逢澤奈菜さん
https://corporate.iiba.space/

子連れ外出のハードルを下げる
──子育てアプリ「iiba」はどのようなアプリですか。
逢澤 「iiba」は、「子連れにいい場所」に特化したマップ検索アプリです。子どもといっしょにどこに行く?と悩む時間を短縮し、安心して楽しくお出かけできるようにするサービスです。
具体的には、子連れでも楽しめる遊び場やレストランのほか、授乳室、トイレのような子連れのお出かけ時に「いい場所」の情報を提供します。アプリ上に表示されるマップには、公園などの情報が登録されていますので、気になる場所をタップすると、その場所の写真やおすすめポイントなどの情報を確認できるようになっています。また、口コミを登録するとポイントがもらえ、それをギフトやクーポンと交換ができるなどの特典も提供しています。子育て世帯のユーザーは基本的に無料で利用でき、マップを見るだけであれば会員登録も必要ありません。
それ以外に習い事や保育園、病院などの情報も掲載しており、これからはこうした情報も増やしていく予定です。子育て世帯が使う場所は遊び場だけではないので、その場所がすぐに分かって利用できるということをコンセプトにしています。

──「iiba」を作ろうと思ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか。
逢澤 私には今、子どもが2人いるのですが、「iiba」は2人目の子どもの育休中に作ったサービスです。子どもが生まれると、家の中にいることが多くなって、社会との繋がりが少なくなり、一日中、ほかの大人と喋っていないみたいなことが増えます。そうすると、普段私は結構元気なタイプなんですが、なんか憂鬱になって結構メンタル的にやばいなということを感じていました。そういうときにはコンビニに行くだけでもすっきりしたり、コーヒーショップのスタッフと天気の話をするだけでもハッピーになったりして、外出することはただ外出自体が楽しいというだけではなく、メンタル的にも非常に重要だということを身に染みて感じました。
そこで、毎日外出しようと思うと、子どもを連れて外出することはけっこう大変なことに気づかされます。例えば、子どもの成長度合いを考慮し、ミルクやおむつなどのことを考えなければいけないし、少し大きくなってからは興味や関心などを考えて、おもちゃや絵本を準備したり、どこに行くかも考える必要があります。子連れの外出の大変さと出かけたい気持ちのバランスを考えると、もう外出しなくてもいいかなみたいになったりしたんです。そこで、その子連れの外出の大変さのハードル下げることはできないのかと考えたのが「iiba」を作ろうと思ったきっかけでした。
最初は、子育て版「食べログ」のような情報にしようと思ったんですね。ただし、子連れに優しい情報を集めるのはけっこう大変だなと思って、まずは自分自身がいろいろな場所に行って、子連れにいい場所かどうかを肌で感じてみることから始めました。
その後、ノーコードのプログラミングを独学で学びながら、アプリ作りを始めました。最初のプロトタイプは3ヶ月ぐらいかけて、一人で作りました。プログラミングは、大学でHTMLをかじったくらいで本格的にやった経験はなかったのですが、やってみようと。アプリを作り始めると同時に、子連れにいい場所の情報をSNSで発信することも始めました。
その後、TOKYO STARTUP GATEWAYという、毎年行われる日本最大級のビジネスコンテストに応募しました。私が応募した2021年は1,000人ぐらいの応募者だったのですが、10人のファイナリストに選んでいただきました。ファイナリストになると、決勝大会で5分間のプレゼンテーションのチャンスをいただけて、最優秀100万円、優秀50万円の賞金がもらえ、そのあと起業に向けてメンターからのサポートがあったりするんですよ。さらに期限内に都内で法人登記すれば、活動資金として100万円みたいな副賞もあります。私はこのコンテストで優秀賞がいただけ、いろいろな方からこういうのが欲しかったと言ってもらったので、それじゃ実際に会社を立ち上げてみようかということで翌年2022年5月に株式会社iibaを起業しました。

熱意とビジョンで共感を広げる
──掲載情報を増やすことが「iiba」のサービスのキモかと思いますが、どのようにして情報を集めたのでしょうか。
逢澤 そこが本当に難しいですね。ユーザーが増えればその方たちが書き込みをしてくれて情報が増えていきますが、最初は器だけで情報があまり掲載されていない状態ですから、そうするとなかなかユーザーも増えていきません。そこで最初は2つの方法で掲載情報を増やしました。
1つは、子育て情報をSNSなどで発信しているインフルエンサーの人たちに協力していただいて、情報を使わせていただいています。我々にはインフルエンサーの方たちにお支払いするような資金もありませんので、とにかく私の思いや熱意、ビジョンを伝えて共感していただくことで、協力していただいています。そうした人たちとの横のつながりでコミュニティを形成して、みんなで盛り上がっていきましょうという感じです。インフルエンサーの中には、自分が発信した情報が「iiba」に集約されて、多くの人の役に立つことがうれしいと言ってくださる方もいます。
もう1つは、地方自治体の情報です。地方自治体は少子化に対応するために、どこでも子育てに力を入れていますので、それぞれが「子育てマップ」のようなものを作っていて、子育てに役立つ基本的な情報は持っているんですね。ですから、自治体と提携させていただいて、その情報を掲載させていただいています。自治体の情報は、公園や遊園地など基本的なものに限られるので「電車が見えて子どもが喜ぶ場所」や「金魚鉢が置いてある路地裏」のようなものはないのですが、そういう情報はやはりユーザーさんの書き込みに頼るしかありません。今は300万人ぐらいのフォロワーがいますが、これからはキャンペーンなども定期的に開催しながら、登録情報数を少しずつ増やしていく予定です。
アプリをリリースしてから半年くらい経ちましたが、今全国で遊び場とかお出かけスポットとして15,000カ所くらいの情報が掲載されています。目標として30,000カ所くらい掲載されると、便利に使えるのではないかと思って努力しているところです。それに加えて、小児科クリニックとか学習塾とか、さまざまな子育て情報を追加していきたいと思っています。

──持続可能であるためには、利益も大切だと思いますが、どのような方法で利益を得ているのですか。
逢澤 ユーザーには課金せず、無料で使用できるようにしています。主に収入は企業からの広告費や協賛金、自治体からの補助金ということになります。学習塾やクリニックなどの企業は、「iiba」のマップ上に表示されることで、「ここで習い事ができるんだ」とか「ここの小児科は評判がいいんだ」ということをユーザーに知ってもらうことがその事業者さんにとって利益になるので、サブスクの月額料金で契約していただいています。
まだ、掲載している情報は地域ごとに濃淡があるのが現状で、主要都市から情報の掲載を進めていますが、岡山や仙台などで盛り上がっていたりして、子育てに積極的な自治体や移住を促進したい自治体などからの問い合わせも増えています。
一方、こういう情報が欲しいとか、こういう機能があればいいのにというユーザーさんからの声も寄せられていて、私も子どもを育てているのでお気持ちはよくわかるのですが、我々もリソースが限られている中で、優先順位を決めながら開発を進めていきたいと思っています。

「子育ては大変」と言われることへの違和感
──株式会社iibaのミッションは「子育てをしたくなる社会を作りたい」ということだと伺いました。
逢澤 子育てをしていると「大変ですね」「しんどいですよね」とか言われることが多いのですが、違和感を覚えました。子どもはかわいいし、子どもから幸せや楽しさをもらうことも多いし、子育ては本来、幸せなことだと思うんです。それが「大変だ」「つらい」というイメージになっているなら、少子化問題など解決できるわけがありません。
昔は、井戸端会議があったり、幼稚園のママ友と情報交換をしたりということで得ていた情報ですが、共稼ぎの家庭が増えるとなかなか井戸端会議もママ友との交流も難しくなっています。それをインターネットを使ってやれば多くの人と交流でき、孤独感を払拭したり、子育てが楽しいよというコミュニティができるのではないかと思っています。
もちろん我が社だけでできるとは思っていません。多くの自治体や、子ども服やマタニティ関係の企業や団体とコラボすることで、「子育てをしたくなる社会」を実現していけたらと思っています。
現状の子育て世帯があまりにも大変そうだから、子どもを産みたくなくなってしまうのだと思います。でも実際に子育てをしてみると、子どもからもらうものも多ければ、一生のハイライトになる瞬間がたくさんあって、「子育てって楽しいよ」ということをもっとフューチャーして広く社会に伝えたいと思いますし、子育てによって幸せな世界ができればいいなっと思うので、今そのためにやっているという感じです。
今の子育てはあまりにアナログです。我々は子育て世帯には2つの問題があると思っていて、1つは時間が足りない「時間貧困」、もう1つは「経済的不安」です。忙しさのあまり、時間貧困に陥っている世帯では、自治体などが用意している支援に気がついていない場合も多いと思います。「iiba」はそういう人にコミュニティを通じて支援情報を提供することができると思いますし、テクノロジーを活用してもっと子育てを楽にできたり、ハッピーにできることがたくさんあると思っているので、将来的には「iiba」を、マップを超えた「子育てのプラットフォーム」にしていきたいという思いで活動しています。
