ローカル5G検証ラボスペースでパートナー企業との共創を加速

LAB

ローカル5Gの実証実験への取り組みが進んでいる。それを加速させているのが、ローカル5G免許を取得し検証環境を提供している企業の存在だ。企業のハードウェアとローカル5Gの接続検証などを行ったり、パートナーシップを結び実証実験に取り組んだりする場を設け、パートナー企業との共創に取り組むNTTデータが提供東日本と富士通を取材した。

ローカル5Gオープンラボ

取材対応:NTT東日本
(右)経営企画部 渡辺憲一 氏
(左)テクニカルソリューション部 門野貴明 氏

――ここは、「可能性」の、実験場。

 その一文から始まるキャッチコピーが掲示されているのは、NTT東日本と東京大学が国内で初めて産学共同で設立したローカル5Gの検証環境「ローカル5Gオープンラボ」。2020年2月に設立され、2020年7月にリニューアルオープンした本施設は、ローカル5Gの試験環境を構築すると同時に、さまざまな産業プレイヤーとのローカル5Gを活用したユースケースの共創に取り組む場だ。NTT中央研修センタの6号館に設置された本施設では、機器の持ち込み可能な約100㎡のクローズな「検証ルーム」に、コワーキングスペースやソリューション展示スペースとして活用できる「オープンスペース」、検証後の打ち合わせや商談などが行える「カンファレンスルーム」が用意されている。本施設ではローカル5Gアンテナ(28GHzNSA/4.7GHz SA・NSA)を屋内外合わせて合計7基設置するほか、検証用端末としてゲートウェイやコネクトデバイス、モバイルルーターなどを用意している。また、NTT中央研修センタ内には5GによるDXを体感できる検証施設として、畑やビニールハウス、ドローン飛行場、スマートストアが用意されており、ローカル5Gを活用したスマート農業などを検証できる環境を整えている。

 ローカル5Gオープンラボには、すでにさまざまな企業が訪れ、環境を利用した実証実験も行われている。農業向けのサービスロボットおよびドローンの開発・製造・販売などを行う銀座農園は、自社が開発したローカル5G対応の自律走行ロボット「FARBOT」を用い、イチゴの収穫個数判定の検証実験などを行っている。

 パートナー企業との取り組みも広がっている。NTT東日本、東急不動産、PALの3社で戦略的パートナーシップを締結。ローカル5G環境を物流倉庫に整備し、最適なネットワークインフラによって動態管理・自動検品、自動運転などによって、生産性・安全性の高い物流センターの実現に取り組んでいく。自治体のローカル5Gに対する取り組みも支援しており、東京都と東京大学、NTT東日本の3社で協定を締結し、都内の中小企業がローカル5G環境を検証できる環境「DX推進センター」を構築。また、東京都の「5Gによる工場のスマート化モデル事業」においても、採択された企業3社のローカル5G環境構築を支援している(▲P.62、63にて施設や事業を詳報)。

 多様なパートナー企業や自治体のローカル5G構築を幅広く提案、構築をサポートしているNTT東日本。今後もローカル5Gオープンラボを起点に、事業×技術による地域課題解決を推進していく。

検証ルームに設置されているローカル5Gの基地局。随時拡張しており、現在4メーカー、合計7基を屋内外に設置している。
ローカル5Gスタート当初は大きかったアンテナも、現在は小型化が進んでいるという。
検証ルームに用意されている5Gデバイス。NTTドローンテクノロジーが提供するドローンや、銀座農園の自律走行ロボットなども並ぶ。
NTT中央研修センタの敷地内には、スマート農業検証のためのビニールハウスも用意されており、ローカル5Gを活用した多様な実証研究が行える。

FUJITSU コラボレーションラボ

取材対応:富士通
5G Vertical Service室
(左)掘越 泰郎 氏
(中)中澤久美子 氏
(右)上野知行 氏

 全国で初めてローカル5G(28.2~28.3GHzのミリ波)の無線局免許を取得したのが富士通だ。総務省から、2020年2月18日付で予備免許が付与され、同年3月27日には無線局免許(商用免許)を取得した。富士通では、このローカル5G免許を利用して、同社の新川崎テクノロジースクエア内にローカル5G実証環境「FUJITSU コラボレーションラボ」を構築し、ローカル5Gを活用したユースケースの検証に活用されている。

 広さ約200㎡のFUJITSU コラボレーションラボでは、ローカル5G基地局、ローカル5G通信端末、インターネット接続環境、エッジコンピューティング用サーバー、各種計測器を利用可能だ。パートナー企業との「検証スペース」、共創開発や打ち合わせを行う「ワーキングエリア」を設けている。

 また、ローカル5Gパートナーシッププログラムを提供し、顧客の業務革新や課題解決に向けて、富士通のローカル5Gをはじめとする技術や知見、パートナー企業の先端技術を活用し、ソリューションの共創を進めている。富士通が提供するローカル5Gネットワークとの接続性を検証する「接続検証プログラム」と、パートナー企業と富士通の商品やサービス、先端技術を組み合わせてソリューションを共創する「ソリューション共創プログラム」の二つのプログラムで構成されており、FUJITSU コラボレーションラボを活用しながら、パートナー企業とともにローカル5Gを活用したユースケースの検証を進めている。すでに1,000件以上の問い合わせがあり、その3割を製造業が占めるという。

 富士通ではローカル5Gの自社実践も進めている。同社の小山工場では、ローカル5Gとエッジ&クラウドシステムを適用し、MRによる作業トレーニングや遠隔支援、AI映像解析による作業判定、無人搬送の位置制御による自動走行などに取り組んでいる。その原型となったのが、パートナー企業との共創だ。日本マイクロソフトとともに、ローカル5Gを活用してリアルタイムに製造現場の施設内のデータを可視化するシステムの有効性を検証しており、その知見をもとに小山工場へと展開している。

 富士通では、企業向けネットワークサービス事業で培ってきたソリューション提供ノウハウと、通信キャリアシステムで培ってきたテクノロジーやネットワーク設計・構築ノウハウなどのナレッジを持っている。半面、デバイスなど新しい価値を生むものを創造することは、富士通だけでは難しいという。そのため、富士通がネットワーク構築の部分をトータルで担いながら、パートナー企業のローカル5Gビジネスを支援し、ともに新しい価値を生み出していく方針だ。

検証スペースに設置された5G基地局。現在は28GHz帯NSAシステムと4.7GHz帯SAシステムを整備している。
ローカル5G運用を支えるローカル5Gシステムとエッジコンピューティングサーバー。
指定したルートを走行する無人搬送の制御技術や映像認識によって行動認識、物体認識が可能なソリューションなどの実証研究を行っている。
映像認識により、人が混雑している箇所や、侵入してはいけない場所などに人が入った場合にアラートを表示できる。

東京都が行う中小企業へのローカル5G活用支援

SMB Support

地方自治体として、ローカル5G無線局免許を初めて取得したのが東京都だ。東京都は東京都立産業技術研究センター内にローカル5G基地局を設置し、「DX推進センター」として都内中小企業のDXを後押ししている。そのDX推進センターでの取り組みを取材した。

三つの基地局で多様な5G活用

東京都立産業技術研究センター
(左)金田泰昌 氏
(右)入月康晴 氏

 ローカル5Gは全国の企業や自治体などさまざまな主体が、個別のニーズに応じて自らの施設内や敷地内でスポット的に5G通信シスムを構築・利用できるものだ。このローカル5Gを利用する上では、建物や土地の所有者がローカル5Gの無線局免許を取得する必要がある。

 そのローカル5Gの無線局免許を、地方自治体として初めて取得したのが東京都だ。東京都は、地方独立行政法人東京産業技術研究センター(以下、都産技研)が運営するテレコムセンタービル東棟の東京都立産業技術研究センター内をローカル5G基地局設置場所として総務省に申請し、2020年6月に免許を取得。2020年11月には、東京都立産業技術研究センター内にDX推進センターをオープン。中小企業によるローカル5G、ロボット、IoTなどを組み合わせて活用し、製品開発のレベルを一段と高めていくことを支援していく拠点として提供している。

 都産技研 開発本部 情報システム技術部 通信技術グループ長 兼 情報システム技術部 IoT技術グループ 上席研究員 博士(工学) 金田泰昌氏は「DX推進センター内には、ローカル5G基地局が三つ設置されています。この基地局を活用し、自社開発製品のローカル5Gの接続試験などを行える環境を提供しています。もともと東京ロボット産業支援プラザとして、サービスロボットの開発支援や普及促進を行っていたため、サービスロボットの動作などを検証するための擬似実証スペースとして、リビング、トイレ・浴室、店舗を用意しています。基地局の一つは現在店舗に設置されており、ロボットと5Gを掛け合わせたサービスロボット制御の実証などが行える環境を整えています」と語る。

DX推進センターでは、擬似実証スペースとしてリビングや店舗などの環境を用意する。
床が傾斜する広い検証スペース。サービスロボットが傾斜した場所でも問題なく動けるかどうかなどを検証できる。
三つ設置されている基地局の内一つは、5G評価室と呼ばれる会議室スペースに設置されている。
DX推進センターでは、コンパクトなアンテナ評価環境を用意しており、まだ製品化されていない5G端末のアンテナ検証が可能だ。

ロボットと5Gを組み合わせた活用

 また東京都では、東京都中小企業振興ビジョンとして「中小企業の5G・IoT・ロボット普及促進事業」を2021年度から実施している。都産技研では本事業に基づき、ローカル5G環境を整備して技術的な支援を行うとともに、新たに5Gを活用したロボットやIoT関連製品開発支援の公募型共同研究も実施している。「2021年度は、中小企業からのサービスロボットを活用した研究テーマが2件採択され、現在共同研究の相談を進めている段階です」と都産技研 開発本部 情報システム技術部長(主席研究員) 博士(工学) 入月康晴氏は語る。中小企業でローカル5Gを活用した研究を行う上で大きなボトルネックとなるのがコストだが、その研究開発資金をテーマごとに5,000万円を上限に、中小企業者に委託して、その研究開発の一部を都産技研が分担して実施する。

「ローカル5Gと組み合わせることで、サービスロボットの可能性は大きく広がります。例えば警備ロボットとローカル5Gを組み合わせれば、大量の画像をリアルタイムに転送して監視ができたり、遅延なくロボットが制御できたりします。そうしたローカル5Gによる産業利用のメリットを、今後この環境を使って、さまざまな企業さまに検証してもらいたいですね」と入月氏は語った。

TOPICS

ローカル5Gで工場をスマート化

東京都では、都内の中小製造業の次世代通信インフラの導入・活用と生産性向上を支援するため「5Gによる工場のスマート化モデル事業」を実施している。2020年11月17日に中小製造事業者からの募集を開始し、2021年3月25日には採択企業3社が決定した。採択企業は大田区のヱビナ電化工業、大森クローム工業、武蔵村山市の武州工業だ。

 本事業では自社の製造工場においてローカル5Gを活用し、生産方式の改善や効率化、ビジネスモデル革新など、都内のものづくり中小企業のモデルケースとなるような先駆的な事業に対して、経費の一部を助成する。助成率は5分の4、助成限度額1億2,000万円、助成対象期間は最長3年間と、その補助は非常に大きい。

 本事業について、東京都 産業労働局 商工部 創業支援課 技術調整担当課長 加耒順也氏は「不確実で変化の激しい世界の中で、企業規模を問わずダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)が求められています。しかし、中小企業は大企業と比較して、資金力などの問題から変革を進めたくても進められないという課題があります。今回の事業での助成率は破格ですが、製造業がダイナミック・ケイパビリティを得るためにはローカル5Gの整備は極めて重要で、その導入には多くの経費がかかります。ウィズコロナ・アフターコロナの社会に向けて、中小製造業がDXを進めていくためにも、本事業においてその取り組みを支援し、ものづくり中小企業の生産性向上、ビジネスモデルの革新を促進していきます」と語る。

 本事業では助成金による補助のほか、事業管理コーディネーターによる経営、技術面などでのアドバイスも行い、3社の採択企業の工場のスマート化への取り組みを支援していく。