「ヒト・モノ・カネ」の観点からWeb3を概観する
Web3は暗号資産の仕組みという人もいますが、それは大きな間違いです。Web3とは、イーサリアムの共同設立者であるギャビン・ウッド氏が2014年に提唱した概念で、現在では「ブロックチェーンに基づく分散型オンライン・エコシステム」のことを指すキーワードと言われることが多くなっています。暗号資産や非代替性トークン(NFT)、セキュリティトークンなどのデジタル権利、それらを分散化するブロックチェーン技術などがWeb3の基盤になるとされています。Web3という用語は2021年後半頃からよく耳にするようになり、日本では「Web3.0」と表記されることも多くあります。
ここでは、Web1.0からWeb2.0、Web3までの流れを「ヒト・モノ・カネ」という観点から考えてみたいと思います。
インターネットの黎明期であるWeb1.0の時代には、「モノ」の一つの「情報サービス」で革命が起こりました。それまではお店など現地に行かなければ知ることができなかった細かな情報までもが、検索サイトやホームページ、メールなどで得られるようになりました。そして、ネット証券や銀行、Eコマースなどのサービスがインターネットを通じて簡単に利用できるようになり、大きく発展していきました。
次のWeb2.0では、「ヒト」で革命が起きました。ブログやFacebookなどのSNSを通じて個人が自由に情報発信できるようになり、またYouTubeなどに動画を掲載して広告収入を得るなど、「ヒト」の参加が活発になりました。ただし、Web2.0の世界は、一部の巨大なプラットフォーマーが個人のあらゆる情報を握る、中央集権化の世界となったことや、集められた個人情報の取り扱いや匿名での情報発信による誹謗中傷などの問題も出てきました。
そしてWeb3では、ご存じの通りビットコインなどの幾つもの暗号資産が世の中に現れ、「カネ」で革命が起きました。今後、証券や保険、ローンなどの「カネ」の分野で様々な商品・サービスが出てくると思います。さらに、改ざん困難でトレーサビリティ(追跡可能性)が特徴のブロックチェーン技術を使い、コピーが簡単なデジタルデータがデジタル資産として評価できるようになり、「モノ」でも変化が起きてきています。
この流れが進めば、不動産登記などの「現物のモノ」の証明もブロックチェーン上でできるようになります。また「ヒト」においても卒業証明や経歴の証明などが可能となる他、自分が作ったデジタルコンテンツの作者が自分であると証明できるなどの変化が起きています。そしてデジタル資産(モノ)をNFT化して、そこに作成者(ヒト)を結びつけることで、そのNFTが販売・転売されると、その対価の暗号資産(カネ)の一部が作成者へ還元されるようになります。このように、Web3によって「ヒト・モノ・カネ」のすべてが進化して、リアルとバーチャルの融合や権利の分散化・明確化などが起こります。それによって、仲介業のようなサービスが個人間で完結したり、様々なデータが資産として価値を持ち転々流通しながら収益化したりと、色々なサービスが出てくると思います。これが、私の考えるWeb3の世界観です。
メタバースはWeb3ではなく、Web3と「融和」しやすいもの
メタバースがWeb3の中心にあるように思われている人もいますが、実はWeb3発展のための一つの手段であるといえます。VR技術などの発展によりメタバースが盛り上がってきているところですが、デジタル庁が公表する「Web3.0研究会報告書」でも、「現時点で存在するメタバースは、その多くがいわゆるWeb2.0型(運営者が存在し、中央集権的にシステムが構築されている)のものではあるが、今後Web3.0型のメタバースが構築されていく可能性がある」と説明されています。
メタバースは、もともと2003年に米国リンデンラボ社が運営を始めた3DCGの仮想空間「Second Life(セカンドライフ)」が前身ともいわれています。近年、急激に普及が進んだオンラインビデオ会議のZoomやTeamsも一種のメタバースと捉えることもできると思います。
このようにメタバースはWeb3そのものではありませんが、Web3と「融和」しやすいものであることは事実です。たとえば、3D仮想世界プラットフォーム「Decentraland」は、ブロックチェーン技術を利用したメタバースでWeb3と呼べます。Decentralandでは、仮想空間上の土地区画「LAND」をDecentralandで利用される暗号資産「MANA」を用いて購入することができます。また、ブロックチェーンゲーム「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」を展開する香港・BACASABLE GLOBAL社とSHIBUYA109エンタテイメント社が提携し、The Sandbox内に専用の土地「SHIBUYA109 LAND」を開設したという事例も出てきています。NFT化されたデジタルコンテンツの販売場所としてメタバースは有望な場所であり、今後もNFTや暗号資産を中心にWeb3とメタバースは密接に関係していくと考えられます。
現在Web3はネガティブな状況だが、正しい実践的な知識を付けていくべきタイミングでもある
2022年はWeb3元年であったものの、大手取引所FTXトレーディングの経営破綻およびその連鎖破綻、暗号資産の価格暴落などで、同年後半にはWeb3、特に暗号資産とNFTの人気が急減速しました。逆に言えば、ある種の過熱感が大きく、適正に戻る反動だったともいえます。FTXの破綻はガバナンスの問題であり、Web3そのものの問題とは異なります。こうした業界の負の側面を正す機会だったと捉えることもできるでしょう。ビットコインの価格については、2020-2021年に上がりすぎていたとも考えることができます。ビットコインの価格は、実は医療情報事業を展開する上場企業のエムスリー社の株価と同様の動きとなっています。
また、2021年3月、Twitterの共同創設者であるジャック・ドーシー氏が2006年に投稿した「世界初のTwitter投稿」のNFTが291万5835ドル(当時のレートで約3億1100万円)で落札されましたが、2022年4月にオークションで販売するも数百万円程度しか値が付かなかったという事例もあります。この事例に関してはそこまでの価値のないものに流行りのNFTだから高値がついたというのが実態だったともいえます。ただし、こうした現象が起きてしまうのは、他の金融商品と同様です。暗号資産やNFTなどの相場に関係するものは、絵画、株、為替と同様の感覚でその本当の価値を見極め、リスク資産と認識して取引をするべきでしょう。
ただし、日本の状況を見てみると、Web3の領域については出遅れているといえます。SBI金融経済研究所の「次世代金融に関する一般消費者の関心や利用度に関するアンケート調査」結果では、調査対象国となった日本、米国、英国、ドイツ、中国、韓国の6か国のうち、日本は暗号資産等の認知度が最も低く、またネガティブな意見が強いという状況が明らかになっています。日本では、投資教育の遅れによって投資による資産形成が欧米に比べ大きく遅れていますが、同調査結果はこうした現状の二の舞になる可能性を示しているといえます。
最後に、Web3は、FTXなどの破綻と暗号資産やNFTなどの異常な加熱感によって危険なものと誤解されていますが、ブロックチェーン技術に代表されるWeb3の技術は「ヒト・モノ・カネ」を進化させました。そして、Web3が暗号資産やNFTのみの現象として語られるのではなく、その技術が様々な産業分野で使われるようになって初めて、Web3による社会の発展が起こることでしょう。
また、Web3の領域では出遅れている日本ですが、FTXの破綻時には、日本は取引所に対して顧客の暗号資産の保全を義務付けていたため、大きな問題にはなりませんでした。このように顧客の資産を守る法整備と、企業がWeb3を取り入れやすくするための法整備の両方を進めていくことが重要だと思います。なぜなら、このWeb3は、日本が再度世界に打って出ていくためのチャンスとなるからです。
(文・構成 周藤瞳美)