対象外とする。
では、「場所にとらわれない働き方」を推進する上で検討すべき事項は何か。全社共通で必要不可欠な検討事項は「ペーパーレスの推進」「情報システムへのアクセス制限の見直し」「コミュニケーション手段の見直し」の3つだ。
(1)ペーパーレスの推進
ペーパーレス化は「情報」の取り扱いを「場所」の制限から解き放つために大変に重要だ。
ペーパーレスを推進できれば、紙自体の持ち運びが不要になるだけでなく、ホッチキスやバインダ等の備品類の利用についても併せて不要にできる。検討を進めるなかで、紙にこだわる「抵抗勢力」が出てくることも多いだろう。スマートワークの検討が経営層からのトップダウンでの指示であるならば、これを根拠に全社的なペーパーレス化を推進してしまおう。
ペーパーレス化は社会的な動向でもあるから、対外的な商談会議などにおいても、相手方の理解を得やすい環境は整いつつある。なお、納品書や受領書などの捺印を要するような対外的な書類については、即時紙を廃止することは困難であるが、事業モデルによっては取引先の理解を得ながら電子商取引システムを推進する、という手段もある。
(2)情報システムへのアクセス制限の見直し
企業の情報セキュリティポリシーや各情報システムの特性により、情報システムへのアクセス制限が存在している企業は多いだろう。自社事務所内からしか情報システムにアクセスできない場合には、情報システムを利用した業務は必ず自社内で実施しなければならないことになってしまう。
「場所にとらわれない働き方」を実現するためには、場所にとらわれず情報システムを利用できる状況を作り出すことが不可欠だが、もちろん情報セキュリティ対策もおろそかにするわけにはいかない。
ネットワーク、デバイス、情報セキュリティ対策、そしてクラウドサービスの利用など、多様な観点での検討を踏まえて、情報システムへのアクセス制限を見直す必要がある。これらについては、次回以降のコラムで順次掘り下げることとしたい。
(3)コミュニケーション手段の見直し
一般的に、自社事務所で仕事をする大きな理由の1つが、円滑に業務を遂行するために上司や同僚、部下とのコミュニケーションが必要とされる点だ。コミュニケーションロスを防ぎ、また信頼感を醸成するための最良の手段は対面であるが、一方で、対面のコミュニケーションのために要するコスト(移動時間、経費)も甚大だ。
スマートワーク検討を機会に、現在実施している会議や対話が本当に対面である必要があるのか、改めて見直すことが必要になる。検討を進めると、対面コミュニケーションにこだわる「抵抗勢力」が出てくると思われるが、彼らもすでに電話やメールといった対面以外のコミュニケーション手段を利用している。彼らの述べる「対面でなければダメだ」は、「電話やメールではダメだ」ということかもしれない。電話やメールでのコミュニケーションでは課題になることも、ウェブ会議システムやチャットツールといった手段で解消できることも出てきている。価格的に安価なサービスが増えていることもあり、是非これらのツールの活用も検討してみてほしい。
将来の自社の働き方のあり方を社内に向けて説明する
最初に整理した、自社の働き方の現状に対して、上述の3つの検討事項を推進した場合に、数年後に自社の働き方がどのように変化しているかを描いてみよう。
働く場所の自由度がどれだけ増すか、どれだけの移動が不要になるか、どれだけ生産性が向上し、社員の満足度が高まるのか。これらのビジョンを説明できるようになることが、情報システム見直しの投資判断を仰ぐうえで必要となることはもちろんのこと、スマートワークの実現に向けて協力を得なければならない他部門の理解を得るためにも重要となる。
次回のコラムでは、情報システムの見直しのうち、自社ネットワークのあり方についての検討について掘り下げてみることにする。
<「新米CIO代理のためのスマートワークサポートToDoリスト」前回リンク>
【第1回】先進的大企業以外では、社内のIT担当者に「CIO」の役割が求められる>>
筆者プロフィール:坂本俊輔
株式会社グローバル・パートナーズ・テクノロジー代表取締役社長。CIOアウトソーシング事業を手掛け、数々のユーザー企業の体制強化を支援している。内閣官房政府CIO補佐官も務める。また、スマートワークを自社に積極導入しており、東京都テレワークイベントなどにおいて多数のパネリスト登壇実績を有する。