働き方改革のキーワード - 第23回
人生100年時代に問われる本当のキャリアとは?
必要なのは「人づくり政策」ではなく、企業ごとの創意工夫
ベストセラー『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』が提起した「人生100年時代」。来るべき平均寿命100歳超時代をにらみ、政府は新たに「人づくり」政策を提唱し始めているが、じつは働き方改革の一層の推進こそ、人生100年時代の処方箋なのだ。
文/まつもとあつし
寿命が延びるのは良いことだけど……
「日本では2007年に生まれた子どもの半数が107歳より長く生きる」という研究結果が注目を集め、国も「人生100年時代」を政策の根幹に据えるようになりました。日本において特に「人生100年時代」に注目が集まるのは、先進国のなかでもいち早く少子高齢化社会を迎えるためです。
しかし従来の考え方ではこの連載でも見てきたように、労働人口の減少=経済が弱くなるという構図があり、終戦後の経済発展期の人口ボーナスに対して、人口オーナスという言葉も紹介されてきました。人々の寿命が延びるというのは本来は喜ばしいことですが、それだけでは、若い世代の社会福祉の負担が大きくなるという負の側面がクローズアップされてきました。そのため「少子化対策」が長年叫ばれてきたわけですが、出生率は過去最低を更新し続けており、目立った効果は現れていません。
そんな中、2016年に出版された『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』という本が注目を集めました。
この本では、人生が100年を超えることが当たり前になることによって、個人や社会にどんな変化がもたらされ、何が求められるのか様々な角度からの分析と提言が示されています。そこでは健康寿命が延びていく社会において、様々な変革を通じて個人や組織がそこに適応することができれば、新しい価値を生み出すことができるという、高齢化の負のイメージを覆す未来図が描かれているのです。政府はこの本の著者の一人リンダ・グラットン氏を「人生100年時代構想会議」の有識者議員として迎え意見交換を行っています。
これまでの「キャリアプラン」は役に立たない
これまでの人生設計=キャリアプランは、おおよそ20代半ばまでは学校教育を受け、そこから就職、60代で定年を迎えるまで会社勤めをし、資産形成を行って引退後は悠々自適というのが理想とされてきました。
しかし、人生が100年を超えるとなると「引退」後も約40年間生活を続けることになります。現実的に、それまでの蓄えで暮していくことは難しく、また少子高齢化が進み健康寿命も延びる中、高齢者が社会参画しないというのは社会にとっても損失が大きいという指摘も大きくなってきています。
『ライフ・シフト』では、何歳までは教育を受ける、1つの会社に勤める、といった画一的な人生設計ではなく、職業訓練や学び直しにあてる期間、1つの仕事だけではなく、複数の仕事を行うスタイルなどが提言されています。実際筆者の周りをみても、意図する・せざるに関わらず、そういったキャリアを生きている人が増えているようにも感じられます。
一方で、そういった変化に、国や会社の制度が追いついていないというのも実情です。現在、国は政策パッケージとして「人づくり革命」を掲げ、幼児・高等教育の無償化、大学改革など教育改革も含めた構想を矢継ぎ早に打ち出していますが、入試改革が頓挫したように、必ずしも成果を挙げていない現状もあります。「定年の引き上げ」というメッセージに企業は敏感に反応し、業績が悪くなっていないにも関わらず早期退職を勧める会社も出てきています。
リンダ・グラットン氏らの提言は、「前向きに長く生産的な人生を送る」点にポイントがあります。「人づくり」という言葉に置き換えたり、経済対策に収めようとしてしまうと、必要な改革も総花的になってしまいがちですが、「働きながら学べるようにする教育制度」「複数の場でスキルを活かせる柔軟な働き方を可能とする労働制度」「チャレンジ=失敗のリスクを採れる起業環境」といった働き方改革のポイントを押さえることが重要ではないでしょうか。そして、これらの取り組みは企業単位でも行なえるものも多く、「働き方改革」で先行した企業が優位であるように、「人生100年を見据えた」スマートな働き方を提案できる企業はこれから強みを発揮できるはずなのです。
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筆者プロフィール:まつもとあつし
スマートワーク総研所長。ITベンチャー・出版社・広告代理店・映像会社などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ASCII.jp・ITmedia・ダ・ヴィンチニュースなどに寄稿。著書に『知的生産の技術とセンス』(マイナビ新書/堀正岳との共著)、『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(アスキー新書)、『コンテンツビジネス・デジタルシフト』(NTT出版)など。