あの人のスマートワークが知りたい! - 第25回
働き方改革、DXを目指す企業は、身近な繰り返し業務の自動化が可能なPower Automateに注目する
イルミネート・ジャパンの奥田理恵氏はマイクロソフト製品のトレーニングや技術サポートなどを業務としている。最近トレーニングが急増しているのが、ローコード開発のPower Platform、その中でも業務フローの自動化を容易に実現できるPower Automateだ。DXを意識する企業がPower Automateに注目する理由をうかがった。
働き方改革とDXを意識する企業がローコード開発に注目
―― 奥田さんは勤務しているイルミネート・ジャパンで、マイクロソフト製品のトレーニングや技術サポートを行われているそうですが、どんな製品、サービスについての業務がメインですか?
奥田 以前はサーバー製品に関する業務なども多かったのですが、最近ではほぼクラウドサービスが対象ですね。具体的にはMicrosoft 365 関連製品です。ここ1~2年は、最もトレーニングニーズが高いのはMicrosoft 365 の管理系や Power Platform 関連です。
―― Microsoft 365は非常にポピュラーですが、Power Platformとはどのようなクラウドサービスなのですか?
奥田 マイクロソフトが2016年から提供しているローコードプラットフォームです。コーディングの必要がほとんどなく業務アプリ開発を行える仕組みというのは以前からいろいろ存在したわけですが、昨今のニーズに合わせて注目を浴びるようになってきています。
―― Power Platformには複数のサービスが含まれているのですよね?
奥田 アプリケーション開発が行えるPower Appsと処理の自動化やワークフローが実現できるPower Automate、データ分析を行うPower BI、チャットボットを作成できるPower Virtual Agentsの4サービスから構成されています。
―― 現在関心が高いのはその中のどの製品ですか?
奥田 以前からPower BIについては安定したデータ分析ニーズがありますが、一昨年からは、Power AppsとPower Automateのトレーニングや問い合わせが増えています。これは、働き方改革のための生産性向上、DXなどのキーワードからローコードで業務アプリを開発したい、作業を自動化したいというニーズが増えたことが背景です。企業ごとにニーズが異なるため、4つの製品から、目的に沿った製品を導入されたり、もしくは導入を検討されることがほとんどだと思います。
注目の前提はMicrosoft 365の普及
―― Power AppsとPower Automateのニーズはどのように違うのですか?
奥田 Power Appsはコーディングなしでアプリ開発が可能です。リモートワークなどでエンドユーザーに必要になるデジタル化、紙ベースで対応していたような業務をローコードでアプリ化していきたいというニーズに応えられます。Microsoft 365を利用されている企業が生産効率化を図っていく場合に、マイクロソフト自身がそれに対応したサービスを提供しているということを知り、Power Appsを使って何かできるのではないかというニーズですね。Microsoft 365のライセンスに一部機能が含まれていますので、新規の投資なしにテスト的に始めてみようというユーザーは少なくありません。
―― 一方、Power Automateの方は?
奥田 サービスにフォーカスが当たる背景は、Power Appsとは少し異なっていると感じています。働き方改革や生産性向上、業務の効率化を図るために、興味をもたれるケースがほとんどだと思います。これまでもRPA製品などに業務の効率化や自動化でフォーカスが当たることは一般的でしたが、そこにマイクロソフト社が参入してきたととらえているユーザーも多いです。Power AutomateはもともとMicrosoft Flowという製品名で提供されていましたが、製品名が変更されました。また製品提供時から備わっていた機能である「クラウドフロー」 に加えて、RPA 機能である 「デスクトップフロー」という機能が追加され利用範囲が広がりました。どちらも Microsoft 365 や Windows を利用されている場合、追加投資なしに利用できる範囲があるため、関心が高まっています。
「クラウドフロー」と「デスクトップフロー」
―― 代表的な機能が2つあるのですね?
奥田 「クラウドフロー」はAPIを経由していろいろなクラウドサービスやアプリ上の作業を並べてつなげていくことで、作業の効率化、自動化を実現します。一方後から加わった「デスクトップフロー」はパソコン上でのアプリを使った操作を学習し、自動化してくれるわけですが、なぜこの機能が加えられたかというと、まだまだ社内にレガシーな独自のシステムを抱えている会社があるためだと思います。こうしたシステムはAPIを経由してクラウドサービスとつながらないので、RPAを使わないと作業をつなげて自動化していくことができないのです。メールの添付書類を、独自の顧客管理システムに転記してデータを保存し、社内見積もり依頼をしなくてはいけないなど、仕事の流れはひとつのアプリだけで完結するものではないし、中にはAPIを持っていない、少し古い社内独自のシステムもあるでしょう。そうしたアプリ間の橋渡しをして、自動化、効率化を図っていけるのがPower Automateです。「デスクトップフロー」は社内の仕事のフローを作っていく際に、Power Automate Desktopというツールを使うのですが、3月にこのツールの無償化が発表されて、より間口が広がったように感じています。発表後、イルミネート・ジャパンが開催しているPower Automateのトレーニングコースの申し込みも目に見えて増えています。
Power Automateは業務部門でも1日のトレーニングで利用可能に
―― Power Automateのトレーニングを受講するのは、どんな業種や職種の方がいらっしゃいますか?
奥田 業種はさまざまですが、IT部門の担当者がまずは受講されて、業務部門への展開を考える場合や、すでに社内で導入されているが使い方がわからないので勉強しにきたという業務部門の方、私たちと同業のトレーニング会社の方も目立ちます。また、SIerのSEの方も増えてきていて、Power Platform使用を前提とした開発案件も増加してきているというお話です。従来の一からの開発と比較するとスピード感やコスト感が変わってきますし、メンテナンスも容易になります。
―― Power AppsやPower Automateはプログラミング知識なしで利用できるのですか?
奥田 可能です。より高度なことを行おうとすれば、それなりの知識は必要になりますが、例えば Excel でも、関数まででできることとマクロが必要になる場合は異なりますよね。そういった感じです。Power Automateなら業務部門の方でも最短1日のトレーニングコースで、Power Appsでも丸2日のトレーニングコースで利用できるようになります。個人的には複雑なものを作る必要はないと思っていて、すぐに作れてちょっと便利なものを作るところから始めるのがいいと思います。DXや働き方改革のために、自動化しなくてはいけない仕事は、IT部門によりシステムやアプリを提供されるようなところからこぼれる部分だと思うんです。予算もなくシステム化に拾われずに運用でカバーしていた部分で、人手でもなんとかなるけど面倒くさい、こうした作業を業務の流れを知っている本人が自動化できるのがローコードプラットフォームのいいところです。
―― 習得のハードルとしてはどんな部分が考えられますか?
奥田 弊社トレーニングを受講していただける場合、カリキュラムはあるので、ハンズオンを行いながら操作や機能、仕組みを覚えることは問題ないですが、ハードルとしては、設計の部分ですね。持ち帰って自分の業務を業務プロセスとして図解し、それを分岐など入れ込んだフローに起こしていくところです。業務を理解していても業務図のようなものを考えずにやっていくとつまずく可能性はあります。
―― コースを受講した方は、その後どんな風に学んでいけばいいのですか?
岡田 クラウドサービスは機能的に進歩していくものなので、マイクロソフトが提供するブログを読んだりtwitterをフォローしておくことをお勧めしています。また、多数の公式テンプレートがサイトで公開されていますので、それを見て動きを知るなどの参考にしていくといいと思います。Power Automateが出始めのころは、他に情報があまりなかったので、私もテンプレートでずいぶん勉強しました。
業務自体のブラッシュアップにつなげる
―― 今後、かなり普及が期待できそうですね?
奥田 すでにRPAを導入している企業がPower Automateに乗り換えるかといえば、作成済のロボットを作り直すことになるので、そう簡単にはいかないでしょう。しかし、ライセンス更新のタイミングなどで検討されるケースはあるかもしれません。また、IT部門主導で本格的にRPAを導入する場合、どれだけROIを上げられるかという費用対効果の高い業務からロボット化が進んでいきます。ROIの出づらい個人の業務まではなかなか対象になりません。しかし、Power Automateで業務部門のエンドユーザーが自分や同僚のために繰り返しの多い作業などを自動化するという使い分けはあると思います。会社全体の業務の自動化ではなく、個人ベースの繰り返しの手作業をなくすことで、チェックの労力も減り、効率化が図れるはずです。
―― 個人の繰り返し作業に代わるロボットが作れるとなると、管理が心配になりますよね。RPAの導入企業などでも、管理できなくなった野良ロボットの存在が問題になっていますし、セキュリティの問題も出てくるのではないですか?
奥田 最近のクラウドサービスは管理とセキュリティの問題はよく考えられていて、Power Automateもその点は安心で、「管理センター」という画面から組織全体での利用ルールに関する設定や監視が可能です。
―― ガバナンスの点では安心なのですね。
奥田 もちろんDXへの取り組みの一環としては、担当者を決めて、全社で取り組んでいくのが理想ですが、中小企業では難しい場合もあるでしょうし、とりあえず作って、同僚に使ってもらいフィードバックを受けてより良いものにしていくということも可能だと思います。ローコード開発環境を導入したとしても、社内にはアプリやロボットを作らないメンバーはいるはずで、そうした人にとりあえず動くものを見せてあげることで、「この業務、私はこんなふうにやっていました」など、いろんな声が上がってきます。そうした意見も柔軟に取り入れて生産性の向上を目指すのが大切だと思います。Power Automateによって単にものができるだけでなく、業務自体もブラッシュアップされていくきっかけになるはずです。業務にかかわっている人間による業務の見直しが可能な点が生産性向上のためのメリットだと思います。
筆者プロフィール:狐塚淳
スマートワーク総研編集長。コンピュータ系出版社の雑誌・書籍編集長を経て、フリーランスに。インプレス等の雑誌記事を執筆しながら、キャリア系の週刊メールマガジン編集、外資ベンダーのプレスリリース作成、ホワイトペーパーやオウンドメディアなど幅広くICT系のコンテンツ作成に携わる。現在の中心テーマは、スマートワーク、AI、ロボティクス、IoT、クラウド、データセンターなど。