川越一磨さん

株式会社コークッキング代表取締役CEO。1991年、東京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。大学在学中から料理人の修業を積み、卒業後飲食店勤務を経て、山梨県富士吉田市に移住し、コミュニティカフェや子ども食堂を立ち上げる。その後、株式会社コークッキングを創業、料理を通じたチームビルディングワークショップや、フードロスに特化したシェアリングサービス「TABETE」に取り組む。東京在住。一般社団法人日本スローフード協会理事。
https://www.cocooking.co.jp/

余った食品をお得な価格でレスキュー

──最初に、TABETEがどんなサービスなのかご説明いただけますか。

川越 TABETEは、いわゆるフードシェアリングサービスです。スマートフォンのアプリを使って、その日に余ってしまいそうな食品を店舗から安価に出品してもらい、それをユーザーが買い取ることでフードロスをなくそうというサービスです。これによって、お店は食品の廃棄を減らすことができ、ユーザーはお得な価格でおいしい料理やパン、お菓子などを食べられます。

TABETEのホームページ。

川越 加盟する店舗は、商品が余りそうだなという任意のタイミングで、商品を登録することができ、登録すると、近くにいるユーザーの画面にそれが表示されます。ユーザーは、近所の店舗を検索してレスキュー(TABETEで余りそうな食品を購入)することもできるし、お気に入り登録した店舗に商品が登録されると、通知を受けることもできます。お店に取りに行けそうだと思ったら、アプリ上でレスキューを申し込み、事前決済をして、指定の時間に店舗まで商品を取りに行くというサービスになっています。

ユーザーは、お得に商品を購入できるだけでなく、フードロス対策に貢献しているという充実感や、新しいお店の味と出合えるワクワク感などを得ることができます。一方、店舗は簡単な操作で売れ残りやフードロスを減らすことができ、従業員のモチベーション向上にも役立つほか、新しいファンを獲得することもできるというメリットがあります。実際に、加盟店からは「廃棄する商品が激減した」「来店するお客様が増えた」といったお声をいただいています。また、フードロス削減に取り組んでいる店舗は、ブランドイメージが高くなるという調査報告もあります。

フードシェアリングサービスは、世界的にはデンマーク発祥の「Too Good To Go」というサービスが有名で、現在欧州15カ国と、米国、カナダなどで展開していますが、それのアジア版をやりたいということで、2018年4月にサービスを開始しました。

初めに外部のシステム開発会社に発注して、システムを納品してもらいましたが、大失敗でした。サービスを提供しながらシステムを変更したいと思っても自由に改善ができないんです。そこでそのシステムはいったん全部捨てて、エンジニアに参加してもらって自分たちで内製するようにしました。アプリを作り込みながら、お店への営業も始めて、アプリ開発と営業活動の両輪で進めました。

ユーザーはアプリでレスキューを申し込み、指定の時間にお店に引き取りに行くため、デリバリーなどのコストがかからない(画像:コークッキング提供)。

川越 最初は事務所のあった麻布(東京都港区)周辺のレストランなどを一軒一軒訪ねて、サービス内容を説明してという営業活動を地道にやっていたのですが、ありがたいことにこのサービスがテレビで紹介されたことがきっかけで、店舗側から問い合わせをいただくことが多くなりました。

当初は、レストランなどの飲食店をターゲットにしていたのですが、大手のパン屋さんのチェーンに登録いただいたことがきっかけで、パン屋さんやケーキ屋さんのような陳列型の食料品店ではフードロスが非常に多いということがわかりました。パン屋では、夕方の購入時間帯に店舗に並べておかないと売れないという事情もあり、どうしても多めに作っておかなければいけないので、商品が余ってしまうことがあるんですね。それからはパン屋やケーキ屋のような陳列型の店舗や、いわゆる総菜店などの中食業界をターゲットにするようになりました。

「ユーザーは、お得に商品を購入できるだけでなく、フードロス対策に貢献しているという充実感も得られます。一方、店舗は売れ残りやフードロスを減らすことができ、新しいファンを獲得することもできるというメリットがあります」と語る川越さん。

日本社会全体でフードロス削減を

──TABETEを始めるにあたって、きっかけはあったのですか。

川越 私は子どもの頃から食に興味があり、学生時代から料理人の修業などもしていたのですが、大学卒業後は食の未来を創っていきたいと考えていました。食の未来を考えた時には、2つの方向性があって、1つはフードテックのような、誰もが失敗しない料理方法など、調理を便利にしていくという方向性と、もう1つはフードサプライチェーン(生産者から消費者に届くまでのつながり)の負の部分を解消していくという方向性があります。私は、後者が持続可能性のためには必要だなと思うようになりました。そこでスローフード活動にも関わったのですが、そこでも限界を感じました。そんなときに欧米で実際に効果をあげている「Too Good To Go」の存在を知り、日本にはまだそういうサービスがなかったので、自分でやってみようと思いました。

日本では、1年間に約472万トン(家庭系約236万トン、事業系約236万トン。令和4年度 農林水産省および環境省推計)もの食料が捨てられているのが現状です。そもそも日本の食料自給率は約40%で、年間3000万トンもの食料を海外から輸入しているのに、他方で大量の食料を廃棄している。これは、日本社会全体で解決していかなくてはならない大きな課題の一つだと思いました。

TABETEは、店舗とユーザーをつなぐサービスなので、食のサプライチェーンにおいては末端部分、川の流れで言えば下流になります。将来的には、生産者から加工、流通、消費者までのサプライチェーン全体を網羅するようなサービスも提供できたらいいなと考えていますが、とにかく今できることから始めることが大切だと思っています。

東武東上線池袋駅の南改札前で販売する「TABETEレスキュー直売所」の様子(写真:コークッキング提供)。

川越 サプライチェーンの上流のフードロスに対応するための試みとしては、「TABETEレスキュー直売所」を池袋で運営しています。これは、弊社と東松山市、東武鉄道株式会社、JA埼玉中央、大東文化大学の5者に加え、子ども食堂を運営する株式会社大塚応援カンパニーとも連携して運営している取り組みです。東松山市周辺の5か所の農産物直売所で売れ残った農産物を弊社が買い取り、当日中に池袋駅まで輸送、池袋駅の東武東上線南改札前で販売するというもので、売れ残った、新鮮な野菜を大塚応援カンパニーに寄付します。

さらに、現状のTABETEのサービスは、店舗の営業時間中に受け渡すことが前提で、営業時間が終了した閉店後の受け渡しが難しいという問題があります。これに対応するために、同じ池袋で、専用ロッカーで受け渡しをする実証実験を行ったり、本人以外の人に取りに行ってもらうサービスなども始めています。

──自治体との連携も多いようですが、どんな効果がありますか。

川越 東松山市以外にも、渋谷区、横浜市、金沢市、町田市など、日本各地の多くの自治体と連携させていただいていて、商店街の方たちにチラシをまいていただいたり、一緒にセミナーを開催させていただいたりしています。店舗の方たちの信頼感を得るという意味では、一定の効果はあると思います。

TABETEをベースにコミュニティを作りたい

──最後に、これからの抱負を教えてください。

川越 レスキュー隊(ユーザー)は90万人を超えていますが、店舗数は全国で約2,800店舗くらいで、まだまだ少ないと思っています。ユーザーとしては、店舗の選択肢が少ないと飽きてしまうということもありますし、地域ごとに店舗の密度が高い方がいいなと思います。ですから、登録店舗数をもっと増やしていきたいということが1つ。

それからもう1つは、余った食品をレスキューするというだけではなくて、将来的にお店とユーザーがコミュニティを形成できるようにしていきたいと思っています。手始めに、お店の評価ができるような機能とか、双方がメッセージを表示できるような機能を追加していきたいと思っています。そして、お店のファンを作っていくだけでなく、お店の困ったこと、例えば人手が足りないという時に、レスキュー隊の中から手伝ってあげようという人が出てきたり、そういうところまで持っていけたらと思っています。

川越さんは「TABETEを通じて、食の未来を創っていきたい」と話してくれた。