Reference Case.2 サンロフト
密な情報発信で身近に感じる企業へ
学生の“ファン”を増やして人材を獲得

サンロフトは、静岡県焼津市にオフィスを構えるIT企業だ。Webサイト制作や受託システム開発に加え、クラウド型日報システム「nanoty」や、教育・保育施設向けの園児管理システム「パステルApps」などの自社開発も手がけている。1992年創業以来「テクノロジーを親しみやすく」という経営理念のもと、IT革命の時代の中でビジネスを展開してきた同社は、新卒採用においても時代に合わせた進化を続けている。その取り組みを取材した。

リアルとオンラインを組み合わせた
情報発信でミスマッチをなくす

(左)サンロフト
鈴木あゆみ

(右)サンロフト
服部由実

 設立以来、時代に合わせたビジネスの進化を続けてきたサンロフトは、人材採用でも自社のビジネス拡大や時流に合わせた進化を続けている。その契機となったのは2006年ごろのことだ。

 サンロフト 取締役 総務人事/広報・マーケティング部 部長の鈴木あゆみ氏は「設立当初は15名程度の従業員だった当社ですが、ビジネスの拡大に合わせて採用を進め、現在では69名(2024年4月時点)に従業員数が拡大しています。当社は、中小企業には珍しく広報・マーケティング部を設けています。もともとは私が、当時の代表取締役社長である松田敏孝(現:代表取締役会長)に『中小企業も広報やマーケティングを実践しないと、社会に追いつくことが難しくなる』という話をしたことがきっかけでした。また当時は人事の専門部署もなく、総務・経理の社員が採用や労務を担当していました。そこで広報・マーケティング部が中心となり、インターンシップや会社見学といった採用活動に力を入れ始めました」と振り返る。

 2025年度の新卒採用において、サンロフトは「企画営業職」「Webデザイナー職」「SE・プログラマー職」「セールスエンジニア職」を募集していた。年度によっては「広報・マーケティング職」を募集することもあり、毎年1〜5名程度の新卒人材を採用している。サンロフトの採用活動におけるキーワードは「ファンづくり」だ。同社の経営理念に賛同し、ファンになってくれる人を増やすことを大きな目的としており、それを達成するためのさまざまな取り組みを実施している。

 一つ目は、鈴木氏も紹介したインターンシップや会社説明会のような、サンロフトのオフィスで行われるリアルでの採用イベントだ。サンロフトのインターンシップは毎年夏に実施しており、オフィス見学や会社紹介のほか、希望職種の実務体験プログラムに参加する。毎年夏に5日間実施しており、社員とインターン生の距離が近く、働くイメージを持ちやすいと好評だ。会社説明会ではサンロフトのこれまでの沿革や現在の事業、求める人物像などの説明が行われる。この会社説明会やインターンシップは対象学年(卒業見込年度)が限られているが、全学年を対象としたオープン・カンパニー「サンロフトツアー」も通年で実施している。会社紹介やオフィス見学ツアーのほか、サンロフト社員への質問タイムなどが設けられ、「就活生が気軽に会社に足を運べる場」だ。

 二つ目は、オンラインによる採用イベントだ。前述のようなリアルで行われる会社説明会やオープン・カンパニーに加えて、サンロフトでは「オンライン座談会」を実施している。オンライン座談会は、オンライン会議ツールを活用してサンロフトの社員が仕事に関するトークテーマを語るものだ。こうした密な情報発信は、入社後のミスマッチをなくすことにも貢献する。

 サンロフト 広報・マーケティング部 主任の服部由実氏は「実はオンライン座談会を始めたころ就活をしていた学生が、今年入社して1年目になります。当時は1カ月に1回ペースで開催していましたが、その学生は全ての会に参加してくれました。都合がつかない日はわざわざ連絡をくれて、『後日そのテーマで個別にお話をいただけますか?』と非常に積極的に参加してくれました。当社のことに関心を持ってくれる学生が、実際に入社してSE職で頑張ってくれていることは、採用活動に取り組んでいて良かったと感じたポイントです」と振り返る。


取材時はちょうど5日間のインターンシップ期間中だった。インターンシップ生たちはサンロフトの社員のアドバイスを仰ぎながら、それぞれ与えられた課題に取り組んでいた。

ラジオやLINEで接点を増やし
サンロフトを身近に感じてもらう

 オンラインによる情報発信は他にもある。サンロフトは同社のYouTubeチャンネル「sunloftmovie」(https://www.youtube.com/user/sunloftmovie)において、「サンロフトラジオ」というコンテンツを配信している。これは会社説明会などで学生から寄せられる質問などを取り上げて、サンロフトの社員がラジオ形式で対談していくものだ。

「サンロフトラジオによる情報発信は2021年からスタートしました。会社説明会などのリアルのイベントももちろん重要ですが、参加している学生さんにしか情報が届かないという側面があります。採用活動をしている中で、当社が大事にしている価値観などを広く届けることもファンづくりにつながると考え、サンロフトラジオをスタートしました」と鈴木氏。毎回テーマに合わせてラジオで話す社員を選定し、語ってもらっているという。社員同士が話をする掛け合いの中から人間関係を垣間見ることもでき、「聞いていて楽しい」と学生から好評だ。

 直近では新卒採用用のLINE公式アカウントも開設した。「今年の6月に当社の代表取締役社長が松田から中村 雄に交代したのですが、中村から『学生との継続的な接点を持つツールがあると良い』というアドバイスを受け、アカウントを開設しました。これまでは会社説明会の実施などのお知らせはメールで行っていましたが、そういった採用イベントの集約以外にも、就活をするときに役立つ情報を届けることで、当社を身近に感じてもらう『ファンづくり』につなげたい思いもあります」と服部氏。

「ファンづくり」を意識した密な情報発信を行い、採用活動を進める背景には、同社の代表取締役会長である松田敏孝氏の考え方も大きいようだ。松田氏は「東京日記」というブログを2004年から行っており、社内外を問わず密な情報発信を実施している。そうした「情報はどんどん共有した方が良い」という松田氏の考え方のもと、等身大のサンロフトの姿を学生に伝えられるよう、多様な採用活動を行っているのだ。

企業全体での採用活動は
人的資本経営の実現につながる

 こうした採用活動により、サンロフトでは毎年新卒人材を獲得している。入社する社員の多くはUターン入社で、都内の大学に入学した学生が、故郷の静岡で働くことを希望してサンロフトに応募するケースが多いという。サンロフトは2018年に現在の西焼津駅近くにオフィスを移転しており、アクセスしやすい場所にあることも、就職活動をしている学生にとってうれしいポイントだ。

 入社後の福利厚生も充実している。サンロフトではテレワークを含めた柔軟な働き方を採用している。出社日などは特に指定されておらず、月例ミーティングもオンラインで参加が可能だ。正社員の男女比率は男性が45%、女性が55%で、若干女性社員の方が多い。管理職の男女比率は産業平均を上回る30%以上を維持しており、女性活躍推進法に基づく「えるぼし」の最高位「認定段階3」を取得するなど、女性も働きやすい環境だ。

「採用活動に人事以外の社員を巻き込んでいくことは、実践的な人的資本経営を実現する上でも重要です。社員一人ひとりが採用活動に関わることで、その採用した社員を大切にしようという気持ちが生まれますし、採用活動で学生とコミュニケーションを取る中で、自分の働き方を見つめ直したり、モチベーションを高めたりすることにもつながります。一方で、状況によっては自身の業務が採用活動で圧迫されてしまうので、抵抗感を覚える社員もいます。組織風土や社内環境をさらに見直し、向上させていくことによって、新卒採用で入社してくれる社員はもちろん、現在働いている社員も納得感のある環境で働けるように、整備を進めていきたいですね」と鈴木氏は展望を語った。

Company Profile
サンロフト

本社:静岡県焼津市柳新屋436-1
設立:1992年4月1日
従業員数:69名(パート・契約社員を含む)※2024年4月1日時点
事業内容:Webサイトの設計やデザイン、SNS運用支援、デジタルマーケティング、AIを活用したWebシステムの開発、NFTウォレットの開発、地方創生事業の企画・運営、ハードやソフトの販売、キッティングサービス、クラウド型日報システム「nanoty」の開発、保育動画配信アプリ「てのりの」の導入、運用サポートなど

Reference Case.3 HBA
創立60周年を記念して企業広告を制作
企業の魅力を積極的に発信していく

優秀な人材を獲得するためには、まずは企業を知ってもらうことが大切だ。数ある企業の中から自社を選んでもらえるよう、効果的なアプローチを取っていきたい。自社の魅力を最大限に発信していくためのアプローチ方法として、メディアやイベントなどを巧みに活用しているのが、北海道札幌市に本社を構えるHBAだ。

GLAYとのスペシャルコラボを実現
全国区の知名度獲得を目指す

HBA
高野 達

「『IT』で『幸せ』に挑む」というスローガンの下、官公庁、自治体、民間企業など業界業種問わず、企業のニーズに合ったサービスを展開しているのが、HBAだ。「お客様の課題を解決することで社会全体の課題を解決し、だれもが幸せな社会を実現する」をパーパス(存在意義)に定め、システムの提案から、構築、運用、保守に至るまで企業のさまざまな課題を解決してきた。

 HBAは北海道札幌市に本社を構え、道内主要都市(北見/旭川/稚内/釧路/帯広/室蘭)、東京都(品川)、大阪府、山梨県、タイへと拠点を広げている。各拠点の強みを融合してサービスの質を高め、ITビジネスの可能性を拡げているという。そうした同社の存在や取り組みをさらに多くの人に知ってもらうため、HBAではさまざまな試みを行っている。

「HBAは1964年に創立し、今年で60周年を迎えました。そんな我々が60周年を記念して行ったのが、北海道出身のロックバンド『GLAY』さま(以下、敬称略)とのコラボレーションです。今年デビュー30周年を迎えたGLAYと共に、お互いの地元である北海道を起点に、明るい未来に向けた一歩となることを願い今回のコラボレーションが実現しました。楽曲『シェア』を特別に提供していただき、楽曲を起用した企業CMを制作しました」と話すのは、HBA 経営企画本部 副本部長 高野 達氏だ。

 企業CMは、スマートフォンの動画メッセージで友達から新たな出発を応援されるシーンや、カーナビに表示されたおすすめの店へ向かった家族がソフトクリームを食べるシーンなどを描きながら、人々の暮らしに根付いている“IT”が生み出す幸せを表現した内容となっている。GLAYのシェアは優しさに包まれたミドルナンバーで、聴く人に寄り添い、安心感を与えてくれる。

 企業CMは5月から全国で放映を開始している。2024年5月27日~6月2日の期間には東京の渋谷スクランブル交差点のデジタルサイネージで大々的に放映を行った。また、HBAは北海道ラジオ局「AIR-G‘」の番組「GLAY RADIO FAN MEETING」のスポンサーとなり、ラジオCMも放送している。「企業の認知度を高めるためのアプローチ方法はさまざまあります。企業CMもその一つで、当社を知ってもらうきっかけになれば良いなと考え、全国に向けて放映を開始しました。お客さまへのアピールはもちろん、企業CMを通して、まずは当社を知っていただくことが新たな人材の獲得に向けた一歩になると考えています」と高野氏は語る。

さまざまなイベントを通して
地域を積極的に盛り上げる

2024年5月27日~6月2日までの期間、渋谷スクランブル交差点のデジタルサイネージで創立60周年を記念した企業CMが放映された。9~24時までの時間帯に、テレビCM15秒バージョンを1時間に4回放送(15分に1回)した。

 HBAでは、企業CMのほかにも多くの取り組みを実施している。2024年9月2日には北海道大学と共に、北海道の地域創生をテーマにしたワークショップを行った。「当社は地域とのつながりを大切にし、地域創生にも力を入れています。ワークショップでは、少子高齢化、人口減少、農業の担い手不足、役所のDX化など地域の抱えるさまざまな課題に対し、グループワークで解決策を考えました。学生や社会人を含む計50名が参加し、とても好評でした」(高野氏)

 同社はイベントなどにも積極的に取り組んでいる。2024年9月15日に開催された北海道新聞社主催の花火大会「HBA Special Night 道新・秋華火」には特別協賛を行った。HBA Special Night 道新・秋華火は、約1万8,000発の花火が空に打ち上がる大イベントだ。「多くのメディアに取り上げていただき、当社を知っていただく大きな機会になりました。こうしたイベントなどを通して、地域をさらに盛り上げていきたいと考えています」と高野氏は話す。

 もちろん、企業の認知度に向上に向けた活動だけではなく、新卒採用に向けた取り組みや、入社後の社員に対するサポート体制などの社内環境も充実している。

 新卒採用に向けた活動の一つが、学生インターンシップの実施だ。プロジェクト運営を体験するプログラムや、SEの仕事にフォーカスしたプログラムなど、HBAでの仕事を学生が実際に体験できる内容となっている。1回の実施で10〜20名ほどの学生が参加しているという。「HBAがどのような会社なのかを知っていただくのはもちろん、『IT業界に興味はあるけれど、実際はよく分からない』『プロジェクトってどうやって進んでいくの?』といった疑問を解消し、IT業界を知っていただく場になれば良いと考えています。企業のホームページや口頭の説明だけでは伝わりづらかったこともインターンシップを実際に体験していただくことで、学生の理解も深まります。インターンシップは学生に企業の魅力を伝える大きなチャンスでもあります」(高野氏)

 同社では、インターンシップのほかにも、企業説明会やWebセミナーなど学生に向けた情報発信を積極的に行っている。

充実した研修を用意
社員の技術力向上を目指す

 IT業界への入社に当たって、文系出身の学生は特に不安を持っているケースが多い。HBAではそうした不安を解消する充実した研修制度も用意している。新人研修では、コミュニケーションやビジネスマナーといった基本的なビジネススキルに加え、Java、Webアプリ、データベース、プロジェクト演習などの技術研修も行っている。「HBAでは、文系出身の社員も多く活躍しています。手厚い研修制度を整えておりますので、ITに関する専門知識のない状態であっても、安心して入社していただける環境を整えています」(高野氏)

 新人研修を終えた後も、社員に対する豊富な研修制度を用意している。「業務に必要な知識、技術を身に付けるために、毎年社員一人ひとりの教育計画を立てて、研修を実施しています。年次や職位による階層別研修に加え、技術的な研修はもちろんのこと、コミュニケーションやチームビルディングなどのヒューマンスキルに関する研修、プロジェクト運営に必要なプロジェクトマネジメント研修など、さまざまな社内研修を実施しています。社内研修で補えない最新の技術や各種ベンダー系の知識などについても、業務に関係し上長が認めたものについては、社外研修の受講費用を会社が負担しています。こうした研修制度によって、社員の技術力の向上を図っています」と高野氏はアピールする。

 また、グローバル人材育成を目指して、毎年選抜者による海外への視察研修を実施しているという。「アメリカで実施しているIT企業のワールドイベントに参加したり、シリコンバレーのIT企業さまを訪問したりするなど、さまざまな研修内容を用意しています。こうして見聞を広げることで、社員のさらなる成長につながっていきます。もちろん海外研修の前に語学研修なども用意しています」(高野氏)

 昨今、「ワークライフバランス」などをキーワードに社員の仕事とプライベートの両方を充実させる取り組みを行う企業が増えている。HBAにおいても社員のワークライフバランスに対する取り組みを充実させている。「年次有給休暇の取得推進はもちろん、当社では1年に1度好きな時に休暇を取れる『アニバーサリー休暇』を用意しています。年次有給休暇は1時間単位で申請できるなど、柔軟に働ける環境を整えています。また、社内では会社公認のサークル活動も活発に行われています。ランニングや野球、eスポーツなどさまざまな分野のサークルがあり、部門を超えた社員同士のコミュニケーションの場になっています」と高野氏は話す。

 優秀な人材を獲得していくためには、企業を知ってもらうための積極的な情報発信と、社員の働く環境の充実が欠かせない。今後もHBAではさまざまな施策を進めていく予定だ。

Company Profile
HBA

本社:北海道札幌市中央区北4条西7-1-8
設立:1964年4月16日
従業員数:815名(2024年4月1日時点)
事業内容:システムインテグレーション、クラウドサービス、アウトソーシング、ソフトウェア開発など