期限までカウントダウン開始
スムーズなWindows 10 EOS対応
Windows 10のサポート終了の期日が刻一刻と迫ってきている。Windows 11への移行はすぐに行えるわけではない。メーカーや機種の選定、動作検証、カスタマイズ、キッティングなどさまざまな準備が必要だ。それらにかかる時間を差し引くと残された時間はわずかとなる。Windows 10のサポート終了まであと「354日」(2024年10月25日時点)。期限までのカウントダウンはすでに始まっている。
Windows 10 EOSビジネスの攻略と
アフターWindows 10 EOSの準備
Windows 10 EOS(サポート終了)に伴い国内法人市場では大規模なPCの買い替え需要が生じる、数年に一度の大きなビジネスチャンスが訪れる。これまでのWindows EOSビジネスではPCの販売によるトップライン(売上高)の獲得がビジネスチャンスとなっていた。しかし今回のWindows 10 EOSビジネスでは「+α」のビジネスが期待できるという。ここではWindows 10 EOSビジネスの攻め口と進め方を見ていく。
確実な買い替え需要は
4年落ちのPCに着目する
改めてWindows 10 EOS(サポート終了)のビジネスチャンスはどこにあるのか。日本マイクロソフトの調査では2024年8月時点で国内法人市場には2,100万台のWindows 10搭載PCが存在していると指摘している。
そのうちソフトウェアのアップグレードによってWindows 11 Proに移行できるWindows 10搭載PCが1,300万台、アップグレードに非対応のWindows 10搭載PCが800万台であるとしている。
この800万台のPCがWindows 11および同Proに移行するには、PCを買い替えるしか方法がないということになる。さらにアップグレード可能な1,300万台のWindows 10搭載PCについても、導入した時期や機種によって買い替えが期待できるだろう。
ではアップグレード非対応の800万台のPCはどのような機種でどこにあるのか。Windows 11のハードウェア要件を満たせないPCとして、2017年11月に発表されたインテルの第8世代Coreプロセッサー以前のCPUを搭載したPCであることが指摘できる。このPCはWindows 7 EOS時に多く導入されたため、目安としては「4年落ち」のPCということになる。
そして4年落ちのPCの在処は、PCを毎年の年次更新で段階的に入れ替えている企業ではなく、数年に一度、全社一括でPCを入れ替える企業に集中的に残っていると日本マイクロソフトは推測している。もしも4年落ちのPCを1台でも見つけたら、実はその企業の中に多数の4年落ちのPCが存在する可能性がある、すなわち大きなビジネスチャンスが眠っていることになる。
より大きなビジネスチャンスを
デバイスのモダン展開で獲得する
仮に4年落ちのPCを手がかりに大規模なPCの買い替え需要を発掘できたとしよう。Windows 10 EOSの期限である2025年10月まで残り1年を切っている。日本マイクロソフトによるとWindows 7 EOS時のWindows 10への移行にかかった期間は、計画開始から完了まで平均440日だったという。せっかく獲得した大きな案件に、Windows 7 EOS時と同じ方法で移行に対応していたのでは間に合わず、ビジネスチャンスを逃してしまう。しかも現在はエンジニアの人材不足がより深刻化しているという逆風も吹いている。
しかし法人市場では800万台の確実なビジネスチャンスに加えて、中小企業ではWindows 11への移行に関して検討中や計画中という未着手の状況が大半であり、期限に向けて大きなビジネスチャンスがある。
では残された短い期間で大きなビジネスチャンスを獲得するにはどうすればいいのか。その問いに対して日本マイクロソフトはPCの「モダン展開」を推奨している。具体的にはマイクロソフトの「Windows Autopilot」および「Intune」、そして「Entra ID(旧称 Azure Active Directory)」の活用だ。
これらを顧客に対して導入、活用することでWindows 11への移行が「ゼロタッチ」で効率良く展開できるようになる。従来型のキッティングで必要だった機種や部署ごとのイメージ作成が不要となり、1台ごとのイメージ展開も不要となるなど、PCの導入期間の短縮とエンジニア不足への対応という二つの大きな課題を解決できるからだ。
また大規模導入を段階的に進めていく企業では、次の段階で別のサプライヤーに切り替える可能性がある。しかしWindows Autopilotなどによるモダン展開を活用しておけば、PCの買い足し、入れ替えに伴う設定がゼロタッチで展開できるため、顧客の囲い込みという効果も期待できるのだ。

Windows 10 EOS後のビジネスも伸ばす
AIの利活用につなげるデータのモダン管理
Windows AutopilotおよびIntune、そしてEntra IDによるPCのモダン展開を推進することで、Windows 10 EOSビジネスをPCの販売以外にも拡大していくことが可能となる。Windows AutopilotおよびIntune、そしてEntra IDを活用することで、Microsoft 365が導入しやすくなるからだ。さらにMicrosoft 365 Copilotの活用基盤も整備でき、AIビジネスへの拡大にもつなげることができる。
その際に注意したいのはEntra IDの正しい導入である。Entra IDをMicrosoft 365を利用するためだけに導入するのではなく、その先のAIの活用を見据えて顧客の各ユーザーの属性データを管理する形でEntra IDおよびMicrosoft 365を展開する。
そうすることで顧客の社内のデータへのアクセス権限を人手で管理するのではなく、ユーザーの属性に応じてEntra IDが動的に自動でグループ管理する。このデータのモダン管理によってAIを活用する際に課題となるデータ活用時の安全性が容易に確保でき、AIの利活用が進めやすくなる。
AIの利活用を進めることで業務改革につなげることもできる。CopilotおよびCopilot Extensionsを使って既存の業務プロセスをAIでMicrosoft 365に統合していくというシナリオだ。
Windows 10 EOSに伴うPC販売のトップラインをゼロタッチ展開で伸ばすとともに、その際に活用するWindows AutopilotおよびIntune、そしてEntra IDを足がかりにMicrosoft 365の販売につなげる。すでにMicrosoft 365を導入済みの顧客に対してはEntra IDの利用環境を見直してAIの利活用に備える。その後は前述の通りAIの利活用、業務改革へとビジネスを拡大していく。その過程の中でCopilot+ PCをはじめとしたAI PCの需要も高まっていくことが期待できる。
いずれにしてもWindows 10 EOSビジネスを伸ばすシナリオの第一歩は、Windows AutopilotおよびIntune、そしてEntra IDの活用である。
法人市場に1,000万台以上の需要あり
2025年以降はAI PCの需要が急拡大
Windows 10のサポート終了が1年後に迫っている。Windows 7のサポート終了の際はその期限となる2020年1月の直前、2019年度上期にWindows 10搭載PCの需要が集中した。しかし今回のWindows OSの更新はなだらかに進みそうだ。さらに「特需」の反動に対しても、心強い商機が用意されているという。
Windows 11への移行が
前倒しでなだらかに進行中

中村成希 氏
「より安全なWindows 11にできるだけ早く移行したほうが得策だと考える企業が多いのではないでしょうか」
ICT市場専門のリサーチ・コンサルティング会社であるMM総研が実施した国内法人市場におけるPCのOS別稼働台数の推移に関する調査結果(2024年3月末時点)によると、2024年度上期末時点でWindows 10搭載PCが1,499万台なのに対してWindows 11搭載PCは1,692万台と、Windows 11搭載PCの数がWindows 10搭載PCの数を上回ることが分かる。
この調査を担当するMM総研の取締役で研究部長を務める中村成希氏によると、法人市場においてWindows 11がWindows 10を上回ったのは、Windows 7からWindows 10への移行時と比較して半年早く、Windows 11への移行が早期よりなだらかに進んでいることを示していると指摘する。
移行が速いペースで進んでいる理由について中村氏は「コロナ禍の際にテレワーク用で急きょ導入されたPCはWindows 11のハードウェア要件を満たしているため、ソフトウェアアップデートによって早々にWindows 11に移行したと見ています。またエンタープライズにおいてもWindows 11搭載PCへの入れ替えが順調に進んでいます。その背景としてWindows 7からWindows 10への移行の際はアプリケーションの互換性に問題が生じて移行が遅れるケースが目立ちました。しかし現在はクラウドで利用するアプリケーションが増えており、OSの影響を受けにくいためWindows 11への移行が順調に進んでいるのだと考えられます」と説明する。
また「昨今のセキュリティ事情を鑑みて、アプリケーションの互換性に問題が生じないのであれば、より安全なWindows 11にできるだけ早く移行したほうが得策だと考える企業が多いのではないでしょうか」とも指摘する。
法人市場の1,000万台以上のPCは
買い替えによってWindows 11に移行
従業員へのPCの配布の仕方の変化や、Windows 11への移行のしやすさも移行を促進している要因だと見られる。中村氏は「以前は情報システム部門が全社員のPCの設定を済ませて一斉に配布していました。そのため情報システム部門の業務負担が大きく、準備と配布に時間がかかりました。ところがコロナ禍以降はオフィスの外で働くリモートワークが定着したため、PCを社員の自宅に送り、セットアップは社員が自身で行う形態に変わっています。Windows AutopilotやIntuneなどのツールを使うことで新しいPCの配布がモダナイゼーションされ、PCの入れ替え作業が効率化できるようになったことも移行の促進につながっています」と説明する。
前述の通り法人市場ではWindows 11への移行が早期からなだらかに進んでいる。中村氏は「コロナ禍以降に導入したPCはソフトウェアでのアップデートによってWindows 11へ移行したケースが多い」と指摘する。では現在も法人市場で稼働するWindows 10搭載PCはWindows 11へどのような手段で移行するのだろうか。
中村氏は「法人市場で現在稼働しているWindows 10搭載PCはWindows 7のサポート終了に伴い2019年後半に導入したPCが大半と見られます。それらのPCはWindows 11へソフトウェアでのアップグレードができないため、PCの買い替えによってWindows 11へ移行するでしょう」と説明する。

2025年の特需以降は
AI PCが法人需要を喚起
今後1年を経てWindows 11への移行が進み、法人市場におけるWindows 10搭載PCの稼働数は2024年度下期が1,022万台、2025年度上期が713万台、そして2025年度下期が470万台、2026年度上期が295万台へと減少していくとMM総研は予測している。Windows 11への移行が落ち着く2025年度下期以降、法人市場でのPCの需要は縮小してしまうのだろうか。
中村氏は「2025年度下期以降は法人市場の約2,800万台のWindows 11搭載PCに対して、買い替え需要を喚起することで新たなビジネスチャンスが生まれます。その需要を喚起するのがAI PCです」と説明する。
中村氏によればホワイトカラーにおけるAI活用では、既存の業務をAIに置き換える需要よりも、一人ひとりの仕事を支援して生産性を上げていくアシスタントの役割が期待されているという。そうした要望において無料で利用できる生成AIサービスを利用してプロンプト(質問や命令)を入力すると、それ自体を学習されてしまうため、情報漏えいのリスクが生じるなど、業務で安全に使うことが難しいと指摘する。
そこで社員が安全にAIを使うために企業が社内のみで利用できるAIシステムを構築したり、PCのローカルで利用できるアプリケーションを活用したりするニーズが高まると見られる。MM総研の調査によると国内法人市場におけるPCの出荷台数に占めるAI PC(※)の割合は、Windows 10がサポート終了を迎える2025年度は18%にとどまるが、それ以降は急速に普及が進み、2028年度には65%、2030年度には72%になると予測している。
中村氏は「これから3年ほどかけてAI PCは法人市場に普及していくと予測しています。ただし当面はAI PCの割合は70%で頭打ちになると見ています。なぜならば共用のPCにAI PCを選ばないであろうこと、1人で複数台のPCを利用するケースが増えており、その際に全てのPCをAI PCに置き換えることは考えにくいことなどから、一定の割合で非AI PCが残ると見ています。しかしいずれ普及価格帯のPCもAI PCになり、法人市場ではAI PCがスタンダードになる、あるいはOSやアプリケーションにAIが取り込まれることでAI PCが必須になるとみています」と説明する。
※MM総研ではAI PCを以下のように定義している。
・AI推論・処理用のプロセッシングユニット(NPU)を内蔵するCPUを搭載していること。
・内蔵のNPUおよびGPUなどを活用し、デスクトップ側でAI処理プログラムをOS、アプリケーション、Webブラウザーで利用できること。
・現時点で想定するキーコンポーネントの性能としてNPU 40TOPS前後以上、メモリー16GB以上であること。