エンドツーエンドのBIプラットフォームでデータを可視化

Power BI」は、マイクロソフトが提供するビジネスインテリジェンス(BI)ツール群の総称です。BIツールとは、組織内の業務で蓄積される、たとえば売上や在庫などのデータを分析し、レポートとして表示して可視化することによって、次の組織の活動につなげるためのものです。

Power BIの特徴は、プログラミングの知識や技術がなくても、直感的にデータの分析や結果を生成することができる点です。ExcelやPowerPointなど、普段Microsoft Office製品を使っているユーザーであれば、同じような操作感で利用することができるはずです。

Power BIでは、組織が蓄積した各種データを抽出・変換・統合して、レポートを生成し、そのレポートを共有することができます。データがクラウド上にあっても、自社運用サーバー上にあっても接続することが可能です。また、レポートは自動的に更新され、いつでも最新の情報を参照して組織活動に活用することができます。

Power BIには、データ可視化のための「Power BI Services」と呼ばれるクラウドベースのソフトウェアサービスと「Power BI Desktop」と呼ばれるデスクトップベースのアプリケーションがあります。Power BI Desktopは、機能制限はありますが無料で利用可能です。

また、Power BIにはデータ準備、データマイニング、対話型のダッシュボードといったデータウェアハウス機能も備わっています。Power BIではデータをデータベース、ウェブページ、Excelなどのスプレッドシート、CSV、XML、JSONなどの構造化ファイルから直接読み取って入力することができます。複数ソースのデータを統合することも比較的簡単で、数クリックで行えます。

Power BIとExcelとの大きな違いとしては、異なる場所に存在するさまざまなフォーマットのデータを接続、統合することが比較的容易だということが挙げられます。部門別に散在するデータを集約することで、売上や予算・実績、商品の売れ筋・死に筋などの分析や、顧客分析などの分析を組織全体で行い、共有することが可能になります。

また、分析結果をグラフやデザインされた表としてダッシュボード上にわかりやすくビジュアル化することも、Excelより簡単です。さらにグラフ上にマウスポインターを置いたりクリックしたりすることで、説明や詳細な数値を表示すること(ドリルダウン)ができるなど、インタラクティブなレポートを作成できる点も大きな特徴となっています。

BIツールは一般に「エンタープライズBI」と「セルフサービスBI」とに大きく分けられます。エンタープライズBIは、システム部門などが組織内で統一して提供するデータからレポートを作成してトップダウン的に共有し、各部門がそれを参照して次の活動を実行するためのもの。一方、セルフサービスBIでは、各部門のユーザーがデータを直接使って必要なレポートを作成し、現場で次のアクションにつなげます。

Power BIはセルフサービスBIとしても、エンタープライズBIとしても利用することが可能です。

都職員がPower BIで都の財政情報をわかりやすく公開

実際にPower BIで、データ可視化を実現した例を紹介しましょう。東京都財務局は2021年1月、都財政の情報を都民にわかりやすく伝えるため、予算や決算などの主要なデータを可視化するダッシュボード「都財政の見える化ボード」を公開しました。

このダッシュボードはPower BIを使用し、都の職員が内製したもの。東京都の予算案、普通会計決算、普通会計財務諸表に関するデータをビジュアルで表示できます。

東京都財政局が公開したダッシュボードの1つ、TOKYO予算見える化ボード

東京都財務局では、2020年10月にPower BIを導入し、ダッシュボードは情報システム専任ではない担当者が中心となって作成。その後、他のチームとも共有していったということです。

(参考)東京都 構造改革推進チームによるnote記事 「都の財政データをビジュアル化!若き職員の思い

財務局ではその後も、スマートフォンに最適化したページ構築など、ユーザーレビューを踏まえて継続的なアップデートを行っているとのこと。さらに予算・決算・財務諸表の各ボードに加えて、「政策評価・事業評価見える化ボード」や都が実施する補助金に関する情報を掲載する「補助金サーチ 見える化ボード」も公開しました。

また財務局だけでなく、都政の構造改革推進チームがペーパーレスやはんこレスなどのデジタル化進捗を見える化する「シン・トセイ ダッシュボード」を、主税局が「都税収入見える化ダッシュボード」を公開するなど、他部門でもPower BIを活用したデータの可視化を図っています。

分析・可視化の効果を高めるにはデータの準備が重要

前述したように、Power BIはプログラミングの専門知識がなくても、ノーコードローコードでも利用できます。ただ、その効果をより高めるためには、信頼できる最新データを収集して、分析ができるようなかたちにデータを準備することが重要です。

Power BIでは、利用できるデータはExcelや基幹システムのほか、Salesforceのような顧客管理・営業支援サービスやGoogle Analyticsのようなアクセス解析サービスまで、幅広いフォーマットに対応しています。どんなデータでもグラフや図表などのレポートとして可視化することができる点は、確かにPower BIの強みです。

しかし、部門ごとにシステム環境が分断されていて、各部門がそれぞれ自分の部署に必要なレポートを生成するために、各自でデータの収集・加工を行うことは非効率だと言えるでしょう。場合によってはデータの収集や整形に時間がかかり、最新データをすぐに可視化できる、せっかくのPower BIの長所を生かせなくなる可能性も出てきます。

そこで、「組織内で誰もが利用できる統一されたデータ」が初めから実現できていれば、データの収集や加工の手間を省くことができます。Power BIに限ったことではありませんが、BIツールを利用する際は「データはできるだけ上流で変換されるべきだ」といわれています。

組織全体で共有・活用するようなレポートを日頃から出力・参照する機会が多いのであれば、ERP(Enterprise Resource Planning)と呼ばれるような統合アプリケーションの導入により、全部門共通で必要な経営資産に関するデータを集約・統合することも検討するとよいでしょう。そうすれば、ERPシステムとPower BIを接続することで、データを収集したり変換したりする手間なく、Power BIでの分析を始めることができます。