新製品・サービス採用に慎重なレイトマジョリティー

レイトマジョリティー」は、新しい製品やサービスが普及していく過程を示すマーケティング理論「イノベーター理論」に登場する用語。製品やサービスを平均より遅れて採用する人々のグループとして位置付けられています。

イノベーター理論は、1962年に米国の社会学者エベレット・ロジャーズによって提唱されました。彼の著書『イノベーションの普及』によれば、イノベーター理論では消費者を5つのカテゴリーに分類。製品やサービスを採用するタイミングが早い順から「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティー」「レイトマジョリティー」「ラガード」と名付けています。

イノベーションの普及曲線。左からイノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティー、レイトマジョリティー、ラガードと分布。新しいアイデアや技術が採用される(青字)につれ、普及率はいずれ飽和する(黄色)(Wikipediaより)

レイトマジョリティーは全体の34%を占めます。慎重でリスクを避ける傾向があり、新しい技術や製品を採用する前に多くの証拠と安心感を求めます。彼らは先行者の失敗を避けたいと考えており、広く普及してからようやく行動に移すことが多い人たちです。価格や評判が採用の重要な決定要因となります。

レイトマジョリティーよりも保守的で、新技術の導入に非常に慎重なグループとしてラガードがあります。ラガードは全体の16%を占め、変化を嫌い、最後まで新しい製品・サービスを採用しない人々とされています。

イノベーター理論では、イノベーションの普及をS次曲線で表現します。この理論は新製品の開発やマーケティング戦略、技術の普及などの分野で広く応用されており、イノベーションを社会に浸透させるための重要な理論の1つとされています。

レイトマジョリティーがビジネスに与える影響と攻略法

レイトマジョリティーは、ビジネスにおいて重要な顧客セグメントです。その行動や特性が、製品やサービスの市場シェア拡大に与える影響は少なくありません。

新製品・サービスを採用するのに時間がかかるレイトマジョリティーですが、一度採用すると非常に忠実な顧客になる傾向があります。レイトマジョリティーを取り込むことができれば、安定的で長期的な収益源となります。

レイトマジョリティーは新製品に対して懐疑的であるため、企業は製品やサービスの品質、信頼性やインターフェースを向上させる必要があります。このことは、プロダクト全体の改善につながります。

レイトマジョリティーは市場の大きな部分を占めており、このセグメントを獲得できれば、企業は市場シェアを大幅に拡大することができます。成熟市場では特に、レイトマジョリティーの特性を理解し、適切な戦略を立てることで、企業は長期的な成功を収めることができます。

ただ、レイトマジョリティーにアプローチするには、短期的な利益よりも長期的な視点が必要で、忍耐強さが求められます。レイトマジョリティーは新製品採用に時間がかかるため、販売サイクルが長期化する傾向があり、企業は継続的なマーケティングや顧客サポートに投資する必要があります。

レイトマジョリティーは新しいものに対して懐疑的であるため、信頼を構築することが重要です。定評のあるブランドとの提携、「行列ができる」「フォロワー数が多い」といったソーシャルプルーフ(社会的証明)の活用、顧客の声の共有などを通じて、信頼を醸成する必要があります。

また、レイトマジョリティーに訴求するにはシンプルで分かりやすいメッセージが効果的で、製品・サービスの利点を明確に伝え、使いやすさを強調することが重要です。レイトマジョリティーは、新製品の使用に不安を感じる傾向もあり、製品の使い方を丁寧に説明し、手厚いカスタマーサポートを提供することで不安を解消することも大切です。大きな変化を好まない傾向があるレイトマジョリティーには、製品の導入を段階的に行い、徐々に新しい機能を追加していくことで、抵抗を最小限に抑えることができます。

他者の意見を重視する傾向があるレイトマジョリティーには、満足した顧客からの口コミを活用し、ソーシャルメディアやレビューサイトでの評価を得ておくことも有効です。レイトマジョリティーに信頼されているブランドや企業とのコラボレーション、パートナーシップを活用することで、信頼を獲得し、採用を促進する方法もあります。

レイトマジョリティーは、価格に敏感である傾向もあります。企業は、割引や特別提供、バンドル販売などを通じて、価格戦略を調整し、手頃な価格で高品質な製品・サービスを提供する必要があります。

レイトマジョリティー取り込みに成功した企業の共通点とは

レイトマジョリティーを取り込み、成功した企業の戦略としては以下のような例があります。

任天堂(Nintendo Switch)
任天堂は従来のゲーム機のイメージを覆し、据え置き型と携帯型の両方の利点を兼ね備えたハイブリッド型ゲーム機として「Nintendo Switch」を開発。ライトユーザーやファミリー層をターゲットに、直感的な操作で遊べる多様なゲームソフトを提供しています。Switchは発売当初から品薄状態が続くほどの人気となり、世界的なヒット商品に。レイトマジョリティー層を含め、幅広い層に受け入れられました。

ユニクロ
高品質なベーシックアイテムを低価格で提供。シンプルなデザインと豊富なカラーバリエーションで、幅広い層にアピールしています。手頃な価格と品質の良さから、若者から高齢者まで幅広い層に支持され、国内外で人気ブランドに成長しました。

Microsoft(Microsoft 365)
ビジネスシーンで必要不可欠なWord、Excel、PowerPointなどのソフトウェアをパッケージ化し、操作性を統一することで、初心者でも比較的簡単に使えるようにしました。また、定期的なアップデートで機能を拡張し、ユーザーのニーズに応え続けています。Microsoft 365はビジネスシーンでのデファクトスタンダードとなり、レイトマジョリティー層を含めた、幅広い層に利用されています。

LINE
海外で開発されたFacebookやTwitterなどの従来のSNSと比較して、手軽にメッセージやスタンプを送れるコミュニケーションアプリとして登場。無料通話やグループチャット機能も搭載し、若者を中心に利用が広がりました。その後、ニュース配信や決済サービスなど、多様な機能を追加し、レイトマジョリティー層にも浸透。日本では最も利用されているコミュニケーションアプリの1つとして、幅広い世代に利用されています。

Instagram
写真や動画を簡単に共有できるSNSとして登場。フィルター機能やハッシュタグ機能など、写真加工や検索を容易にする機能が人気を博しています。その後、ストーリーズ機能やリール機能など、動画コンテンツにも対応。世界中で若者だけでなく、幅広い世代に利用されています。

これらの企業の戦略には、共通する点があります。まずは、製品・プロダクトの使いやすさ。直感的な操作性やシンプルなデザインで、初心者も安心して手に取ることができます。また価格設定も手頃で、ソフトウェアやアプリについては基本機能は無料で提供して利用のハードルを下げているものもあります。

また製品・プロダクトの認知度を高めるマーケティングに力を入れている点や、ユーザー同士の口コミを重視している点も共通しています。ソフトウェアやアプリでは、新機能の追加でユーザーの飽きを防ぐ仕掛けや、他のサービスとの連携強化により利便性を高め、プラットフォーム化する傾向も挙げられます。

このようにレイトマジョリティーの特徴を理解し、適切なタイミングで戦略を立て、実行することがビジネスの成功確率を高めるでしょう。