熊本県立第二高等学校(以下、第二高校)は、2003年に文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受けて以降、先進的な教育活動を推進している。2022年にはSSHの第5期(先導的改革型)が採択され、「特異な才能を発見・開発・開花するイノベーション人材の育成システムの構築と自走化」を目指して研究を進めている。そうした中で開発した独自のSTEAM教育システム「STEAM-D(STEAM with Design)」の取り組みについて見ていこう。

課題研究からプロジェクトまで広がる
3学科を横断したSTEAM-Dとは

第二高校の授業ではChromebookを日常的に活用している。普通科の数学の授業では仮想ホワイトボードアプリ「Miro」を活用していた。

第二高校独自のSTEAM教育の在り方

 第二高校は、普通科に加えて理数研究を先導する理数科、そして県内唯一の美術科の3学科を有する。より高度な科学的探究力を備えた人材を育成するためのSTEAM教育システムであるSTEAM-Dでは、SSHでこれまで培ってきた成果を生かしながら、「科学哲学」「科学倫理」「科学芸術」「データサイエンス」といった学びを実施している。

 科学哲学の授業では物事を深く考えるための作法を学ぶ。多様な意見を擦り合わせながら意見の折り合いを付ける力を育むことにより、建設的に議論を進めるための姿勢を学び、課題研究に生かしている。

 科学倫理の授業では、研究における三大不正と言われる捏造、改ざん、盗用について事例を交えながら学び、誠実な科学者とは何か考えるといった授業を行っている。

 科学芸術の授業ではアントレプレナーシップ(起業家精神)について、講義や実習を通して、新しいアイデアを形にしていくアプローチを学ぶ。第二高校 SSH探究部・SSH研究主任・1年部 物理部・放送部 教諭 田中知史氏は「特に理数科と美術科では合同で授業を行い、起業していく上でそれぞれのアプローチを、どのようなステップを踏んで実施していくのか議論します」と語る。

 データサイエンスではその名の通り、データ活用について授業で学んでいく。「情報Ⅰの科目の中にデータの活用という単元はありますが、その学ぶ範囲はデータの収集から分析までです。本校はSSH校ということもあり、プログラミングによる仮説検証を実施したり、収集したデータを加工して処理してみたり、といった学びを行っています」と同校の情報科 教諭 中矢悠斗氏は話す。これらの学びではScience、Technology、Art、Designの領域を跨ぎながら、普通科、理数科、美術科の3学科を横断した教育を実践している。

 上記のような学科を横断した学びは、2年生における課題研究でさらなる深まりを見せる。2年生の課題研究では、普通科と美術科が横断した7のゼミと、理数科の11のゼミがあり、それぞれテーマに沿った研究を進めている。例えば今年度のゼミには「言語×国際」「食品×科学」「企画×連携」「スポーツ×データサイエンス」「デザイン×UD」「防災×建築」「日本文学×人文社会」といったゼミが、普通科と美術科を横断した形で開講されている。

1人1台端末が格差をなくす

 第二高校 美術科 SSH探究部長 教諭の染森千佳氏は「例えば普通科と理数科が連携するゼミでは、古くなった制服などの繊維を、元に戻して新しい洋服を作る取り組みをされている民間企業と連携し、理数科はどのようにしたら繊維を洋服の材料に戻せるか、普通科はその材料を再利用するための新しい方法やマーケティングなどをテーマに研究を進めています」と語る。こうした学科横断の取り組みは、ゼミごとに連携する場合もあれば、希望者が集まり、部活動のような形で取り組むケースもある。その一例として挙げられたのが「箱式石棺引越プロジェクト」だ。昨年度の2年生が実施した課題研究を基に、第二高校の敷地内にある弥生時代の箱式石棺を、図書館横に移設するプロジェクトを、有志の生徒たちが取り組んでいるのだという。このようなプロジェクトは、同校が目指す自走化の一つといえるだろう。

 こうした学びの中で、積極的に活用されているのがICTだ。第二高校では2020年秋ごろから生徒1人に1台のChromebookの導入をスタートした。現在はGoogle Classroomをメインのプラットフォームとして活用しながら、Classiなどのツールも併用して学びを進めている。「異動で初めてChromebookを使うことになった教員や、入学して初めてChromebookを使用することになった生徒もいますので、1年生の授業でICTを活用する基盤作りを行っています。例えば自然災害や防災について、Webサイトで調べて考える授業では、Google Classroom上で互いの考えを共有し合い、生徒同士がコメントします。そうしたときに、コメント欄でふざけてしまう生徒には注意をするなどして、オンライン上でのマナーを身に付けさせます」と染森氏。教員の中には、ICTの活用に難色を示す人もいるというが、同校では月曜日の放課後に教員向けの学習会を開催している。基本的に自由参加となっており、分からないことがあれば気軽に相談できる環境を構築しているのだ。Google Classroomには、これまでの学びが蓄積されており、初めて第二高校に赴任した教員でも過去の記録を参照しながら、指導が行える点もメリットといえる。

「日常的に1人1台の端末を活用できる環境を整えることは、身体や経済、教育、地域、デジタルインフラといった格差の解消につながります。例えば大学入試はデジタルでの申し込みが主流になりつつありますが、家庭のPCからそれにアクセスできる生徒もいれば、スマホからしかアクセスできない生徒もいます。こうした格差で生徒が不利益を被ることがないように、公的な支援を行うことが重要です。その一つとして1人1台の端末整備やICT教育の推進が求められていると言えるでしょう」と染森氏は語った。

普通科の美術ではSTEAMプログラムの一つとして日本画制作の授業がある。日本画を描く作業の中でもChromebookを活用し、題材として選んだ植物の画像を確認しながら描いていた。完成した後は振り返りをGoogleドキュメントで記述し、情報の収集や分析、表現の探究的な学びに生かしている。