「学ぶ。創る。挑む。」をパーパスとする広島工業大学高等学校は、2022年4月から新たに「特色のある普通科」として「K-STEAM類型」をスタートした。一般的な普通科理系のカリキュラムに加え、独自のSTEAM教育を実践しているその学びの環境を取材した。

特色のある普通科としてK-STEAM類型を新設
デジタル工房でものづくりを主体とした学び

K-STEAM棟にある展示室では、CLLの設備を活用して作られた生徒たちの作品が並ぶ。1年生では機器の使い方の基礎を学び、2年生ではそれらのスキルを活用して社会課題解決に向けたものづくりにチャレンジするなど、段階的に学びを深めていく。

遊び心がクリエイティブ力を育てる

 広島工業大学高等学校(以下、広島工大高校)は、その名称の通り工学部や情報学部、環境学部を有する工業大学の附属高校だ。広島工大高校の生徒たちは毎年100名ほどが広島工大に推薦入学している。一方で、普通科で学ぶ広島工大高校の生徒たちはものづくりの知識や経験がないまま広島工大に進学するため、入学後のミスマッチが発生していた。そうしたミスマッチを解消するため着目したのが、STEAM教育だ。広島工大高校では2022年度からスタートした「K-STEAM類型」において、デジタル工房やICT活用による“ものづくり”を通じて、理工系マインドの育成に取り組んでいる。一般的にSTEAM教育というと授業の一部で取り組むケースが大半だが、広島工大高校のK-STEAM類型では専用のCL(クリエイティブ・ラーニング)コースを設置すると同時に、専用のデジタル工房として「クリエイティブ・ラーニング・ラボ」(CLL)も新設した。

 STEAM教育はScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)Arts(芸術・人文社会科学)、Mathematics(数学)の頭文字を取った教育概念で、これらを総合的に学ぶ取り組みが広がっている。広島工大高校のK-STEAM類型ではこのSTEAM教育のAを「遊び心」と表現し、生徒が好きなものにこだわりを持って取り組めるカリキュラムを展開している。広島工大高校のK-STEAM類型部長 教諭(情報科)の平原豪人氏は「例えば、生徒が制作した作品に『この作品のAの部分は何ですか?』と尋ねると、その遊び心を表すための一工夫を入れてきます。Artは一般的に芸術や教養と言われますが、この定義通りに学びに取り入れようとするとどうしても授業の方向性が定まらないケースが多くあります。遊び心と広く捉えることで、STEMの学びを支えるベースとしてのAを含めた学びを実現できます」と語る。

 生徒のクリエイティブ力を引き出す専用工房として作られたCLLは、デジタル工房の設計や運営を行うデジタルファブリケーション協会のバックアップの下、3Dプリンター、レーザーカッター、UVプリンターといったデジタル工作機器や、VRゴーグルなどが整備されている。これらのデジタル機器は1クラスを半分に分けた20名の生徒が授業で無理なく使える台数を整備した。

 また、CLLのあるK-STEAM棟内には、K-STEAM類型の生徒たちが作った制作物の展示やコミュニケーションを行える「展示室」や、大型の木材を設計図通りにカットできるCNCルーターが設置された「電動木工室」、素材を保管する「素材室」、そしてデザインや動画・3Dモデリングの制作に適したPCを設置した「デザインルーム」があり、「籠もる」「作る」「議論する」の三要素を意識した空間設計がされている。

デジタルものづくりの拠点へ

 これらの設備を活用したK-STEAM類型の学びは今年で3年目となる。1年生では知識を習得する「インプット」、2年生では知識を自身の中に落とし込む「セルフプット」(self+putを組み合わせた造語)、3年生ではその知識を表現する「アウトプット」と各学年でテーマを設定しており、それらに沿ったカリキュラムを作成している。

 1年生では、機器の扱いに慣れるため「自宅内のちょっとした不便を解消しよう」という課題に対して、それを解決するアイデアを出し合い試作しながら、3Dプリンターを活用してアイテムを作成した。例えばコレクションしているカードを立てかけるカードスタンドや、授業で利用するChromebookの画面に取り付けられる小物置きなどだ。

 2年生では発展途上国の生活を知り、その中に潜む生活課題の発見と、それを解決するための手順についてのプロセスを学ぶ授業を行ったほか、広島工大の教員を招き、グループワークを通じた課題内容の探求も実施したという。

 3年生ではこれらの学びを生かし、校外のイベント参加といったアウトプットも実施している。例えば今年の3年生は、近所の小中学生を対象としたワークショップを開催した。CLLの設備を活用してキーホルダーやマルチケース作りといったものづくりを行うイベントで、授業の一環ながら企画から運営まで生徒が主導で行った。

「今年度1回目となるオープンスクールを、6月に実施したのですが、そこでもK-STEAM類型は学校説明から授業体験まで、全て生徒たちが行ったのには驚きました」と語るのは、広島工大高校の校長を務める山口健治氏。同校のSTEAM教育の中で、高いアウトプット能力が養われているといえるだろう。

 広島工大高校のK-STEAM類型の学びは今年で3年目となる。平原氏は「今後はそれぞれの授業を少しずつブラッシュアップしながら、授業同士のつながりも作っていきたいと考えています。例えば数学のこの知識が、ものづくりのここにつながるよ、というような科目同士の連携がまだ不十分ですので、ここを強化していきたいですね」と語る。

 山口氏は「CLLのようなFabLabが整備されている学校はなかなかありません。そこが本校の独自性でもあり、実はほかの類型(学科)と比較してK-STEAM類型は広いエリアから生徒が進学してきています。今後は本校のCLLを広島西エリアのデジタルものづくりの拠点にしていきたいですね」と力強く展望を語った。

普段の授業では生徒たちが楽しみながらCLLのレーザーカッターやUVプリンターを活用してものづくりに取り組む(画像は広島工大高校提供)。昨年度からはデジタルファブリケーション協会の職員が1名常駐し、放課後にCLLを開放することでいつでも使える環境を整えた。